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第一章
第13話 異常な身体能力
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早朝の樹海は暗い。
そもそも樹海の中は日の光が当たらないため、晴れた日中でも薄暗い。
しかし、勝手知ったる道だ。
俺は迷うことなく樹海を突き進む。
レイさんの様子を見ると表情もしっかりしているし、足取りも平気そうだった。
樹海の中をしばらく歩いていると、レイさんが腰の細剣に手を伸ばす。
「赤頭熊! アル! 下がって!」
グリーズはCランクのモンスターだ。
分厚い毛皮に覆われた中型モンスター。
人の頭よりも大きい手と、大木すら簡単に抉る鋭い爪が特徴。
この爪で攻撃されたら、人間の胴体は一瞬で真っ二つになるだろう。
百メデルト程先で、こちらの様子をうかがっているグリーズ。
体長は約四メデルトもあり、ここから見てもその巨体さが分かる。
この一帯では最強レベルのモンスターで、あのグリーズは樹海の主だった。
「レイさん。あいつは大丈夫です」
「え? どういうこと?」
グリーズから目を離さず、レイさんは俺に問いかけてきた。
「あのグリーズは数年前に俺を襲ってきたんです。でも、上手く退けることができたんですよ」
「退けるって……、剣も持たずどうやって……?」
「石を投げただけなんですけどね。それ以来、毎回会うようになって、餌をあげたら妙に懐かれちゃって……」
「石を投げただけ?」
俺は肉の塊を一つ取り出す。
すると、百メデルト先にいるグリーズが近付いてきた。
肉を投げると嬉しそうに食べ始める。
「ねえ、アル。あの木に向かって石を投げてもらえないかしら?」
「え? 石ですか?」
「ええ、全力で投げるのよ」
レイさんが不思議なことを言ってきた。
俺は足元にあった拳ほどの石を掴み、言われた通り全力で投げる。
五十メデルト先にある木に当たった瞬間、幹が爆発したかのように砕け散り倒れた。
「やっぱり……。あなたの投石は弓以上の威力だわ」
「そういえば、このグリーズにも石が当たってました」
「あの厚い毛皮に覆われているグリーズに、投石だけでダメージを与えるなんて……。剣でも至難の業なのに」
「え? そうなんですか?」
「ええ、そうよ。それに信じられないことだけど、このグリーズはアルに服従してるわ。あなたは使役師の才能もあるのね」
山の中ではモンスターに遭遇することがある。
だが石を投げると逃げていく。
それもあって、俺はこれまで剣を持つ必要がなかった。
「アルはこれまでの生活で、異常なほどの筋力をつけたようね」
「……確かに、人より力はあると思います」
「ふふふ、アルの生活を見るのが楽しみだわ」
グリーズに別れを告げ、俺たちは樹海を進む。
標高が上がるにつれ徐々に木々は薄くなり、完全に樹海を抜けた。
それは標高三千メデルトに到着した合図でもある。
「まだ午前中ですが昼食にしましょう。想定のペースより速いですよ」
「良かった。安心したわ」
程よい大きさの岩に座り、俺は水筒を二つ取り出した。
一つをレイさんに渡し、お互いに喉を潤す。
そしてパンと干し肉、干し葡萄を食べる。
「それにしても、美しい眺めね」
レイさんが呟く。
樹海を抜けると見晴らしは一気に良好となる。
三千メデルトからの景色は壮大だ。
カトル地方南部の肥沃な平野を見渡すことができる。
「レイさん、体力は大丈夫ですか?」
「ええ、まだ大丈夫よ」
「ここからが本格的な登山になります。崖も登るので気を付けてください」
「分かったわ。ありがとう」
昼食を終え出発。
実は自宅とラバウトを結ぶルートは二つある。
一つは比較的楽だが時間がかかるルート。
俺が小さい頃は父親とそのルートを通っていた。
もう一つが、これから登るルートだ。
最短距離で進めるが、かなりキツいルートで崖も登る。
