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第三章
第45話 新たな決意
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「エルウッド、今日は良い石が採れるぞ」
「ウォン!」
イーセ王国の最南端カトル地方に位置するクラップ山脈。
標高八千メデルトの山々が連なる、世界最大の山脈と呼ばれている。
このクラップ山脈の主峰フラル山は頭一つ飛び抜けており、標高九千メデルトを超える世界で最も高い山だ。
フラル山は良質な鉱石が採れることで知られており、王国内でも有数な鉱石の産地だった。
さらに、標高五千メデルトを超えると高価な希少鉱石が採掘される。
俺は標高五千メデルトどころか、標高九千メデルトという天空の世界で希少鉱石を採掘していた。
銀狼牙のエルウッドも一緒だ。
エルウッドは世界でも数少ない固有名保有特異種の一頭で、二千年前から生きているらしい。
名はエルウッド・デル・ザナドゥ。
幻想の雷という意味だそうだ。
エルウッドは王都での事件で、銀狼牙の特徴である角を抜かれてしまった。
それでも俺にとってエルウッドは唯一の家族。
どんな姿になっても関係ない。
「ウォウウォウ!」
「エルウッドは俺の考えもお見通しか。アハハ」
「ウォン!」
エルウッドは人語を完璧に理解する上に、俺の心の中まで分かっているような印象だ。
それほど俺たちの絆は深いものになった。
俺は一年前、騎士団入団を目指し王都へ行った。
そこで、エルウッドと不老不死の石を巡る大事件に巻き込まれた。
結局、国王は死亡し陰謀は失敗。
騎士団の試験は中止となった。
新国王となったヴィクトリア女王陛下や騎士団団長のレイさんからは、直々に騎士団への入団を打診された。
事件に巻き込まれた俺に対し、贖罪の意味があったのかもしれない。
もしかしたら俺の能力を評価してくれたのかもしれない。
真意は分からない。
しかし俺はそれを断り、ラバウトへ戻ってきた。
俺は自分の信念に対して正直に、自由に生きて行きたいと思ったからだ。
そして、大切な存在を守れるようになりたかった。
あの時も、俺がもっと強ければエルウッドを守れたし、もしかしたらザインさんが死ぬことはなかったかもしれない。
フラル山に戻ってきてから一年の間、俺は鉱石を売って金を貯め、徹底的に身体を鍛えた。
やりすぎて何回か命の危機を感じることもあったほどだ。
その甲斐あって、少しだけ自分に自信がついた。
これ以上やれることはない。
もう大丈夫だろう。
山を降りてもいいかもしれない。
俺は昨年、王都で冒険者ギルドを受験していた。
最下位のEランクとはいえ、冒険者として登録済みだ。
だから俺は、これから冒険者として活動してみようと考えていた。
――
今日の採掘を終え帰宅。
まだ日没前で明るい。
暖炉に火をつけ、風呂を沸かし、夕飯の支度をしているとエルウッドが俺の元へ寄ってきた。
「ウォウウォウ!」
「どうした? エルウッド」
俺を呼びかけるエルウッド。
その瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
ここは標高五千メデルトの山の上だ。
「遭難者か?」
「ウォウウォウ」
エルウッドの反応がいつもと違う。
俺は警戒しながら、剣を持ちドアへ近づく。
長年住んでいるが、来訪者なんて初めてのことだ。
そもそも、この家の場所を知ってる人間はいない。
俺は緊張してドアの前に立つ。
何かあったらすぐに剣を抜けるように構え、ドアをそっと開ける。
「アル!」
聞いたことのある、懐かしくも美しい声が響いた。
ドアの前に立っていたのは、目もくらむような絶世の美女。
「ふふふ、アル。久しぶりね」
あまりにも驚き、俺の身体は固まっていた。
「アル、寒いわ。中に入れて?」
ここは標高五千メデルト。
これは物怪の類いか?
