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ビビりとモフモフ、冒険開始
飛んで火に入る重要参考人
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ジャガイモを鍋で蒸かし、同時に米を炊きながら、ディアさんの見解を聞く。
聞きながらも、料理は焦がさないように気を配らないとね。
折角なら、皆に美味しいもの、食べさせてあげたいから。
[牢屋行きになるのは、しきょー様じゃないってのは、なんでそう思うの?]
[私が3ヶ月前に出会ったトーマス・ロムルのことなのだが…今思えば少々腑に落ちないのだよ。位の高い神職者程、人に『何かを強要する』ということはしないものだ。通行人を引き留め、鎖で捕らえるとは思えん。それに、あの者が本人なのかは、確証を得ていない。鑑定したわけでは、なかったのでな。]
[…偽物かもってこと?]
[ウリシラの話を聞く限り、1年前から入れ替わっている可能性が高い。己の姿を偽る方法なら、幾つか存在する。君の擬人化や、身体制御の様にな。]
人間が、別の人間に変化する方法も、あるってことか。
……詩音とか、我流魔法で出来そうだな。
「ミライさん、チーズができましたよ。」
「教えてくれた、トマトのソースもね。」
「シスター、エティさん、ありがと!んじゃ、切れ目入れたパンにバター塗って、野菜と焼いたオーク肉とチーズ入れて、そのソースかけて!」
「わかりました。」
「豪勢だねぇ♪皆喜ぶよ!」
お米は食べ慣れないモノだから、念のためサンドイッチも作ってもらってる。
余ったら、夕飯にでも食べてもらえばいいさ!
[具体的には、どんな方法あるの?]
[最も容易なのは、魔導具を使用することだな。例えば、『トリッキーミラー』というモンスターのドロップ品にある『姿写しの鏡』。鏡を持って他の生物を写すと、鏡に写ったモノに変化できる悪戯魔導具だ。]
[それ、悪戯で済ませられんの?]
[効果は10分程度で、声までは変えられない上に、左右が反転しているせいで違和感が残る欠陥変化だ。子供騙しも良いところだな。]
[へぇ~。]
詩音と陽向なら騙せそう。スゲーやってみたい。
[でも、子供騙しってことは…それでシスターを騙すのは無理があるよね?]
[うむ。…エインの話では、豪華な杖を持っている、ということだったな。ソレが『変化の杖』という魔導具であれば、親しい相手でも欺けるだろう。]
変化の杖?…ドラ●エ4にあったな。
魔物の城へ潜入するのに使う、必須アイテム。
『ジャガイモ、ほくほくしてきたです。』
「お、良い感じ♪」
蒸かしジャガイモにバター乗っけて、じゃがバター!
マヨネーズバージョンも用意しよ~♪
じいちゃんはイカの塩辛乗せてたけど、子供には大体不評だし、そもそも無いからなぁ。
[その杖は、声とかまで変えれるの?]
[ああ。家の五男と次女とその夫が、酔った勢いで作った魔導具でな。変化したい相手の魔力を、杖に埋め込んだ魔石へ籠めて使用するのだ。杖を装備して、何やらポーズを決めつつ詠唱すれば、簡単に変化できる。効果は1日程度だ。]
[え。酔った勢いで、そんな高性能なもん作ったの?]
[本人達も驚いていたぞ。思ったより良いものができたから、その辺のダンジョンの最下層に、制覇者への贈呈品として置いて来たらしい。]
そんな杖、その辺のダンジョンに置かないで!!
厳重保管しよう?!
あ、米そろそろいいかな…よし、握ろう。
[それが人の手に渡って、ロクでもない奴に悪用されてると。]
[その可能性がある、という話だ。まあ、本当に変化の杖かどうかは、ジェイクが見れば直ぐに解る。試用と称して、アレで遊んでいたからな。]
[へ、へぇ……。]
うむむ…もしも本当に成り済ましだったら、本物さん大変なことに成ってそうだ……。
死んではいないだろうけど……魔力籠めろーって拷問されたり、アレやコレや酷いことされてるんじゃね…?
[…今から気に病んでも、どうにも成らんよ。私の考察はジェイクにも伝えてある。もし本物を見付けたら、早急に報せろとも言っておいた。]
[だから安心しろって?]
[そこまでは言えぬが、あまり考えすぎるな。]
いつの間にか隣に来てたディアさんに、優しく頭を撫でられた。
あー、ほにゃって成るから外ではやめてー…。
「って、どさくさ紛れに、おにぎりつまみ食いすんなー!」
『ディーさん、めっです!』
「固いことを言うな、他の者の分までは取らんよ。」
もー、子供が真似したらどーすんの!
