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第一章

第19話 オーダーメイドの剣

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 俺はあることを思いついた。

「レイさんは、いつまでラバウトにいますか?」
「そうね。任務にもよるけど、あと一、二週間はいる予定よ」
「もし良かったら、俺が採った鉱石で剣を作りませんか? 今日のお礼に鉱石をプレゼントします」
「お礼って。そもそも、今日の稽古はアルの生活を見ることの対価なのよ?」
「あ、そうでした! で、でも……」
「ふふふ、ありがとう。……そうね。お言葉に甘えて、アルの鉱石で剣を作ろうかしら」 
「腕のいい鍛冶師がラバウトにいます!」
「知ってるわよ、クリス・ワイア氏ね。この国でも有名な鍛冶師よ」
「ええ! クリスが!」
「そうよ。実は今回、クリスが打った剣を持ち帰るのも任務の一つなの。これは内緒よ?」
「そうだったんですね。クリスがそんなに凄い鍛冶師だとは知りませんでした」

 豪快に笑いながら、いつも俺の鉱石を買い占めるクリスがそんな有名人だったとは驚きだ。

「せっかくだからアルも剣を作ってもらいなさい。あなたは自分専用の剣を持った方がいいもの。鉱石はあるんでしょ?」
「はい。市場に出してない希少鉱石があります。……そうか、自分の剣を作るのか」
「言っておくけど、オーダーメイドの剣は驚くほど高いわよ」
「え! い、いくらですかね」

 そんな話をしながら、希少鉱石を置いている部屋へ移動した。
 俺は鉱夫なので、鉱石を見る目は持っていると自負している。
 ここにあるものは俺がこれまで採ったものの中で、レア度も品質も最高級のものだ。
 さらに俺は、とっておきの鉱石を見せた。

「ア、アル……。こ、これは!」
「この間は言えなかったんですが、レイさんが探していた鉱石はこれですよね? 紫色で雷の模様の鉱石……」
「え、ええ。そうよ。そうなのよ」

 レイさんもさすがに驚いている。

「まさか、アルが持っていたとは……。こ、これはどこで見つけたの?」
「父親から譲り受けた形見です」
「そうなのね……」

 レイさんが正面に立ち、俺の両肩に手を乗せた。
 その表情は真剣そのものだ。

「この鉱石は紫雷石と呼ぶの……。アル……これは絶対に人に見せちゃだめ! 絶対よ!」
「わ、分かりました」

 常に冷静なレイさんが動揺するほどだ。
 俺は絶対に言いつけを守ろうと思った。 

「ふー、ごめんなさい。ちょっと驚かせたわね。それにしても凄い鉱石ばかり……。私は鉱石を見るのが趣味なのだけど、これには溜め息が出るわ」

 レイさんの顔つきが、元の優しい表情に戻った。

「レイさんは、この虹鉱石が似合うと思います。レア八で硬度も八です。どうですか?」
「凄い……、虹鉱石なんて一度しか見たことがないわ。でもいいの? これを商人から買うと金貨五十枚以上はするわよ?」
「アハハ、いいんですよ。俺が持っていても使わないし、また採ればいいんです」
「ふふふ、ありがとう。遠慮なくいただくわ。じゃあ、私がアルの鉱石を選んであげる。これなんてどう?」

 レイさんが選んだのは黒紅石だった。
 漆黒だが、光が反射すると紅く見える不思議な鉱石。
 これもレア八で硬度八の非常に珍しい鉱石だ。
 鉱石を選び終わると、レイさんが右手で俺の左腕をそっと触れた。

「アル、ありがとう。……私は明日、山を下りるわ」
「えっ! わ、分かりました」

 突然の申し出に、俺は驚きつつも寂しさを感じる。
 十年間この山で一人暮らしをしてきたが、レイさんと一緒に過ごしたたった四日間があまりに濃厚すぎたようだ。

「寂しくなった?」
「そ、そんなことありません!」

 俺の心を見抜いたかのように、レイさんが意地悪な顔をしている。
 こんな顔もするんだ。

 明日帰るレイさんと一緒に、俺も案内役として下山することにした。
 さすがにレイさん一人で下山は危険だ。
 ついでに一昨日採れた鉱石も売る。

 就寝の準備をして寝室へ入った。
 このベッドでレイさんと一緒に寝るのも今日が最後だ。

「おやすみ、アル」
「はい、おやすみなさい」

 寝室の蝋燭を消す。

 俺は今日の稽古のことや、命のやり取りについて考えていた。
 剣士になるということは人を斬る覚悟がいる。
 俺にその覚悟を俺が持てるのか……。
 いや、持たなければ剣士になれない。

 だが、深く考える前に、俺は眠りについてしまった。

 ◇◇◇

 完全に眠りについたアルの横で、レイが小さく呟く。

「……アル、ありがとう。とても楽しかった。だから……本当に、本当にごめんなさい」

 ◇◇◇
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