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ビビりとモフモフ、冒険開始

邪神降臨の予兆

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※レウィス視点

……師匠、全然戻ってこないんだけど。
今日はちょっと、相談したいことあったのに。

朝から仕事だったから、夜に会う約束をしたの。
遅くなってから、やっと来れた師匠にお土産貰って、たまには労ってあげようかな~ってことで、少し良いお茶淹れてあげたのよ。
なのに、いきなり呼び出し喰らうって…どんだけ師匠頼りなのよ、この国!

「……お土産のアクセサリー、気に入ったから許すけど。」

アタシ好みな、ミスリル細工の指輪。
所々に、星と月があしらわれてて、可愛いの。
ロゥちゃんへじゃない、『アタシ』への贈り物だって、断言できるのも嬉しい。
彼女に贈るなら、もっと女性らしい物…お花とか贈るだろうし。

「……寝ちゃおうかなぁ…。」

ほぼ完全記憶してる、魔術書を読むのも飽きたわ…。
コレ、魔術学校に寄付しようかしら。

部屋の鍵は…よし、掛けてる。
前、開けっ放しにしてたら、頭イッちゃった信徒に、夜這いされかけたのよねー…
勇者がブッ飛ばしてくれたけど、そもそもアイツも、なんでこの部屋の側に居たのよ。
男は皆狼って、師匠も昨日言ってたけど…正しくそうだわ。

師匠なら、空間転移で帰ってくるだろうし、問題無いわね。
指輪は嬉しいから、着けたままにしておこうかな。

「…彼にまた会ったら、何て言い訳しようかな……」

素直に、不安だったって言う?
たぶん、許して貰えるとは思うのよ。
彼、アタシに甘めだから。

「…死霊術師ネクロマンサーが使うのと、激似の魔方陣とか描きたくないわよ~……。」

アタシ、アンデッド苦手だし。
ゾンビとか、スケルトンとか、本当に無理。
あの魔方陣、昔師匠に知識だけ教えて貰った魔方陣とは、何となく違ったし……。
何が起きるのか不確定な魔法とか、絶対使いたくないっ!怖いから!

「…何がしたいの?魔狼王様……。」

彼は、『今や誰も知らぬ、我が秘術だ。特別に伝授してやろう』って言ってたけど…死霊術系なのは間違いないわよね。
何にせよ、アタシに伝授してくれて良かったわ。
この教団、他に魔方陣読み解ける人材居ないから。
アホな勇者…は、そもそも魔方陣描くセンスが壊滅的だから、良いとして。
完全盲目な大神官だったら、何の疑いもなくやっちゃいそう。

…アタシも、昨日の師匠との会話が無かったら、どんな魔方陣か調べなかったかもしれないけどね。
一晩寝て冷静に成ったら、あんなに反発しなくても良かったかな~って、思えたの。
心配、してくれてるんだもんねぇ…アレで。
だからって訳じゃないけど、まあ、その…少しは魔狼王様に疑いを持ってみようかなって…ね?

[やあ、ボクの可愛い娘。まだ起きているかい?]
「きゃっ?!…ビックリした…」

未だに、念話送られて来るのには馴れないわ…
送るのは良いんだけど……

[何よー。もう待たないで、寝ちゃおうとしてたんだけど?]
[そうか、それなら良いんだ。鍵はしっかり掛けたかい?]
[掛けたわよ。どうせ、空間転移で来るんでしょ?]
[そのつもりさ。指輪は、気に入ってくれたかな?]
[まあね。アタシ好みよ。着けたまま、寝ても良いかな~って思っていた所。]
[うんうん、それは良かった。ボクはもう少し、やることがある。先に寝ててくれ。]
[はいはーい。まあ、頑張って。]

はぁ~…師匠戻れなさそうね~……。
……ユーリルちゃんに、話し相手にでもなってもらおうかしら。

ん?…何か落ちてきた…紙?
えーと……

“開けるな”…………?


コンコンッ


「!」
「…聖女様、ギムです。お休みになられてしまいましたか?」

大神官……こんな時間に、乙女の部屋訪問すんじゃ無いわよ……。
…開けるなって、扉のこと?


ガチャガチャッ!!


「っ!」
「ソコに居られるのでしょう?鍵をお開けください。この素晴らしい光景を、是非とも御覧に入れたいのです。」

ちょ、ちょっと…返答待たずに、開けようとしやがったんだけど!
何何何怖い怖い怖いっ!!


ガチャッガチャガチャッ!!