「あー!おにーちゃんずるーい!」
「ダメなんだー!」
「おや、見付かってしまったか。」
「ディアドルフ殿…暇なら子供の相手でもしててくれ……。」
「つまみ食いは、代金発生させますよ?」
「ふむ…1つ1万Gでどうだ?」
「どんなぼったくりだよ!」
「あら、ミライくんの料理なら、それくらい出す人居るわよ?w」
いやいやいや…おにぎり1個1万はヤバイって。
そんなに取る気無いし!
「す、すみません……」
「おや、お客さん…?…ちょ、ちょっとアンタ大丈夫かい?!」
「どうされました?!」
な、なんか、ボロボロの旅人風なお兄さんが!
今にも、倒れそうだよこの人!
何があった!?
「おにーちゃん、どーしたの?」
「大丈夫ですか?!」
「お、俺…移動中モンスターに追われて、財布も食料も落としちまって…!3日くらい何も食ってなくて…教会で炊き出しとか無いかなって思ってたら、此処から良い匂いが…!」
行き倒れ寸前じゃねーか!!
よくここまで来れたな!
「なんと…それは災難でしたね。どうぞ、此方へお座りください。」
「ちょい待てよ、消化に良いもん作るから!詩音、コケコッコの出汁と肉と卵1個に長ネギ,生姜,塩,胡椒!」
「は、はい!」
母さんが作ってた鶏おじや、材料は覚えてっけど、手順どうだっけ?!
とりあえず出汁多目に入れて水と合わせて、沸騰させるんだったか?
「ミライさん、お手伝いします。」
「ありがと、シスター。長ネギ刻んでくれる?」
「はい。」
「こちらのパンは、お夕食にどうぞ!」
「あ、ありがとうございますっ!」
「…………」
「ヒッ…?!な、何か……?」
「ディアドルフ様?」
『おかお、こわいの…。』
「いや、何でも無い。」
ん?どしたのディアさん?
そのお兄さんがどうかした?
『…あの人、何処かで見たような気がするです。』
「マジ?何処で?」
『うーん……?解んないです!』
「ありゃ。」
まあいいや。
えーと、沸騰したところにご飯と肉入れて、煮込まねば。
「おにーちゃん、コレあげるー。」
「こ、コレは…リンゴ?」
「ボクのイチゴもあげるよー!」
「いいのかい?君達の分だろう。」
果物のコンポートなら、3日ぶりの食事に食べても大丈夫かな。
子供達、皆良い子だなぁ。
───────
※とある諜報員視点
もう無理だ。耐えられる訳がない。
俺はいつものように、ケールの孤児院を監視していた。
少しでも、金に余裕ができたような素振りがあれば、遠話用の魔導具で雇い主へ報せるのが仕事である。
給金は1日3千G…たまに難癖つけられて、更に減ることもある。
正直、まともに生活するには足りない。
足りないんだが…雇い主の屋敷では12歳の妹が、侍女見習いとして働いている。
…要は人質だ。俺が裏切れば、妹は奴隷として売られてしまう。
文句を言うことさえ出来ずにいた。
今は孤児院の屋根裏で寝起きし、食事をできる限り減らしてどうにか生きている。
そんな状況で、目の前で炊き出しなんてされてみろ。
滅茶苦茶良い香りのする料理を、獣人の子と教会のシスターと孤児院のおばさんが、次々量産していくんだぞ。
釣られるよな?誰だって釣られるよなコレは?!
しかも、俺が居ることバレてたんだよ!
触り心地良さそうなデカい猫と、獣人の子と仲良いらしい、あのSランク冒険者のディアドルフに!
まあ、猫はチラッと此方見てから、首かしげてすぐ獣人の子の所へ行っちまったんだが…
ディアドルフの方は……流石って言うべきなんだろうな…。
隠密使って屋根裏から覗いてたのに、ガッツリ目が合うんだぜ…?
睨まれた瞬間、意識飛びかけたし…アレ、威圧だよなたぶん。
そんなわけで、隠れても無駄と悟った俺は、旅人を装って本能赴くまま飯を恵んでもらった。
モンスター云々は嘘だが、3日食ってなかったのは本当だ。
その…孤児院の子が、こないだ熱出してな?
毎日見張ってるもんだから、情が湧いたというか…熱出した子が、妹に似てたんだよ。
そんで熱冷ましの薬、商業ギルドで買ったら、なけなしの貯金がすっからかんになって…。
薬は孤児院の薬棚に紛れさせたから、その子は良くなったんだが…まあ何と言うか、俺も大概アホだよな。
獣人の少年が俺のために作ってくれた、コカトリスやネギ,卵,生姜と共に柔らかく煮たライスは絶品で、思わず食いながら泣いてしまった。
孤児院の子供達は、俺が何者かも知らずに、果物やパンをわけてくれる。
白い女の子が渡してくれた水も、気持ちが籠ってるからか普通の水より旨い気がした。
領主の家の次男君と、冒険者ギルドのギルマスの娘さんは、仕事と宿を紹介してくれると言ってくれて…何なんだよ、良い子ばっかだな本当に。
そこまでして貰うわけにはいかないって、断ったけどな。
皆、ものっ凄く優しくしてくれた。
「…あ、あの~……ディアドルフ様、お、俺の顔に何か付いてますでしょうか……?」
「眉と目と鼻と口が付いているな。」
「ディアさん…間違ってないけど、そういうことじゃなくね?」
ずぅーーーっと俺を見詰め続ける、ディアドルフを除けばな……!
