コン太と私

セライア(seraia)

文字の大きさ
1 / 1

コン太と私

しおりを挟む
*江戸時代風の疑似世界です。

 **********

「コン太、どこぉ?」
「クーン」

 呼び声に答える鳴き声。そちらを見ると、1匹の子狐。 
 会えたことに安心して近寄ると、向こうからもトテトテと歩いてくる。可愛い。

 いつもなら、笑顔全開で抱き上げてギュッてするけど、今日は出来なかった。


「コン太、ごめんね。おやしろ、無くなっちゃう……。」
「……。」

 かすかに 微笑ほほえんで、そっと抱き上げて軽くほおずりをすると、目を合わせる。


「古くなったし、誰も来ないし、おやしろらないからこわすんだって……。あそこはコン太のおうちなのに……。」
「……。」

 なんか、泣きそう……。


「やめてってお願いしたけど、ダメだって。古くて危ないし、最近うろついてる悪い人が隠れたり住みついたりすると困るから、って……。」
「……。」

「おやしろ無くなったら、コン太は、どこに住むの? 居なくなっちゃう? もう会えない?」
「……。」

「……ウチに来る? ごめんね、無理だよね。 あんなにひどい怪我ケガしてて、その手当ての間だけって言ってもウチに来なかったんだから……。」
「……。」

「私が大人だったら、新しく、大人がはいれない小さなおやしろを作るのに……。」
「……。」

「そうか。作ればいいんだ。今みたいなおやしろじゃなくてもいい? 木と石で、雨や風が入って来ないくらいのなら作れるかも……。そしたら、そこに住んでね?」



 あたしウチは小さないおり
『お稲荷いなりさんの森』に入って少ししたところに有る。
祖父じいちゃんが森の木を切ったり小動物を狩って、あたしが木の実を拾ったりたきぎを集めたりして生活してる。
祖母ばあちゃんとお父さんとお母さんは病気で天国に行っちゃったんだって。

 森をさらに奥に入ると綺麗な池が有って、そのほとりにお稲荷いなりさんのおやしろが有る。
ここがコン太との出会いの場所で、今、あたしが居る場所。



 ある日、奥は危険なけものが出るかもしれないからダメだと言われていたのに、薪拾たきぎひろいに夢中になってたらおやしろの前まで来ていた。 
 その横で、おなか怪我ケガしてうずくまってたのがコン太。
見つけた時にはビックリした。
だって、お稲荷いなりさんのおやしろの横に狐だよ? 神様の化身けしん御遣みつかいだと思うじゃない。 
 驚いて、でも可愛くて思わず近寄ったら怪我ケガに気付いて、またビックリ。
神様の化身けしん御遣みつかいが怪我ケガしてるなんて……!
だから、普通の子狐として扱うことにした。

 近づいても逃げなかったから、抱き上げてウチで手当てしようとしたら、思いっきり暴れられた。
傷口が開いたのか、止まってた血が流れるのにも構わず暴れるから、絶対イヤだって気持ちが伝わって、連れて帰るのはあきらめた。
池で血を落として傷を洗って、持っていた傷薬を塗って、手拭てぬぐいを巻く。
すると、コン太がおやしろの階段を上がるから、ドアを開けると奥で丸くなる。

 『ココに住んでるんだなぁ』って分かって、『ココに来ればまた会える』って嬉しかった。
だって、友達が居なくてさびしかったから……。
近くには同じ歳や年下の子供は居ないし、少し上の子は村で仕事が忙しかったり街に奉公に出てたから。
 『コン太と仲良くなれたらなぁ』って思った。 
『コン太』って名前はあたしが考えた。怪我ケガの手当てで話し掛けるときとか、名前が無いと呼びにくかったから。


 それから、毎日、怪我ケガの手当に来た。
稲荷いなりさんみたいに油揚あぶらあげを食べるか分からなかったし、油揚あぶらあげは高価だとかであたしたちでは手に入らない。だから、オカラとお肉を少し持って来た。 
 回復したころには、お祖父じいちゃんが心配するから毎日は無理でも、時々会いに来た。迷うこともけものに会うことも無かったけどね。

 コン太は池の浅瀬で小魚やカニを捕って食べてた。やっぱり普通の狐なのかなって思った。
でも、コン太は池の深いところには絶対に入らなかった。小魚は、口先か爪で岸に飛ばしてから捕まえてた。時々、尻尾しっぽの先を水に入れてすって、食いついた魚を岸に飛ばしたりもして、賢いなぁと思った。

 コン太は呼ぶと出てくるし、あたしの隣にちょこんと座って話を聞いてくれる。
それだけで嬉しかったし楽しかった。



 さて、おやしろの取りこわしが決まって、あたしはコン太のおうち作りを始めた。

 お稲荷いなりさんにお祈りして、周りの崩れた石垣の石を使わせてもらった。おやしろが小さかったから、石垣の石も子供のあたしでも運べる大きさだった。
 運ぶ場所は、近くのほらの有る木の横。ここなら、おうちが壊れてもほら避難ひなんできる。

