鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第五章

第79話 人外の鉱夫

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 俺は開発機関シグ・ナインからの依頼で、新しい鎧に使用する鉱石を採掘することになった。

 採掘する鉱山は、ウグマの街から北へ三十キデルトの距離にあるそうだ。
 確かにウグマの北には山が見えるが、まさかあの大きな山が鉱山なのだろうか?
 まあ行ってみれば分かるだろう。

 綺麗に整備された街道を進む。
 道中では鉱石を積んだ荷馬車と何度もすれ違う。

 この街道は鉱山とウグマを繋ぐためだけに、シグ・ナインが作った専用の道路だそうだ。
 非常に滑らかな石畳は、馬車で飛ばしても振動は少ないだろう。
 さらに道路全体が僅かに湾曲していて、道路脇には排水口がある。
 雨水が溜まらない仕組みだ。
 街道が整備されているイーセ王国よりも進んだ技術に驚く。
 開発機関の名に恥じぬ、高い技術力とこだわりで作られていた。

 俺はしばらく森の中を進む。
 代わり映えのない景色が終わり、森を抜けると目の前に大きな山が見えた。

「やっぱり、あれがシグ・ナイン保有の鉱山なのか?」

 鉱山と呼ぶには無理があるだろう。
 標高三千メデルトを余裕で超える巨大な独立峰だ。

「あの巨大な山が全てシグ・ナインの所有なのか? 凄まじい資金力だな」

 シグ・ナインはいくつもの国際特許を持っていて、莫大な収益があることで有名だ。
 そのため、ギルドから一切の予算を受け取っていない。
 しかし、あまりにも自由に行動するので「ギルドの独立機関」、陰では「ギルドの暴れ馬」と呼ばれていた。

 整備された街道は快適で、予想以上に早く進んでいる。
 太陽の位置が地平線と頭上の間くらいに来たところで、山の麓に集落が見えてきた。
 恐らく鉱山の労働者のために、シグ・ナインが作ったのだろう。

 そのまま集落に入ると、俺はその規模に驚いた。
 集落のレベルではない。
 これはもう街だ。

 街道で立ち止まりキョロキョロしていると、突然声をかけられた。

「おい兄ちゃん! 新入りか? もう就業時間過ぎてるぞ!」
「あ、シグ・ナインの依頼で採掘に来た者です」
「シグ・ナインの依頼? 珍しいな。じゃあ、事務所へ行くといい」
「ありがとうございます。ところで、事務所はどこですかね?」
「わはは、ここは初めてか。後ろにあるだろ? そこが事務所だ」

 振り返ると、一際大きな石造りの建物が建っていた。

「ありがとうございます!」
「おお、いいってことよ!」

 俺は馬を留め、事務所に入った。
 受付の女性に今回の事情を話す。

「シグ・ナインの依頼で採掘に来たアル・パートです」
「アル・パート様ですね! お待ちしておりました!」

 そのまま個室へ移動。

「こちらでお待ち下さい」

 用意してくれた紅茶を飲みながら、しばらく待つと一人の女性が入ってきた。

「君がアルね!」
「アル・パートです。よろしくお願いします」
「ダーク・ゼム・イクリプスの討伐は聞いたよ! 帝国民としてお礼を言う! 本当にありがとう!」
「い、いえ、偶然です」 
「あははは、親父が言ってたように真面目だ。敬語はいらないよ」
「親父?」
「親父はシグ・ナインの支部長ウォルター・ワイア。僕はその娘でシーラ・ワイヤだ」
「え! ウォルターのお嬢さん?」
「あのねー、アル。お嬢さんとかやめて。これでも君より年上で二十五歳なんだよ?」

 どう見ても二十五歳には見えない。
 まだ十代の女の子に見える。

 華奢な体型で、身長はレイよりも低い。
 きめ細かい白い肌は一切日焼けしていないようだ。
 恐らく日光を浴びてないのだろう。

 薄っすらと茶色い髪。
 顎までのショートカットが、幼さに拍車をかけている。
 瞳の色は赤茶色で、目尻が下がった大きな瞳。
 見た目はとても可愛らしい女性だ。

「で、採掘に来たって? 君、採掘できるの?」
「フラル山で採掘してたから大丈夫だと思う」
「フラル山って……。え? あのイーセ王国のフラル山? 世界一高い山の?」
「ああ、そうだよ」
「あ! もしかして、クリスおじさんが言ってた、フラル山の鉱夫って君のこと?」
「クリス! そうか、ウォルターとクリスは双子だったな。ああ、そうだと思うよ。フラル山で希少鉱石を採ってたのは俺だけだったから」
「標高九千メデルトで採掘する人外の鉱夫って君のことだったのか! そうか、そりゃダーク・ゼム・イクリプスを討伐してもおかしくないか」
「大げさだって」
「じゃあ、クリスおじさんが作った剣も持ってる?」
「剣? ああ、もちろんあるよ」