俺が開拓したルートで、誰も知らないし誰も通れない。
だが、レイさんなら大丈夫だと思う。
標高三千五百メデルト付近まで来ると、森林限界を迎え完全に岩肌が露出している。
そして、目の前に高さ二百メデルトほどの崖が現れた。
崖には足が入る程の穴が空いており、見上げるとそれが交互に続いている。
これは崖を階段のように登るため、俺が数年かけて岩壁に掘った穴だ。
レイさんは穴に足を入れ、手で岩を掴みながら一歩一歩慎重に登っている。
俺は天秤棒で両手が塞がっているので、脚力のみで登る。
身軽なエルウッドは、穴を無視して適当な岩を飛び跳ねていた。
崖を登りきると少し緩い斜面となる。
そして、また小さい崖だ。
標高三千五百メデルトから四千五百メデルト地帯まではこの繰り返しとなる。
レイさんの呼吸が乱れ、口数が減ってきた。
かなりのハイペースで登っているため、体力は相当消耗しているだろう。
しかし、ネガティブな発言は一切出てこない。
さすがは騎士団隊長だ。
太陽が頭上を過ぎた。
だが日没までは、まだかなりの時間がある。
自宅までは残り五百メデルトほどなので、長めの休憩を取ることにした。
「ふうう。アル一人なら、もう登りきってるのかしら?」
レイさんが呼吸を整えながら、小声で話しかけてきた。
「そうですね。太陽が頭上に来る頃には自宅に着いてます」
「化け物ね」
「それ、褒めてますか?」
「ふふふ、褒めてるわ」
エルウッドが自慢気な表情でレイさんに寄ってきた。
「そうね、エルウッドも凄いわ。ふふふ」
「ウォン!」
嬉しそうな表情を浮かべるエルウッド。
レイさんは疲労を感じさせず、冗談を言う余裕まで見せている。
だが本当は辛いはずだ。
俺たちに気を使ってくれているのだろう。
「レイさん、もう少しです。ここからが本当にキツくなります。頑張りましょう」
「……分かったわ」
休憩を終え、岩肌しかない山を歩くと、高さ五百メデルトほどの巨大な崖が現れた。
ここを登ると標高五千メデルトの自宅に到着する。
最大の難関だ。
そもそも樹海の中は日の光が当たらないため、晴れた日中でも薄暗い。
しかし、勝手知ったる道だ。
俺は迷うことなく樹海を突き進む。
レイさんの様子を見ると表情もしっかりしているし、足取りも平気そうだった。
樹海の中をしばらく歩いていると、レイさんが腰の細剣に手を伸ばす。
「赤頭熊! アル! 下がって!」
グリーズはCランクのモンスターだ。
分厚い毛皮に覆われた中型モンスター。
人の頭よりも大きい手と、大木すら簡単に抉る鋭い爪が特徴。
この爪で攻撃されたら、人間の胴体は一瞬で真っ二つになるだろう。
百メデルト程先で、こちらの様子をうかがっているグリーズ。
体長は約四メデルトもあり、ここから見てもその巨体さが分かる。
この一帯では最強レベルのモンスターで、あのグリーズは樹海の主だった。
「レイさん。あいつは大丈夫です」
「え? どういうこと?」
グリーズから目を離さず、レイさんは俺に問いかけてきた。
「あのグリーズは数年前に俺を襲ってきたんです。でも、上手く退けることができたんですよ」
「退けるって……、剣も持たずどうやって……?」
「石を投げただけなんですけどね。それ以来、毎回会うようになって、餌をあげたら妙に懐かれちゃって……」
「石を投げただけ?」
俺は肉の塊を一つ取り出す。
すると、百メデルト先にいるグリーズが近付いてきた。
肉を投げると嬉しそうに食べ始める。
「ねえ、アル。あの木に向かって石を投げてもらえないかしら?」
「え? 石ですか?」
「ええ、全力で投げるのよ」
レイさんが不思議なことを言ってきた。
俺は足元にあった拳ほどの石を掴み、言われた通り全力で投げる。
五十メデルト先にある木に当たった瞬間、幹が爆発したかのように砕け散り倒れた。
「やっぱり……。あなたの投石は弓以上の威力だわ」
「そういえば、このグリーズにも石が当たってました」