「アル?」
「え? レ、レイさん?」
「まずは中に入っていい?」
「は、はい! 失礼しました!」
「ふふふ、ありがとう」
レイさんを部屋に案内し、暖炉に燃石を追加した。
そして珈琲を淹れる。
レイさんが厚手のコートを脱ぐと、エルウッドが近づいた。
「エルウッド、久しぶりね!」
「ウォン!」
レイさんがエルウッドに抱きつく。
エルウッドが嬉しそうに笑いながら、尻尾を振っている。
どうやら本物のレイさんのようだ。
「熱い珈琲です」
「ありがとう」
レイさんの身体が温まったようだ。
「レイさん、お久しぶりです」
「一年振りね。アル、元気だった?」
「はい。おかげさまで元気にしてます。それにしても、よくここまで一人で来れましたね」
「昨年来た道を覚えていたのよ。前より早く登ってきたわ」
あの険しい崖を登ってきたのか。
しかも季節は冬だ。
さすがは騎士団の団長。
「あの、どうしてこんなところに?」
レイさんが珈琲カップ手に持つ。
「実は私、騎士団を退団したの」
「へえ、そうなんですね。退団ですか、いいですね。ん? ……退団? え? た、退団! え? ど、どうして!」
「あの事件の後、私も色々と考えてね。アルみたいに自由に生きようと思ったの。ただ、陛下亡き後の騎士団再編成だけは、責任を持って続けていたのよ」
その騎士団再編成に時間がかかってしまったとのこと。
「アルが騎士団に入ってくれたら続けてたけどね」
「そ、それは……すみません」
「ふふふ、意地悪だったわね」
レイさんの美しくも意地の悪い顔が懐かしい。
そして優しく微笑みかけてくれた。
「騎士団の編成も終わって、ヴィクトリア女王陛下が退団を認めてくださったの。女王陛下がアルによろしくと仰ってたわよ」
ヴィクトリア女王陛下は、俺の鉱夫の話に夢中で耳を傾け、近衛隊に誘ってくださったり、エルウッドの友達にもなってくださった。
俺のことを覚えていてくれたことが嬉しい。
俺は今でも、女王陛下の優しい笑顔が記憶に残っている。
「アルはあれから、ずっとここで採掘を続けてたの?」
「はい。ラバウトに戻ってきてから、ずっと採掘してました」
「剣は続けてないの?」
「一応毎日振っています」
「ふふふ、偉いわね」
珈琲を飲むと、少しの静寂が生まれた。
暖炉から燃石が弾ける音が聞こえる。
「アル、私はね。もう一度冒険者をやろうと考えているの」
「レイさんが冒険者ですか?」
「ええ、そうよ。アルと」
「クシャン!」
「するつもりだけど、まだもう少し世界を見たいの」
「え?」
エルウッドがくしゃみをした音で、レイさんの言葉が聞こえなかった。
「ふふふ、何でもないわ」
俺は王都で聞いた話を思い出した。
「そういえば、レイさんはAランクの冒険者だったと聞きました」
「あら、誰に聞いたの?」
「ウィル・ラトズという男です」
「ウィル! 懐かしいわね。彼とどこで会ったの?」
昨年の旅でウィル・ラトズと会った経緯を説明。
アセンで初めて会った時は、いきなりトミー・ゴードンを始末し、王都で再会した時は、Cランクのハンターを装っていた。
気の抜けた話し方をする冒険者だ。
「もしかしてギルドハンターやってるのかしら……」
「ギルドハンターって?」
「規律を乱したり、犯罪を犯したギルド員を始末する組織よ。大体Aランクから選ばれるわ」
「そんなようなことを言ってました」
「誰かがやらなきゃいけない仕事ではあるのよ。それにウィルはああ見えて、責任感と正義感が強いのよ……」
確かにそう言われると、そんな印象があるかもしれない。
俺に冒険者試験を受けるように勧めてくれたのも、ウィル・ラトズだった。
「それにしても、レイさんが冒険者ですか」
「ええ、そうよ。ブランクはあるけどね。実は毎年、冒険者カードは更新していたのよ。失効してないわ」
レイさんなら冒険者としても超一流だろう。
しかし、元騎士団団長の冒険者なんて前例がない。
大丈夫なのだろうか?
