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第二章

第40話 始まり

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 俺は日の出と共に目を覚ました。
 城の外を見ると、空はまだ朝焼けの最中だ。
 しかし、城の中をうろつくこともできないので、部屋でエルウッドと待機。
 朝日が完全に顔を出した頃、朝食を用意したメイドが部屋に来た。

「本日の予定ですが、昼食後にレイ・ステラー様との面会が予定されております」
「そうなんですね!」
「はい、今しばらくお待ち下さい。また、宿屋にあるアル様のお荷物は、本日こちらへ届くように手配しております」
「ありがとうございます!」

 やっとレイさんに会える。

「エルウッド! レイさんに会えるよ!」
「ウォン!」

 エルウッドも嬉しそうに頷いてる。

 昼食までは特にやることもないので、試験勉強することにした。
 試験はもう明日だ。
 用意してもらった学術書を見ると、内容よりも紙質の良さに驚く。
 こんなに高品質の紙は初めて見た。
 さすが王城の書だ。

 そして、昼食が終わると執事に呼ばれた。

「レイ・ステラー様がお待ちです」

 執事に案内されながら城内を移動。
 エルウッドと一緒に階段を下りていく。
 どうやら地下室のようだ。

「こちらで椅子に座ってお待ち下さい」

 何もない部屋だが、部屋の真ん中にテーブルと椅子が二脚あった。
 俺はその椅子の一つに座る。
 エルウッドも俺の横に座り込む。

 部屋には窓がない。
 シャンデリアに立てられた蝋燭の炎が僅かに揺らめく。
 きっと情報が漏れないようにする部屋なのだろう。

 ゆっくりと静かにドアが開いた。

「レイさ! え?」

 黒ずくめの集団が一気に流れ込んできた。
 三十人はいるだろう。
 あっという間に俺とエルウッドは囲まれた。
 そして一斉に弓を構え、いきなり矢を放つ。

 俺はとっさに頭を抱えて床にダイブ。
 横目でエルウッドを見ると、矢を躱しながら即座に男たちに向かって攻撃を始めていた。
 一人二人と瞬殺。
 エルウッドのあんな表情は初めて見た。
 まるでモンスターそのものだ。
 エルウッドは恐ろしいスピードで黒ずくめの集団を倒していく。

「お、おい! これほどなのか!」

 最後に部屋へ入ってきた女が叫んだ。

 エルウッドは矢を避け、一人また一人と、確実に動きを止めていく。
 時に喉元を爪で切り裂き、時に喰い千切る。
 次第にエルウッドの角が光り始めた。
 光に反応するように、移動速度も上がっていく。

 エルウッドは次々と男たちを倒す。
 角の光が増すたびに、速度が上がっているようだ。
 俺は混乱しながらも、エルウッドが危険に晒されてることだけは理解していた。

「エルウッド!」

 どうすればいい?
 何かできることは?

 部屋の中央にあるテーブルと椅子を、黒ずくめに向かって力一杯投げつけた。
 破壊音をかき鳴らし、机が割れ椅子が砕ける。
 何人かの黒ずくめがその場に倒れ込んだ。
 ピクリとも動かない。
 だがこれだけではエルウッドを守れない。
 部屋を見回すと、一本の剣が立てかけてあることに気付いた。

「あ、あれは!」

 あれはどう見ても俺の剣だ。
 ダッシュで剣を拾う。
 そして俺も、片刃の大剣ファラゴンを抜いて黒ずくめの集団に突っ込む。
 エルウッドだけを狙っていた集団は、俺の突然の攻撃に驚いたようだ。

 その時、両手剣グレートソードを持った赤毛の女が割り込んできた。
 俺よりも背が高く、筋肉質な女だ。
 パワータイプだろう。

「アンタがアル君かい? レイから聞いてるよ! ってか、何で剣を持ってんのさ!」
「誰だ!」
「アタシかい? この国の騎士さ。一応責任者やってるんでね。アンタを止めさせてもらうよ!」

 強烈な一撃が振ってきた。
 片刃の大剣ファラゴンで受けると、甲高い音とともに激しく火花が飛び散る。
 俺はその剣を力で弾き返し、レイさん直伝の突きを打とうと剣を引いた。
 その瞬間、女騎士は後ろに飛び退く。

