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第三章

第46話 出発

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 一旦部屋に戻り、今後の話をする。

 レイさんの予定では、冒険者の活動は国外を拠点にするそうだ。
 冒険者ギルドは各国に点在するが、冒険者カードはどの国でも全て共通していて、国によって取り直す必要はない。

 さらにCランク以上であれば、国家を跨いで活動できる。
 国境も冒険者カードを見せれば通ることができるのだった。
 そのため冒険者ギルドは、一部から世界最強組織と呼ばれている。

 国外を拠点にすることは俺も賛成だ。
 この国ではレイさんの名声が大きすぎるため、冒険者としての活動は難しいだろう。
 そうなると、問題は俺がEランクの冒険者ということだった。
 Eランクでは国境を超えられない。

 正規の本人確認書類を用意して国境警備局に申請するか、Cランク以上の冒険者カードを取得するか……。

「アル、あなたはEランクでしょ? これから冒険者で世界を渡るなら、Cランク以上を取った方が早いわ」
「そうですよね」
「まずはランクを上げて、国境を超えましょう」
「分かりました。しかし、そうなると、またあの試験を受けることになるんですよね?」
「そうよ。あなた共通試験は何点だったの?」
「一応満点です」
「まあ! 凄いわね!」
「はい、レイさん以来と言われました」
「ふふふ。一緒に討伐試験も受けてたら、Cランクだって取れたのにね」
「あの時は騎士団の試験の直前だったので……」
「そうよね。討伐試験は時間がかかるものね」
「あと、討伐試験の金額もネックでした」

 冒険者ギルドの共通試験の受験料は金貨一枚。
 しかし討伐試験が異常に高い。
 Aランク金貨二百枚、Bランク金貨百枚、Cランク金貨五十枚、Dランク金貨二十枚となっている。

「冒険者は資金力も必要だから、わざと高くなってるのよ。その分価値が高くて、どの国でも通用するのだけどね」

 そういえば、レイさんは十四歳でAランクだったというが、その年齢で金貨二百枚を払ったということか。
 恐ろしい。

「アル、あなた今いくら持ってるの?」
「え? えーと、希少鉱石を売って作った貯金が……金貨二百五十枚です」
「あなた凄いじゃない! 金貨二百五十枚って相当な金額よ!」
「ありがとうございます。あ、あの、レイさんは?」

 恐る恐る聞いてみた。

「私は、これまで貯めた金貨や騎士団の退職金で、古金貨三十枚と金貨五百枚持ってるわ」
「こ、古金貨!」

 古金貨とは国家間で流通する金貨のことで、一般に流通することは絶対にない金貨だ。
 その価値は、古金貨一枚で金貨百枚分になる。

 なぜこの人は、そんな国家で使用する古金貨を個人レベルで持っているのだろうか……。
 レイさんの資産を金貨換算すると三千五百枚分も持っていることになる。
 それはもう地方都市の年間予算レベルだ。

「二人の金貨を合わせれば、当面生活に困らないわね」

 困らないどころか、一生豪遊できる金額である。
 そんなことを考えた俺の心を読んだように、レイさんが笑う。

「ふふふ、冒険者は稼ぎも大きいけど、かなりお金も使うわよ?」

 俺とレイさんの剣はオーダーメイドだ。
 価格は素材代で金貨百枚以上、加工代で金貨百枚、剣一本で金貨二百枚もする。

 素材は俺が採った鉱石を使ったので無料だったが、剣二本の加工代だけで金貨二百枚かかっている。
 それを支払ったのはレイさんだった。
 もし今後防具なども揃えるとなると、確かに金がかかるかもしれない。

「とりあえず、お金の管理は私がするわ。まずは試験を受けに行きましょう」
「は、はい。お願いします」
「あなたの実力なら、Aランクの試験を受けてもいいかもしれないわね」
「ええ! そ、それは無理ですよ。俺はまだギルドのクエストすらやったことないんですから!」

 クエストもやったことがない素人が、いきなりAランクを受験するのは無理がある。
 みすみす金貨二百枚をドブに捨てるようなものだ。

 ひとまず、試験を受けに冒険者ギルドへ行くことになった。
 冒険者ギルドはラバウトにもあるが、試験を行っていない。
 今後の行動を考えた結果、キーズ地方の最大都市アセンで受験することにした。
 アセンはラバウトから北へ五百キデルト離れている。
 俺たちは、まずアセンへ向かう。

「アル、今日から私たちはパーティーを組むパートナーよ。レイさんではなく、レイと呼びなさい。丁寧語もだめよ」
「い、いや、それは……」
「ふふふ、だめよ」
「でも、年上じゃないですか」
「だめ」
「師匠じゃないですか」
「だめ」
「わ、分かり……った。レ、レイ……」
「それでいいわよ。すぐに慣れるわ。ふふふ」

 俺たちは、このまますぐに出発することにした。
 しばらくこの家を空けることになるが、またいつか必ず戻って来るつもりだ。
 ここは両親との思い出がある唯一の場所だから。

 見晴らしの良い場所に建てた両親の墓に挨拶。
 レイも挨拶してくれた。
 そして、俺は昨年使った旅の道具を取り出す。
 足りないものはラバウトで買う予定だ。

 今週採れた鉱石を持ち、下山を開始。
 下山は特にトラブルもなく、正午前にはラバウトへ到着。
 昨年一緒に山を下りた時より、レイさんは、いや、レイには余裕があった。
 体力も筋力もさらに向上しているようだ。

「レイは相当体力がついたようだね」
「私も一年間、トレーニングを怠らなかったわよ」

 これまでも凄腕だったのに、さらに鍛えていたレイ。
 俺もレイに離されないようにしなければ。

「アル、しばらく帰ってこないから、皆に挨拶しましょう」
「そうだね。行こう」

 レイとラバウトの街を歩きながら、慣れ親しんだラバウトの知人たちのことを思い出す。
 ラバウトの幼馴染セレナは昨年結婚。
 街の若い商人との結婚だった。
 結婚を聞いた時、俺は素直に喜んだ。

「アルは私の手の届かない人になるからね」

 彼女はそんなことを言っていた。

「でもアル。あなたと私は幼馴染で、この関係は永遠よ。私のピンチにはいつでも駆け付けてよ!」
「もちろん! 当たり前じゃないか、セレナ!」

 結婚式では心から祝福した。

 商人のトニー・ケイソンは相変わらず商売上手で、鍛冶屋のクリス・ワイアは今まで以上に名工として名を上げている。

 ラバウトに到着した俺たちは、市場でトニーに鉱石を売り、クリスに俺とレイの剣を見てもらい、そしてセレナとファイさんに挨拶をした。

 永遠の別れではないが、しばらくは帰らないと思う。
 でも皆に何かあったら、俺はすぐ戻ってくるつもりだ。
 そんな俺をレイが見つめていた。

「アル、寂しい?」
「そんなことないよ。いや、もちろん寂しいけど、これからの冒険の方が楽しみだ」
「良かったわ」
「行こう! レイ! エルウッド!」

 俺たちは馬にまたがり、ラバウトを出発した。
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