鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第四章

第73話 出現

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 エレモスが襲われた場所から移動して二日が経過。
 俺たちは村に到着した。

 ここまで急いで来たので、太陽はまだ登りきってない。
 正面の目線に近い位置から浴びる日光。
 いつもなら気持ち良さを感じる陽の光に、若干の鬱陶しさを感じていた。

 村長の元へ行くため、村の門をくぐり村道を進む。
 だが、どうも様子がおかしい。

「ねえ、レイ。静かすぎないか?」
「ええ、少し様子が変ね」

 以前来た時は、小さいが活気がある村という印象だった。
 しかし今日は村人が誰もいない。

「ウォウウォウ!」

 突然エルウッドが吠え、走り始めた。
 俺たちも馬を走らせ追う。

 エルウッドは村の中心地へ走る。
 エルウッドを追いながら、村の異変が尋常ではないことに気付く。
 家は倒れ、道は崩れ、畑は荒らされ、家畜たちが死んでいた。

「レ、レイ!」
「急ぎましょう!」

 俺たちは馬の速度を上げ、村の中心にある集会場へ向かう。
 途中で村人の死体も見かける。

 集会場に到着。
 入り口のドアが壁ごと破壊されていた。
 剣を抜き集会場へ入ると、猛然と襲ってくる血なまぐささと死臭。

 俺は思わず目を背けた。
 これほどまでの人の死体を見たことがなかったからだ。

「グッ。ゴホッゴホッ。レ、レイ……これは……」
「ひ、酷い……」

 集会場の中で百人、いや二百人か、人数も分からないほどの村人が死んでいた。
 血を流し、内蔵を抉られ、体がちぎれ、腕も、足も、頭もバラバラだ。
 正確な人数なんて分からない。
 まだ血は乾いておらず、集会場の壁についた肉片からは血が滴り落ちている。

「こ、これってダーク・ゼム・イクリプスの仕業?」

 レイに問いかけると、何かを思い出したかのような表情を浮かべた。

「アル! メドの街が危ない!」

 俺たちはすぐ馬に乗り、全速力でメドの街へ向かう。
 馬はよく走ってくれた。
 村からメドは通常一日かかるが、たった半日で走破。
 太陽はまだ高く、夕焼けは始まっていない。

 市街地に入り、そのままギルドがある区画へ馬を走らせる。
 建物が破壊され、村と同じように家畜や人が殺されていた。
 しかし、メドの街には冒険者ギルドがある。
 冒険者がいるはずだ。

 馬の口から泡が出始めている。
 俺は馬を飛び降りた。

「ごめん! ここまでありがとう! お前たちは逃げろ!」

 馬に声をかけ、俺はギルドの建物へ走る。
 数百メデルト走ると、ギルドの建物が見えてきた。
 その前にいるのは、漆黒の大きな物体。

「ダーク・ゼム・イクリプス!」

 ダーク・ゼム・イクリプスも俺に気付いたようだ。
 心なしか笑っているように見えるのは、気のせいだろうか。
 しなやかな身体をこちらに向け、左前足で失った左耳の根本を撫でる。

 そして、太くて長い尻尾を直立させた。
 二本の前足を伸ばし、後ろ足を折り曲げ、姿勢を低くし、重心を後ろに下げる。
 極限まで引いた弓のように力を溜め、咆吼を上げると一気に開放。

 猛然と俺に向かって突進してきた。

 ◇◇◇

 アルが馬から飛び降り、ギルドに向かって走り始めた。
 私もそれに続く。

 アルがダーク・ゼム・イクリプスの姿を捉えた。

「アル! ダーク・ゼム・イクリプスはあなたに任せる! 無理だけはしないで! お願いよ! 死なないで!」

 アルの戦いを邪魔してはいけない。
 人類でダーク・ゼム・イクリプスに対抗できるのはアルだけだろう。

 私は大きく迂回して、崩れかけたギルドへ走る。
 入口で女将が倒れていた。

「女将!」
「レ、レイちゃん。突然、ダーク・ゼム・イクリプスが襲撃を……。この街の冒険者と騎士団じゃ太刀打ちできなかったさ……」
「女将、怪我はない?」
「だ、大丈夫さ。それよりギルドへ報告したい。レイちゃん頼めるかい」

 私はその言葉で理解した。
 この惨劇はどこにも伝わっていない。

「分かった!」

 私はギルドの敷地内にある大鋭爪鷹ハーストの小屋へ走った。
 小屋に着くと同時に二枚の手紙を書く。
 ハーストの足にある手紙筒に入れ、一通をウグマのギルドへ、もう一通を帝都サンドムーンのギルド総本部へ飛ばした。

「お願い! 急いで!」

 私は心の底から願った。

 ◇◇◇

 百メデルトの距離がなかったかのような、一気に俺に突進してくるダーク・ゼム・イクリプス。
 その速度は放たれた弓そのものだ。
 最高速度を保ったまま、十メデルト以上もの距離を残して大きくジャンプ。
 大爪を剥き出しにした右腕を大きく振りかぶった。

 俺もすぐさま片刃の大剣ファラゴンを抜き、斬りかかる。
 剣と大爪がぶつかると同時に、甲高い衝突音が響き、大きく火花が散る。
 挨拶代わりと言わんばかりの攻撃。
 もちろんお互い無傷だ。

 しなやかに着地するダーク・ゼム・イクリプス。
 ゆっくりと上半身を捻り、半円を描くように反転する。

 十メデルトほどの距離で対峙。
 ダーク・ゼム・イクリプスは、またしても左耳の根本を前足で軽く撫でた。
 口を開き、牙を見せる。
 薄ら笑いを浮かべるダーク・ゼム・イクリプス。
 牙に付着した唾液が伸びる。
 恐ろしいほど邪悪な顔だ。

「ガグゥオォォォォォ!」

 ダーク・ゼム・イクリプスが咆哮を上げる。
 その紅い目がさらに真紅で染まり、眼光が揺らいだ。
 同時に真横から姿を現し、右腕の大爪を振り下ろす。

 ダーク・ゼム・イクリプスが消えた場所には、まだ紅い眼光が残像として残っている。
 凄まじいスピードだ。

「クッ、前回よりも速い!」

 なんとか剣で防ぐ。
 俺は前回戦った時は腕に大怪我を負った。
 それよりも速いとなると、怪我だけで済むのだろうか……。
 不安がよぎってしまった。

 着地したダーク・ゼム・イクリプスの赤い眼光が再度揺らぐ。
 次は左から信じられないスピードで爪撃が飛んできた。

 剣で弾くも、続いて右からの爪撃。
 息をつく暇もなく、左右から連続攻撃が続く。
 俺の不安を見抜いたのか、ダーク・ゼム・イクリプスの攻撃はより一層激しくなってきた。

「クッ! 集中しないと!」

 一気に劣勢に立たされ、後手に回ってしまった。
 どこかで立て直さないと、ここままでは危険だ。
 一瞬の迷いが死を招く。
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