「メッチャ嫌な予感がした! それってレイの突きじゃねーのか? 危なっ!」
「くそっ! 逃げられたか!」

 何という勘の良さだろう。
 こんな戦い方をする剣士もいるのか。
 だが、感心ばかりしていられない。

 俺は大きく前に飛びながら女との距離を一気に詰め、上段からツルハシを振るように剣を振り下ろす。
 女はそれを剣で受けた。
 またしても火花が飛ぶ。

「いたっ! 馬鹿力だな、この子」

 女は剣を受けた状態で、俺の腹部に蹴りを入れてきた。
 俺はまともに喰らい三メデルトほど吹き飛ぶ。
 だがダメージはない。

「足いてぇ! 石でも蹴ったのかと思った……よっ!」

 言い終わると同時に、女が一気に踏み込んで左から右へ横払いを放つ。
 俺はそれを剣で受け流した。
 身体が流れ、体勢を崩した女へ切り込もうと剣を振り上げる。
 だが、女は後ろに飛び退いた。

「何この子! 強すぎないか!」

 この女、見かけによらず、とにかく動くし速い。
 そして強い。
 何より勘の良さが尋常ではない。
 俺の攻撃を察知してしまう。
 騎士団の責任者と言っていただけある。

 それでも俺は女に突進し、上段から全力で片刃の大剣ファラゴンを振り下ろす。

「速っ!」

 女は叫び、剣で受けた。
 今までで最も大きな甲高い金属音と、大きな火花が散る。

「いってえ! あ、あーー! アタシの剣が!」

 女が叫び、再度距離を取った。
 どうやら大きく刃こぼれした様子。
 俺の片刃の大剣ファラゴンは当たり前のように無傷だ。

「苦労して作った剣なのに! これもう使えないぞ! アンタのその剣反則だろ!」

 もちろん俺は何も答えない。
 女騎士と距離ができたので、エルウッドの方を見る。

 黒ずくめの集団は、エルウッドに向かって矢を放ち続けていた。
 矢が外れて同士討ちになっても、目の前にエルウッドが迫ってきても、男たちは弓を射る手を止めない。
 ただひたすらエルウッドを狙い、ただひたすら射る。
 それでもエルウッドは、次々と男たちを倒していく。
 角の光が増し、エルウッドは信じられない速度に到達していた。

 そしてついに、エルウッドは三十人の男を全員倒したのだった。
 しかし、エルウッドにも十本以上の矢が刺さっている。

「エルウッド!」

 叫んだ瞬間、俺の太ももに一本の矢が刺さる。
 さっきの女騎士が、弓を持っていたのが見えた。

「この子も狼牙も強すぎるだろ。暗部小隊が……全滅な……初め……だ」

 女のつぶやきが僅かに聞こえたが、俺の意識はなくなった。

 ◇◇◇

 部屋に入るミゲル。

「リマ・ブロシオン近衛隊隊長殿。どうじゃ、銀狼牙は捕まえたかの?」
「これはこれは、宰相殿自ら足を運んでくださるとは、痛み入ります」
「おぉ! エルウッドを捕まえたか! よくやったぞ! よくやったぞ!」 

 倒れたエルウッドを見て、ミゲルが歓喜する。

「ちっ! 暗部三十人の犠牲を出しても無視かよ」

 リマは誰にも聞こえないように、小さな声で呟いた。
 嫌味のつもりでお返しする。

「三十人もの犠牲を出しましたからね」
「ぐふふふふ、これからの偉業に比べたら些細なことじゃ」

 ミゲルは全く気にしない。
 むしろ上機嫌だった。
 その発言に苛つくリマ。

「これが些細だと?」

 再度小さく呟いた。

「それでは宰相殿。アタシはこの三十人の後処理がありますので」
「ぐふふふふ、特別弔慰金を出すように言うておく」
「恐れ入ります。それでは失礼します」

 リマは部屋を出た。

「レイ、アタシもやっぱりアイツ嫌いだわ」

 ◇◇◇
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