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ビビりとモフモフ、冒険開始

おい、風呂作ってる場合じゃねぇぞ!

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小梅と一緒に、宿へ帰って来た。
走るとすぐだね。人轢かないようにするの、大変だったけど。

「レヴァンさーん!」
『ただいまですー!』
「あら、ミライくん。お帰り。遅かったね?」
「ファルさん、サニーちゃん、ただいま!」
『ママ~♪』
『おかえりなさーい♪』
「おや…シオンくんは一緒じゃないのかい?」
「あ、やべ置いて来た。」

…レナさんと、ラルフ居るから大丈夫だとは思うけど。

「ファルさん、レヴァンさんは?」
「地下に籠っちゃってるよ。」
「ありゃ。庭で風呂入っていいか、聞きたかったんだけど。」

怪しい材料で、薬作ってるんだね…。
地下まで行くのは、ちょっと遠慮させてもらいたい。

「お風呂に?どうやって入る気だい?」
「小梅に土属性で浴槽作ってもらって、詩音が水入れて俺が暖める!」
「そりゃいいねぇ!やっておしまいよ。ヴァンちゃんには、おばちゃんから言っとくさ。」
「やった!よし、小梅。詩音待ってる間にも、ちょっと作っちゃおう!」
『はいです!』

小梅と一緒に庭へ出て、大体の位置を決める。
ドラム缶式もいいけど、体を伸ばしたいから横長にしてもらおう。

「小梅、俺が入れるくらいの、長方形の箱作れる?横に長くて蓋の無いやつ。」
『おまかせなのです!』

小梅が土を動かして、見事に良い感じの箱を作ってくれた。

「おお、いいじゃん!次はこの箱を、水入れても溢れなくて、火で暖めても割れないようにしてほしいんだけど…」
『カチカチにするです?』
「まあ、そうだな。」
『わかったのです!カチカチで、ボウボウに つよくするです!』

大丈夫かな?
…これ、成功したら土鍋作れるように成りそうだな。

───────

※その頃の料理長

「誘拐なぁ…男をか?」
「まあ、そんなところだな。」

シルフィード家に仕えて10年。
今日ほど屈辱を味わったことはなかった。

突然開かれることになった晩餐会。
メインはなんと、伝説のドラゴンの肉だという。
当然、我々が調理するものだと、皆で心を踊らせていたというのに。

その役目を横から拐って行った、小生意気な獣人。
羨ましい…いや、妬ましくすらあった。
ラルフ様のお友達らしいが、教養も礼儀も無い庶民の子供。
間違っても、貴族の食事を任せていい者ではないだろう。

そもそも、シルフィード家に獣人は御法度だ。
奥方様は獣人に恨みがあり、その話を聞いて育ったサリエル様とアンジェリカ様も、獣全般を敵視していらっしゃる。

旦那様は、人種関係なく誰にでも慣用で差別意識の無いお方だ。
ラルフ様も、初めは奥方様の話を鵜呑みにしていたが、冒険者になってからは獣人と知り合うことも度々あり、偏見は無くなったそうだ。
それでも、調理場に来るのが獣人と知った瞬間、殆どの使用人は、保身のために妨害することを決めた。
俺もその一人だ。

そもそも調理場に入れない、という妨害は執事に突破されてしまったが…手伝いとして残ったメイド達は、メイド長と奥方様付きの者2名だった。
暫くして、調理場から出てきたメイド2名に話を聞けば、奥方様から、調味料を決して渡すなと厳命されたそうだ。
これならマトモに作ることなど叶わず、投げ出すだろうと安心した。
新たに我々が作り直せば、奥方様も安心して召し上がられるだろう。

獣人の子には…食堂へ行かせては、奥方様からのイビりが待っているだろうから…可哀想だが調理場で食べさせよう。

そう思っていた。

しかし、彼はやり遂げてしまった。
調味料は、最低限の塩と胡椒のみ。
それで素晴らしい料理を作り上げたのだ。
この俺が嫉妬する程の腕だった。

メイド長から分けてもらった、あの料理。
ハンバーグという物らしいが…目から鱗だった。
肉とは塊で出すもの。固く噛み切れない肉は、じっくり煮込んで、柔らかくして出す。
コレが今までの常識だ。
一度肉を細切れにし、野菜と混ぜて再び形を整えて焼くなんて、考えたこともなかった。
しかもその料理は、彼の故郷では一般家庭で出されるものだという。

