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第四章

第72話 冒険者ギルドの成り立ち

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 俺にとって初めての護衛クエストは、レイのおかげで無事に終えることができた。
 さすがは騎士団団長として、国家規模で活動していたレイだ。
 
 俺たちは、国境の街モアから拠点のウグマへ戻る。
 モアからウグマの距離は東へ約五百キデルト。
 十日間の移動も、今日で半分の五日が経過。

 帰りの道中でも、旅人を狙う盗賊集団に襲われていた。
 俺たちを若い男女の二人旅とでも思ったのか。
 しかし、俺たちは難なく撃退。

 まさか盗賊も、狙いを定めた女性が世界で数少ないAランク冒険者で、元騎士団団長とは思わないだろう。
 拘束して近くの街の騎士団へ引き渡した。
 最も懸念していたモンスターには一度も遭遇していない。

 日没が近付く頃、俺たちは宿場町に到着。
 中級クラスのオーソドックスな宿屋を選んだ。
 一部屋で銀貨一枚、俺とレイの分で二部屋取った。
 宿屋の一階にある酒場で夕食。

「レイの言う通り帝国は治安が悪いね。イーセ王国では街道で盗賊に遭遇することなんてなかったからさ」
「イーセ王国と比べてはダメよ?」
「どういうこと?」
「厳密に言うと、帝国は治安維持のための組織がないのよ」
「え? 騎士団があるでしょ?」
「もちろん帝国にも騎士団はあるわよ。むしろ帝国騎士団は世界で最も歴史があるもの。ただね、イーセ王国とフォルド帝国では騎士団の理念が違うのよ」

 元イーセ王国クロトエ騎士団団長のレイの言葉には重みがある。

「帝国の騎士団は軍隊色が非常に強いわ。もちろん治安維持も行うけど、駐屯地がある街が中心だから街道の警備はほとんどしてないのよ」
「へえ、そうなんだ」
「王国の場合は騎士団が軍隊から治安維持、モンスター討伐まで全ての活動をしているの」
「じゃあ、帝国内の治安維持はどうしてるの?」
「帝国は騎士団よりも、冒険者ギルドが活躍してるわ」
「そうなの?」

 帝国の状況を聞いて驚いた。

「冒険者ギルドが作られた理由もそこなのよ。元々、帝国内の村や街などの自治体は自分たちで自警団を結成して、犯罪集団やモンスターから身を守っていたの」

 冒険者ギルドの成り立ちは非常に興味がある話だ。

「そのうち強いと評判になる自治体や自警団が出てきたの。次第にそこへ報酬を支払って、警護や討伐の依頼をするようになったのよ。そして、それらを仲介する人物が現れた。それが初代のギルドマスターで、冒険者ギルドの始まりと言われているわ」
「なるほど。ギルドのスタートは仲介業だったんだ」
「ええそうよ。それから冒険者という職業を作り、ルールを整備して、報酬体系も構築して、今や世界最大の組織まで成長したのよ」
「知らなかった。帝国では冒険者ギルドが治安維持に貢献してるんだね」
「そうよ。そういった経緯もあり、帝国内では今でも警備はお金を払って冒険者を雇うという考え方が主流なのよ」

 レイから冒険者ギルドの成り立ちを聞き、帝国内で警護クエストが多い理由を知った。
 かくいう俺たちも、数日前に警護クエストを終えたばかりだ。

 帝国内で冒険者の地位が高い理由も理解できた。
 しかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。

「貧しい人や自治体は身を守れない?」
「厳しいようだけど、帝国の実情はそうよ。だから王国のクロトエ騎士団では、貧しい人々のためにも国費で警備やモンスター討伐もするようにしたのよ」
「じゃあ、俺たちが警護クエストをやって、盗賊などの犯罪集団を拘束できれば治安向上に繋がるかもしれないよね?」
「そうね。結果的には治安向上に貢献できるでしょう」
「なるほど。今後も積極的に護衛クエストをやったほうがいいようだね」
「ふふふ、アルは偉いわね」

 俺ごときが国レベルの心配をするのはおこがましいが、少しでも貢献できればと思う。
 そんなことを考えながら、その日は就寝した。

 ――

 翌日、早朝に宿を出発。
 順調に街道を進み、ちょうど太陽が頭上に来た。

「レイ、そろそろ昼食にしようか」
「そうね」

 街道を外れて昼食の準備をしていると、遠くから叫び声のような甲高い音がうっすら聞こえた。

「なんの音だろう。エルウッド聞こえた?」
「ウォン」

 エルウッドが頷く。

「ちょっと行ってみる?」
「そうね、行ってみましょうか」
「ウォウ」

 しばらく進むと、僅かな地響きを感じた。

「今、少しだけ地面が揺れたよね?」
「地震かしら?」
「ウォウ」

 そのまま草原を進む。
 すると、数百メデルト先に大きな物体が見えた。
 さらに近付くと、無残に食いちぎられたモンスターの死骸と判明。

「こ、これは……?」
大牙猛象エレモス!」

 レイが叫ぶ。

 俺はすぐに剣を抜き警戒した。

 エレモスは体長約十メデルトの巨体で知られる、Bランクの四肢型獣類モンスターだ。
 長い鼻と湾曲した巨大な牙が特徴。
 性格は凶暴で、圧倒的なパワーを誇る。

 俺は数ヶ月前に一度エレモスを討伐した。
 作戦通りに討伐できたとはいえ、討伐難易度は高かった。
 そのエレモスの腹部が、ほぼ全て食い荒らされている。
 頭部、大牙、手足は残っており、内蔵だけがなくなっていた。

 辺りを警戒しながら、俺はレイの正面に立つ。

「さっき聞こえた音はエレモスの咆哮?」
「そうでしょうね。地響きは倒れた振動でしょう。それにしても、私たちがここへ来る間にここまで食い散らかすとは……」
「Bランクのエレモスを、こうも簡単に襲うモンスターなんている?」
「心当たりがないわけじゃないけど……」
「ま、まさか! ダーク・ゼム・イクリプス!」
「ええ、その可能性はとても高いわね」

 Aランクモンスターの槍豹獣サーべラル
 その固有名保有特異種ネームドモンスターがダーク・ゼム・イクリプスだ。

 サーベラル自体すでに最高ランクのモンスターなのに、ダーク・ゼム・イクリプスはさらに突然変異した強力な個体だ。
 通常個体と違い、全身は黒い毛皮に覆われ、異常なスピード、鋭く硬い大爪、高い知能と恐ろしい残虐性を誇る。

「また出現したのか」
「アル、帰りに村とメドの街に寄って警告しましょう」
「ああ、そうだね」
「道中の警戒は最大限上げるように」
「分かった」
「ウォン」

 俺は以前、村で受注した直請けクエストの帰りに、ダーク・ゼム・イクリプスと遭遇した。
 逃げることはできず、やむを得ず戦うことになったが、尋常ではないほどの強さだった。
 これまで経験で最も厳しい戦いだったのは間違いない。
 それでも俺はダーク・ゼム・イクリプスの耳を斬り、なんとか撃退に成功。
 しかし、その代償は大きく、俺も腕に深い傷を負った。

 撃退だけでもギルドでは大事件として扱われたほどだ。
 それもそのはず、帝国は百年間もダーク・ゼム・イクリプスに苦しめられているのだった。

 そんな怪物がまた出現したのだ。
 俺たちは、村長へ警告するために村へ向かう。
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