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第五章
第81話 異変
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採掘していると、黒く光る鉱物の結晶のような物が落ちていることに気付いた。
大きさは拳より二回りほど小さい。
俺はその結晶を拾った。
「見たことがない結晶だな。ここで採れるのか?」
鉱夫の俺でも見たことがない結晶だった。
黒深石に似ているが、こちらの方が密度も硬度も高いと思われる。
どう見ても岩壁から採れたものではない。
ひとまずポケットにしまい、そのまま採掘を続けた。
採掘は順調に進み、そろそろ夕焼けが始まりそうな時間帯。
目的の黒深石は採掘できなかったが、いくつかの希少鉱石が採れた。
「君、凄いね。まさか希少鉱石を採っちゃうなんて」
「この採掘場はレベルが高い。掘ってみて分かったけど、もっと掘り進めればまだまだ希少鉱石は出てくると思うよ」
「そうなんだ。やっぱり上手い人が採掘すると違うんだね」
「アハハ、そんなことないって」
俺は今日採れた希少鉱石をシーラに差し出した。
「シーラ。これは開発機関で使ってよ」
「え? 売ったら金貨数枚にはなるでしょ?」
「だって、ここはシグ・ナインの鉱山でしょ。それに俺が欲しいのは黒深石だからさ」
「君って無欲なの? バカなの?」
「ちょ、ちょっと! 違うって! これは滞在費として使ってよ」
「分かったよ。アルは律儀だね。ありがたく頂戴するよ」
「さて、じゃあ今日はここまでにして駅へ戻ろうか」
シーラはこのまま地上へ戻る予定だ。
俺はしばらくここに滞在して黒深石を採掘する。
駅に到着したところで、俺は拾った結晶のことを思い出した。
「そうだ。シーラ、この結晶は見たことある?」
ポケットから黒い結晶を取り出す。
「何これ?」
「さっき採掘場で拾ったんだ。どうも岩壁から出たものではないような気がするんだよね」
「シグ・ナインでも見たことがないな。アルは?」
「俺も長年鉱夫をやってるけど初めて見た。黒深石に似てるけど、感触的に密度と硬度が高いんだよ」
「なるほど。触っただけで硬度と密度まで分かるんだ。……キモ」
「ちょっと!」
「あははは。冗談はさておき」
冗談とは思えないのだが……。
シーラの表情が変わり、右手を顎につけ考えている。
しばしの沈黙のあと、何かに気付いたような表情を浮かべた。
「ねえ、アル。これって、もしかしたら体内生成鉱石かもしれない」
「体内生成鉱石って……」
「モンスターの体内で作られる鉱石のことだよ」
モンスター事典によると、体内で鉱石を生成するモンスターが竜骨型に数種類存在する。
「ねえシーラ、帝国内で最も出現する体内生成モンスターは?」
「一番多く出現するのは岩食竜かな」
「ディプロクスか。確かディプロクスは翼があるよね。この標高を考えるとディプロクスが濃厚か」
「そうだね。アルの予想通りだと思う」
◇◇◇
岩食竜
階級 Bランク
分類 竜骨型鎧類
体長約八メデルト。
中型の鎧類モンスター。
岩石を主食としている二足歩行のモンスター。
太く短い足、使用せず退化した小さな手、背中には中型の翼を二枚持つ。
尻尾は太く、長さは三メデルトほどと体長に比べて短い。
名前の通り、岩石を食べることで有名。
岩石に含まれる不純物、特に微生物を栄養源とし、体内に吸収している。
吸収されない岩石の成分は皮膚に排出され、結果的に純度の高い鉱石が生成される。
これを体内生成鉱石と呼ぶ。
岩石を噛み砕く頭部は、上顎よりも下顎が突き出ている。
下顎に巨大な牙が四本、上顎に二本、合計六本生えており、大牙の隙間に小さくて平たい無数の歯が生えている。
岩を噛み砕くことに特化。
鉱石を体内生成することで、皮膚の色は薄灰色。
性格は温厚で、鉱石を食べること以外に興味がない。
しかし食事の邪魔をされると激昂する。
鉱山に出現する傾向にあり、過去多くの鉱夫が犠牲になっている。
◇◇◇
俺はモンスター事典の内容を思い出していた。
「ねえシーラ。もしかしたら、ディプロクスのせいで鉱山が荒らされ、希少鉱石が採れなくなったんじゃないのかな?」