 石を並べて、そこに池の泥を乗せて上に石を積む。
祖父じいちゃんがかまどを作っていた時の様子を思い出して作る。
床にも石を敷いて小枝を敷いた上に木の葉を敷き詰める。
木の葉は、いい香りのと虫除けと湿気取りのと、少しだけ傷を直すものも混ぜる。
 屋根は石では無理だった。あたしの力が足りないし、どうやるのがいいのか分からなくて……。
だって、お祖父じいちゃんのかまどには屋根なんて無いんだもの。
 だから、左の壁の上から右の壁の上に太い枝をびっしり渡し、その上に交叉させるように細い枝を乗せて、大きな葉っぱを敷き詰めた上に最初のと同じように太い枝を渡して、壁の上に重石おもしの石を並べて乗せた。
近所の鶏小屋がそんな作り方をしてあった気がしたから……。


 近くとは言っても子供の足にはそれなりに遠く、子供の力では一度に運べる石も少なく、枝や葉を見つける時間も必要だった。あたし、なんで、まだ7歳なんだろう……。
大変だったし時間もかかったけど、楽しかった。
子供あたしでも出来ることが有る、それが友達コン太の為になる、完成すれば友達コン太が居なくならない……。
 それに、コン太は何も出来ないけど、いつでもそばに居てくれた。
あたしの横をテトテト付いて歩き、ちょこんと座って作業を見てた。
それだけでうれしかった。



 そして、とうとう完成。
 やったぁ! ってことで、今日はお稲荷いなりさんに報告とお礼に来た。
油揚あぶらあげは無理だから、オカラを持って……。取りこわしは3日後だから、最後のおまいりになる。
 石を運び出すのが終わって、久しぶりのおやしろ
そこには、知らない人たちが居た。大きな、怖そうな大人の男の人たち。
なんとなく、近づいちゃ危ない気がして、近くの木に隠れる。

 おやしろの中から1人がおそなえ用の台を持ち出して、そこに何やら乗せるとお酒を飲み始める。大声で騒ぎ、お稲荷いなりさんの石像を蹴飛ばしてこわして盛り上がってる。
信じられない! 
 思わずコン太を見ると、あたしの横に座ってじっと見てる。
そっと抱き上げて、『ごめんね』とつぶやく。だって、あんなことになってる。
それだけでも苦しいのに、あたしには何も出来ない。怖くて震えて身体が動かない。 
『どうして、そんなことするの?』
『どうしてあたしは子供なの?』
『どうしてあたしは何も出来ないの?』
悲しくて悔しくて、頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えられなくて……。

 そんな時、風が吹いた。
突然の強い風にられて、子供の体は簡単によろめく。
 そして、『あ……』、男の1人と目が合った。
慌てて逃げようとするも大人の足にはかなうはずもなくて……。
 あっさり捕まったと思ったら、『邪魔だ』と放り投げられて、落ちた先は池。
その瞬間にコン太の鳴き声が聞こえた気がする。

 とぷんと池に落ちた後は、ゆっくり沈んでいく。
 初めは何も考えられなくて、このままじゃおぼれると気付いてもがこうとしたら、足に水草がからんで動けなくて、水草をはずそうとしたら息が苦しくなって……。
 一瞬、今は池に沈んでいるというお稲荷いなりさんの昔のおやしろが見えた気がした。



 ……ココはどこだろう?
青い空に一面の花畑。そよ風に揺れる花の音しか聞こえない。
なんとなくボーっとして立ち尽くす。


『クーン』

鳴き声? まさか、コン太? 見回すけど居ない。
足元に触れる何かを見下ろすと、コン太が居た。
抱き上げると温かくて、ホッとする。


「コン太、ここはどこだろうね。きれいだね。でも、お花畑しか無いよ。」
「……。」

「だれか居ないかな。私はどうすればいいのかな。おうちに帰れるのかな。」
「……。」

 その時、少し強めに風が吹いて、コン太があたしの腕からすべり降りる。そして、いきなり走り出すから思わず追いかけた。


「待って! どこに行くの? 置いていかないで!」
「……。」

 泣きそうになりながら追いかけるけど、コン太は止まってくれなくて……。
やっと追いついたと思ったらコン太の体が浮き上がって、あたしより少し上に居るコン太に手を伸ばすけど捕まえることができない。

 そのまま、あたしまで、何かに吸い寄せられるように上に上がっていく。手を伸ばし続けてるのに、コン太との距離は埋まってくれなくて……。 


 『コン太!』 あたしの叫び声に、『コーン!』とコン太にしては珍しく大きな鳴き声が返ってきた気がした。



 *** 完 ***



 コン太の正体もエンディングの真実も、作者は敢えて考えてません。
吸い寄せられるようにして浮かんでいった、その先に有るものは……?
自由に想像してくださいね。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...