63 / 352
第四章
第62話 忍び寄る暗殺者
しおりを挟む
墓を掘っている腐食獣竜は五頭。
その後ろにもう五頭いた。
レイの言う通り十頭の群れだった。
俺は山で暮らしていたので夜目は利く。
スカベラスまで十メデルトほどの距離に近付き、全力で石を投げる。
「ギィャッ!」
スカベラスの短い叫び声が暗闇に響く。
「スカベラスってあんな声で叫ぶのか」
石を投げた場所へ近付くと、一頭のスカベラスが泡を吹いて倒れていた。
残りのスカベラスは逃げてしまった模様。
レイとエルウッドが俺の元へ来た。
「ねえ、アル。牽制って言ったわよね? どうして一頭死んでるの?」
「え? ど、どうしてと言われても。石を投げただけなんだけど……」
「本当にもう……。まあでも一頭は締める必要があったからちょうどいいわ」
レイは呆れながらも、俺と一緒に死骸を森の中へ運ぶ。
そして腰からナイフを取り出したレイが、スカベラスの首筋にある大きな血管を切った。
血の臭いを出すためだ。
「恐らくこの死骸を漁りに、他のスカベラスが寄ってくるわ」
「来るかな?」
「ずっと原因を考えてたのよ。スカベラスたちは、人間の墓を掘るほど空腹だった。この森で食料が取れなくなったのでしょう。理由は分からないけどね」
「なるほど。じゃあ、この死骸を漁りに来るか」
俺たちはまた茂みに隠れた。
しばらくすると、レイの予想通り死骸を漁りに来たスカベラス。
二頭が死骸を咥えて引きずり始める。
「住処に持って行くようね。アル、追跡しましょう」
「分かった」
俺は横にいるエルウッドの頭を撫でる。
「エルウッド、少し離れていてもスカベラスの臭いで追跡できる?」
「ウォウ」
エルウッドは首を縦に振った。
俺たちは馬にまたがり、松明を手に持ち、スカベラスに気付かれないように離れて追跡を始めた。
恐らく五キデルトほど進んだだろう。
森の中に洞窟を発見した。
「エルウッド、この中にいる?」
「ウォン」
エルウッドの追跡能力はさすがだ。
これで住処を特定できた。
「さて、アルどうする? 住処が分かったわよ」
「スカベラスは完全な夜行性だから、一旦戻って日中に討伐しようか」
「そうね。それがいいと思うわ」
俺たちは洞窟の場所が分かるように、途中の木々に印を付けながら村へ戻る。
明日の日中にスカベラスを討伐すれば、この直請けクエストはクリアとなるだろう。
村へ帰るため、真っ暗な森の中を進む。
しかし、俺はどうしても違和感が拭えなかった。
「レイ、やっぱりこの森おかしい」
「どういうこと?」
「なんというか、この森に入った時から、異常なほど生き物の気配を感じないんだ」
「夜だからじゃなくて?」
「山の上で暮らしていた時と同じ気配なんだよ。山の上も生き物なんて一切いなかった」
「そうね……。これまでの状況とあなたの感覚から推測すると、強力なモンスターが住み着いた可能性があるわ。この辺り一帯の獲物を狩り尽くした結果、スカベラスの食料がなくなり人の遺体を漁り始めたのでしょう」
「となると、そのモンスターの討伐も?」
「今は憶測だもの。まずはスカベラスを討伐しましょう」
「そうだね。目の前の問題を解決しよう」
俺は真っ暗な森を見渡す。
あまりにも静かすぎる森だった。
◇◇◇
アルとレイから二百メデルトほど離れた茂みに、赤い目が二つ光る。
完全に気配を消すことができるその生き物は、人間と馬、そして狼牙を見つめていた。
アルですらその気配に気付かない。
◇◇◇
俺たちは森を抜け、墓場の篝火を消し宿へ戻る。
深夜だったが宿の主人は待っていた。
部屋に入りそのまま就寝。
翌朝、朝食を取り、改めて昨日の洞窟へ向かう。
スカベラスの討伐だ。
森の木につけた目印のおかげで、迷うことなく洞窟に辿り着く。
松明に火をつけ洞窟へ侵入。
入り口から百メデルトほど歩くと、大きな空洞になっていた。
暗闇を松明で照らす。
すると、寝ている九頭のスカベラスと、一頭分の骨が見えた。
「レイ、行くよ?」
「ええ、いいわよ。私はね、確かに暗闇は怖いけど、モンスターは平気なのよ!」
これまでの鬱憤を晴らすかのように、レイが細剣を振る。
こうなったらレイの剣は止められない。
俺が一頭斬る間に、レイは三頭斬る。
恐ろしいスピードだ。
一振りで確実に一頭を仕留めていた。
あれほど正確に急所を捉えられるものなのか?
