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I
XXXI
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翌日、翌々日もダンスの練習に明け暮れ、一週間もすると舞踏会と無縁だと思っていた四季の動きも中々様になってきた。
月城曰く、これならいつ踊っても大丈夫だそうだ。
毎日何時間も二人で踊っているため、自室へ帰り布団に潜っても、体がゆらゆらと揺られている感覚が消えず、握られ続けていた手や背中に添えられた彼の冷たい感触まで残っている。
小さな窓から差し込む月の光が揺蕩う布団の上で、揺りかごに揺られていると錯覚しながら眠りにつく毎日だったが、舞踏会とは別に四季を脅かす存在がいることはすっかり頭から抜けていた。
「今日教えた所までがテスト範囲だ。
舞踏会で浮かれている生徒も多いだろうがが、期末テストのことも忘れずしっかり勉強するように。
今日の授業はここまでとする。」
(期末テストのことすっかり忘れてた...。)
ただでさえ授業の進むスピードが早く、舞踏会だけでも手一杯だというのに更にテストもあるなんて。
期末テストがあることは当たり前ではあるが、両方とも器用にこなすことが四季に出来るのだろうか。
「勉強...出来ない...。
綾斗、勉強教えて。」
「景光は教えてる途中で寝るから嫌だ。」
背後で月城と如月が小さな声で喋っている。
周りの生徒はそんな彼らの邪魔をしないように、ひっそり...うっとりと二人の会話に聞き耳を立てていた。
「だって退屈なんだもん...。」
「...最初から教わる気無いだろ。」
「...高等部からは赤点制度があるって聞いた。
お願い、何でもするから教えて。」
「君の「なんでもする」の発言ほど価値の無いものはないよ。
だから却下。」
「ケチ。」
拗ねたように唇を尖らせ、机に突っ伏した如月は、声を籠らせたまま続け様に発言する。
「綾斗抜きで勉強会するわ。」
「どうぞご勝手に。」
呆れたように如月を突き放した彼は、鞄から本を取り出し脚を組みながら優雅にそれを眺めていた。
「そこは僕も入れてって言う所だろ...だからお前には友達が少ないんだよ。」
授業中も休み時間もそっちのけで読書に耽ける月城は、長いまつ毛を時にはばさりと揺らしながら「はいはい」と軽くあしらっている。
こんなことを言うと如月ファンから袋叩きにあうだろうが、特別如月にも友達は多そうに見えない。
「じゃあ...黒須、俺と一緒に勉強しよっか。」
「えっ。」
背後から突然声を掛けられ恐る恐る後ろを見やると、如月は頬杖を付きながら指先で机をトン、と叩いた。
(これは、西園寺も誘え...と言うことか...?)
意味もなく勘ぐってしまいながらも、チラリと月城を盗み見る。
「!」
こっちを見ている。
「そんな、突然言われても...。」
まつ毛の奥にあるルビーは妖しく光ながら、四季がどう応えるのかを伺っているようで堪らず口篭った。
「黒須の好きな奴連れてきていいから...密とか、あと...加賀美?とか。
..........西園寺とか。」
(西園寺も密も一緒だろ。)
西園寺はあからさまに聞こえないフリをしている。
いつもなら何をするにしても一緒にやると言って聞かないくせに、如月が居ると途端に消極的になるのは如何なものか。
とは言え...、あまり西園寺に負担をかけたくないのも事実だ。
「俺と如月の二人ですんのはダメなの?」
「...別にそれでもいいけど、黒須も勉強出来ないじゃん。
分かんないとこ誰に聞くつもり?」
「はっ......!確かに...!!」
「不本意だけど...、馨くんに教えて貰うか。」
如月が口にした名前に、背筋が伸びる。
あの日以来、百目鬼の姿は見ていないが彼と会うのは少し気まずい。
百目鬼が素直に勉強を教えてくれるとも到底思えず、余計に勉強したくなくなる。
「つ...月城...。」
縋るように呼んだ名前は、本を読む男を愉快にさせた。
「どうしたの?」
パタリと本を閉じ、小首を傾げたまま僅かに口角を上げる。
愛しいものを見つめる優しい瞳に四季の胸はキュッと締め付けられた。
「俺、月城に勉強教えて貰いたいんだけど...。」
「...もちろん、いいよ。
じゃあ今週の土曜...10時に景光の部屋に集合ね。」
「黒須って本当使える奴だよなぁ...。
黒須、俺の部屋の場所はあとで伝えるから。」
うんうん、と頷いた如月はそのまま寝る体勢を整え始める。
月城から勉強を教えて貰えるからと言って、授業中に寝るのは違うだろ。
なんて物申したくなるが、如月にそんなことを言っても無駄なのかもしれない。
ものの数秒で深い眠りについた彼を諭せる者はいなかった。
再び本に目を落とす月城には軽くお礼を伝えてから四季は椅子に座り直す。
月城には頭が上がらないほどお世話になっている。
日常生活、ダンス、勉強面に加えて......自分の欲求の解消まで...。
思い出しては熱くなる頬を抑えた四季は、何かしらお返しをしなければならないと思いノートにペンを突きつけたが
「...。」
