予想外のハッピーエンド【連載版】

セライア(seraia)

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本編

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 さて、そんなある日、『ライル様から逃げ回ってる』と周りに認識されてる私は、とうとう王宮のすみでライル様に捕まっていた。


「シエラ嬢、ラウルたちにかまけてないで俺を見てよ。」

 いわゆる壁ドン状態で、私をじっと見つめて甘い声でささやいてくる。しかも、わざわざ最初に名前を呼んで……。
普通の令嬢だったらアッサリ落ちただろう。でも、私は落ちない。
見つめてくる眼には楽しそうな光が、ささやいてくる声にはからかうような響きをシッカリ感じ取っていたから当然でしょ?
だてに逃げ回ってない──性格知ってる──し、近い分だけ表情とかよく見える──壁ドンが逆効果だ──し、王子様達やライラによって美形に耐性できてるし、ね。
 ちなみに、ラウル殿下・ライル様・ライラ・私はそれぞれお互いに名前呼び。血の繋がりとか身分の近さとか幼馴染み同様だからとかで全員同意のうえだし、国王夫妻含む周りも認めてるので問題無し。


「そんな冗談は無駄です。で、私にどうしろと?」
「そんな冷たい……って、ねてみせても無駄、か。ラウル達から手を引け。他人が手や口を出すな。」 

 無礼なほど直球な私の質問に、一瞬いつものようにふざけかけたようだったが、すぐに真顔で返してきた。


「ライラは私の従姉いとこよ!それに、貴方だって彼女のも知ってるでしょう?」
「こういう問題では本人達以外は他人だ。事情なんて克服すればすむ。」

 ラウルの一方的な言い分に、思わず跳ね返すように反論する。


「原因を知らないくせに……っ!」
「原因? 知らないくせにと言うなら説明して納得させろ。」
「嫌よ。言わない。彼女を苦しめようとする相手に話すわけ無いでしょう?」

 つい余分なことまで口走った私に、ライル様はすかさず畳み掛けてくる。ホント、頭の回転が早くて、嫌な人。


「じゃぁ、仕方ないな。俺と婚約してもらおうか。」
「は? 誰が? まさかライラ? なんでそうなるの? そんな馬鹿な!?」

 いきなりのトンデモ提案に取り乱し、またもや反射的に言い返してしまう。


「ライラじゃない。シエラ嬢、貴女が、だ。」
「は? 私? なんで? 話がつながらないじゃない。」
「俺と婚約すれば、貴女は色々な準備などで忙しくなってライラにくっついていられないし、俺が貴女のそばに張り付いていても不自然じゃないだろう?」
「それはそうだけど……じゃない!!そんなの無茶苦茶よ!そうまでして私の邪魔したいの? この件については、私が他人だというなら貴方もそうでしょう?」

 わけのわからない主張にも、私に張りついて妨害するかのような言い分にも、なんとか冷静になって切り返す。


「さすが賢いな。俺の相手として申し分無い。」
「そうじゃなくて……!」
「わかってるか? 貴女の俺に対する今までの言動は王族に対する不敬罪にもできるんだぞ?」
「!! おどすの? いまさら? (よりによって)今になって!」
「わかったら、手を引くか、婚約か、選ぶんだな。」
「……わかったわ。手を引くわ。でも見守ったり相談に乗るくらいはいいでしょう?」
「……いいだろう。ただし、入れ知恵とか余分なことを言うなよ?」

 おだてておどして譲歩する様子を見せて……なんて人なの!? 完全に知能犯よね。しかも猫かぶりの腹黒。ホント、嫌な人。


「わかったわ。でも、私はあくまでも彼女の味方よ? 彼女の意志が最優先、文句は言わせない。」
「わかってる。」

 私は、なんとか冷静さを保ちながら彼の腕の囲いから逃げ出すのが精一杯だった。





 ライル様との会話で思わず口から出た『原因』という言葉。実は、その『原因』を作ったのが他ならぬラウル殿下自身だと、私はライラ本人から聞いている。

 ライラの実家は侯爵家の筆頭、つまり彼女は間違まごうかたなき高位貴族の令嬢。そして、ライル様よりは薄いながらも王族の血を引いている。その血筋も美しさも生まれたときから保証されてるようなものだから、まさしく " その命が確認された瞬間 " から周りからの注目の的だったんだろう。
 そして年月が流れ、ラウル殿下が10歳になった時、当然のように、同じ歳の彼女は彼の婚約者候補にげられた。それによって、周りは、彼女の一挙手一投足に注目し、一言一句に耳をそばだてるようになる。今までのような、ただの侯爵令嬢としてではなく、第2王子殿下の婚約者候補として……。

 ラウル殿下の婚約者候補にがった当初は、まるで物語のように令嬢やその家族から嫌味を言われたりしていた。

『さすが侯爵令嬢、その美しさを生まれながらに持つとはうらやましいこと』
『その美しさだけでも、第2王子殿下の隣にふさわしいという意見が出るのは納得ですな』

 最もよく言われたのが、こういう内容。血筋と美貌をねたそねんで、それらをめると見せて彼女自身をおとしめようとする醜い言葉たち。
 それらの嫌味は、私が彼女の隣に居ても発せられた。実家も伯爵家で、ライラほど美しくはなく、第2王子殿下の婚約者候補でもない……さらにはライラよりも2つも年下の私に聞かれても大したことにはならないと思っていたんだと思う。
でも、私はライラの──筆頭侯爵家令嬢の──従妹いとこなのだ。伯爵令嬢ながら立場は侯爵令嬢に近く、それを自覚しろと教育されている。そこらの令嬢には通じない嫌味にも気づいていたから、ライラを守る方法をお父様に相談した。

「それなら、ライラと一緒にシエラももう少し頑張ろうか」

 お父様にとって、ライラは姪(兄の娘)であり、自身の娘である私の従姉いとこにして親友なのだから、まったくもって他人事ではない。血筋と美貌をネタにしづらくなるほどに、それ以外も磨き上げておけば、付けこむ隙を減らすことにも繋がると考えてのアドバイスだったんだと思う。
 私を巻き込んだのは、ライラと私のやる気を継続させるためとか、私自身の向上のためがメインだったんだろうけどね。
今となっては、私が第3王子殿下やライル様の婚約者候補にがる可能性を考えての備えでもあったのかなぁ、と……。
実際、私が第3王子殿下の婚約者だった時はライラと似たような状況になったし……。

 そうして強化することが決まった私たちの教育、その努力と成果……それらはラウル殿下も知ってたはずなのに、彼は否定するようなことを言ったのだ。
、かつてライラの血筋と美貌をネタとした嫌味と同じようなことを……。彼女がラウル殿下を拒否するようになるのは当然だと思う。
 そして、それは私自身にとっても " 努力と成果の否定 " という点では同じなわけで、私の中のラウル殿下への評価は──ライラを傷つけたこととともに──下がったのだった。
 そういう流れの中、ライラと私の中で、ライラに近づくラウル殿下をあおるような言動をするライル様への評価も下がるのは、当然でしょ?

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