「聖女様、此方へいらしてください。どうも、御母堂の結界が強すぎて、聖女様の御部屋へ祝福の霧が届かない様なのです。」

祝福の霧……?
師匠の結界で護られてるなら、だいぶ猶予あるわね。
魔力探知してみようかしら…………

「ヒッ………?!」

こ、この魔力の質…闇属性の中でも、ねっとりしてて陰湿で根暗なコレは……!

「し、死霊じゅムグッ?!」
「聖女様…?聖女様、如何されました?」

キャァアアアアッ?!
誰?!何?!後ろから、口押さえられてるんだけど…!!
な、なんか外のよりは、多少爽やかだけど…後ろから闇属性滅茶苦茶感じるっ!
まさか……アンデッド?!ゾ…ンビ……!?
いやぁああっ!!師匠助けてぇーっ!!

「きゅぅ~……」

───────

※ジェイク視点

……保護対象確保。
状態は気絶。精神的に、追い詰められたんだろうな。
外傷無し。得体の知れない死霊術による、悪影響も無し。

城に在る人間の気配は、全て2柱の神の庇護下にあるな。
皇帝やミライ達も、従魔含めて全員無事な様だ。

「聖女様、聖女様!お返事を!」

ドンドンと扉を叩いている輩は……一先ず放置で良いな。
この部屋の結界が、破られる事は無いだろう。

しかし、この術…闇属性吸収が無ければ、俺も少し危うかった。
見たことの無い事例だが…父さんか…忘れててもマクベス兄さんに聞けば、何か解るだろう。

先ずは撤退だな…保護対象は精神面に傷を負っている…心の支えとなる者の元へ届けよう。

[…セレス義姉ねえさん。姪をそちらにやって良いか?]
[保護してくれたのだね、影法師。悪いが、此方もなかなか大変な状態でね。我が愛しき君…君達の母君か、世界樹の精霊に託したいのだけど。]
[了解した。母さんに預ける。]

邪神の潜伏先を探している、父さんも一緒だろう。
今は実家から、基本世界と全ての亜空間を探索していたな。
……セレス義姉さんも、《ワールドサーチ》出来なかったか?
……確認は抜けてからでいいか。

[『影抜け』]

俺は空間転移が出来ない。
代わりに、影から影へ移動できる。
建物やダンジョンへの潜入なら、空間転移より有用だ。
影が無い場所へは、出られないんだが。

とりあえず、家の裏に出た。
此方もちゃんと・・・・夜になっており、月が出ている。
今日は赤い三日月か……昨日は青い満月だった。
父さんの気分で変わるから、仕方ない。
チビ達も、楽しみにしている要素だしな。

「お帰りなさい。レウィスちゃん、大丈夫ですか?」
「気絶しているだけだ。外傷は無いが…精神的に苦痛を受けている。」
「そうですか…目が覚めるまで、ソファーに寝かせてあげましょう。」
「解った。」

保護対象を家に運び入れ、ソファーへ寝かせた。
このソファーは、占領すれば父さんが寝られるくらい大きい。
落ちる心配も無いだろう。

[義姉さん、邪神の居場所に心当たりはあるか?]
[あると言うか、愛弟オトウト曰くもうすぐ出てくるらしいね。]
[出てくる……魔狼聖教の神殿にか?]
[ああ。娘が少しだけ、忌々しい黒狼に疑念を抱いてくれたみたいでね。憑依する相手を『保険』の方に変えたようだ。]
[…先程の、アレか。]
[ご名答。好敵手コイガタキにも、伝えておくれ。彼に頼るのは癪だが、事態が事態だ。]
[ああ。情報感謝する。]

…不味いな。只でさえ、とんでもない事に成っているんだが……。
父さんは…仕事部屋か。

「父さん、至急報告したいことが。」
「手短に頼む。」
「邪神の降臨場所を特定、魔狼聖教の神殿。器はイカれた大神官。」
「…出てくる前に叩きたかったが、仕方ないか。」
「現在帝都に、特殊な死霊術の霧が蔓延中。信じ難いんだが、人が生きたまま・・・・・アンデッドになった。心当たりは?」
「1万年以上前の禁術だな。闇属性吸収があるとはいえ、念のためマクベスの浄化を受けておきなさい。」
「了解。」

帝都に居た他の兄弟達は、あの魔力を察知して、すぐに実家へ避難していたらしいな。
身内に被害者が居なくて良かった…
帝都の住民や従魔,野良猫野良犬なんかも、ゴーレムと入れ換えてあるし、被害に遇ったのは入れ換えを拒否した、信徒達のみ。
アンデッドに成った者は、恐らくもう、倒してやるしかないだろう。
少しばかり憂鬱だが、コレも仕事だ。
せめて苦しませずに、逝かせてやろう。
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