8 / 352
第一章
第8話 鎧の集団
しおりを挟む
セレナと別れて、俺はまず商人ギルドのラバウト支部へ向かった。
ラバウトの市場は商人ギルドが運営している。
そのため出店料が必要だ。
出店料は一日の売上の十パーセント。
安くはないが、ギルドが仕切ってるこの市場はトラブルがなく、集客力も高いので売り上げが期待できるのだった。
窓口で手続きをしていると、ギルドの顔馴染みが俺の肩に手を置く。
「よっ、アル! こんなに早くどうした? 今日はもう営業終了か?」
「そうなんだよ。今日はすぐ売り切れたからさ」
「それは凄いな!」
売り上げを記載した書類を渡す。
「うん、売り上げも出てるな。この金額だと今日の市場のトップテンに入るぞ」
「売れるとその分、出店料が上がるじゃん」
「それは仕方がないことだ。ハハハ」
今日は金貨十枚の売上だったので、出店料として金貨一枚を支払った。
「毎度ありー。次回は来週かな?」
「採掘次第だけどね。またよろしく」
ギルドを出ようとしたところで、俺はトニーの詐欺被害を思い出した。
「あ、そうそう、今日トニーが詐欺にあったんだよ」
「それって、もしかして鉱石のやつか?」
「よく知ってるね」
「別の支部の話だけど、ギルドの市場でも被害が出たんだ。だから調査中だ」
トニーは欲に目がくらみ、裏通りの露天販売で詐欺にあった。
商人ギルドが仕切るこの市場での購入なら、保障の対象になるはずだ。
そうなると、犯人は恐ろしいまでの調査と追跡にさらされる。
商人ギルドの追跡調査は、冒険者ギルドの調査機関と同じくらい優秀と聞く。
いずれにせよ、鉱石関連は俺も他人事ではない。
巻き込まれないように気をつけようと思った。
商人ギルドの建物を出ると、太陽は頭上から少し過ぎたくらいだ。
午後になったばかりで時間的にはまだ早いが、今夜の宿屋へ向かう。
商人ギルドがあるこの区域は、ラバウトで最も栄えており高級宿が多い。
俺は緊張しながらも、ひときわ豪華な高級宿へ入った。
この宿は初めて泊まる。
宿泊料金は一泊銀貨五枚の部屋だ。
安宿だと半銀貨二、三枚もあれば一泊できるので、十倍以上の宿泊料である。
今日は売り上げがいつも以上に良かったから、自分へのご褒美と大奮発した。
たまの贅沢は俺の楽しみでもあるし、採掘のモチベーション維持に必要と自分に言い訳しているのだった。
なお、銀貨五枚ともなると、低賃金労働者が一ヶ月で稼ぐ金額と同じレベルだ。
どれほど贅沢かよく分かる。
受付でエルウッドと一緒に泊まりたいことを伝えると、快く受け入れてくれた。
さすが高級宿だ。
しかし、受付を済ますとエルウッドはどこかへ行ってしまった。
たまに放浪癖のあるエルウッドだった。
仕方がないのでロビーでくつろいでいると、揃いの白い軽鎧を着た十人ほどの団体が入ってきた。
先頭の人物は一人だけ鎧の色が違う。
紺青色の美しい軽鎧を着た女性だ。
恐らく青鉄石を使用しているのだろう。
すぐに素材のことを考えるのは俺の悪い癖だ。
その先頭の女性が、俺の顔を見て声をかけてきた。
「アルじゃないか!」
「レ、レイさん?」
俺が声を上げると、鎧の団体がざわついた。
特にレイさんの後ろにいた若い男は、見るからに怒っていた。
「レイさんだと? 貴様、ステラーたい」
「よい! 下がれ」
男性の言葉を制するレイさん。
言葉遣いも声質も、先ほど一緒に食事をした時の優しさはどこにもない。
むしろハリー・ゴードンを退けた時の、厳しい口調と同じトーンだった。
迫力があり少し怖い。
「すまない、アル。今は公務中なんだ」
続けてレイさんが後ろの若い男に命令する。
「ザイン。先に行って受付を済ませよ」
「ハッ!」
男は鎧の団体を率いて、受付の方向へ進んで行った。
レイさんはその場に残り、俺と会話を続ける。
「さっき別れたばかりなのに、まさかこんなところで再会するとは驚いたわ」
レイさんの口調が普通に戻った。
「こちらこそ驚きました。それにしてもレイさん。公務って……?」
「さっきも隠してたわけじゃないのだけど……。私はクロトエ騎士団所属なのよ」
「クロトエ騎士団……。クロ……。え? え! この国の騎士団じゃないですか!」
レイさんの発言は、俺にとってここ数年で最も驚く内容だった。
クロトエ騎士団といえば、イーセ王国の王立騎士団だ。
周辺国で最強と名高い、屈強な騎士が揃っているエリート集団として有名である。
その騎士団に、まさかこれほど美人な女性が所属してるとは驚いた。
いや、美人は関係ないが、ハリー・ゴードンを圧倒した剣術を思い返すと納得できる。
「アルはどうしてこの宿に?」
俺は希少鉱石が高値で売れたので、自分へのご褒美と伝えた。
「なるほど。それはいいわね。たまの贅沢は必要よ。ふふふ」
そこへちょうどザインと呼ばれた団員が戻ってきた。
「隊長、受付が完了しました」
「た、隊長!」
俺はまた驚いてしまった。