「レイさんが冒険者って問題ないんですか?」
「別に大丈夫よ。アルは冒険者に興味はないの?」
「あ、えーとですね、俺も一応冒険者カードを持っていまして……」
「あら! そうなの?」
レイさんが驚くなんて珍しい。
「はい、昨年の騎士団試験の直前に、ウィル・ラトズに勧められてEランクを取りました」
「そうなのね! 凄いじゃない!」
「あ、ありがとうございます」
レイさんに褒められて顔が赤くなったような気がした俺は、珈琲を口にしてごまかす。
そんな俺に気づいたのか、微笑みながら俺の顔を見つめているレイさん。
「ねえ、アル」
「な、なんでしょう?」
「私と冒険者をやってみない?」
「え? レイさんとですか?」
「ええそうよ。あなたの力はもっと評価されるべきだし、私もあなたの活躍を見たいのよ」
俺は冒険者として活動しようと考えていた。
そこへレイさんから冒険者への誘いだ。
どうするべきか悩む。
「それに世界は広いわ。あなたとなら、そんな世界を回るのもいいかなと思って」
「あの……、実は俺も冒険者をやるために、この一年間身体を鍛えてたんです」
「そうなのね」
「はい。でもそれは、一人で冒険者をやってみようと思っていて……」
「アルは私とパーティーを組むのは嫌?」
「そ、そんなことはないです!」
「じゃあ、一緒に……どうかしら?」
「あの、考えさせてもらってもいいですか?」
「ええ、分かったわ」
夕食後、レイさんには風呂に入ってもらった。
その後俺も風呂に入る。
そして、就寝の時間。
我が家にはベットが一つしかない。
「ふふふ、あなたと一緒のベッドも久しぶりね」
まさかレイさんとまた一緒のベッドで寝る日が来るとは。
緊張して眠れない。
眠れな……。
眠れ……。
――
翌朝、俺は早くに目を覚まし、家の外へ出た。
標高五千メデルトから日の出を眺める。
以前、レイさんと一緒に見た日の出と全く同じ景色だ。
昨日のレイさんの話だが、レイさんと一緒だと俺が守られるような気がした。
誰かに守られるのは嫌だし、俺が大切な人を守りたい。
でも、それは傲慢な考えなのかもしれない。
俺は圧倒的に経験不足だ。
それを素直に受け入れて、少しずつ成長できればいい。
それに、レイさんは俺の師匠だ。
背後から聞こえる足音。
「相変わらず、凄まじい景色ね」
「レイさん、おはようございます」
「おはよう、アル」
「あの……レイさん」
「なあに?」
「レイさんは今でも俺の剣の師匠です」
「ふふふ、ありがとう」
「剣だけではなく、冒険者としても俺に教えてくれますか?」
「ええ! ええ! もちろん! もちろんよ! あなたは私の唯一の弟子なんだから!」
レイさんが満面の笑みで答えてくれた。
本当に美しくて、可愛らしい笑顔だ。
「レイさん、よろしくお願いします!」
「ふふふ、こちらこそよろしくね」
冒険者としての旅立ちを祝福するかのように、黄金に輝く朝日が俺たちを照らしてくれた。
「ウォン!」
イーセ王国の最南端カトル地方に位置するクラップ山脈。
標高八千メデルトの山々が連なる、世界最大の山脈と呼ばれている。
このクラップ山脈の主峰フラル山は頭一つ飛び抜けており、標高九千メデルトを超える世界で最も高い山だ。
フラル山は良質な鉱石が採れることで知られており、王国内でも有数な鉱石の産地だった。
さらに、標高五千メデルトを超えると高価な希少鉱石が採掘される。
俺は標高五千メデルトどころか、標高九千メデルトという天空の世界で希少鉱石を採掘していた。
銀狼牙のエルウッドも一緒だ。
エルウッドは世界でも数少ない固有名保有特異種の一頭で、二千年前から生きているらしい。
名はエルウッド・デル・ザナドゥ。
幻想の雷という意味だそうだ。
エルウッドは王都での事件で、銀狼牙の特徴である角を抜かれてしまった。
それでも俺にとってエルウッドは唯一の家族。
どんな姿になっても関係ない。
「ウォウウォウ!」
「エルウッドは俺の考えもお見通しか。アハハ」
「ウォン!」
エルウッドは人語を完璧に理解する上に、俺の心の中まで分かっているような印象だ。
それほど俺たちの絆は深いものになった。
俺は一年前、騎士団入団を目指し王都へ行った。
そこで、エルウッドと不老不死の石を巡る大事件に巻き込まれた。
結局、国王は死亡し陰謀は失敗。
騎士団の試験は中止となった。
新国王となったヴィクトリア女王陛下や騎士団団長のレイさんからは、直々に騎士団への入団を打診された。
事件に巻き込まれた俺に対し、贖罪の意味があったのかもしれない。
もしかしたら俺の能力を評価してくれたのかもしれない。
真意は分からない。
しかし俺はそれを断り、ラバウトへ戻ってきた。
俺は自分の信念に対して正直に、自由に生きて行きたいと思ったからだ。
そして、大切な存在を守れるようになりたかった。
あの時も、俺がもっと強ければエルウッドを守れたし、もしかしたらザインさんが死ぬことはなかったかもしれない。
フラル山に戻ってきてから一年の間、俺は鉱石を売って金を貯め、徹底的に身体を鍛えた。
やりすぎて何回か命の危機を感じることもあったほどだ。
その甲斐あって、少しだけ自分に自信がついた。
これ以上やれることはない。
もう大丈夫だろう。
山を降りてもいいかもしれない。