俺はレイの技術の高さに、ただただ驚くばかりだった。
完全に寝ていたスカベラスに為す術はない。
ただ黙って斬られるだけだった。
俺たちは、あっという間に九頭のスカベラスを討伐。
「ふう、討伐完了ね」
「さすがだね、レイ」
「ふふふ、ありがとう。じゃあ討伐証明を剥ぎ取りましょう」
「討伐証明?」
「解体師がいない時や、素材を持ち帰れない場合、その一部を持ち帰って討伐した証明に使うのよ。スカベラスのような小型の竜骨型は、尻尾の先端を持ち帰るのがセオリーね。一頭で一つしか取れないから」
「なるほど」
九頭分の尻尾の先端を切り落とし革袋に入れた。
食い尽くされた一頭の尻尾の骨も忘れない。
「これで討伐完了だね」
「ええ、怪我がなくて良かったわ。帰って村長に報告しましょう」
そのまま洞窟を出た。
これで無事クエストは終了。
あとは村へ帰るだけだ。
◇◇◇
獲物の気配を感じた赤い目は、完全に気配を絶つ。
物音一つ立てずに、ゆっくりと近付く。
二百メデルト、百メデルト、五十メデルト、四十、三十、二十。
ここまで来たらもう隠れる必要はない。
一気にスピードを上げ、獲物に飛びかかる。
いつものように、絶対に失敗のない狩りを始めた。
◇◇◇
その後ろにもう五頭いた。
レイの言う通り十頭の群れだった。
俺は山で暮らしていたので夜目は利く。
スカベラスまで十メデルトほどの距離に近付き、全力で石を投げる。
「ギィャッ!」
スカベラスの短い叫び声が暗闇に響く。
「スカベラスってあんな声で叫ぶのか」
石を投げた場所へ近付くと、一頭のスカベラスが泡を吹いて倒れていた。
残りのスカベラスは逃げてしまった模様。
レイとエルウッドが俺の元へ来た。
「ねえ、アル。牽制って言ったわよね? どうして一頭死んでるの?」
「え? ど、どうしてと言われても。石を投げただけなんだけど……」
「本当にもう……。まあでも一頭は締める必要があったからちょうどいいわ」
レイは呆れながらも、俺と一緒に死骸を森の中へ運ぶ。
そして腰からナイフを取り出したレイが、スカベラスの首筋にある大きな血管を切った。
血の臭いを出すためだ。
「恐らくこの死骸を漁りに、他のスカベラスが寄ってくるわ」
「来るかな?」
「ずっと原因を考えてたのよ。スカベラスたちは、人間の墓を掘るほど空腹だった。この森で食料が取れなくなったのでしょう。理由は分からないけどね」
「なるほど。じゃあ、この死骸を漁りに来るか」
俺たちはまた茂みに隠れた。
しばらくすると、レイの予想通り死骸を漁りに来たスカベラス。
二頭が死骸を咥えて引きずり始める。
「住処に持って行くようね。アル、追跡しましょう」
「分かった」
俺は横にいるエルウッドの頭を撫でる。
「エルウッド、少し離れていてもスカベラスの臭いで追跡できる?」
「ウォウ」
エルウッドは首を縦に振った。
俺たちは馬にまたがり、松明を手に持ち、スカベラスに気付かれないように離れて追跡を始めた。
恐らく五キデルトほど進んだだろう。
森の中に洞窟を発見した。
「エルウッド、この中にいる?」
「ウォン」
エルウッドの追跡能力はさすがだ。
これで住処を特定できた。
「さて、アルどうする? 住処が分かったわよ」
「スカベラスは完全な夜行性だから、一旦戻って日中に討伐しようか」
「そうね。それがいいと思うわ」
俺たちは洞窟の場所が分かるように、途中の木々に印を付けながら村へ戻る。