 俺はクリスが打った片刃の大剣ファラゴンを見せた。

「す、凄い! さすがクリスおじさん。イーセ王国でも有数の鍛冶師なだけあるな」

 シーラは片刃の大剣ファラゴンを隅々まで凝視している。

「ねえ、アル。この鉱石は何? こんな剣見たことがないよ」

 片刃の大剣ファラゴンは光さえ飲み込むような漆黒の剣身をしていながら、夕焼けのような紅い光を放っている。
 持ち主の俺でさえ、何度見ても不思議だと思う。

「黒紅石だよ。俺がフラル山で採掘したんだ」
「こ、黒紅石! 僕、初めて見たよ」
「クリスもこの剣は二度と作れないって言ってた」
「そ、そんなに凄い剣なんだ……」

 シーラが剣を鞘に収めた。

「僕は鍛冶師になりたいんだ。だからクリスおじさんに弟子入りしたいんだけど、親父が言うには鍛冶師の才能はないから諦めろだってさ」

 シーラは悔しそうな顔をしている。

「それよりも事務仕事の方が才能があるってさ。仕方がないから親父の手伝いしてたら、あれよあれよとシグ・ナインの鉱山の主任にまでなってたんだよ」
「凄いじゃん! シグ・ナインの主任ってことは、この鉱山の最高責任者ってことでしょ?」
「まあそうだけどね。でも僕は諦めない。絶対にクリスおじさんに弟子入するんだ」

 シーラは拳を握りしめていた。

「さて、アルのことは分かった。この鉱山で自由に採掘してもらって構わないよ。職員たちには通告しておく」
「ありがとう。じゃあ、ツルハシを借りてもいいかな? できればここで一番重いやつがいいんだけど」

 シーラにツルハシを借りた。
 さすがにいつも使ってた二十キルクのツルハシはなかったので、いくつもあるツルハシの中から一番重いものを選んだ。
 俺たちは事務所を出て、さっそく鉱山へ向かう。

「ねえ、シーラ。この集落は鉱山のために作ったんでしょ? それにしては大きすぎない?」
「ここには五千人の従業員がいるからね。従業員の宿舎だけではなく、宿や酒場、商店街もあるんだ」
「ご、五千人! 小さい街以上じゃん!」
「そうだよ。だって、この鉱山はフォルド帝国で最も大きく、最も生産高がある。ここだけで帝国の鉱石を三十パーセントも採掘してるんだ」
「ここだけでそんなに!」
「それに、クエストで稼げなくなった冒険者や、引退した冒険者を雇ったりしてるから、ギルドの役にも立ってるしね」
「へえ、冒険者の引退後まで考えてるのか」
「そりゃそうだよ。それにね、危険なクエストより、安全で安定して稼げる鉱夫の方がいいって言う冒険者もいるんだよ」
「でも、鉱夫だって危険だけどね」
「いやいや、君の場合は特別だから。大抵の鉱夫は安全だよ?」

 確かに標高九千メデルトなんて危険な場所で採掘をするのは、世界で俺だけだろう。
 その自覚は確かにある。

 シーラから説明を聞きながら歩いていると、採掘場に到着した。

「ここは第一採掘場で燃石の採掘場だ。向こうの第二採掘場は建築用に使う石の採石場。もう少し標高が上がるとレア四までの鉄石類が採れる第三採掘場がある。こういった採掘場が何十もあるんだ」
「凄いんだね。そうだ、希少鉱石は標高三千メデルト以上で採れるって聞いたけど?」
「そうだね。この山は三千メデルトを越えると希少鉱石が出やすくなる傾向だね」

 鉱石はレア五を超えると希少鉱石と呼ばれ、非常に高値で取引されるようになる。
 今回の目的はレア五の黒深石だ。

 俺の地元フラル山だと、希少鉱石は標高五千メデルト以上で採掘できた。
 それよりも低い標高なら、少しは楽に採掘できるかもしれない。

「シーラ、登山道はどこかな?」
「登山道はあっちにあるよ」

 俺はシーラが指差した方向へ歩き出す。

「じゃあ、三千メデルトまで行ってくるよ」
「ちょっと君。そんな簡単に言うけど、標高三千メデルトなんて普通は登れないよ?」
「いや、俺は慣れてるから大丈夫だよ」
「ふーん。本当に人外なんだ。というかねアル。ここなら歩いて行かなくてもいいんだよ」
「え? どういうこと?」
「ここは発明集団のシグ・ナインだよ? 三千メデルトまで楽に行ける乗り物があるんだ」
「乗り物?」

 俺はその意味が分からなかった。
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