「あの厚い毛皮に覆われているグリーズに、投石だけでダメージを与えるなんて……。剣でも至難の業なのに」
「え? そうなんですか?」
「ええ、そうよ。それに信じられないことだけど、このグリーズはアルに服従してるわ。あなたは使役師の才能もあるのね」
山の中ではモンスターに遭遇することがある。
だが石を投げると逃げていく。
それもあって、俺はこれまで剣を持つ必要がなかった。
「アルはこれまでの生活で、異常なほどの筋力をつけたようね」
「……確かに、人より力はあると思います」
「ふふふ、アルの生活を見るのが楽しみだわ」
グリーズに別れを告げ、俺たちは樹海を進む。
標高が上がるにつれ徐々に木々は薄くなり、完全に樹海を抜けた。
それは標高三千メデルトに到着した合図でもある。
「まだ午前中ですが昼食にしましょう。想定のペースより速いですよ」
「良かった。安心したわ」
程よい大きさの岩に座り、俺は水筒を二つ取り出した。
一つをレイさんに渡し、お互いに喉を潤す。
そしてパンと干し肉、干し葡萄を食べる。
「それにしても、美しい眺めね」
レイさんが呟く。
樹海を抜けると見晴らしは一気に良好となる。
三千メデルトからの景色は壮大だ。
カトル地方南部の肥沃な平野を見渡すことができる。
「レイさん、体力は大丈夫ですか?」
「ええ、まだ大丈夫よ」
「ここからが本格的な登山になります。崖も登るので気を付けてください」
「分かったわ。ありがとう」
昼食を終え出発。
実は自宅とラバウトを結ぶルートは二つある。
一つは比較的楽だが時間がかかるルート。
俺が小さい頃は父親とそのルートを通っていた。
もう一つが、これから登るルートだ。
最短距離で進めるが、かなりキツいルートで崖も登る。
俺が開拓したルートで、誰も知らないし誰も通れない。
だが、レイさんなら大丈夫だと思う。
標高三千五百メデルト付近まで来ると、森林限界を迎え完全に岩肌が露出している。
そして、目の前に高さ二百メデルトほどの崖が現れた。
崖には足が入る程の穴が空いており、見上げるとそれが交互に続いている。
これは崖を階段のように登るため、俺が数年かけて岩壁に掘った穴だ。
レイさんは穴に足を入れ、手で岩を掴みながら一歩一歩慎重に登っている。
俺は天秤棒で両手が塞がっているので、脚力のみで登る。
身軽なエルウッドは、穴を無視して適当な岩を飛び跳ねていた。
崖を登りきると少し緩い斜面となる。
そして、また小さい崖だ。
標高三千五百メデルトから四千五百メデルト地帯まではこの繰り返しとなる。
レイさんの呼吸が乱れ、口数が減ってきた。
かなりのハイペースで登っているため、体力は相当消耗しているだろう。
しかし、ネガティブな発言は一切出てこない。
さすがは騎士団隊長だ。
太陽が頭上を過ぎた。
だが日没までは、まだかなりの時間がある。
自宅までは残り五百メデルトほどなので、長めの休憩を取ることにした。
「ふうう。アル一人なら、もう登りきってるのかしら?」
レイさんが呼吸を整えながら、小声で話しかけてきた。
「そうですね。太陽が頭上に来る頃には自宅に着いてます」
「化け物ね」
「それ、褒めてますか?」
「ふふふ、褒めてるわ」
エルウッドが自慢気な表情でレイさんに寄ってきた。
「そうね、エルウッドも凄いわ。ふふふ」
「ウォン!」
嬉しそうな表情を浮かべるエルウッド。
レイさんは疲労を感じさせず、冗談を言う余裕まで見せている。
だが本当は辛いはずだ。
俺たちに気を使ってくれているのだろう。
「レイさん、もう少しです。ここからが本当にキツくなります。頑張りましょう」
「……分かったわ」
休憩を終え、岩肌しかない山を歩くと、高さ五百メデルトほどの巨大な崖が現れた。
ここを登ると標高五千メデルトの自宅に到着する。
最大の難関だ。
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