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第一章

第2話 市場で鉱石を売る

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 山の朝は早い。
 空の色が青紫に染まり始めると、下界に見える地平線から顔を出す太陽。
 いつ見ても凄まじい景色だ。

 天気は快晴。
 フラル山は非常に穏やかな天候で知られる。
 俺がこの地に住み続けている理由の一つだった。

 冷たい水で顔を洗い、街へ降りる支度をする。
 いつものように頑丈な鉄製の天秤棒を準備。
 今週採掘した希少鉱石の重量は約百キルク。
 いつもより量が多い希少鉱石を、二つの籐籠に分けて入れる。

「よし! エルウッド行くよ!」
「ウォン!」

 天秤棒を首の後ろで担ぎ、両手で添えバランスを取りながら歩き始める。

 フラル山には、標高千メデルトほどの場所にラバウトという大きな街がある。
 俺は採掘した鉱石を週に一回、このラバウトの市場で売っていた。

 自宅とラバウトの標高差は約四千メデルトもある。
 俺は百キルクの鉱石を担いで、何度も崖を飛び降り、山道を下り、樹海を越えた。
 過酷な道だが慣れたもので、早朝に家を出れば市場が開く頃には村に着く。

 以前はもっと軽い重量でも下山に丸一日かかっていたし、何度も本気で死を覚悟したこともあった。
 慣れというものは恐ろしい。

 俺が開拓した秘密のルートを通り、無事ラバウトに到着。
 まずは市場を仕切る商人ギルドへ向かう。
 ギルドで出店の手続きを済ませ、決められた出店場所へ移動。

「おう、アル! 一週間ぶりだな! 今回の鉱石はどうだ!」

 市場の出店場所に着くなり、鍛冶師のクリス・ワイアが大声で叫ぶ。
 クリスは髭を蓄えた筋肉隆々な男で、この街一番の鍛冶師だ。

「おはよう、クリス。今回も良い石が採れたよ」

 俺の声が聞こえたのか「アルが来た」と、瞬く間に囲まれてしまった。

「何これ! 凄い綺麗!」
「アル! この石は何?」
「ちょっと待って皆。今並べるから」

 俺は持ってきた鉱石を並べ始めた。
 俺が採掘した希少鉱石は高価だ。
 だから一般の住人が買えるようなものではないし、鉱石だけ買っても意味がない。
 鍛冶師や宝飾職人が加工するか、商人が交易や献上品として買っていく。
 しかし、珍しい鉱石をひと目見たいと、いつも人だかりができる。

 鉱石を並べ終わると、クリスが鉱石を見定めた。

「おめえ、この緑鉱石は驚くほど良質じゃねえか! こっちも質の良い竜石! いいぞ!」

 緑鉱石は宝飾品として使われる美しい鉱石で、レア五の希少鉱石だ。
 竜石は高級な武具の素材となる鉱石で、こちらも同じくレア五で高価な希少鉱石となる。

「アル、緑鉱石と竜石は俺が全部買い取る! ちょうど剣の依頼があったんだ! ガハハハ」
「分かったよ、クリス。値段は金貨二枚でどう?」
「任せろ! ガハハハ」

 あっけなく商談成立。
 クリスはいつも言い値で買ってくれる。
 もちろん俺も相場は把握しており、相場の範囲内で売っていた。

「ちょっと待てぇ! はあ、はあ。くそ、遅かったかあ」

 俺の出店に向かって叫ぶ声が聞こえた。
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