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第四章

第62話 忍び寄る暗殺者

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 墓を掘っている腐食獣竜スカベラスは五頭。
 その後ろにもう五頭いた。
 レイの言う通り十頭の群れだった。

 俺は山で暮らしていたので夜目は利く。
 スカベラスまで十メデルトほどの距離に近付き、全力で石を投げる。

「ギィャッ!」

 スカベラスの短い叫び声が暗闇に響く。

「スカベラスってあんな声で叫ぶのか」

 石を投げた場所へ近付くと、一頭のスカベラスが泡を吹いて倒れていた。
 残りのスカベラスは逃げてしまった模様。

 レイとエルウッドが俺の元へ来た。

「ねえ、アル。牽制って言ったわよね? どうして一頭死んでるの?」
「え? ど、どうしてと言われても。石を投げただけなんだけど……」
「本当にもう……。まあでも一頭は締める必要があったからちょうどいいわ」

 レイは呆れながらも、俺と一緒に死骸を森の中へ運ぶ。
 そして腰からナイフを取り出したレイが、スカベラスの首筋にある大きな血管を切った。
 血の臭いを出すためだ。

「恐らくこの死骸を漁りに、他のスカベラスが寄ってくるわ」
「来るかな?」
「ずっと原因を考えてたのよ。スカベラスたちは、人間の墓を掘るほど空腹だった。この森で食料が取れなくなったのでしょう。理由は分からないけどね」
「なるほど。じゃあ、この死骸を漁りに来るか」

 俺たちはまた茂みに隠れた。
 しばらくすると、レイの予想通り死骸を漁りに来たスカベラス。
 二頭が死骸を咥えて引きずり始める。

「住処に持って行くようね。アル、追跡しましょう」
「分かった」

 俺は横にいるエルウッドの頭を撫でる。

「エルウッド、少し離れていてもスカベラスの臭いで追跡できる?」
「ウォウ」

 エルウッドは首を縦に振った。

 俺たちは馬にまたがり、松明を手に持ち、スカベラスに気付かれないように離れて追跡を始めた。

 恐らく五キデルトほど進んだだろう。
 森の中に洞窟を発見した。

「エルウッド、この中にいる?」
「ウォン」

 エルウッドの追跡能力はさすがだ。
 これで住処を特定できた。

「さて、アルどうする? 住処が分かったわよ」
「スカベラスは完全な夜行性だから、一旦戻って日中に討伐しようか」
「そうね。それがいいと思うわ」

 俺たちは洞窟の場所が分かるように、途中の木々に印を付けながら村へ戻る。
 明日の日中にスカベラスを討伐すれば、この直請けクエストはクリアとなるだろう。
 村へ帰るため、真っ暗な森の中を進む。
 しかし、俺はどうしても違和感が拭えなかった。

「レイ、やっぱりこの森おかしい」
「どういうこと?」
「なんというか、この森に入った時から、異常なほど生き物の気配を感じないんだ」
「夜だからじゃなくて?」
「山の上で暮らしていた時と同じ気配なんだよ。山の上も生き物なんて一切いなかった」
「そうね……。これまでの状況とあなたの感覚から推測すると、強力なモンスターが住み着いた可能性があるわ。この辺り一帯の獲物を狩り尽くした結果、スカベラスの食料がなくなり人の遺体を漁り始めたのでしょう」
「となると、そのモンスターの討伐も?」
「今は憶測だもの。まずはスカベラスを討伐しましょう」
「そうだね。目の前の問題を解決しよう」

 俺は真っ暗な森を見渡す。
 あまりにも静かすぎる森だった。

 ◇◇◇

 アルとレイから二百メデルトほど離れた茂みに、赤い目が二つ光る。
 完全に気配を消すことができるその生き物は、人間と馬、そして狼牙を見つめていた。

 アルですらその気配に気付かない。

 ◇◇◇

 俺たちは森を抜け、墓場の篝火を消し宿へ戻る。
 深夜だったが宿の主人は待っていた。
 部屋に入りそのまま就寝。

 翌朝、朝食を取り、改めて昨日の洞窟へ向かう。
 スカベラスの討伐だ。

 森の木につけた目印のおかげで、迷うことなく洞窟に辿り着く。
 松明に火をつけ洞窟へ侵入。
 入り口から百メデルトほど歩くと、大きな空洞になっていた。
 暗闇を松明で照らす。
 すると、寝ている九頭のスカベラスと、一頭分の骨が見えた。 

「レイ、行くよ?」
「ええ、いいわよ。私はね、確かに暗闇は怖いけど、モンスターは平気なのよ!」

 これまでの鬱憤を晴らすかのように、レイが細剣レイピアを振る。
 こうなったらレイの剣は止められない。
 俺が一頭斬る間に、レイは三頭斬る。
 恐ろしいスピードだ。
 一振りで確実に一頭を仕留めていた。

 あれほど正確に急所を捉えられるものなのか?
 俺はレイの技術の高さに、ただただ驚くばかりだった。

 完全に寝ていたスカベラスに為す術はない。
 ただ黙って斬られるだけだった。
 俺たちは、あっという間に九頭のスカベラスを討伐。

「ふう、討伐完了ね」
「さすがだね、レイ」
「ふふふ、ありがとう。じゃあ討伐証明を剥ぎ取りましょう」
「討伐証明?」
「解体師がいない時や、素材を持ち帰れない場合、その一部を持ち帰って討伐した証明に使うのよ。スカベラスのような小型の竜骨型は、尻尾の先端を持ち帰るのがセオリーね。一頭で一つしか取れないから」
「なるほど」

 九頭分の尻尾の先端を切り落とし革袋に入れた。
 食い尽くされた一頭の尻尾の骨も忘れない。

「これで討伐完了だね」
「ええ、怪我がなくて良かったわ。帰って村長に報告しましょう」

 そのまま洞窟を出た。
 これで無事クエストは終了。
 あとは村へ帰るだけだ。

 ◇◇◇

 獲物の気配を感じた赤い目は、完全に気配を絶つ。
 物音一つ立てずに、ゆっくりと近付く。

 二百メデルト、百メデルト、五十メデルト、四十、三十、二十。
 ここまで来たらもう隠れる必要はない。
 一気にスピードを上げ、獲物に飛びかかる。

 いつものように、絶対に失敗のない狩りを始めた。

 ◇◇◇
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