ビビりとモフモフの異世界道中

とある村人

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ビビりとモフモフ、冒険開始

終戦後、今日から親子

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※正体バレた魔狼王様視点

光の中、黒い狼の姿は溶け、最後に精神体の核が砕ける。
以前、勇者が破壊し損ねたソレは、今度こそ跡形も無く散った。
そこに残るのは、何も知らない、まっさらで小さな魂のみ。

空間の切除と結界が解かれた。
途端、目の前に小さな紫色の竜が現れる。

『ごくろーさん。今度は来世まで、しっかりと預かったるわ。前はすっかり騙されてしもうて、堪忍な。……ニイさん、そこまで大怪我したん、初めてとちゃうか?お大事になぁ。』
『死神ミィル…その妙な言葉使いは、どうにか成らんのか。』
『そげな事言われてもなぁ。ボクの前世、大体こんなんやったさかい。まぁ、この言葉使う地域は、ちぃちゃい頃にちょいとばかし住んどっただけやし、たぶん色々と間違うとるけどなぁw』
『…そうか。』
『ほな、ボクは行くで。ニイさん、嫁さんに縛られる前に、怪我治しや~。』

……そうだな。
胸に空けられた、血も流れない黒いあなは、さっさと治さなければ。
妻と長男に見付かったら、小一時間問い詰められてから、自室のベッドに軟禁されること間違いなしだ。

『……はぁ…』

ガラガラと、辛うじて高さを残していた建物を崩しつつ、地面に寝そべる。
ああ、此方も直さなければ…
死にかけたせいか、やることは多いのに、物凄く眠い。
正直、このまま寝てしまいたい。

……遠方に、人の気配を感じる。
そうだ、空間の切除も、結界も解除されたのだったな。
流石に、神話の生き物が、こんな場所で寝ているのは不味い。
一先ず、いつもの人の姿に変身するか。

「ふぅ……まず怪我の証拠隠滅して…それから……」

ザクッ!!

起き上がろうとすると、目の前に白銀のシャベルが突き立てられた。
恐る恐る上を見上げれば、予想通り長男が居る。
…ロゥミアにそっくりだな。
私でも冷や汗が止まらなくなる、全く目の笑っていない笑顔が特に。
お陰で一気に眠気が飛んだ。

「父さん、言い訳は蒲団に縛り付けてからなら、いくらでも聞くから。とりあえず診るね。」
「い、いや、そこまで深刻な傷では…」
「充分深刻だから。コレが深刻じゃなかったら、世の中に『致命傷』なんて無いよ。アレと同化しかけたせいで、少し汚染されてるし…動くのも億劫でしょ?」
「…………ディアドルフ様…大丈夫、ですか…?」

ロゥミア…来ていたのか……。
ぅ…本気で怒っている時の笑顔も心臓に悪いが…目に涙を浮かべた、心底心配そうな表情の方が堪える。
こんな瓦礫だらけの、地べたに座らせるのも心苦しい。
彼女は折り畳まれた細く美しい脚の、柔らかな太腿を軽く叩く。
膝枕をしてくれるらしい。
マクベスにも、動くなとは言われなかったため、素直に甘えさせてもらった。

「そんな聞き方じゃ、ダメだよ母さん。大丈夫?なんて聞かれたら、父さんは例え首が落ちてても『大丈夫だ』って答えるよ。頭いいのに馬鹿だから。」
「そうですね…そういうところだけは、お馬鹿さんなので……。」
「馬鹿とは心外な…首が落ちた程度では、死なないのだから大丈夫だろう。」
「その、死ななきゃ良いって考え方、どうにかして。俺にまでキャンキャン泣かれたい?」

それは御免被るな。
ロゥミアの涙だけでも、罪悪感でいっぱいだ。

「……眠い。」
「うん、そんな顔してる。帝都の復元と、住民帰すのは俺達でやるよ。」
「今はゆっくり、お休みになってください…。」
「…………そうさせて、もらおうか…」

帝都はジェイクの地図(屋内まで網羅)と、ルゥナの土属性魔法で、粗方直るだろう。
……そうだ、空間を司る女神と、その娘が居るのだから手伝って貰えばいい…
家具やら何やらはビルムに頼めば……

───────
──────

「ん……」

………此処は…何処だ?
石造りの天井に、妖精の灯が淡く光っている。
てっきり、自室で簀巻きにでもされるものかと…まさか、手足が自由とは。
時刻は……朝、8時半頃か。寝過ごした。

…気配と魔力の流れから、子供達が外で作業をしているのが解る。
恐らく、場所は帝都のどこかだろうが…

『おはよ、おとーさん。』
「…ミライ?」

腹部に何か軽いモノが乗っていると思えば、仔犬程度の大きさになったミライの姿が。
可愛らしいが、頬をプクリと膨らませている。

『…おとーさん。』
「どうした?」
『……おとーさんのバカ。』

はて、何かしただろうか?

『油断し過ぎて死にかけるとか、ほんとバカ。』
「ぅ…それは、すまん。四方や、私の耐久力を貫通してくるとは、思わなくてな…」

てしてし ぽむぽむ

胸板を、柔らかな肉球で叩かれる。
ミライにも、心配させてしまったか…。
しかし、その動作……不満を表しているのだろうが、可愛いだけだぞ。

『俺にずっと正体隠してたのもさ、腹立つし。さっさと教えてよ、おとーさん。俺がバカみてーじゃん。』
「うむ、それもすまな…………………………………誰に聞いた?」
『見た。』
「おのれセレスティアぁぁぁぁ……!!」
『スゲェ、名指しで犯人当てた!』

くっ……ミライの驚愕し、慌てふためく様が見たかった……っ!!
そのために、色々と我慢もしていたのだぞ?!
主に口でのグルーミングだが…!

……そうか。もう我慢しなくて良いのか。

「……ミライ、おいで。」
『なにー?』

よし、捕まえた。

『ふぉうっ?!ちょ、何してんの?!』
「ん…グルーミングだが、何かおかしいか?」
『いや、なんで舐め……ああ、そっか。』
「うむ、私も本能的には狼なのでな。正直な話、手より楽だ。」
『マジ?』

ああ、やはり末息子も可愛い。
家の子供達は皆可愛いが。
残念なのは、この10日程で、中身が一気に成熟してしまったことか…
育てたい…やはり、ちゃんと成獣に成るまで、世話がしたい。

「…時にミライ、他の子達は…?」
『復興の手伝いしてる。詩音とラルフとレナさんと、小梅に陽向に若葉も。』
「お前は良いのか?力仕事が、大量にあると思うが。」
『今日は、意地悪なおとーさんに、沢山甘えて沢山文句言っとけ、ってラルフが。あと、ガルヴァさんに見張り頼まれた。』
「そうか…」

ならば、遠慮無く愛でさせてもらおう。

「フフッ…wお帰り、ミライ。」
『…?……ただいま、おとーさん?』

ミライを旅に出して、調度10日目。
今日から、心置きなく息子扱いできるな。
そう思えば、私の知らぬ間に正体を明かされた程度…………
いや、やはり後で文句の2つ3つ…多ければ10程言っておこう。
楽しみを奪われることは、嫌いでね。

───────

「クシュッ……うーん、ボクは風邪なんてひかない筈。なのに寒気がするということは…」
「ディー様の恨みじゃないの?」
「十中八九、だろうね。魔法を使っていない時で良かったよ。」
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