明日の日中にスカベラスを討伐すれば、この直請けクエストはクリアとなるだろう。
村へ帰るため、真っ暗な森の中を進む。
しかし、俺はどうしても違和感が拭えなかった。
「レイ、やっぱりこの森おかしい」
「どういうこと?」
「なんというか、この森に入った時から、異常なほど生き物の気配を感じないんだ」
「夜だからじゃなくて?」
「山の上で暮らしていた時と同じ気配なんだよ。山の上も生き物なんて一切いなかった」
「そうね……。これまでの状況とあなたの感覚から推測すると、強力なモンスターが住み着いた可能性があるわ。この辺り一帯の獲物を狩り尽くした結果、スカベラスの食料がなくなり人の遺体を漁り始めたのでしょう」
「となると、そのモンスターの討伐も?」
「今は憶測だもの。まずはスカベラスを討伐しましょう」
「そうだね。目の前の問題を解決しよう」
俺は真っ暗な森を見渡す。
あまりにも静かすぎる森だった。
◇◇◇
アルとレイから二百メデルトほど離れた茂みに、赤い目が二つ光る。
完全に気配を消すことができるその生き物は、人間と馬、そして狼牙を見つめていた。
アルですらその気配に気付かない。
◇◇◇
俺たちは森を抜け、墓場の篝火を消し宿へ戻る。
深夜だったが宿の主人は待っていた。
部屋に入りそのまま就寝。
翌朝、朝食を取り、改めて昨日の洞窟へ向かう。
スカベラスの討伐だ。
森の木につけた目印のおかげで、迷うことなく洞窟に辿り着く。
松明に火をつけ洞窟へ侵入。
入り口から百メデルトほど歩くと、大きな空洞になっていた。
暗闇を松明で照らす。
すると、寝ている九頭のスカベラスと、一頭分の骨が見えた。
「レイ、行くよ?」
「ええ、いいわよ。私はね、確かに暗闇は怖いけど、モンスターは平気なのよ!」
これまでの鬱憤を晴らすかのように、レイが細剣を振る。
こうなったらレイの剣は止められない。
俺が一頭斬る間に、レイは三頭斬る。
恐ろしいスピードだ。
一振りで確実に一頭を仕留めていた。
あれほど正確に急所を捉えられるものなのか?
俺はレイの技術の高さに、ただただ驚くばかりだった。
完全に寝ていたスカベラスに為す術はない。
ただ黙って斬られるだけだった。
俺たちは、あっという間に九頭のスカベラスを討伐。
「ふう、討伐完了ね」
「さすがだね、レイ」
「ふふふ、ありがとう。じゃあ討伐証明を剥ぎ取りましょう」
「討伐証明?」
「解体師がいない時や、素材を持ち帰れない場合、その一部を持ち帰って討伐した証明に使うのよ。スカベラスのような小型の竜骨型は、尻尾の先端を持ち帰るのがセオリーね。一頭で一つしか取れないから」
「なるほど」
九頭分の尻尾の先端を切り落とし革袋に入れた。
食い尽くされた一頭の尻尾の骨も忘れない。
「これで討伐完了だね」
「ええ、怪我がなくて良かったわ。帰って村長に報告しましょう」
そのまま洞窟を出た。
これで無事クエストは終了。
あとは村へ帰るだけだ。
◇◇◇
獲物の気配を感じた赤い目は、完全に気配を絶つ。
物音一つ立てずに、ゆっくりと近付く。
二百メデルト、百メデルト、五十メデルト、四十、三十、二十。
ここまで来たらもう隠れる必要はない。
一気にスピードを上げ、獲物に飛びかかる。
いつものように、絶対に失敗のない狩りを始めた。
◇◇◇
24
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる