鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
29 / 414
第二章

第29話 冒険者への誘い

しおりを挟む
「怖かった……」

 カミラさんの身体が小さく震えている。

「アルさん、ありがとうございます。助かりました」
「い、いえ、むしろ申し訳ありません。奴を怒らせてしまいました。もしかしたら報復があるかも……」
「念の為に警備を厳重にします」

 カミラさんは震えながらも、従業員に指示を出す。

「それでも本当に助かりました。アルさんがいなければ、金貨五十枚の詐欺に合うところでしたから」

 詐欺というか、もはやハリーの脅しで押し売りをしようという感じだった。

「それにしても、アルさん。よく偽物って分かりましたね?」
「実は以前もラバウトで偽鉱石を見たことがあったんです。ただ、今回はかなり完成度が高い物でした。鉱石を扱う商人でも騙されるレベルです」
「そうだったんですね。アルさんは鉱夫とのことでしたが、どちらでやられてたんですか?」
「実はフラル山で鉱石を採ってました」

 俺のこれまでの経歴を話した。

「フラル山で採掘を……。では、うちで扱ってるフラル山の鉱石は、全部アルさんが採ったものなんですね」
「アハハ、そういうことになりますね」
「フラル山の鉱石は、商人のトニーさんから仕入れてます」
「トニーは大丈夫ですよ! 直接俺から買いつけてますから!」
「まあ! そうだったんですね。ウフフフフ」

 カミラさんに笑顔が戻ったが、さすがにもう食欲がないようだ。
 正直、俺はまだ食べられるが仕方がない。
 先程の処理が終わり、二人でバーへ移動した。

「馬車の恩を返すつもりが、さらに恩を受けてしまいましたね」
「気になさらないでください。俺もカミラさんに会えなければ、これほどの高級宿に泊まることは一生なかったですから」
「まあ、ありがとうございます。いつでも来てくださいね。アルさんは私の命の恩人ですから。ウフフフフ」

 カミラさんは冷静で落ち着いた雰囲気の女性だが、笑うと可愛らしい。

「それにしても、カミラさんはまだお若いのに、これほどの高級宿を経営してるなんて凄いですね」
「元々父親がやっていた宿でしたが、父が亡くなり私が相続したんです。そこから父の名を汚さぬように必死でやりました」

 カミラさんが高級な葡萄酒を用意してくれた。
 グラスを傾け改めて乾杯。

「アルさんは、イエソンで何をされるんですか?」
「人に会う約束があるんです。それと騎士団を受験します」
「まあ、騎士団! それは凄いです! 団長になったばかりのレイ・ステラー様は、すでに歴代最高と言われてますからね」
「そうなんですね! さすがレイ様!」
「ウフフフフ、まるで知り合いのようですね」
「え? い、いや、ファンなんです。アハハ」
「ウフフフフ、レイ様は本当にお綺麗ですからね。この宿にもいらっしゃったことがあるんですよ」
「え! そうなんですね!」

 レイさんはすでに騎士団団長として活躍しているようだ。
 レイさんの活躍を聞くと俺も嬉しくなる。

「ところで、アルさんは冒険者に興味はないんですか?」
「冒険者ですか?」
「ええ、そうです。大岩を持ち上げる力。鉱石鑑定ができる知識。そして、そこの狼牙さんもいるので、冒険者の方が向いているのではないかと思います。高ランクになると収入も桁違いだそうですよ」
「冒険者か……」
「アルさんが冒険者になったら、私の護衛として絶対に依頼します。ウフフフフ」
「え? 俺なんかより、もっと良い冒険者はいますよ」
「そんなことないですよ。もし良かったら本当に私の護衛を……」
「え? い、いや、その……」

 カミラさんに見つめられてしまった。
 大人の女性の魅力と、美女の魔力に強く惹き込まれそうだ。
 俺は焦り、グラスの葡萄酒を一気に飲み干す。

「ウフフフフ。アルさん、アセンに来た時は必ずこの宿に寄ってください。いつでも歓迎します」
「は、はい」
「私はまだ少し仕事があるので失礼します。あとのことは使用人が案内しますので、ゆっくりしてください。そして騎士団の試験、応援してます」
「はい、ありがとうございます!」

 カミラさんは仕事に戻った。
 使用人が新しい葡萄酒と軽食を用意。
 エルウッドは高級そうな、いや明らかに高級な生肉を食べている。

 その後、部屋へ案内されると、そこはもう別世界だった。
 部屋が輝いている。
 間違いなく王族や貴族が泊まるような最高級の部屋だ。

 つい先日まで田舎の山で鉱夫をやっていた俺が、まさかこんな超高級宿に泊まることになるとは。
 緊張して眠れない。
 眠れな……。

 ◇◇◇

 店の外へ出たハリー・ゴードンとビリー・ネイサ。

「クソッ! 恥をかかされた! ハリー、貴様のせいだぞ! 本物だと言うから貴様を使ってやったのに! これでカミラとの関係は終わりだ! くそ!」
「うるせー! うるせー! うるせー! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」
「な、何をする!」

 突然、ハリーがネイサの顔面を殴りつけた。

「絶対許さねー! 殺してやる! 殺してやる!」
「ごふっ! や、やめ、ごふう」
「殺す! 殺す! 殺す!」
「ごぼっ……ごぶうぅ……ぐぼ……」
「あの小僧! 絶対殺してやる! 殺してやる!」

 何度も殴りつけるハリー。
 ネイサの顔面は陥没し、歯が全て折れ、頭部の形まで変わり、真っ赤に染まった。
 身体が細かく痙攣している。
 それでも殴りつけるハリー。

「あの小僧! 殺す! 殺す! 殺す!」

 ビリーは撲殺された。
 目撃したネイサの使用人は恐怖のあまり失禁。
 そして、冒険者ギルドへ駆け込んだ。

 ◇◇◇
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

処理中です...