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元カノ
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元カノに出会ったのは、今からちょうど半年前。
とあるチャットアプリでその子を見つけた。
最初はただ話しているだけだった。
二つ年下のその子は、りょうこという名前だ。
意識なんかまったくしていなかった。
可愛らしい妹のような存在だった。
お互い住みどころか顔すらも知らない間。
それでも話すのが楽しくて、毎日気付けば夜遅くまで話し込んでいた。
そんなある日、りょうこが言ってきた。
まことくんのこと好きだよ、とそんな風なことを。
もう半年も前のことなのではっきりとは覚えていないのだが。
その言葉で俺は、一瞬にしてりょうこを意識し始めたように思う。
少し前から好きなのかな、とは思っていたのだが無意識に意識しないようにしていたのかもしれない。
そのときの俺はまだ、クズではなかったように思う。
俺は小瀬スポーツ公園の体育館に来ていた。
今日は部活(ハンドボール)の大会なのだ。
九時半に体育館前集合なので俺は九時十五分に家を出る。
五分もあれば着く距離をのんびりと、十分近くもかけて歩いた。
散歩は好きだ。
体育館前に到着すると、ほとんどが集合している。
後輩から挨拶されないので少しイラっとしながら、俺の方から挨拶してあげる。
体育館に入るとすでに他校の生徒たちがひしめいていた。
この大会は山梨県でも大きな大会なので、学校から応援が来たりする。
俺たちの高校からも数十人のやる気の無さそうな文化部の生徒たちが、だるそうに集まっている。
こんなやつらに応援されたいとはとても思わないが、一応ありがとうと言っておく。
第一試合の後半が始まり、アップを終えた俺たちは他校の試合を観戦しつつ試合の準備を進めていた。
友達がトイレに行くと言うので、ついでに俺もと思い席を立つ。
会場にはたくさんの人がいて、トイレに行くことすらめんどくさかった。
トイレを済ませ席に戻ろうとしたとき、女の子とすれ違った。
「え…?」
思わずその子の背中を凝視してしまう。
りょうこに似ていた。
もしかしたら本人かもしれない。
遠ざかっていく背中に声をかけようか迷っているうちに、人混みに紛れてりょうこは見えなくなってしまう。
「りょうこ…!」
言うことを聞かない足をなんとか一歩踏み出したところで、後ろから服を引っ張られた。
友達が、もう試合始まるから戻ろうとこちらも見ないで歩き出す。
今の一瞬で、心臓は破裂しそうなほど心拍数をあげた。
手を伸ばせなかった後悔が頭の中を支配する。
俺はまだ、りょうこが好きだった。
涙を必死に堪えて、試合が始まるのでみんなの元へ戻る。
一日中、胸が締め付けられて苦しかった。
試合中も試合後も、会場を探してみたがりょうこの姿はなかった。
俺の見間違いだったのかもしれない。
その日俺は家に帰ってから、荷物をその辺に放り投げて汗もそのままに布団に飛び込んだ。
枕に顔を押し付け、声を殺して泣いた。
会いたいよ、と呟いても部屋には俺一人。
りょうこに聞こえるはずもない。
誰にも話せない苦しみに、俺はまたクズになっていく。
止めてくれる人は誰もいない。
とあるチャットアプリでその子を見つけた。
最初はただ話しているだけだった。
二つ年下のその子は、りょうこという名前だ。
意識なんかまったくしていなかった。
可愛らしい妹のような存在だった。
お互い住みどころか顔すらも知らない間。
それでも話すのが楽しくて、毎日気付けば夜遅くまで話し込んでいた。
そんなある日、りょうこが言ってきた。
まことくんのこと好きだよ、とそんな風なことを。
もう半年も前のことなのではっきりとは覚えていないのだが。
その言葉で俺は、一瞬にしてりょうこを意識し始めたように思う。
少し前から好きなのかな、とは思っていたのだが無意識に意識しないようにしていたのかもしれない。
そのときの俺はまだ、クズではなかったように思う。
俺は小瀬スポーツ公園の体育館に来ていた。
今日は部活(ハンドボール)の大会なのだ。
九時半に体育館前集合なので俺は九時十五分に家を出る。
五分もあれば着く距離をのんびりと、十分近くもかけて歩いた。
散歩は好きだ。
体育館前に到着すると、ほとんどが集合している。
後輩から挨拶されないので少しイラっとしながら、俺の方から挨拶してあげる。
体育館に入るとすでに他校の生徒たちがひしめいていた。
この大会は山梨県でも大きな大会なので、学校から応援が来たりする。
俺たちの高校からも数十人のやる気の無さそうな文化部の生徒たちが、だるそうに集まっている。
こんなやつらに応援されたいとはとても思わないが、一応ありがとうと言っておく。
第一試合の後半が始まり、アップを終えた俺たちは他校の試合を観戦しつつ試合の準備を進めていた。
友達がトイレに行くと言うので、ついでに俺もと思い席を立つ。
会場にはたくさんの人がいて、トイレに行くことすらめんどくさかった。
トイレを済ませ席に戻ろうとしたとき、女の子とすれ違った。
「え…?」
思わずその子の背中を凝視してしまう。
りょうこに似ていた。
もしかしたら本人かもしれない。
遠ざかっていく背中に声をかけようか迷っているうちに、人混みに紛れてりょうこは見えなくなってしまう。
「りょうこ…!」
言うことを聞かない足をなんとか一歩踏み出したところで、後ろから服を引っ張られた。
友達が、もう試合始まるから戻ろうとこちらも見ないで歩き出す。
今の一瞬で、心臓は破裂しそうなほど心拍数をあげた。
手を伸ばせなかった後悔が頭の中を支配する。
俺はまだ、りょうこが好きだった。
涙を必死に堪えて、試合が始まるのでみんなの元へ戻る。
一日中、胸が締め付けられて苦しかった。
試合中も試合後も、会場を探してみたがりょうこの姿はなかった。
俺の見間違いだったのかもしれない。
その日俺は家に帰ってから、荷物をその辺に放り投げて汗もそのままに布団に飛び込んだ。
枕に顔を押し付け、声を殺して泣いた。
会いたいよ、と呟いても部屋には俺一人。
りょうこに聞こえるはずもない。
誰にも話せない苦しみに、俺はまたクズになっていく。
止めてくれる人は誰もいない。
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