鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第四章

第61話 墓荒らし

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 現場へ向かう村道を進みながら、レイが冒険者ギルドについて教えてくれた。

 冒険者カードの登録者は全世界で約三十万人。
 そしてギルドの各機関職員や関連組織、下部組織を含めると四十万人を越える超巨大組織とのこと。
 俺は多いと思ったが、レイに言わせるとそれでも少ないそうだ。

「冒険者ギルドがない地域や依頼料金が払えない人々は、モンスターが出ても何もできないか、もしくは自分たちで何とかするしかないわ。だから貧しい人々のためにも、騎士団では国費でモンスターを退治するようにしたのよ」
「レイが始めたの?」
「……そうね。ある人の理念を受け継いでね。でも、当時は騎士団の中で反対も多くて大変だった。だけど、リマやジル・ダズ、ザインたちが協力してくれて、今では騎士団の理念にもなっているわ」

 レイがどこか懐かしそうな表情を浮かべている。

「レイは本当に凄いな。俺なんかじゃ到底レイには追いつけないよ」
「何言ってるのよ。すでに師匠の私よりも強いくせに。ふふふ」

 レイは笑っているが、俺はレイを心の底から尊敬していた。

 しばらく村道を進むと、俺たちは現場の墓地に到着。
 墓地は森を切り開いて作られている。

 馬を降り、さっそく調査開始。
 クエストの基本は調査、発見、追跡、討伐、報告だ。
 全ては調査から始まる。

 まだ太陽は頭上に来ていない。
 墓荒らしは夜に行われる。
 日没まで時間があるので、じっくりと調査可能だ。
 俺は革の手袋をはめ、荒らされた墓の調査を開始。

 掘り返された土を手に取ると、土が粘り気とともに光沢を帯びていることに気づく。
 粘膜のような粘り気のある液体が混ざっているようだ。

 レイとエルウッドは墓地の周りの森林で調査をしている。
 エルウッドはレイから離れない。
 恐らく昨日のレイの姿を見ているからだろう。
 本当に頼りになる心優しい相棒だ。

 ある程度調査を済ませ、レイと合流した。

「アル、どうだった?」
「荒らされた墓の土に、粘膜のような液体が混ざっていたよ。生物のものだと思う。あと、二本足で歩いたような大きな足跡と、尻尾を引きずった跡、そして遺体を引きずったような跡もあった」
「私たちも森の中で、アルと同じ跡を見つけたわ」
「目撃情報に光る物体もあったよね」
「そうね。目撃情報と痕跡からモンスターの仕業で間違いないわね」

 レイが試すように俺の顔をうかがっている。

「アルは特定できる?」
「そうだな……。全てが当てはまるのは腐食獣竜スカベラスだと思うんだけど、どうかな?」
「素晴らしいわ。私も同じ考えよ。スカベラスだと思う」

 俺はモンスター事典を思い出す。

 ◇◇◇

 腐食獣竜スカベラス

 階級 Cランク
 分類 竜骨型脚類

 体長約三メデルト。
 小型の脚類モンスター。

 頭部の三分の一を占めるほどの巨大な眼球が特徴。
 長い尻尾でバランスを取りながら、二足歩行を行う。
 手はほぼ使用しないため、短く退化している。

 竜骨型の中では顎の力が強くないため腐肉を好む。
 他の肉食獣やモンスターから獲物を横取りすることがあり、森の掃除屋という異名を持つ。

 完全な夜行性で、大きな眼球は僅かな光も認識する。
 そのため日中は暗い洞窟にいて、絶対に外へ出ない。

 群れで行動するため、Cランクといえど討伐難易度は高い。

 ◇◇◇

「スカベラスはCランクだけど、群れで行動するから厄介よ。痕跡から恐らく十頭ほどの群れね」

 レイは群れの規模まで分かっている模様。
 本当に頼りになる師匠だ。

「アル、どうする?」
「調査結果を報告して、村長に相談しよう。モンスターなら討伐しなきゃいけないでしょ?」
「そうね」
「でもそうなると報酬は上がるよね」
「ええ、今回の村の予算だと厳しいわね」
「どうしよう。でも討伐しないと村が危険でしょ?」
「そうね。うん……大丈夫。私が何とかするわ」

