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第五章
第80話 巨大な装置
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シーラに連れられて第一採掘場の奥へ進む。
しばらく歩くと十頭以上の甲犀獣が見えた。
ケラモウムは、運び屋が荷車の牽引で使うことで知られている、四足歩行のEランクモンスターだ。
パワフルな上に大人しく従順なため、重労働の場面で使われることがことが多い。
ケラモウムたちは、地面と水平に置かれた超巨大な歯車を回している。
その歯車は大小いくつかの歯車と連なっており、最終的に巨大な滑車がゆっくりと回転していた。
滑車には人の胴体よりも太いロープが掛けられていて、ロープには均等な間隔で大きな荷台が固定され、それが山の上まで続いている。
初めて見る巨大な装置だ。
「こ、これは?」
「これはね、ギルドの天才発明家が設計した超巨大な鉱石運搬用の装置だよ。我々はリフトと呼んでるんだ」
「リフト?」
「世界でもここにしかないよ。リフトのおかげで、この鉱山は莫大な鉱石の生産量を誇っているんだ」
「す、凄いね」
俺はこのリフトという装置に目を奪われていた。
鉱石が積まれた荷台が山から下りて来る。
この荷台をゴンドラと呼ぶそうだ。
ゴンドラが定位置に来ると、従業員はゴンドラの底を開き、鉱石を直接荷車へ積んでいく。
空になったゴンドラの底を閉じると、また山へ登っていく。
ゴンドラ二台分の鉱石を積み込むと、荷車は出発する。
これを繰り返す。
こんなに効率の良い鉱山は初めて見た。
フォルド帝国で最も生産高があるのも納得だ。
「アル、このゴンドラに乗れば三千メデルトまで行けるよ」
「徒歩よりも断然早いんだろうね」
「そりゃそうだよ。珈琲三杯飲む時間で三千メデルトまで行けるからね」
「そ、そんなに早く! 凄いんだね。じゃあ、さっそく行ってくるよ」
「待て待て待て! 君はせっかちだな。僕もついていくよ」
「え? いいよ。一人で行ってくるよ」
「ダメダメ。だって僕はここの責任者だよ? 外部の者に危険がないように見ておかないと」
「た、確かにそうだね」
「あははは、アルは真面目だな。それは建前で、本当は君の採掘を見たいんだ」
「俺の? 別に普通に採掘するだけだよ?」
「でも見たいんだ。それに鍛冶師を目指すなら、採掘のことも知っておかないといけないしね」
「なるほど。分かったよ。ここはシーラの管轄地だもん。俺は何も言えないよ」
「アルは聞き分けがいいね」
シーラは用意していた大きな荷物を持ち、俺と一緒にゴンドラへ乗り込んだ。
初めから俺についてくる気だったのだろう。
ガコンと小さな衝撃が起こり、ゆっくりと動き出すゴンドラ。
しかし、一旦動き出すとスピードが上がり、瞬く間に出発地点が小さくなった。
ゴンドラは地表から五メデルトほど離れている。
ロープだけで支えられているためかなり揺れるが、特に怖さはない。
それよりも、初めての体験に俺は大興奮していた。
「シーラ! これ凄い! 勝手に登っていくよ! うわー!」
「あははは、君はいいリアクションするね!」
「だって、いつも天秤棒を担いで徒歩で登山してたからさ。自動で登るって凄いよ!」
その後はシーラが自慢気にリフトのスペックを説明してくれたが、正直耳に入ってこない。
俺はリフトという驚愕の装置と、徐々に標高が上がっていく景色ばかり見ていた。
しばらくすると、一つ目の小屋に到着。
「ここは標高千メデルト。我々は駅と呼んでる。この駅で鉱石の積み下ろしができるんだ。駅は二千メデルトと三千メデルトにもある。ただし、今は二千メデルトまでしか稼働させてないけどね」
「え? どうして?」
「最近は希少鉱石が全然採れなくてね。その上、燃石や鉄石の需要が上がってるんだ。だから希少鉱石に人員を回してる余裕がないのさ」
「なるほど」
今回は俺のためだけに、三千メデルトまで行くように手配してくれたそうだ。
ゴンドラは雲の中を進む。
雲を抜けると眼下広がる雲海。
フラル山で毎日見ていた景色を思い出す。
「皆元気かな」
そして、本当に珈琲を三杯ほど飲む時間で、標高三千メデルトの小屋に到着した。
「アル。三千メデルトの駅に着いたよ。この駅は寝泊まりもできるから、好きなだけ採掘して大丈夫」
「シーラ、ありがとう!」
「これ使ってね」
シーラが持ってきた大きな荷物は、数日分の食料品だった。
「え? いいの?」
「もちろん。親父から今回の目的は黒深石と聞いてるけど、なかなか出ないと思うんだよね。今は他に従業員もいないから、納得いくまで掘るといいよ」
「本当にありがとう!」
「いいって。だってアルはうちとエンドース契約してるじゃん」
「いや、それでもさ。感謝してもしきれないよ」
「アルは律儀だね。さて、じゃあ採掘場まで行こうか」
標高三千メデルトの駅から採掘場まで歩く。
この地方の森林限界を越えているため、木々は一切なく見通しは良好だ。
さらに立派な登山道が作られていて、迷うことなく進むことが可能だった。
標高三千メデルトにもなると、地上より空気が薄い。
歩いているだけでシーラは息が切れている。
もちろん俺は全く問題ない。
「はあ、はあ。さ、さすが標高九千メデルトで採掘してた化け物ね。はあ、はあ。三千メデルトごときじゃ呼吸は乱れないんだ」
冒険者になってから、会う人会う人に化け物扱いされる俺……。
しばらく歩くと採掘場に到着。
太陽は頭上に来たくらいで、日没まではまだたくさんの時間があった。
「ここが駅から一番近い採掘場だよ。まずはここで採掘してみたらいいんじゃない?」
「そうだね。ありがとう」
シーラにお礼を伝えつつ、採掘場を見渡す。
俺は長年の勘から、採掘場の様子を見れば希少鉱石の有無がなんとなく分かるのだった。
「で、どう? ここには希少鉱石ありそう?」
シーラが問いかけてきたが、それよりも周囲の様子が気になっていた。
「アル?」
「あ、ああ、ごめん、シーラ」
「どうしたの?」
「この採掘場ってどれくらい使ってないの?」
「三ヶ月ほど前から停止してるよ」
「三ヶ月か……」
俺は採掘場の岩壁に近付く。
シーラも俺について来た。
「シーラ、これを見て」
「ん? ただの岩壁だけど?」
「そうなんだけど、この抉られた跡は数日前のものだね」
「え! ちょ、ちょっと待って! 三ヶ月間誰も来てないよ?」
「違法採掘は?」
「ないね。この山への立ち入りは厳しくチェックしているし、開発機関とはいえ、冒険者ギルド保有の山へ侵入する奴はいないよ」
「そうなんだ。じゃあこの跡は偶然なのかな……。いずれにしても、俺はここで採掘するよ。数日は泊まることになるかもしれないから様子を見ておくね」
「時間かかりそう?」
「そうだね。俺の勘だけど、結構掘り進めないと黒深石は出ないかもしれない」
「分かった。無理しないようにね」
俺はさっそくツルハシで岩壁を掘り進める。
すると、見学しているシーラから声が聞こえた。
「うわー、何あれ……。凄すぎてキモい……」
凄く失礼なことを言われているのは間違いない。
しばらく歩くと十頭以上の甲犀獣が見えた。
ケラモウムは、運び屋が荷車の牽引で使うことで知られている、四足歩行のEランクモンスターだ。
パワフルな上に大人しく従順なため、重労働の場面で使われることがことが多い。
ケラモウムたちは、地面と水平に置かれた超巨大な歯車を回している。
その歯車は大小いくつかの歯車と連なっており、最終的に巨大な滑車がゆっくりと回転していた。
滑車には人の胴体よりも太いロープが掛けられていて、ロープには均等な間隔で大きな荷台が固定され、それが山の上まで続いている。
初めて見る巨大な装置だ。
「こ、これは?」
「これはね、ギルドの天才発明家が設計した超巨大な鉱石運搬用の装置だよ。我々はリフトと呼んでるんだ」
「リフト?」
「世界でもここにしかないよ。リフトのおかげで、この鉱山は莫大な鉱石の生産量を誇っているんだ」
「す、凄いね」
俺はこのリフトという装置に目を奪われていた。
鉱石が積まれた荷台が山から下りて来る。
この荷台をゴンドラと呼ぶそうだ。
ゴンドラが定位置に来ると、従業員はゴンドラの底を開き、鉱石を直接荷車へ積んでいく。
空になったゴンドラの底を閉じると、また山へ登っていく。
ゴンドラ二台分の鉱石を積み込むと、荷車は出発する。
これを繰り返す。
こんなに効率の良い鉱山は初めて見た。
フォルド帝国で最も生産高があるのも納得だ。
「アル、このゴンドラに乗れば三千メデルトまで行けるよ」
「徒歩よりも断然早いんだろうね」
「そりゃそうだよ。珈琲三杯飲む時間で三千メデルトまで行けるからね」
「そ、そんなに早く! 凄いんだね。じゃあ、さっそく行ってくるよ」
「待て待て待て! 君はせっかちだな。僕もついていくよ」
「え? いいよ。一人で行ってくるよ」
「ダメダメ。だって僕はここの責任者だよ? 外部の者に危険がないように見ておかないと」
「た、確かにそうだね」
「あははは、アルは真面目だな。それは建前で、本当は君の採掘を見たいんだ」
「俺の? 別に普通に採掘するだけだよ?」
「でも見たいんだ。それに鍛冶師を目指すなら、採掘のことも知っておかないといけないしね」
「なるほど。分かったよ。ここはシーラの管轄地だもん。俺は何も言えないよ」
「アルは聞き分けがいいね」