ならば、彼の故郷には、まだまだ在るのではないか?
我々の知らない、革命的な料理が。
それを知りたい。
彼の料理は、間違いなくこの町の発展に繋がる。

「別に酷いことはしない。料理について聞きたいことを聞けたら、報酬兼口止め料でも渡して解放するさ。」
「そんな緩い仕事を俺に頼むなんて、お前くらいだぜ?料理長さんよ。」

そう、ただ話を聞きたいだけ。
まあ、誘拐などという手段を選んだのには、少なからず嫉妬心からの意地悪もあるがな。
だが、一番の理由は……

「仕方ないだろう。奥方様のご命令で、正面から屋敷に入れられないんだ。…それに、どうやら冒険者に成り立てみたいでな…となると、泊まってるのは猫鍋亭だろ?」
「おいおい…あそこ、防犯性能だけなら世界屈指の宿じゃねぇか。『魔帝』なんて二つ名持ってる、元Sランク冒険者の化け物店主と、訓練されたサンドキャットの群れから逃げおおせろってか?」

もうあの屋敷に、堂々と呼ぶことはできない。
旦那様は歓迎されるだろうが、奥方様が大荒れになられるのは、使用人として気が気ではない。
料理長という立場上、直接会いに行く時間もない。
かといって、他の使用人に言伝を頼むと、いざバレた時に被害者が増える。

故に、夜中コッソリと…見つからないように、連れて来てもらうしかないのだが……
彼が泊まるのは、一流の暗殺者でも侵入に躊躇すると言われる猫鍋亭。
無理矢理な誘拐なんて、成功したら奇跡だ。

ならば事情を話して正面突破すれば…とも思うが、相手はまだ子供だ。
夜中に連れ出すなんて言おうものなら、店主に杖を突きつけられて、朝になってから出直せと言われるに決まっている。

ではどうするか。
…まだ起きている内に、自ら宿を出て来てもらう。
それしかない。

「俺が幻惑のスキル持ちだからって…」
「頼むよ。町の発展のためだ。」
「お前の名誉挽回のためだろ?…わかったよ。」

昔馴染みの元盗賊は、ため息を吐きながら夜の闇に消えた。

…少し後ろめたいことをしようとしているからか、なんだか落ち着かないな。
ずっと、誰かに見られているみたいなんだが……。
気のせい、だな。

───────

※呑気に風呂作ってる未來視点

「未來くん!速いですよー!」
『しおちゃん、きたです!』
「悪ぃ、詩音!浴槽できたよ!」

漸く詩音の到着だ。
屋台に寄り道してたのか、果実水の瓶を2本持って来た。

「わっ、もう作ってたんですね!はい、お土産です。少しお高いの買ってきたので、今日はコレで打ち上げしましょう!」
「おー、ありがと!」
「小梅ちゃんは、サンドウィスプのウィスプボールをどうぞ~♪」
『わぁーいです♪』

ん、なんか…色は緑なのに、濃いミカンの味するw
なんだコレw

「不思議だけど、うま~♪詩音、とりあえず水入れて。」
「はい!《ウォータ》!」

けっこう勢い良いな。
それでも、割れたりしなさそうだ。

「大丈夫ですね。」
「だな。んじゃ、本番!」

今回は手っ取り早く、詩音が宙に出した天使の水薬を、俺が直火で暖める。
瓶に入れてる分だけじゃ足りない。
程よく温まったら、浴槽に突っ込んで完成だ。

…俺らならこの方法でイケるから、耐火性は無くても良かったかもだけど、この浴槽は猫鍋亭へ寄付するつもりなんでね。
ファルさんでも風呂焚けるようにしないと。
後で釜作らないとなぁ。

あ、排水どうしよ……炭,石,小石,砂で、ろ過でもする?
…ディアさんに頼んだら、地下の水脈まで配管ぶち抜いてくれたりしないかな…………。

ってか、戻って来ないなディアさん。
何やってるんだろ?
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