俺は昨年、王都で冒険者ギルドを受験していた。
最下位のEランクとはいえ、冒険者として登録済みだ。
だから俺は、これから冒険者として活動してみようと考えていた。
――
今日の採掘を終え帰宅。
まだ日没前で明るい。
暖炉に火をつけ、風呂を沸かし、夕飯の支度をしているとエルウッドが俺の元へ寄ってきた。
「ウォウウォウ!」
「どうした? エルウッド」
俺を呼びかけるエルウッド。
その瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
ここは標高五千メデルトの山の上だ。
「遭難者か?」
「ウォウウォウ」
エルウッドの反応がいつもと違う。
俺は警戒しながら、剣を持ちドアへ近づく。
長年住んでいるが、来訪者なんて初めてのことだ。
そもそも、この家の場所を知ってる人間はいない。
俺は緊張してドアの前に立つ。
何かあったらすぐに剣を抜けるように構え、ドアをそっと開ける。
「アル!」
聞いたことのある、懐かしくも美しい声が響いた。
ドアの前に立っていたのは、目もくらむような絶世の美女。
「ふふふ、アル。久しぶりね」
あまりにも驚き、俺の身体は固まっていた。
「アル、寒いわ。中に入れて?」
ここは標高五千メデルト。
これは物怪の類いか?
「アル?」
「え? レ、レイさん?」
「まずは中に入っていい?」
「は、はい! 失礼しました!」
「ふふふ、ありがとう」
レイさんを部屋に案内し、暖炉に燃石を追加した。
そして珈琲を淹れる。
レイさんが厚手のコートを脱ぐと、エルウッドが近づいた。
「エルウッド、久しぶりね!」
「ウォン!」
レイさんがエルウッドに抱きつく。
エルウッドが嬉しそうに笑いながら、尻尾を振っている。
どうやら本物のレイさんのようだ。
「熱い珈琲です」
「ありがとう」
レイさんの身体が温まったようだ。
「レイさん、お久しぶりです」
「一年振りね。アル、元気だった?」
「はい。おかげさまで元気にしてます。それにしても、よくここまで一人で来れましたね」
「昨年来た道を覚えていたのよ。前より早く登ってきたわ」
あの険しい崖を登ってきたのか。
しかも季節は冬だ。
さすがは騎士団の団長。
「あの、どうしてこんなところに?」
レイさんが珈琲カップ手に持つ。
「実は私、騎士団を退団したの」
「へえ、そうなんですね。退団ですか、いいですね。ん? ……退団? え? た、退団! え? ど、どうして!」
「あの事件の後、私も色々と考えてね。アルみたいに自由に生きようと思ったの。ただ、陛下亡き後の騎士団再編成だけは、責任を持って続けていたのよ」
その騎士団再編成に時間がかかってしまったとのこと。
「アルが騎士団に入ってくれたら続けてたけどね」
「そ、それは……すみません」
「ふふふ、意地悪だったわね」
レイさんの美しくも意地の悪い顔が懐かしい。
そして優しく微笑みかけてくれた。
「騎士団の編成も終わって、ヴィクトリア女王陛下が退団を認めてくださったの。女王陛下がアルによろしくと仰ってたわよ」
ヴィクトリア女王陛下は、俺の鉱夫の話に夢中で耳を傾け、近衛隊に誘ってくださったり、エルウッドの友達にもなってくださった。
俺のことを覚えていてくれたことが嬉しい。
俺は今でも、女王陛下の優しい笑顔が記憶に残っている。
「アルはあれから、ずっとここで採掘を続けてたの?」
「はい。ラバウトに戻ってきてから、ずっと採掘してました」
「剣は続けてないの?」
「一応毎日振っています」
「ふふふ、偉いわね」
珈琲を飲むと、少しの静寂が生まれた。
暖炉から燃石が弾ける音が聞こえる。
「アル、私はね。もう一度冒険者をやろうと考えているの」
「レイさんが冒険者ですか?」
「ええ、そうよ。アルと」
「クシャン!」
「するつもりだけど、まだもう少し世界を見たいの」
「え?」
エルウッドがくしゃみをした音で、レイさんの言葉が聞こえなかった。
「ふふふ、何でもないわ」
俺は王都で聞いた話を思い出した。
「そういえば、レイさんはAランクの冒険者だったと聞きました」
「あら、誰に聞いたの?」
「ウィル・ラトズという男です」
「ウィル! 懐かしいわね。彼とどこで会ったの?」
昨年の旅でウィル・ラトズと会った経緯を説明。
アセンで初めて会った時は、いきなりトミー・ゴードンを始末し、王都で再会した時は、Cランクのハンターを装っていた。
気の抜けた話し方をする冒険者だ。
「もしかしてギルドハンターやってるのかしら……」
「ギルドハンターって?」
「規律を乱したり、犯罪を犯したギルド員を始末する組織よ。大体Aランクから選ばれるわ」
「そんなようなことを言ってました」
「誰かがやらなきゃいけない仕事ではあるのよ。それにウィルはああ見えて、責任感と正義感が強いのよ……」
確かにそう言われると、そんな印象があるかもしれない。
俺に冒険者試験を受けるように勧めてくれたのも、ウィル・ラトズだった。
「それにしても、レイさんが冒険者ですか」
「ええ、そうよ。ブランクはあるけどね。実は毎年、冒険者カードは更新していたのよ。失効してないわ」
レイさんなら冒険者としても超一流だろう。
しかし、元騎士団団長の冒険者なんて前例がない。
大丈夫なのだろうか?