シーラは用意していた大きな荷物を持ち、俺と一緒にゴンドラへ乗り込んだ。
初めから俺についてくる気だったのだろう。
ガコンと小さな衝撃が起こり、ゆっくりと動き出すゴンドラ。
しかし、一旦動き出すとスピードが上がり、瞬く間に出発地点が小さくなった。
ゴンドラは地表から五メデルトほど離れている。
ロープだけで支えられているためかなり揺れるが、特に怖さはない。
それよりも、初めての体験に俺は大興奮していた。
「シーラ! これ凄い! 勝手に登っていくよ! うわー!」
「あははは、君はいいリアクションするね!」
「だって、いつも天秤棒を担いで徒歩で登山してたからさ。自動で登るって凄いよ!」
その後はシーラが自慢気にリフトのスペックを説明してくれたが、正直耳に入ってこない。
俺はリフトという驚愕の装置と、徐々に標高が上がっていく景色ばかり見ていた。
しばらくすると、一つ目の小屋に到着。
「ここは標高千メデルト。我々は駅と呼んでる。この駅で鉱石の積み下ろしができるんだ。駅は二千メデルトと三千メデルトにもある。ただし、今は二千メデルトまでしか稼働させてないけどね」
「え? どうして?」
「最近は希少鉱石が全然採れなくてね。その上、燃石や鉄石の需要が上がってるんだ。だから希少鉱石に人員を回してる余裕がないのさ」
「なるほど」
今回は俺のためだけに、三千メデルトまで行くように手配してくれたそうだ。
ゴンドラは雲の中を進む。
雲を抜けると眼下広がる雲海。
フラル山で毎日見ていた景色を思い出す。
「皆元気かな」
そして、本当に珈琲を三杯ほど飲む時間で、標高三千メデルトの小屋に到着した。
「アル。三千メデルトの駅に着いたよ。この駅は寝泊まりもできるから、好きなだけ採掘して大丈夫」
「シーラ、ありがとう!」
「これ使ってね」
シーラが持ってきた大きな荷物は、数日分の食料品だった。
「え? いいの?」
「もちろん。親父から今回の目的は黒深石と聞いてるけど、なかなか出ないと思うんだよね。今は他に従業員もいないから、納得いくまで掘るといいよ」
「本当にありがとう!」
「いいって。だってアルはうちとエンドース契約してるじゃん」
「いや、それでもさ。感謝してもしきれないよ」
「アルは律儀だね。さて、じゃあ採掘場まで行こうか」
標高三千メデルトの駅から採掘場まで歩く。
この地方の森林限界を越えているため、木々は一切なく見通しは良好だ。
さらに立派な登山道が作られていて、迷うことなく進むことが可能だった。
標高三千メデルトにもなると、地上より空気が薄い。
歩いているだけでシーラは息が切れている。
もちろん俺は全く問題ない。
「はあ、はあ。さ、さすが標高九千メデルトで採掘してた化け物ね。はあ、はあ。三千メデルトごときじゃ呼吸は乱れないんだ」
冒険者になってから、会う人会う人に化け物扱いされる俺……。
しばらく歩くと採掘場に到着。
太陽は頭上に来たくらいで、日没まではまだたくさんの時間があった。
「ここが駅から一番近い採掘場だよ。まずはここで採掘してみたらいいんじゃない?」
「そうだね。ありがとう」
シーラにお礼を伝えつつ、採掘場を見渡す。
俺は長年の勘から、採掘場の様子を見れば希少鉱石の有無がなんとなく分かるのだった。
「で、どう? ここには希少鉱石ありそう?」
シーラが問いかけてきたが、それよりも周囲の様子が気になっていた。
「アル?」
「あ、ああ、ごめん、シーラ」
「どうしたの?」
「この採掘場ってどれくらい使ってないの?」
「三ヶ月ほど前から停止してるよ」
「三ヶ月か……」
俺は採掘場の岩壁に近付く。
シーラも俺について来た。
「シーラ、これを見て」
「ん? ただの岩壁だけど?」
「そうなんだけど、この抉られた跡は数日前のものだね」
「え! ちょ、ちょっと待って! 三ヶ月間誰も来てないよ?」
「違法採掘は?」
「ないね。この山への立ち入りは厳しくチェックしているし、開発機関とはいえ、冒険者ギルド保有の山へ侵入する奴はいないよ」
「そうなんだ。じゃあこの跡は偶然なのかな……。いずれにしても、俺はここで採掘するよ。数日は泊まることになるかもしれないから様子を見ておくね」
「時間かかりそう?」
「そうだね。俺の勘だけど、結構掘り進めないと黒深石は出ないかもしれない」
「分かった。無理しないようにね」
俺はさっそくツルハシで岩壁を掘り進める。
すると、見学しているシーラから声が聞こえた。
「うわー、何あれ……。凄すぎてキモい……」
凄く失礼なことを言われているのは間違いない。
応援ありがとうございます!
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