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第四章

第60話 直請けクエスト

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 翌朝、朝食のために一階へ下りると、昨日の村人たちが集まっていた。

「村長、墓場荒らしの件だけど、急がないと危険だ!」
「今はまだ人的被害がないからいいが、もしかしたら村人に被害が出るかもしれないんだぜ?」
「遺体が消えた家族は憔悴してたぞ!」

 村長と呼ばれる白い髭を生やした老人が、村人たちに詰め寄られていた。
 その村長が村人たちを見渡す。

「分かっておる。冒険者ギルドへ依頼するしかないじゃろう。村の予算から依頼金を出すが、それほど多くは出せないんじゃ。受けてくれるといいがの」
「それでも何もしないよりはマシだ!」
「俺の馬を出す! これからメドのギルドで依頼してくるよ!」

 ギルドへ支払う依頼金は内容によって決まる。
 通常の依頼であれば、冒険者ギルドの格付機関シグ・エイトが依頼内容を精査し、依頼料金、クエストランク、推奨編成、冒険者への報酬等を決める。
 しかし、緊急を要する依頼に関しては、ギルド支部の責任者が決めるのが通例だ。

「ねえ、レイ。これって、俺が今依頼を受けちゃダメなの?」
「そうね。直請けはダメではないけど、後々の手続きが少し面倒なのよ」

 レイが続けて説明してくれた。
 緊急時など、依頼者から直接依頼されるクエストを直請じかうけクエストと呼ぶそうだ。

「でも、彼らは急いでるし、困ってるし……」
「ふふふ、アルは優しいのね。もちろん私も賛成よ。困ってる人を救うのが騎士団の理念だったから」
「じゃあいいの?」
「ええ、もちろんよ。直請けクエストの説明をするわね」

 そう言ってレイは左手を腰に当て、右手の人差指を上に指した。
 まるで学校の先生のようだ。

「ギルドを通さない直請けクエストは、ギルドへ報告義務があるわ。それと報酬の半分をギルドに納める必要があるのよ」
「半分も?」
「ええ、そうよ。元々、冒険者に支払われるクエスト報酬って、依頼料金の六割くらいだから妥当な金額よ」
「そうなんだね」
「ちなみに、報告をしないと制裁があるわ。直請けクエストはギルドの調査機関シグ・ファイブが必ず調べる。不正はできないわね」
「分かった」
「不正が判明すると、最悪冒険者カードを剥奪される。そうなると冒険者の活動は終わりね。それでもたまに闇クエストをする冒険者はいるのよ。あとでほぼバレるのにね。シグ・ファイブは優秀なの」
「へえ、怖いね。気を付けるよ」
「だから先日の騎士団の霧大蝮ネーベルバイパー討伐は、直請けにならないようトレバーに配慮してもらったのよ」
「あ! 確かに言ってたね。こういうことだったんだ。なるほどね」

 俺は一つ気になることをレイに質問してみることにした。

「ところで、あの……レイ?」
「なあに?」
「怖くない? 大丈夫?」
「ふふふ、昨日はごめんなさい。正直確かに怖かったわ。でも、私にはアルがいるから大丈夫よ」
「もちろん! レイのことは絶対に守るよ!」
「ウォウウォウ!」
「ふふふ、二人とも頼もしいわね」

 俺たちは、村の依頼を直請けすることにした。
 村長の老人に話しかける。

「あの、突然すみません。冒険者のアル・パートと申します。話を聞いてしまったのですが、もしよかったら協力しましょうか?」
「え! ぼ、冒険者様ですと? そ、それは本当ですか?」
「こちらが冒険者カードです」

 村長は俺の冒険者カードを見る。

「え! Bランクの冒険者カードなんて初めて見ましたぞ!」

 村人も驚いている。

「Bランク! す、凄いじゃないか」
「そんな凄い人がやってくれるのか?」

 さらに俺はレイを紹介した。

「こちらはAランク冒険者のレイ・ステラーです」
「A、Aランクですと!?」

 村長は腰が抜けそうなくらい驚いている。
 村人たちも、驚きのあまり言葉を失っているようだ。
 村長は俺とレイの冒険者カードを確認した。

「アル様とレイ様。まさか、この村にAランクとBランクの冒険者様がいらっしゃるとは」

 冒険者ギルド発祥の地であるフォルド帝国は、冒険者の地位が非常に高いそうだ。
 ましてやBランク以上となると、そもそもの人数が少なく、ギルド支部がある大きな街にしかいないとのことだった。

「アル様、恥ずかしいのですが、予算は金貨三枚が精一杯でして、これで大丈夫でしょうか?」

 村長は予算を教えてくれた。
 俺はレイに耳打ちする。

「レイ、どうなんだろう? 俺はもちろん大丈夫だけど」
「そうね、直請けは相場よりも低すぎると不正を疑われたり、警告や懲罰の対象になるわ。そこが難しいのよ」
「今回はどう思う?」
「ひとまず、調査クエストとして受けましょう」
「調査クエスト?」
「ええ、基本クエストの一つで、Eランクから受注できるクエストよ。調査だから、もしモンスターが出現しても討伐はせず、あくまでも調査結果を報告するだけ。だから報酬も低く済むわ」

 調査クエストの報酬は、内容にもよるが冒険者が受け取る報酬は銀貨五枚が相場とのこと。
 半額をギルドに納める必要があるので金貨一枚が妥当な線だ。

「村長さん、まずは金貨一枚で調査クエストをお受けします」
「あ、ありがとうございます!」
「その後の対応は、調査の結果次第でご相談させてください」
「もちろんです。ありがとうございます」

 レイがクエスト直請けのため、書類を用意してくれた。
 必要事項を記入し、俺とレイ、そして依頼主の村長がサインをする。

「アル、これが直請けの手続方法よ。あなたのことだから、これからもきっと直請けすることがあるでしょう。覚えておいてね」
「分かった。ありがとうレイ」

 レイが依頼書を封筒に入れ、バッグにしまう。

「村長さん。現状で分かっていることを全て教えてください。我々は日が出てる間に一度現場へ行きます」
「はい、お願いします」
「私たちの調査結果が出るまでは、絶対に現場付近へ近付かないように手配してください。命の危険があります」
「わ、分かりました」

 準備を行い、俺たちはさっそく現場へ向かった。
 俺とレイはそれぞれ馬にまたがり、エルウッドは徒歩だ。

「アル、さっきも伝えたけど、帝国は冒険者の地位がとても高いのよ」
「そうみたいだね」
「イーセ王国でいう騎士団みたいな存在よ。だからこの国だと、冒険者は犯罪組織から蛇蝎の如く嫌われているわ」
「レイって、騎士団団長で冒険者もAランクだよね」
「そうなのよ。だから私は最も嫌われているわね。だって、数々の犯罪組織を潰したもの。噂では相当な懸賞金もかかってるみたいよ、私」
「え! そうなの! だ、大丈夫?」
「まあ私に直接手を出すと、王国は騎士団、帝国では冒険者ギルドを敵に回すから、迂闊に手を出せないけどね」
「でも危険なことには変わりないよ」
「その時は、アルが私を守ってくれるんでしょ?」
「もちろんだよ!」
「頼もしいわ、ふふふ。ありがとう」

 レイが俺の腕に、そっと手を乗せてきた。
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