読んでいる本
血以外の好物
趣味や好み
彼のことは、まだあまりよく分かっていない。
月城曰く、これならいつ踊っても大丈夫だそうだ。
毎日何時間も二人で踊っているため、自室へ帰り布団に潜っても、体がゆらゆらと揺られている感覚が消えず、握られ続けていた手や背中に添えられた彼の冷たい感触まで残っている。
小さな窓から差し込む月の光が揺蕩う布団の上で、揺りかごに揺られていると錯覚しながら眠りにつく毎日だったが、舞踏会とは別に四季を脅かす存在がいることはすっかり頭から抜けていた。
「今日教えた所までがテスト範囲だ。
舞踏会で浮かれている生徒も多いだろうがが、期末テストのことも忘れずしっかり勉強するように。
今日の授業はここまでとする。」
(期末テストのことすっかり忘れてた...。)
ただでさえ授業の進むスピードが早く、舞踏会だけでも手一杯だというのに更にテストもあるなんて。
期末テストがあることは当たり前ではあるが、両方とも器用にこなすことが四季に出来るのだろうか。
「勉強...出来ない...。
綾斗、勉強教えて。」
「景光は教えてる途中で寝るから嫌だ。」
背後で月城と如月が小さな声で喋っている。
周りの生徒はそんな彼らの邪魔をしないように、ひっそり...うっとりと二人の会話に聞き耳を立てていた。
「だって退屈なんだもん...。」
「...最初から教わる気無いだろ。」
「...高等部からは赤点制度があるって聞いた。
お願い、何でもするから教えて。」
「君の「なんでもする」の発言ほど価値の無いものはないよ。
だから却下。」
「ケチ。」
拗ねたように唇を尖らせ、机に突っ伏した如月は、声を籠らせたまま続け様に発言する。
「綾斗抜きで勉強会するわ。」
「どうぞご勝手に。」
呆れたように如月を突き放した彼は、鞄から本を取り出し脚を組みながら優雅にそれを眺めていた。
「そこは僕も入れてって言う所だろ...だからお前には友達が少ないんだよ。」
授業中も休み時間もそっちのけで読書に耽ける月城は、長いまつ毛を時にはばさりと揺らしながら「はいはい」と軽くあしらっている。
こんなことを言うと如月ファンから袋叩きにあうだろうが、特別如月にも友達は多そうに見えない。
「じゃあ...黒須、俺と一緒に勉強しよっか。」
「えっ。」
背後から突然声を掛けられ恐る恐る後ろを見やると、如月は頬杖を付きながら指先で机をトン、と叩いた。
(これは、西園寺も誘え...と言うことか...?)
意味もなく勘ぐってしまいながらも、チラリと月城を盗み見る。
「!」
こっちを見ている。
「そんな、突然言われても...。」
まつ毛の奥にあるルビーは妖しく光ながら、四季がどう応えるのかを伺っているようで堪らず口篭った。
「黒須の好きな奴連れてきていいから...密とか、あと...加賀美?とか。
..........西園寺とか。」
(西園寺も密も一緒だろ。)
西園寺はあからさまに聞こえないフリをしている。
いつもなら何をするにしても一緒にやると言って聞かないくせに、如月が居ると途端に消極的になるのは如何なものか。
とは言え...、あまり西園寺に負担をかけたくないのも事実だ。
「俺と如月の二人ですんのはダメなの?」
「...別にそれでもいいけど、黒須も勉強出来ないじゃん。
分かんないとこ誰に聞くつもり?」
「はっ......!確かに...!!」
「不本意だけど...、馨くんに教えて貰うか。」
如月が口にした名前に、背筋が伸びる。
あの日以来、百目鬼の姿は見ていないが彼と会うのは少し気まずい。
百目鬼が素直に勉強を教えてくれるとも到底思えず、余計に勉強したくなくなる。
「つ...月城...。」
縋るように呼んだ名前は、本を読む男を愉快にさせた。
「どうしたの?」
パタリと本を閉じ、小首を傾げたまま僅かに口角を上げる。
愛しいものを見つめる優しい瞳に四季の胸はキュッと締め付けられた。
「俺、月城に勉強教えて貰いたいんだけど...。」
「...もちろん、いいよ。
じゃあ今週の土曜...10時に景光の部屋に集合ね。」
「黒須って本当使える奴だよなぁ...。
黒須、俺の部屋の場所はあとで伝えるから。」
うんうん、と頷いた如月はそのまま寝る体勢を整え始める。
月城から勉強を教えて貰えるからと言って、授業中に寝るのは違うだろ。
なんて物申したくなるが、如月にそんなことを言っても無駄なのかもしれない。
ものの数秒で深い眠りについた彼を諭せる者はいなかった。
再び本に目を落とす月城には軽くお礼を伝えてから四季は椅子に座り直す。
月城には頭が上がらないほどお世話になっている。
日常生活、ダンス、勉強面に加えて......自分の欲求の解消まで...。
思い出しては熱くなる頬を抑えた四季は、何かしらお返しをしなければならないと思いノートにペンを突きつけたが
「...。」
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彼のことは、まだあまりよく分かっていない。
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