鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
69 / 414
第四章

第68話 撃退の報酬

しおりを挟む
 診察室に入り、医師に傷を見せた。

「こ、これは何ということだ!」
「え? ど、どうしたんですか?」

 医師の言葉に不安を覚える。

「す、すまない。あまりに驚いてしまったよ。君は傷の治りが異常なほど早い」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、こんなことは初めてだ」

 医師の驚きは悪い方ではなかった。
 俺は胸をなでおろす。

「これなら明日には抜糸できそうだ。今日一日安静にするように」
「まだ移動はできませんか?」
「通常なら二週間以上は絶対安静で、下手すれば腕が使えなくなるくらいの大怪我なんだよ?」
「す、すみません」
「強靭な肉体とはいえ焦ってはダメだ。君はこれから素晴らしい活躍をする冒険者になるのだから、無理しないように」
「はい。ありがとうございます」

 そして看護師が薬を塗り、薬草と包帯を巻いてくれた。

「本当に凄いですね。高ランクの冒険者になると異常な治癒能力な人はいますが、これほどまでに早い人は初めてですよ」
「ははは、頑丈だけが取り柄なので」
「何言ってるんですか。アルさんは見た目だってかっこいいですよ」
「え? え? そ、そんなこと言われたの、は、初めてです」
「えー、そうなんですか? 絶対モテますよ」
「い、いや」
「フフ、私だってもうファンですから」
「あ、あの……ありがとうございます」

 一通りの処置を終えた。
 熱は下がったはずなのに顔が少し熱い。
 待合室でレイと合流。

「どうだった?」
「えーと、明日抜糸できるって。だから今日まで安静だって」
「あら、治りが早いわね」
「うん」
「ん? どうしたの? 顔赤いわよ?」
「え? い、いや、なんでもないよ」
「ふふふ、変なアル」

 ――

 昨日に引き続き、ギルドの宿泊施設で一泊することになった。
 施設で連泊の手続きをして部屋へ戻る。

「実家を出てから、こんなにゆったりしているのは初めてだね」
「ええ。ずっと移動していたし、ここ最近はクエストだってしたもの」
「引退したら、こんな感じになるのかなあ」
「ふふふ、そうね。引退したらこうして二人でゆっくりしましょうか」
「ウォン!」
「もちろんエルウッドも一緒にね」

 レイがエルウッドの頭を撫でている。

「そうだ、レイ!」
「どうしたの?」
「装備品を整えたいんだ。防具を新調したい」
「そうだったわね。あなたの軽鎧ライトアーマーはダーク・ゼム・イクリプスに壊されたものね」
「ああ、防具の重要性が分かったよ」
「そうね。いくら強靭な肉体でも、防具なしでは戦えないもの」

 レイの話によると、目的のウグマにはギルドの主要九機関が全て揃っている。
 当然、開発機関シグ・ナインもある。
 防具屋で買うより、冒険者専用の防具を開発しているシグ・ナインで購入した方がいいそうだ。

 とはいえ、ウグマへ移動する際に鎧がないのは危険だ。
 取り急ぎ、メドの街で鎧を購入することにした。

 この日は、医師の言いつけを守り一日部屋で安静に過ごす。
 翌日、医療機関シグ・シックスで抜糸。

「信じられん。これなら乗馬も大丈夫だ」
「お世話になりました」

 医師は俺の治癒力に驚いていた。

 続いて、街の防具屋へ向かう。
 ウグマで本格的な鎧を購入する予定なので、繋ぎの鎧として比較的安価な革鎧レザーアーマーを購入。
 それでも金貨三枚した。

 冒険者は金がかかることを実感。
 なお、ダーク・ゼム・イクリプスに傷付けられた鎧は下取りに出せなかったため、ウグマへ持って行くことにした。

 最後に俺たちは、ギルドで女将に挨拶。

「レイちゃん、気をつけて」
「女将、お世話になったわね。ありがとう」

 女将はレイと女将が抱き合った後、俺の顔を見る。

「アル、アンタは絶対に凄い冒険者になるよ。レイちゃんのこと、よろしく頼むさ」
「アハハ、レイは俺の師匠だよ? でも分かったよ。女将、色々とありがとう」

 俺は女将と握手した。

 メドの街を出て、目的地のウグマへ向かう。
 道中はモンスターや犯罪者に遭遇することなく、三日間の移動で無事ウグマに到着。

 ウグマはこのウグマ州の州都で、帝国でも有数の大都市だ。
 その歴史は古く、石造りの建造物が多い。
 素材は建物用石材の代表格、灰硬石だ。
 安価で硬度も高く、建築用石材に欠かせない。

 また純白の白理石の建物も散見される。
 白理石は建築物に使用する岩石の中では、非常に高価だ。
 建物の柱などには繊細な彫刻がされており、見るだけでも楽しめる。

 街道は美しい石畳。
 数区画に一つにある広場には噴水があり、住民の憩いの場になっているようだ。
 俺は街並みに目を奪われていた。

「アルの気持ちは分かるわ。ここは本当に美しい街だもの。私も凄く好きな街よ」
「イーセ王国とは全然違うね。王国は木造建築が多いから」
「ええそうね。確かに帝国は石造りの建物が多いわね。戦争も多かったし、王国とは歴史が違うもの。帝都サンドムーンはもっと凄いわよ」
「へえ。行ってみたいなあ」

 冒険者ギルドの総本部があるという帝都サンドムーン。
 冒険者になったからには、いつか行ってみたいと思う。

「でも、レイは行くの嫌なんでしょ?」
「嫌じゃないのだけど……。その……。ギルドマスターに会いたくないの……」
「ギルマス?」
「だって、あいつ変態なのよ」
「え? どういうこと?」
「私がまだ十四歳の頃に、突然……プ、プロポーズしてきたの……」
「プロポーズ!」
「それ以来、会うたび会うたびプロポーズしてくるの」
「そ、そうなんだ」

 レイの顔に最大級の嫌悪感が見える。

「ただ、サンドムーンはギルドの総本部だし、主要機関の本部が全て揃ってるのよ。冒険者なら一度は行かなきゃね」
「ああ、いつか行ってみよう」

 ウグマの市街地に入り、まずは医療機関《シグ・シックス》へ向かう。
 俺のことはすでに伝わっていたようだ。
 傷を見せると完治と診断。
 医師は回復の早さに驚いていた。

 そして、近くにある冒険者ギルドへ行くと、支部長室に案内された。

「冒険者ギルド、ウグマ支部長のリチャード・ロートだ」
「アル・パートです」
「レイ・ステラーです。お久しぶりです」

 支部長のリチャード・ロートは六十歳くらいだろうか。
 身長は俺と変わらず、年齢の割に引き締まった身体をしている。
 白髪の短髪、顎には白い髭を生やして、威厳のある風貌だ。
 レイとは面識がある模様。

「君たちの報告はオリガ、ああ、女将から連絡を受けている。レイ、君の復活も聞いたぞ」
「ありがとうございます」
「ギルドとしては喜ばしいことだ。それに、ギルマスが喜んでいるだろう」
「困ったものです」
「すまないな、我慢してくれ。私からも注意はする」
「ええ、助かりますわ。リチャードさん」

 リチャードが俺の顔を見た。

「さて、アルよ。ダーク・ゼム・イクリプスの撃退だが、まず礼を言う。ありがとう」
「いえ、そんな」
「帝国は百年も前から、ダーク・ゼム・イクリプスの被害にあっていた。一度も撃退すらしたことがなかったのだ」
「百年間ずっとですか?」
「正確には活動期に入って殺戮を繰り返し消えていく。これを数年単位で繰り返すのだ。前回の出現は八年前だった」

 百年間も帝国を恐怖に陥れているとは、本当に恐ろしいネームドだ。

「現在、ダーク・ゼム・イクリプスの行方は調査機関シグ・ファイブが調査している。ひとまず君の撃退について報酬を支払おう」
「え? クエストのあとに偶然遭遇しただけなので不要です」
「おいおい、冒険者が金を受け取らないのはあり得ないぞ。お人好しすぎてはダメだ」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
「ダーク・ゼム・イクリプスの撃退は前例がない。そこで、ギルマスと直々に連絡を取った」

 反応したのはレイだった。

「え? ギルマスと直接!」
「ああ、あまりに非常識だからな。研究機関シグ・セブンの局長も歓喜しておったぞ。ダーク・ゼム・イクリプスの素材なら金なんていくらでも出すとな。わっはっは」

 リチャードは改めて俺の顔を見た。

「アルよ。ダーク・ゼム・イクリプスの耳をギルドで買い取ろう。撃退の報奨金と合わせて、金貨三百枚出す」
「さ、さ、三百枚!」

 俺は思わず大声を出してしまった。

「驚くのも無理はないか。まだBランクだし、クエストの数も直請け入れてたったの二回だからな」

 俺はリチャードにダーク・ゼム・イクリプスの耳を渡した。

「これがダーク・ゼム・イクリプスの耳か。素晴らしい。うむ、防腐加工もしっかりしてるな。大鋭爪鷹ハーストで送るから、今日中には帝都へ着くだろう」

 リチャードから金貨三百枚を渡された。

「それで、君たちはこれからどうするのだ?」
「リチャードさん。私たちはしばらくの間ウグマで活動します」
「そうか! それはありがたい。君たちにやってもらいたい高難度クエストはたくさんあるからな」
「ふふふ、お任せください」
「それでは君たちに、長期滞在用の家を貸し出そう。家賃はそうだな、一ヶ月金貨六枚でどうだ? レイも知ってるあの家だ。格安だぞ」
「え? あの家を?」
「もちろんだ。君たちには世話になるから、快適に暮らしてもらいたい。係の者に連絡しておくが、準備もあるだろう。日没頃に行ってみてくれ」
「ご配慮に感謝します」

 一通りの報告や手続きが終わり、俺たちは冒険者ギルドを出た。
 家を貸してもらえることになったが、俺はレイに疑問をぶつける。

「ねえ、レイ」
「なあに?」
「一ヶ月の家賃が金貨六枚って高すぎると思うんだけど……」
「ふふふ、そんなことないわよ。家を見れば分かるわ」
「へえ、見るのが楽しみだな」

 レイが納得しているのであれば俺も異論はない。
 日没まではまだ時間があるので、俺たちは防具のことを相談するため開発機関シグ・ナインへ向かった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...