 ギルドに顔が利くレイだ。
 緊急事態だし、ここはレイの力に頼ろうと思う。

 俺たちは宿へ戻り、待機していた村長へ今回の結果を報告。

「村長さん、本件は間違いなくモンスターの仕業です」
「モンスター! そうであれば討伐していただきたいのですが……その……予算が……」

 村長が申し訳無さそうな表情を浮かべていた。
 俺はレイの顔に目を向ける。
 すると、レイが分かっているという表情で頷いた。

「今回の予算は金貨三枚ですよね?」
「はい、恥ずかしながら……」
「分かりました。今回は調査から討伐まで全て含めて、金貨三枚でお受けします」
「ほ、本当ですか!」
「はい。このままだと村が危険にさらされます」
「あ、ありがとうございます!」
「ではさっそく今夜、討伐に入ります」

 レイに考えがあるのだろう。
 俺は黙ってレイの話を聞いていた。

「村長さん、篝火台かがりびだいと燃石はありますか?」
「はい、ございます」
「提供していただいてもよろしいですか?」
「もちろんです。量はいかがいたしますか?」
「篝火台は二台、燃石は二十キルクほどよろしいでしょうか?」
「かりこまりました。ご用意いたします」
「クエスト中は拠点として、この宿に滞在することになります。大丈夫ですか?」
「はい、滞在中の宿泊料と食事代は、全てこちらで支払います」
「ありがとうございます」

 さすがレイだ。
 全てのことがすぐに片づいていく。
 俺も今後のために、しっかりと話を聞いていた。

 改めて直請けクエストの契約を交わすために書類を作成。
 そして、篝火台と燃石の提供を受けた。
 手続きが終わったので、俺たちは一旦宿の部屋に入る。

「ねえレイ。直請けクエストとして、今回の報酬は大丈夫かな?」
「スカベラスの群れとなると少ないわね。本来ならギルドは受けないわ」
「え? じゃあ制裁とかある?」
「Aランクの私が報告書を添付すれば大丈夫よ。緊急事態ですもの」
「そうなんだ。でも……レイに何か不利益はない?」
「大丈夫よ。ありがとう。こういう時に私の実績が役に立つのよ。私の報告書であれば、ギルドも納得せざるを得ないわ。ふふふ」

 普段のレイは自身の実績をひけらかすようなことはしない。
 むしろ隠している。
 だが、他人を助けるためなら、地位や実績を使うことに抵抗はない。
 俺は駆け出しの冒険者の身だが、レイのこういった姿勢を見習いと思う。

 そのまま仮眠を取り、日没後に改めて墓場へ向かった。
 墓場の入り口に篝火台を立て、燃石を入れ火を起こす。

 俺たちは茂みに身を隠した。
 この日は新月で月明かりがない。
 篝火台がなければ、辺りは完全に闇になっていただろう。
 新月ということで篝火台を用意してもらったレイはさすがだ。

 風で揺れる森の木々。
 こすれる枝と葉が、非常に不気味な音をかき鳴らす。
 レイは俺の腕を強く掴んでいる。
 強がっているが、本当は怖いのだろう。
 無理させてしまっている。

 長丁場になるので、俺たちは交互に仮眠を取ることにした。
 何回目かの交代をすると、生き物の気配を察知。
 それと同時に近づいてくる複数の足音。

「レイ起きて。来たよ」
「ええ、気づいたわ」
「あれは……やっぱり腐食獣竜スカベラスだ」
「予想通りね」

 俺は初めて見るが、モンスター事典のイラストと全く同じ姿だった。

 スカベラスたちが墓地に入る。
 実は村人から、比較的新しく埋葬した墓を教えてもらっていた。
 その新しい墓に数頭のスカベラスが集まっている。
 スカベラスの巨大な眼球が、ぼんやりと白く光っていた。
 確かに何も知らなければ、光る物体が飛んでるように見えるだろう。
 スカベラスは顎や鼻先を使い、器用に墓を掘り始めた。

「腐肉食のスカベラスとはいえ、人の墓を漁るなんて聞いたことがないわね」

 レイが小さな声で呟く。

「このままだと遺体が掘られてしまうな」
「そうね。それは阻止したいわ。牽制して住処まで追跡しましょう」
「分かった。レイとエルウッドはここにいて。俺が牽制してくる」
「気をつけてね」

 俺は身をかがめながら、静かに墓の方へ向かった。
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