猫は俺が屋根裏の奴だとは思ってなさそうだけど、この人にはバレてる!絶対バレてるっ!!
優雅に微笑んでるように見えて、目が笑ってない!
『少しでも変な動きしやがったらぶっ殺すぞ』って目だ!
「旅人さん、落ち着かれましたか?」
「ああ、ありがとう。シオンちゃん、ビンは洗って返すよ。」
「お気遣い無く、そのままで大丈夫ですよ。」
「貴君、名は?」
「お、オルトです…」
白い女の子に癒されて現実逃避していたら、魔王のような男に名前を聞かれた。
今すぐ逃げたい。
偽名でも良かったが、それさえ看破されそうで怖くて、本当の名前を名乗る。
命は大事だ。俺が死んだら妹がどうなるか、解ったもんじゃない。
「そうか。食べ終えたら、話を聞かせてくれたまえ。」
「は、はい?!な、ななな何の…お話で…?」
「貴君を追い回したという、モンスターのことだ。まだ街道を彷徨いているなら、討伐せねば。」
「わ、わかり、ました……!」
「ディアドルフ様が対処してくださるなら、安心ですね。」
「冒険者ギルドへ依頼を出すには、金がかかるしな。」
「昨日出立した商隊は、大丈夫だったのかねぇ…?」
「恐らく無事でしょう。護衛が沢山、着いていましたから。」
俺がこの孤児院見張ってた理由、聞くつもりだ…拷問されるかも……!
ど、どうする……いっそ、助けを求めるか……?
世界最強と言われる、この人なら…あのクズから妹を救い出してくれるかもしれない。
幸い、孤児院の見張りは俺だけだ。
同じような任務についている奴は、教会の屋根裏に潜んでる。
「あっ!そ、そうだ、夕飯用のパン…もう少し貰えませんか?仲間が1人居て…。」
「ちょ、そういうことは早く言えよ!おじやまだあるし、仲間連れて来いって!」
「いいのか…?ありがとう!」
なら、急いで教会へ向かおう。
教会に潜んでるアイツも、母親があのクズの屋敷で働かされている。
給金も同額だ。腹が減ってるに違いない。
アイツとはお互いに見張り合う間柄だが、境遇が似すぎていて、最近では親近感と連帯感が生まれている。
全力で走って行き、教会の扉を開けた。
「オルト?…何してんだお前。孤児院の見張りはどうした?」
「モルガン!ちょっと孤児院来いよ、一緒に飯貰おうぜ!」
誰も居ないからか、モルガンは呼ぶ前に出てきた。
「飯?!も、貰えるのか?孤児院も経営ギリギリだろ?」
「お人好しな獣人の子が、炊き出ししてんだよ!…まあ、一緒に魔王みたいなのが居るから、ちょっと落ち着かねぇんだけど……。」
「獣人の子…ディアドルフと一緒に来た、赤い狼か?てか、え、お前堂々と姿晒したのかよ?」
「匂いに耐えられなかった上に、魔王にバレた。」
「…それは、仕方ないな。俺もあの金髪の魔王には即効バレたぜ。睨まれた時は、生きた心地がしなかった……。」
やっぱりか。
あの人から、隠れられる気がしないもんな。
「やはり、仲間とは貴君であったか。」
「「ぎゃぁあああああっ?!」」
「喧しい。」
「むぐっ?!」
「んぐっ?!」
ツ イ テ キ テ タ …!
怖い…この人怖すぎる。全く気付けなかった。
俺達を黙らせるためか、口へ突っ込んできたのは『おにぎり』というライスの塊だ。
塩味のライス旨い。泣きたい。
モルガンは、久し振りの温かい飯と、魔王が目の前に居る恐怖で、混乱しているみたいだ。
「スゲー!今日だけで3人も忍者見た!」
「こ、こんにち…は…。」
『にゃーん』
『めぇ~』
獣人の子と白い女の子と、デカ猫にチビ羊まで来てた。
こ、子供の前では…拷問とかしないよな?