ラバウトの市場は商人ギルドが運営している。
そのため出店料が必要だ。
出店料は一日の売上の十パーセント。
安くはないが、ギルドが仕切ってるこの市場はトラブルがなく、集客力も高いので売り上げが期待できるのだった。
窓口で手続きをしていると、ギルドの顔馴染みが俺の肩に手を置く。
「よっ、アル! こんなに早くどうした? 今日はもう営業終了か?」
「そうなんだよ。今日はすぐ売り切れたからさ」
「それは凄いな!」
売り上げを記載した書類を渡す。
「うん、売り上げも出てるな。この金額だと今日の市場のトップテンに入るぞ」
「売れるとその分、出店料が上がるじゃん」
「それは仕方がないことだ。ハハハ」
今日は金貨十枚の売上だったので、出店料として金貨一枚を支払った。
「毎度ありー。次回は来週かな?」
「採掘次第だけどね。またよろしく」
ギルドを出ようとしたところで、俺はトニーの詐欺被害を思い出した。
「あ、そうそう、今日トニーが詐欺にあったんだよ」
「それって、もしかして鉱石のやつか?」
「よく知ってるね」
「別の支部の話だけど、ギルドの市場でも被害が出たんだ。だから調査中だ」
トニーは欲に目がくらみ、裏通りの露天販売で詐欺にあった。
商人ギルドが仕切るこの市場での購入なら、保障の対象になるはずだ。
そうなると、犯人は恐ろしいまでの調査と追跡にさらされる。
商人ギルドの追跡調査は、冒険者ギルドの調査機関と同じくらい優秀と聞く。
いずれにせよ、鉱石関連は俺も他人事ではない。
巻き込まれないように気をつけようと思った。
商人ギルドの建物を出ると、太陽は頭上から少し過ぎたくらいだ。
午後になったばかりで時間的にはまだ早いが、今夜の宿屋へ向かう。
商人ギルドがあるこの区域は、ラバウトで最も栄えており高級宿が多い。
俺は緊張しながらも、ひときわ豪華な高級宿へ入った。
この宿は初めて泊まる。
宿泊料金は一泊銀貨五枚の部屋だ。
安宿だと半銀貨二、三枚もあれば一泊できるので、十倍以上の宿泊料である。
今日は売り上げがいつも以上に良かったから、自分へのご褒美と大奮発した。
たまの贅沢は俺の楽しみでもあるし、採掘のモチベーション維持に必要と自分に言い訳しているのだった。
なお、銀貨五枚ともなると、低賃金労働者が一ヶ月で稼ぐ金額と同じレベルだ。
どれほど贅沢かよく分かる。
受付でエルウッドと一緒に泊まりたいことを伝えると、快く受け入れてくれた。
さすが高級宿だ。
しかし、受付を済ますとエルウッドはどこかへ行ってしまった。
たまに放浪癖のあるエルウッドだった。
仕方がないのでロビーでくつろいでいると、揃いの白い軽鎧を着た十人ほどの団体が入ってきた。
先頭の人物は一人だけ鎧の色が違う。
紺青色の美しい軽鎧を着た女性だ。
恐らく青鉄石を使用しているのだろう。
すぐに素材のことを考えるのは俺の悪い癖だ。
その先頭の女性が、俺の顔を見て声をかけてきた。
「アルじゃないか!」
「レ、レイさん?」
俺が声を上げると、鎧の団体がざわついた。
特にレイさんの後ろにいた若い男は、見るからに怒っていた。
「レイさんだと? 貴様、ステラーたい」
「よい! 下がれ」
男性の言葉を制するレイさん。
言葉遣いも声質も、先ほど一緒に食事をした時の優しさはどこにもない。
むしろハリー・ゴードンを退けた時の、厳しい口調と同じトーンだった。
迫力があり少し怖い。
「すまない、アル。今は公務中なんだ」
続けてレイさんが後ろの若い男に命令する。
「ザイン。先に行って受付を済ませよ」
「ハッ!」
男は鎧の団体を率いて、受付の方向へ進んで行った。
レイさんはその場に残り、俺と会話を続ける。
「さっき別れたばかりなのに、まさかこんなところで再会するとは驚いたわ」
レイさんの口調が普通に戻った。
「こちらこそ驚きました。それにしてもレイさん。公務って……?」
「さっきも隠してたわけじゃないのだけど……。私はクロトエ騎士団所属なのよ」
「クロトエ騎士団……。クロ……。え? え! この国の騎士団じゃないですか!」
レイさんの発言は、俺にとってここ数年で最も驚く内容だった。
クロトエ騎士団といえば、イーセ王国の王立騎士団だ。
周辺国で最強と名高い、屈強な騎士が揃っているエリート集団として有名である。
その騎士団に、まさかこれほど美人な女性が所属してるとは驚いた。
いや、美人は関係ないが、ハリー・ゴードンを圧倒した剣術を思い返すと納得できる。
「アルはどうしてこの宿に?」
俺は希少鉱石が高値で売れたので、自分へのご褒美と伝えた。
「なるほど。それはいいわね。たまの贅沢は必要よ。ふふふ」
そこへちょうどザインと呼ばれた団員が戻ってきた。
「隊長、受付が完了しました」
「た、隊長!」
俺はまた驚いてしまった。
65
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる