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第一章

第20話 二人で見る朝日

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「おはよう、アル」

 レイさんの声で目が覚めた。

「……お、おはようございます。……今日は早いですね」
「ええ、今日で最後だから、この美しい景色と日の出を見ておこうと思ってね」
「それならいい場所がありますよ」

 俺はベッドから出て支度をした。
 そしてレイさんを連れて、絶好の日の出スポットへ行く。

「ここから見る日の出が最高なんです」
「ふふふ、楽しみね」

 フラル山の中腹、標高五千メデルトから下界を見下ろす。
 この日も雲一つない快晴。

 暁闇から徐々に明るくなる空。
 一瞬一瞬で空の色が変わっていく景色は、自然が見せてくれる雄大なショーだ。
 そして、空が燃えるような赤褐色に変化。
 ショーのクライマックスを迎え、眼下に広がる地平線から太陽が顔を出す。
 何度見ても圧巻の光景だ。

 ふと横にいるレイさんの顔を見ると、頬に流れる一筋の雫。

「レ、レイさん?」
「……アルと見たこの景色。一生忘れないわ」

 レイさんは日の出から目を離さずに答えた。
 俺はそのレイさんの顔を見つめている。
 俺にとってこの日の出はいつでも見られるが、レイさんの横顔は今日が最後だからだ。
 太陽が完全に姿を現した。

「さあ行きましょう」
「はい」

 家へ戻ろうと歩き出すと、レイさんに呼び止められた。

「アル!」

 後ろを振り向いた瞬間、レイさんの美しい顔が目の前に……。
 そして唇に感触……。

「え? え?」

 一瞬のことで困惑して硬直している俺を置いて、レイさんが横を通り過ぎ歩いて行ってしまった。

「アル! 何してるの! 行くわよ!」
「え? え?」

 俺はすぐにレイさんを追いかけた。
 自宅に戻り、下山の支度をする。
 さっきのアレはなんだったのだろう。
 
「ダメだ! 集中しろ!」

 俺は両手で自分の頬を叩く。
 それよりも下山に集中せねば、命を落としかねない。

 今回は先日採れた鉱石五十キルクと、オーダーメイド用の虹鉱石、黒紅石を持っていく。
 そして、稽古に使った長剣ロングソードが二本、他の荷物もあり重量は合計で七十キルクほどあるだろう。
 これは俺が担いで下りる。

 朝食を取り下山を開始。
 上りの時に最大の障壁だった五百メデルトの崖。
 下りではいきなり、この崖がやってくる。
 しかし、俺は下り用に、約二メデルトおきに足場を削り出しており、細かく飛び降りるだけで下山できるようにしてあった。
 ただし、鉱石を持って飛び降りるので、バランスを崩すとそのまま崖下へ落下してしまう。
 細心の注意が必要だ。

 俺は七十キルクの荷物を天秤棒で担いだまま、二メデルトおきの足場を飛び降り続ける。

「本当に化け物ね……」

 レイさんが呟く声が聞こえる。
 続いてレイさんも慎重に飛び降りた。
 エルウッドは軽やかに飛び降りている。
 そして俺たちは五百メデルトの崖を下りきった。

「ふう、無事下りられたわ」
「初めてでこのスピードは凄いですよ」
「ふふふ、ありがとう」

 レイさんの呼吸は乱れているが、表情は明るく笑顔だ。

「アルの足腰と体幹の強さがとてもよく分かったわ。こんなこと絶対に真似できないもの」
「早く下りることを考えたら、これに行き着いたんです……」
「そうだとしても、普通はできないわよ。ふふふ」

 今朝の涙が嘘だったかのように、いつもの会話に戻っていた。

 俺たちは何度も崖を飛び降り、坂道を下り、樹海を進み、何事もなく無事ラバウトに到着。
 市場が開く時間に間に合っていた。
 俺が一人で下りてくる時間とほとんど変わらない。
 レイさんだって化け物だと思うのであった。

「驚くほど早く着きました」
「アルの案内のおかげよ」
「いえ、レイさんのペースが異常なんです」
「何言ってるの。七十キルクの荷物を持っていたあなたが」
「あ、いや……」
「ふふふ。じゃあアル、私は一旦駐屯地へ戻るわね」
「はい、俺も市場へ行ってきます」
「アル……本当にありがとう」
「こちらこそ楽しかったです! ありがとうございました!」

 俺は一旦レイさんと別れ、商人ギルドへ向かった。
 そして、市場の出店手続きをして会場へ向かう。

「あれ? アル? どうしたの?」

 会う人会う人に聞かれる。
 普段、街に下りるのは週に一回だが、今回は少し早いので皆疑問に思うようだ。

「アル!」

 セレナが駆け寄ってきた。

「ちょっと、この間はどうしたの? 見送ろうと思ったら、もう出発してたから」
「ごめんごめん。ちょっと早く出発しなきゃいけない用事ができたんだよ」
「もう、心配したんだから!」
「ごめんよ」
「今回は泊まっていくの?」
「う、うん、その予定だけど、まだちょっと分らないんだ」
「……何それ……なんか……怪しい」
「ち、違うよ」
「何が違うのよ! バカ!」

 何が違うのかよく分らないが、つい口走ってしまった。
 しかし、セレナもこれ以上は追求せずに、許してくれたらしい。
 というか、許すも何も俺たちはただの幼馴染なのだが。
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