「そうだね。ディプロクスがこの結晶を排出したと考えれば、全ての辻褄が合う」
「困ったな。どうしようか」
「アル。……君ってたった一人でネームドを討伐した凄腕のAランク冒険者でしょ?」
「シーラが何を考えてるか分かるけど、ディプロクスって凄く硬いよ? 俺一人じゃ討伐は難しいかも」
「討伐しなくていいよ。撃退して欲しい。このままじゃ鉱山が危険だ。希少鉱石の採掘もできない」
「そうだな。確かに危険だ」
「これはシグ・ナインからの依頼とするよ。状況が状況だけに、条件は後付けでいいかな?」
「分かった。任せるよ」
俺はクエストを受けることにした。
形としては直請けクエストになるが、シグ・ナインから直接の依頼だ。
ギルド依頼のクエストになるのだろうか。
まあ撃退してから考えよう。
「アル。僕も今日は泊まっていくよ」
「え? な、なんで?」
「だって岩食竜だよ? 岩を食べるんだよ? 見てみたいじゃん?」
「そもそも出現するか分からないよ?」
「でも見てみたいじゃん?」
「まあ気持ちは分かる。俺も岩を食べるところは見てみたい」
今回は撃退メインなので、それほど危険度は高くないという気持ちがあった。
危なくなったら退却すればいいし、この場所なら周りに被害も出ない。
それにシーラは鉱山の責任者である上に、このクエスト依頼者である。
俺は従うだけだ。
シーラはゴンドラに、今日採掘した希少鉱石と手紙を入れた麻袋を乗せた。
手紙は以下の内容だった。
◇◇◇
標高三千メデルトにモンスター出現の可能性があるため、絶対に近付かないこと。
モンスターはAランク冒険者のアル・パートに撃退を依頼。
連絡用の大鋭爪鷹をこちらに飛ばすこと。
我々は数日間三千メデルトの駅に滞在する予定。
◇◇◇
ゴンドラを見送って、俺たちは宿泊の準備を行う。
日没直前になり、地上から一羽の大鋭爪鷹が飛んできた。
シーラは次に、ハーストを使ってウグマのシグ・ナインへ詳細を書いた手紙を飛ばす。
日没と同時にリフトは停止。
鉱山の業務が終了したようだ。
その日の夜はシーラが夕食を作ってくれた。
「シーラの料理って、意外と美味しいね」
「君も大概失礼だね」
食事を終え、この日はそのまま就寝した。
大きさは拳より二回りほど小さい。
俺はその結晶を拾った。
「見たことがない結晶だな。ここで採れるのか?」
鉱夫の俺でも見たことがない結晶だった。
黒深石に似ているが、こちらの方が密度も硬度も高いと思われる。
どう見ても岩壁から採れたものではない。
ひとまずポケットにしまい、そのまま採掘を続けた。
採掘は順調に進み、そろそろ夕焼けが始まりそうな時間帯。
目的の黒深石は採掘できなかったが、いくつかの希少鉱石が採れた。
「君、凄いね。まさか希少鉱石を採っちゃうなんて」
「この採掘場はレベルが高い。掘ってみて分かったけど、もっと掘り進めればまだまだ希少鉱石は出てくると思うよ」
「そうなんだ。やっぱり上手い人が採掘すると違うんだね」
「アハハ、そんなことないって」
俺は今日採れた希少鉱石をシーラに差し出した。
「シーラ。これは開発機関で使ってよ」
「え? 売ったら金貨数枚にはなるでしょ?」
「だって、ここはシグ・ナインの鉱山でしょ。それに俺が欲しいのは黒深石だからさ」
「君って無欲なの? バカなの?」
「ちょ、ちょっと! 違うって! これは滞在費として使ってよ」
「分かったよ。アルは律儀だね。ありがたく頂戴するよ」
「さて、じゃあ今日はここまでにして駅へ戻ろうか」
シーラはこのまま地上へ戻る予定だ。
俺はしばらくここに滞在して黒深石を採掘する。
駅に到着したところで、俺は拾った結晶のことを思い出した。
「そうだ。シーラ、この結晶は見たことある?」
ポケットから黒い結晶を取り出す。
「何これ?」
「さっき採掘場で拾ったんだ。どうも岩壁から出たものではないような気がするんだよね」
「シグ・ナインでも見たことがないな。アルは?」
「俺も長年鉱夫をやってるけど初めて見た。黒深石に似てるけど、感触的に密度と硬度が高いんだよ」
「なるほど。触っただけで硬度と密度まで分かるんだ。……キモ」
「ちょっと!」
「あははは。冗談はさておき」
冗談とは思えないのだが……。
