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第四章

第64話 ネームドモンスター

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「アル! アル! 大丈夫?」
「なんとか撃退できたよ」
「ああ、ごめんなさい、アル。あなたを一人にして。ごめんなさい」
「いや、そのおかげで助かったんだ。レイもエルウッドも俺の意図を汲んでくれてありがとう」

 レイの顔色は真っ青だった。
 薄っすら涙も溜まっている。

「アル。あなたが無事で本当に良かった」

 レイがすぐに傷の手当をしてくれた。
 さすがは元騎士だ。
 傷を見ても動じず、適切な処置をしてくれる。

「応急処置よ。かなり深い傷だから、村へ戻ったら医者に診てもらいましょう」

 レイは落ち着いたようだ。

「それにしてもアル。本当に、本当によく生きていたわ」
「無我夢中だったよ。あの槍豹獣サーべラルは驚くほど強かった。あれほどの強さは初めてだ」
「アル、あのサーべラルは固有名保有特異種ネームドモンスターなのよ」
「ああ、さっきも言ってたね。エルウッド以外でネームドは初めて見たよ」
「私はネームドリストを全て記憶してるのだけど、あの個体はダーク・ゼム・イクリプスと呼ばれているわ」
「ダーク・ゼム・イクリプス?」
「ええ、フォルド帝国に出没するサーベラルのネームドよ。名前は侵食する闇という意味なの」

 通常のサーベラルは黄金色に黒い斑点がある体毛だ。
 しかし、あの個体は全身が漆黒の体毛に覆われ、目だけが赤く光っていた。

 レイの説明によると、サーベラルはただでさえ最強格のAランクモンスターなのに、ダーク・ゼム・イクリプスはさらに異常なほどのスピード、硬く鋭利な爪、恐ろしい残虐性と高い知能を誇る突然変異の個体とのこと。

「ダーク・ゼム・イクリプスは帝国の村や街をいくつも壊滅させてるわ。過去に帝国騎士団が何度も討伐に向かったけど、全て失敗に終わったそうよ。もちろん冒険者ギルドの討伐クエストも全て失敗してるわ」

 村や街を壊滅させるほどのモンスターだったようだ。
 確かに信じられないほど強かった。
 そんなモンスター相手に、俺はよく生き残れたと思う。

「そうだ。レイ、これ」

 俺はレイに、ダーク・ゼム・イクリプスの耳を見せた。
 一辺が三十セデルトほどの大きさで、三角形の形をしている。

「あ、あなた! ダーク・ゼム・イクリプスの耳を斬ったの!? し、信じられない! たった一人であのネームドに傷をつけるなんて!」
「ギリギリだったよ。正直死んでもおかしくなかった」
「と、とにかく、村へ帰りましょう」

 指笛を鳴らし馬を呼び戻す。
 そして、俺たちは村へ帰り、村長に討伐完了を報告。

「墓を荒らしていた腐食獣竜スカベラス 十頭を全て討伐しました。住処の洞窟も確認し、群れを殲滅させています」

 討伐証明であるスカベラスの尻尾を見せた。
 そして、クエスト直請けの書類に討伐完了のサインと、今回の報酬である金貨三枚を受け取る。

 村長は喜んでいたが、もう一つの報告も行う。

「あと、森の中でサーベラルを確認しました」
「サ、サーベラルですと!」
「はい、それも……ネームドです」
「サ、サ、サーベラルのネームドですと! ま、まさか? 真っ黒でしたか?」
「はい」
「もしかして、ダ、ダーク・ゼム・イクリプス!」
「よくご存知で」
「わ、わしは幼少の頃、ダーク・ゼム・イクリプスに村を潰されたのです……。両親もその時……」

 村長の顔が一気に青ざめた。

「そ、それで彼奴はどこに! ここへ来るのですか? どうすればいいのじゃ?」

 村長が混乱している。
 無理もない。
 相当なトラウマになっているのだろう。

「村長さん。ひとまずダーク・ゼム・イクリプスは撃退しました」

 俺はダーク・ゼム・イクリプスの耳を見せた。

「こ、これは! まさしく彼奴の耳。この色と形は未だに忘れもしません……」
「この付近の森の生き物を狩り尽くしたことで、しばらくはこの地から離れるでしょう」
「いなくなったのですか?」
「はい。ただし安心はできません。戻ってくる可能性があります。我々は冒険者ギルドに報告しますので、もし何かあったらギルドを頼ってください」
「わ、分かりました。ありがとうございます」

 村長は安心したようで、落ち着きを取り戻してきた。

「わしは彼奴をこの目で見てますが、あれを撃退できるのですか? まさに闇そのものでした。ほんの僅かな時間で、数百人の村が全滅したのです」
「正直、俺も撃退は奇跡だと思ってます。あの揺らぐ赤い眼光は、人間に捉えることはできません」
「そ、そうです! あの赤い目が光った瞬間に、何人もの、何百人もの村人が死んでいったのです……」

 そこへレイが、会話を遮るような仕草で右手を上げた。

「村長さん、お話の途中に失礼します。この村に診療所はありますか?」
「はい、ございます」
「アルが深い傷を負ったので、すぐにでも見せたいのです」
「そ、それは気付かず失礼しました! すぐにご案内します!」

 村の診療所へ移動し、医師に診てもらう。
 傷は思った以上に深く縫うことになった。

「最低でも一ヶ月は安静にしてください。乗馬も控えて欲しいのですが、冒険者様だと無理ですかな?」
「そうですね。すぐにでもメドの街へ行きたいので」
「ふうう、本当に冒険者様というのは無理をなさる。とはいえ、この村のことですから感謝しかありません。傷口が開かぬように処置します。今夜は熱が出るでしょうから、薬草も出しておきます」

 医師は状況を理解してくれた。

 俺たちは今回のことをギルドへ報告しなければならない。
 特にダーク・ゼム・イクリプスは緊急案件だ。
 処置をしてもらい、すぐに出発の準備。

 村を出る時には、村長や村人が見送ってくれた。

「アル様、レイ様、本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません。あなたたちのことは村に言い伝えます。またいつでも村へお越しください」
「はい! ありがとうございます! また会いましょう!」

 村長に別れを告げ、隣街のメドへ向かって出発した。
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