「レイさんが冒険者って問題ないんですか?」
「別に大丈夫よ。アルは冒険者に興味はないの?」
「あ、えーとですね、俺も一応冒険者カードを持っていまして……」
「あら! そうなの?」
レイさんが驚くなんて珍しい。
「はい、昨年の騎士団試験の直前に、ウィル・ラトズに勧められてEランクを取りました」
「そうなのね! 凄いじゃない!」
「あ、ありがとうございます」
レイさんに褒められて顔が赤くなったような気がした俺は、珈琲を口にしてごまかす。
そんな俺に気づいたのか、微笑みながら俺の顔を見つめているレイさん。
「ねえ、アル」
「な、なんでしょう?」
「私と冒険者をやってみない?」
「え? レイさんとですか?」
「ええそうよ。あなたの力はもっと評価されるべきだし、私もあなたの活躍を見たいのよ」
俺は冒険者として活動しようと考えていた。
そこへレイさんから冒険者への誘いだ。
どうするべきか悩む。
「それに世界は広いわ。あなたとなら、そんな世界を回るのもいいかなと思って」
「あの……、実は俺も冒険者をやるために、この一年間身体を鍛えてたんです」
「そうなのね」
「はい。でもそれは、一人で冒険者をやってみようと思っていて……」
「アルは私とパーティーを組むのは嫌?」
「そ、そんなことはないです!」
「じゃあ、一緒に……どうかしら?」
「あの、考えさせてもらってもいいですか?」
「ええ、分かったわ」
夕食後、レイさんには風呂に入ってもらった。
その後俺も風呂に入る。
そして、就寝の時間。
我が家にはベットが一つしかない。
「ふふふ、あなたと一緒のベッドも久しぶりね」
まさかレイさんとまた一緒のベッドで寝る日が来るとは。
緊張して眠れない。
眠れな……。
眠れ……。
――
翌朝、俺は早くに目を覚まし、家の外へ出た。
標高五千メデルトから日の出を眺める。
以前、レイさんと一緒に見た日の出と全く同じ景色だ。
昨日のレイさんの話だが、レイさんと一緒だと俺が守られるような気がした。
誰かに守られるのは嫌だし、俺が大切な人を守りたい。
でも、それは傲慢な考えなのかもしれない。
俺は圧倒的に経験不足だ。
それを素直に受け入れて、少しずつ成長できればいい。
それに、レイさんは俺の師匠だ。
背後から聞こえる足音。
「相変わらず、凄まじい景色ね」
「レイさん、おはようございます」
「おはよう、アル」
「あの……レイさん」
「なあに?」
「レイさんは今でも俺の剣の師匠です」
「ふふふ、ありがとう」
「剣だけではなく、冒険者としても俺に教えてくれますか?」
「ええ! ええ! もちろん! もちろんよ! あなたは私の唯一の弟子なんだから!」
レイさんが満面の笑みで答えてくれた。
本当に美しくて、可愛らしい笑顔だ。
「レイさん、よろしくお願いします!」
「ふふふ、こちらこそよろしくね」
冒険者としての旅立ちを祝福するかのように、黄金に輝く朝日が俺たちを照らしてくれた。
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