上 下
23 / 355
第一章

第23話 揃った二つ

しおりを挟む
 クリスの店を出て、俺はレイさんと別れた。
 次に商人ギルドへ向かう。
 今回の市場の出店料を払うためだ。

 トニーが金貨八枚で購入してくれたので、売上の十パーセントである銀貨八枚を支払った。
 ギルドで少し世間話をして、再度市場へ戻る。
 そういえばエルウッドがいない。
 だがきっと、エルウッドはセレナの八百屋で野菜を食べてるはずだ。

 俺は市場へ歩きながら、オーダーメイドを依頼した剣の仕上がりに関して思い返していた。
 通常であれば、クリスは数日から一週間ほどで剣を完成させるそうだ。
 しかし、今回は希少鉱石を使用して製作する。
 それも二本だ。

 一本は王立騎士団一番隊隊長の剣という名誉がある上に、失敗が許されない剣。
 さらにもう一本は、通常の形ではない俺専用の特別な形状の剣。
 これらを素材から開発して納得いくまで打つ。
 そのため、数ヶ月の製作期間がかかるとのことだった。

 俺は週に一回この街に下りてくるけど、レイさんは任務が終わると王都イエソンへ戻る。
 そのため、剣が完成したら、俺が王都まで剣を届けることになった。
 そう、俺は初めて王都に行くのである。
 俺は自宅があるフラル山と、このラバウトの行き来しかしたことがない。
 正直、今からとても緊張している。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか市場に戻って来ていた。
 自分の出店場所を片付け、セレナの八百屋へ行く。

「アル! もう売れたの?」
「そうなんだよ。今日はトニーが買い占めてくれたよ」
「相変わらず凄いねえ。うちの野菜も全部買い占めてくれればいいのにね、お母さん」
「ふふ、そうね」

 セレナの母親、ファイさんが笑っている。

「ファイさん、エルウッドは来てませんか?」
「アル君こんにちは。エルウッドならいるわよ。この子は本当にお利口でグルメね。今日一番お勧めの野菜を食べてるわ」
「はー、全く。ファイさん、今日こそ代金を払います!」
「いらないわよ。アル君もエルウッドも家族みたいなものなんだから。だって、あなたのお母さんと私は親友だったのよ?」
「それを言われると、何も言い返せないです……」
「それでいいのよ。子供は甘えなさい」
「子供って。ファイさん、俺はもう十八歳ですよ?」
「アハハハ」

 俺とファイさんのやり取りを聞いていたセレナが大笑いしている。
 またしても、俺はファイさんの好意に甘えることになった。
 その好意が心地良くもあるのだが。

 というか、エルウッドが遠慮してくれれば済む話である。
 なぜならエルウッドは人語を理解してる。
 これはもう確信犯ってやつだ。

「セレナ。俺は明日山へ帰るから、今日は泊まっていくよ」
「ほんと!? じゃあ、ご飯食べに行く?」
「そうだね。行こうか」
「やったー! じゃあ今日はねー」

 俺たちは商業区へ歩いていった。

 ◇◇◇

 騎士団の駐屯地へ戻ると、ザインが私の元に来た。

「隊長、紫雷石と銀狼牙はいかがいたしますか? アルを拘束しますか?」
「いや、ラバウトで問題は起こしたくない。それに、アルは驚異的な力を秘めているし、エルウッドは古のネームドだ。無理だろう」
「では、どういたしましょうか」
「剣を発注した。完成次第、アルに王都まで届けてもらう。私の予想だと恐らく三、四ヶ月後になるだろう」
「四ヶ月後ならちょうど騎士団の試験もありますね」
「騎士団の試験も受けてくれるといいのだが……。いずれにせよ、確実に王都へ来るように念を押しておく」
「お願いいたします」
「その間に我々も準備ができるだろう」
「ハッ、滞りなく進めます」

 任務は絶対だ。
 ザインには冷静を装っているが、私はアルの優しさと純粋さに惹かれている。
 あれほど真面目で真っ直ぐな青年を騙すなんて……。
 私は一体どうすれば……。

「ん? どうされました?」
「……いや、何でもない。紫雷石と銀狼牙が確認できた。急ではあるが、我々は明日王都へ帰還する。準備せよ」
「かしこまりました」

 ◇◇◇

 セレナとの食事を終え、宿屋へ向かう。

 今回はトニーが予想以上の高値で購入してくれたので、先日宿泊した高級宿に再度泊まることにした。
 最近は贅沢し過ぎだろうか。

 受付を済ませ部屋へ直行。
 高級ソファーで考えを整理する。
 数カ月後にクリスからオーダーメイドの剣を受け取って、王都へ行くことについてだ。

 王都へ行くこと自体は問題ない。
 しかし、その後をどうするかだ。
 数カ月後は、ちょうど騎士団の入団試験も始まるらしい。
 もしタイミングが合えば、入団試験を受けることもできる。

 騎士団を受験する?
 もし騎士団に受かったら?
 落ちたら?
 騎士団は受けずに剣士になる?
 冒険者ギルドに登録する?
 商人になる?
 山へ戻り鉱夫を続ける?

 正直分からない。
 ただ、俺には少しの蓄えがある。
 希少鉱石を狙う俺は、運が悪いと収入はないが、運がいいと一週間で金貨数枚になる。
 しかも、ここ数年の収支はプラスだった。
 金銭的な部分で将来の選択肢が狭まることはない。
 文字の読み書きもできる。
 それもあり、騎士団の入団試験も受けることができるのだった。
 将来の選択肢はたくさんあるけど、考えることが増えてばかりだ。
 つい先週までは、鉱夫として山で暮らしていこうと思っていたのに。

 その時、扉をノックする音が響く。
 出てみると、なんとレイさんが立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...