シーラの表情が変わり、右手を顎につけ考えている。
しばしの沈黙のあと、何かに気付いたような表情を浮かべた。
「ねえ、アル。これって、もしかしたら体内生成鉱石かもしれない」
「体内生成鉱石って……」
「モンスターの体内で作られる鉱石のことだよ」
モンスター事典によると、体内で鉱石を生成するモンスターが竜骨型に数種類存在する。
「ねえシーラ、帝国内で最も出現する体内生成モンスターは?」
「一番多く出現するのは岩食竜かな」
「ディプロクスか。確かディプロクスは翼があるよね。この標高を考えるとディプロクスが濃厚か」
「そうだね。アルの予想通りだと思う」
◇◇◇
岩食竜
階級 Bランク
分類 竜骨型鎧類
体長約八メデルト。
中型の鎧類モンスター。
岩石を主食としている二足歩行のモンスター。
太く短い足、使用せず退化した小さな手、背中には中型の翼を二枚持つ。
尻尾は太く、長さは三メデルトほどと体長に比べて短い。
名前の通り、岩石を食べることで有名。
岩石に含まれる不純物、特に微生物を栄養源とし、体内に吸収している。
吸収されない岩石の成分は皮膚に排出され、結果的に純度の高い鉱石が生成される。
これを体内生成鉱石と呼ぶ。
岩石を噛み砕く頭部は、上顎よりも下顎が突き出ている。
下顎に巨大な牙が四本、上顎に二本、合計六本生えており、大牙の隙間に小さくて平たい無数の歯が生えている。
岩を噛み砕くことに特化。
鉱石を体内生成することで、皮膚の色は薄灰色。
性格は温厚で、鉱石を食べること以外に興味がない。
しかし食事の邪魔をされると激昂する。
鉱山に出現する傾向にあり、過去多くの鉱夫が犠牲になっている。
◇◇◇
俺はモンスター事典の内容を思い出していた。
「ねえシーラ。もしかしたら、ディプロクスのせいで鉱山が荒らされ、希少鉱石が採れなくなったんじゃないのかな?」
「そうだね。ディプロクスがこの結晶を排出したと考えれば、全ての辻褄が合う」
「困ったな。どうしようか」
「アル。……君ってたった一人でネームドを討伐した凄腕のAランク冒険者でしょ?」
「シーラが何を考えてるか分かるけど、ディプロクスって凄く硬いよ? 俺一人じゃ討伐は難しいかも」
「討伐しなくていいよ。撃退して欲しい。このままじゃ鉱山が危険だ。希少鉱石の採掘もできない」
「そうだな。確かに危険だ」
「これはシグ・ナインからの依頼とするよ。状況が状況だけに、条件は後付けでいいかな?」
「分かった。任せるよ」
俺はクエストを受けることにした。
形としては直請けクエストになるが、シグ・ナインから直接の依頼だ。
ギルド依頼のクエストになるのだろうか。
まあ撃退してから考えよう。
「アル。僕も今日は泊まっていくよ」
「え? な、なんで?」
「だって岩食竜だよ? 岩を食べるんだよ? 見てみたいじゃん?」
「そもそも出現するか分からないよ?」
「でも見てみたいじゃん?」
「まあ気持ちは分かる。俺も岩を食べるところは見てみたい」
今回は撃退メインなので、それほど危険度は高くないという気持ちがあった。
危なくなったら退却すればいいし、この場所なら周りに被害も出ない。
それにシーラは鉱山の責任者である上に、このクエスト依頼者である。
俺は従うだけだ。
シーラはゴンドラに、今日採掘した希少鉱石と手紙を入れた麻袋を乗せた。
手紙は以下の内容だった。
◇◇◇
標高三千メデルトにモンスター出現の可能性があるため、絶対に近付かないこと。
モンスターはAランク冒険者のアル・パートに撃退を依頼。
連絡用の大鋭爪鷹をこちらに飛ばすこと。
我々は数日間三千メデルトの駅に滞在する予定。
◇◇◇
ゴンドラを見送って、俺たちは宿泊の準備を行う。
日没直前になり、地上から一羽の大鋭爪鷹が飛んできた。
シーラは次に、ハーストを使ってウグマのシグ・ナインへ詳細を書いた手紙を飛ばす。
日没と同時にリフトは停止。
鉱山の業務が終了したようだ。
その日の夜はシーラが夕食を作ってくれた。
「シーラの料理って、意外と美味しいね」
「君も大概失礼だね」
食事を終え、この日はそのまま就寝した。
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