上 下
7 / 394
第一章

第7話 雷の模様がある鉱石

しおりを挟む
 注文した料理が運ばれてきた。

 ラバウト産の野菜を使った大盛りサラダ。
 ラバウト湖で獲れた大虹鱒オンコリの塩釜焼き。
 フラル山の樹海で狩猟した牛鶏クルツの極厚モモ肉ステーキ。
 ラバウト湖の湖畔で飼育されている水角牛クワイのミルクを使った氷菓子。
 昼食とは思えない豪華な食事だ。

 新鮮で瑞々しい採れたての野菜。
 身が厚く、しっかりと味が染み込んだ大虹鱒オンコリ
 肉汁が滴る牛鶏クルツ
 そして、初めて食べたミルクの甘い氷菓子。
 噂通り全てが驚くほど美味い。

 しかし、食事の量は多く、セレナは満腹のようだ。
 今朝山から降りてきたばかりで、腹が減っていた俺でも多いと思ったほどの量。
 だが、レイさんは平然と平らげていた。
 こんなに細い身体をしているのに凄い食事量だ。

「素材が違うだけで、これほどまで味が変わるのね。特に牛鶏クルツは地元で狩猟しただけあって、イエソンで食べたものよりとても美味しかったわ」

 レイさんが感動している。
 その食べっぷりに驚き、俺はレイさんの顔を凝視してしまった。
 レイさんは、そんな俺の目線に気付いたようだ。

「ふふふ、身体を動かすのが私の仕事なの。だから食事はとても重要なのよ。それよりアル君もよく食べるわね」
「す、すみません。今日はたくさん山を歩いたので」
「そうだったのね。食べることはとても大切よ。うちの団員も見習わせたいわ」

 身体を動かす?
 団員?
 レイさんは何か劇団でもやっているのだろうか。
 だけど、劇団員ならこの美貌も納得できる。
 そんなことを考えていたら、レイさんが笑顔で俺の顔を見つめていた。

「ところで、アル君は鉱夫なの? 鉱石を売りに来たって言ってたわよね」
「はい、そうです」
「そうなのね。では、ここら辺で珍しい鉱石が採れたって話は聞かない?」
「俺は希少鉱石を採掘してます。珍しいといえば珍しいですね」
「私は鉱石を見るのが趣味なの。紫色で雷の模様がある鉱石なんだけど、見たことないかしら?」
「紫で……雷の模様……。いえ……、そんな鉱石は見たことないですね……」
「そ、そうよね。……変なこと聞いてごめんなさいね」

 俺はその鉱石を知っている。
 だが隠した。
 会話に不自然さを感じたし、レイさんが俺の表情を観察していることに気付いたからだ。

「レイ様! よく来てくださいましたね!」

 その時、シェフが厨房から出てきてレイさんに一礼。
 俺とレイさんに気まずい雰囲気が流れたので助かった。
 レイさんはイエソンのレストランに通っていたと言っていたから、このシェフと知り合いなのだろう。
 二人で話をしている。
 その間、俺はセレナと食事の感想を言い合っていた。

 今回の支払いは全てレイさんだ。
 正確な料金は分からなかったけど、恐らく半銀貨五、六枚ほどだろう。
 昼食としては驚くほど高価だ。
 レイさんのお詫びということだが、逆に申し訳なくなってしまった。

 今の俺は金貨を持っており、懐具合はとても暖かい。
 ただ、ここで支払いをすると言っても、レイさんの面子もある。
 俺は素直にお礼を伝えた。

「レイさん、今日はごちそうさまでした」
「こちらこそよ、アル君。とても楽しい食事だったわ」
「俺のことはアルと呼んでください」
「分かったわ、アル。セレナも楽しかったわよ。ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました!」

 セレナと二人でお礼を伝え、レイさんと別れた。
 俺たちは市場へ続く道を歩く。

「レイさん、すーっごい美人だったね」
「うん。しかも剣術も凄かった」
「美人で強くて憧れちゃうなあ」
「イエソンの女性は、皆レイさんみたいなのかな?」
「そんなことないよ。レイさんが特別なだけだよ?」
「そうなんだ。俺もいつかイエソンへ行ってみたいな」
「あー、アルってば、レイさんに会いたいんでしょー」
「ち、違うよ! まだ行ったことがないからだよ!」
「その焦り、なんか怪しい……」
「ちちち違うよ!」
「違うって何がよ。バカ!」

 セレナの視線が痛い。
 その後もレストランやレイさんのことを話しながら、市場へ戻ってきた。

「あら、おかえり。遅かったわね」
「お母さん! 遅くなってごめんなさい! でも聞いて!」

 セレナがファイさんに経緯を説明した。

「そうだったのね。怪我はない? そのレイさんに、ちゃんとお礼しないとね」
「大丈夫よ、お母さん。それにしてもアルったら、レイさんに見惚れてばかりだったよ」
「だから違うって!」
「アハハ」

 無邪気に笑うセレナ。

「全く……。じゃあセレナ、俺は宿屋へ行くよ」
「うん、明日アルが帰る時に見送るね」
「分かった、ありがとう。じゃあまた明日」

 俺はエルウッドの顔を見て思い出す。

「あ、ファイさん。エルウッドが食べた野菜代を払います」
「いいのよ。アル君にもエルウッドにも、会えるだけで嬉しいんだから」
「で、でも……」
「いいのよ。また遊びに来てね」
「はい、ありがとうございます! エルウッド、お礼は」
「ウォン!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

異世界で最強の英雄で魔王になりました

ポルテクト
ファンタジー
一人暮らしの21歳の大学生' 白谷健一はバイト帰りに寄った古本屋で ヒールブレイドと言う本を手に取り 開いた瞬間に本の中へと 異世界へと吸い込まれてしまう。 色んな出会いや困難や強敵に立ち向かい 元の世界に戻ることができるのか 冒険譚が開幕する

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

処理中です...