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第四章

第65話 信じがたい報告

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「アルは私の後ろに乗って。その腕じゃ乗馬は危険よ」
「うん、ありがとう」

 俺は馬の操作ができないので、レイの後ろに乗った。
 空になった俺の馬の背には、なぜかエルウッドが座っている。

「エルウッド。もしかして馬に乗ってみたかったの?」
「ウォン」
「アハハ、じゃあ任せたよ」

 俺の馬は特に操作しなくとも、しっかりとついて来る。
 このペースなら夕方前には隣街のメドに着くだろう。
 それにしても、討伐から村へ戻ってきてからレイの雰囲気はずっと暗い。

「レイ、どうしたの?」
「今回は本当に、本当に危なかった。いくらあの選択肢しかなかったとはいえ、アルを危険な目に合わせた自分が許せなくて……。ごめんなさい」
「いや、俺たちにはあれしかなかった。正直言うと、最も高い生存確率があの方法だったんだよ」
「ええ、それは私も理解している」
「ダーク・ゼム・イクリプスは化け物中の化け物でしょ? でもレイだっていつも言ってるじゃん? 俺は人間を超えた化け物だって」
「そうね。あなたは特別だったわ……」
「うん。だから気に病むことはないよ」
「ありがとう。そうね……そうよね」

 レイは少し考え込み、俺の顔に目線を向けた。
 真剣な表情で、俺を真っ直ぐ見つめている。

「あなたはもう完全に私を越えたわ」
「そ、そんなことないよ」
「私……悔しい」
「何言ってるんだよ。冒険者のことなんて全く知らない俺だよ? レイがいなきゃ何もできないよ」
「じゃあ、覚えたらどうするのよ? 私はクビ? いらない?」
「アハハ、レイとはずっと一緒にいるさ」
「え? それって……」
「前も言ったじゃん。レイはいつまでも俺の師匠だって」
「もう、何よ! バカ!」

 そう言いながらも、レイの声質は明るくなっていた。

「俺を冒険者に誘ったのはレイだよ? むしろレイがいなくならないか心配だよ」
「ふふふ。私はこの先も、あなたとエルウッドとずっと一緒よ」
「ウォウウォウ」

 エルウッドが喜んでる。
 いつものレイに戻ったようだ。

「しかし、ネームドって本当に強いんだね」
「もちろんよ。……アル。実は私、ネームドを討伐したことがあるのよ」
「え! 本当? 凄いじゃん!」
「そんなことないわ。あの時はウィルとリマもいたし、Aランク冒険者四人でネームド討伐専用パーティーを組んだのよ」
「ギルドハンターのウィル・ラトズか! あとリマって近衛隊隊長で、今は騎士団団長代理だっけ?」
「そうよ。二人とも超一流の剣士よ」
「確かに彼女は強かったな」

 俺は昨年、リマと戦ったことを思い出した。

「私たちは万全な準備で挑んだわ。それでも五分五分だったのよ。それに大切な人も……」

 レイの表情が一瞬曇る。

「今回のことをギルドに報告すると、正直もうあなたがどうなるか分からない。相当な話題になることは間違いないもの」
「え? どうして? 耳を斬っただけだよ? むしろ討伐できなかったし」
「たった一人でネームドを撃退した人間なんていないのよ。それも別のクエスト帰りで、何の準備もなく撃退だもの」
「そ、それは、偶然というか……」
「さっきも言ったように、超一流のAランクを四人集めても五分五分よ。もしあなたがダーク・ゼム・イクリプスを討伐なんかしてたら、世界を揺るがす大事件だったわよ」

 レイと話しながら街道を進んでいると、少し先に街並みが見えてきた。
 あれがメドのようだ。
 夕焼けが始まる前に無事到着。

 俺たちはさっそくメドの街の冒険者ギルドへ向かう。
 この街のギルドは、宿屋や酒場が建ち並ぶ繁華街にあった。
 ギルドの建物に入ると、広めな酒場という印象だ。

 バーカウンターの横に受付があり、そこで直請けクエストの報告を行う。
 受付の男性に、直請けクエストの書類と、腐食獣竜スカベラスの討伐証明である尻尾を提出。

「クエストお疲れ様でした。直請けは調査機関シグ・ファイブが調査します。討伐としては報酬が少ないですが、Aランクの報告書があるので問題ないと思います。討伐スコアも更新しますね」

 レイの報告書のおかげで、直請けクエストは無事承認された。

 直請けクエストは、報酬の五十パーセントをギルドに支払う必要がある。
 今回の報酬は金貨三枚だったので、金貨一枚と銀貨五枚をギルドに支払った。

 そして、俺とレイの討伐スコアにスカベラス十頭が記録された。
 これで手続きは終わりだが、ネームドに遭遇したことを伝えないといけない。

「あと、このクエストの最中にネームドと遭遇しました。注意喚起をお願いします」
「え! ネ、ネームドですか?」
「はい、槍豹獣サーべラルのダーク・ゼム・イクリプスです」
「ダ、ダーク・ゼム・イクリプス! そ、それで、どうしたんですか?」
「撃退したので、恐らく森から去ったと思います。ただ、安全のためにも調査をお願いします」
「げ、撃退? ネームドを? いや、ダーク・ゼム・イクリプスを? あの……。えーと、ちょっと責任者を呼んできますね」

 受付の男性が奥へ走っていった。
 その間に、近くにいた一人の男が寄ってきた。
 どうやら俺たちの話を聞いていたようだ。

「は? お前バカか? ネームドを撃退したって? これだから新人は……もっと信憑性のあるウソをつけよ」

 俺たちが新参者に見えるのだろう。
 完全にバカにしている。

「おーい! こちらの冒険者様が、ダーク・ゼム・イクリプスを撃退したってよ!」

 フロアに向かって大声で叫ぶと、酒を飲んでいた三十人ほどの冒険者が一斉に笑う。

「ぎゃはははは!」
「見ない顔だが新人か!?」
「おもしれーぞ!」
「だったら、俺なんて竜種を倒したぞ! がはははは」
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