鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
2 / 414
第一章

第2話 市場で鉱石を売る

しおりを挟む
 山の朝は早い。
 空の色が青紫に染まり始めると、下界に見える地平線から顔を出す太陽。
 いつ見ても凄まじい景色だ。

 天気は快晴。
 フラル山は非常に穏やかな天候で知られる。
 俺がこの地に住み続けている理由の一つだった。

 冷たい水で顔を洗い、街へ降りる支度をする。
 いつものように頑丈な鉄製の天秤棒を準備。
 今週採掘した希少鉱石の重量は約百キルク。
 いつもより量が多い希少鉱石を、二つの籐籠に分けて入れる。

「よし! エルウッド行くよ!」
「ウォン!」

 天秤棒を首の後ろで担ぎ、両手で添えバランスを取りながら歩き始める。

 フラル山には、標高千メデルトほどの場所にラバウトという大きな街がある。
 俺は採掘した鉱石を週に一回、このラバウトの市場で売っていた。

 自宅とラバウトの標高差は約四千メデルトもある。
 俺は百キルクの鉱石を担いで、何度も崖を飛び降り、山道を下り、樹海を越えた。
 過酷な道だが慣れたもので、早朝に家を出れば市場が開く頃には村に着く。

 以前はもっと軽い重量でも下山に丸一日かかっていたし、何度も本気で死を覚悟したこともあった。
 慣れというものは恐ろしい。

 俺が開拓した秘密のルートを通り、無事ラバウトに到着。
 まずは市場を仕切る商人ギルドへ向かう。
 ギルドで出店の手続きを済ませ、決められた出店場所へ移動。

「おう、アル! 一週間ぶりだな! 今回の鉱石はどうだ!」

 市場の出店場所に着くなり、鍛冶師のクリス・ワイアが大声で叫ぶ。
 クリスは髭を蓄えた筋肉隆々な男で、この街一番の鍛冶師だ。

「おはよう、クリス。今回も良い石が採れたよ」

 俺の声が聞こえたのか「アルが来た」と、瞬く間に囲まれてしまった。

「何これ! 凄い綺麗!」
「アル! この石は何?」
「ちょっと待って皆。今並べるから」

 俺は持ってきた鉱石を並べ始めた。
 俺が採掘した希少鉱石は高価だ。
 だから一般の住人が買えるようなものではないし、鉱石だけ買っても意味がない。
 鍛冶師や宝飾職人が加工するか、商人が交易や献上品として買っていく。
 しかし、珍しい鉱石をひと目見たいと、いつも人だかりができる。

 鉱石を並べ終わると、クリスが鉱石を見定めた。

「おめえ、この緑鉱石は驚くほど良質じゃねえか! こっちも質の良い竜石! いいぞ!」

 緑鉱石は宝飾品として使われる美しい鉱石で、レア五の希少鉱石だ。
 竜石は高級な武具の素材となる鉱石で、こちらも同じくレア五で高価な希少鉱石となる。

「アル、緑鉱石と竜石は俺が全部買い取る! ちょうど剣の依頼があったんだ! ガハハハ」
「分かったよ、クリス。値段は金貨二枚でどう?」
「任せろ! ガハハハ」

 あっけなく商談成立。
 クリスはいつも言い値で買ってくれる。
 もちろん俺も相場は把握しており、相場の範囲内で売っていた。

「ちょっと待てぇ! はあ、はあ。くそ、遅かったかあ」

 俺の出店に向かって叫ぶ声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界でパッシブスキル「魅了」を得て無双する〜最強だけど最悪なスキルに振り回されてます〜

蒼井美紗
ファンタジー
突然異世界に飛ばされた涼太は、何故か最大レベルの魅了スキルを得た。しかしその魅了が常時発動のパッシブスキルで、近づいた全ての人や魔物までをも魅了してしまう。 綺麗な女性ならまだ良いけど、ムキムキの筋肉が目をハートにして俺に迫ってくるとか……マジで最悪だ! 何なんだよこのスキル、俺を地球に帰してくれ! 突然異世界に飛ばされて、最強だけど最悪なスキルを得た主人公が、地球への帰り方を探しながら異世界を冒険する物語です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...