「あ、おにぎりは沢山噛んで、ゆっくり食えよ?本当は、いきなり重さあるもん食わない方がいいんだけど。」
「あの…た、足りません、よね?おじやもあるので…良かったら…こ、孤児院の方へ……」
うん、こんな天使のような子達の前で、暴力沙汰は無いはずだ。
「まあ待て、少しこの2人に用がある。」
『にゃー?』
「そのお兄さん、何かしたの?」
「い、いや、えっと…」
「さて…話を聞かせてもらおうか。」
だから……キラキラした笑顔のディアドルフが、指をゴキゴキ鳴らしていたのは……俺の気のせいだと思いたい。
聞きながらも、料理は焦がさないように気を配らないとね。
折角なら、皆に美味しいもの、食べさせてあげたいから。
[牢屋行きになるのは、しきょー様じゃないってのは、なんでそう思うの?]
[私が3ヶ月前に出会ったトーマス・ロムルのことなのだが…今思えば少々腑に落ちないのだよ。位の高い神職者程、人に『何かを強要する』ということはしないものだ。通行人を引き留め、鎖で捕らえるとは思えん。それに、あの者が本人なのかは、確証を得ていない。鑑定したわけでは、なかったのでな。]
[…偽物かもってこと?]
[ウリシラの話を聞く限り、1年前から入れ替わっている可能性が高い。己の姿を偽る方法なら、幾つか存在する。君の擬人化や、身体制御の様にな。]
人間が、別の人間に変化する方法も、あるってことか。
……詩音とか、我流魔法で出来そうだな。
「ミライさん、チーズができましたよ。」
「教えてくれた、トマトのソースもね。」
「シスター、エティさん、ありがと!んじゃ、切れ目入れたパンにバター塗って、野菜と焼いたオーク肉とチーズ入れて、そのソースかけて!」
「わかりました。」
「豪勢だねぇ♪皆喜ぶよ!」
お米は食べ慣れないモノだから、念のためサンドイッチも作ってもらってる。
余ったら、夕飯にでも食べてもらえばいいさ!
[具体的には、どんな方法あるの?]
[最も容易なのは、魔導具を使用することだな。例えば、『トリッキーミラー』というモンスターのドロップ品にある『姿写しの鏡』。鏡を持って他の生物を写すと、鏡に写ったモノに変化できる悪戯魔導具だ。]
[それ、悪戯で済ませられんの?]
[効果は10分程度で、声までは変えられない上に、左右が反転しているせいで違和感が残る欠陥変化だ。子供騙しも良いところだな。]
[へぇ~。]
詩音と陽向なら騙せそう。スゲーやってみたい。
[でも、子供騙しってことは…それでシスターを騙すのは無理があるよね?]
[うむ。…エインの話では、豪華な杖を持っている、ということだったな。ソレが『変化の杖』という魔導具であれば、親しい相手でも欺けるだろう。]
変化の杖?…ドラ●エ4にあったな。
魔物の城へ潜入するのに使う、必須アイテム。
『ジャガイモ、ほくほくしてきたです。』
「お、良い感じ♪」
蒸かしジャガイモにバター乗っけて、じゃがバター!
マヨネーズバージョンも用意しよ~♪
じいちゃんはイカの塩辛乗せてたけど、子供には大体不評だし、そもそも無いからなぁ。
[その杖は、声とかまで変えれるの?]
[ああ。家の五男と次女とその夫が、酔った勢いで作った魔導具でな。変化したい相手の魔力を、杖に埋め込んだ魔石へ籠めて使用するのだ。杖を装備して、何やらポーズを決めつつ詠唱すれば、簡単に変化できる。効果は1日程度だ。]
[え。酔った勢いで、そんな高性能なもん作ったの?]
[本人達も驚いていたぞ。思ったより良いものができたから、その辺のダンジョンの最下層に、制覇者への贈呈品として置いて来たらしい。]
そんな杖、その辺のダンジョンに置かないで!!
厳重保管しよう?!
あ、米そろそろいいかな…よし、握ろう。
[それが人の手に渡って、ロクでもない奴に悪用されてると。]
[その可能性がある、という話だ。まあ、本当に変化の杖かどうかは、ジェイクが見れば直ぐに解る。試用と称して、アレで遊んでいたからな。]
[へ、へぇ……。]
うむむ…もしも本当に成り済ましだったら、本物さん大変なことに成ってそうだ……。
死んではいないだろうけど……魔力籠めろーって拷問されたり、アレやコレや酷いことされてるんじゃね…?
[…今から気に病んでも、どうにも成らんよ。私の考察はジェイクにも伝えてある。もし本物を見付けたら、早急に報せろとも言っておいた。]
[だから安心しろって?]
[そこまでは言えぬが、あまり考えすぎるな。]
いつの間にか隣に来てたディアさんに、優しく頭を撫でられた。
あー、ほにゃって成るから外ではやめてー…。
「って、どさくさ紛れに、おにぎりつまみ食いすんなー!」
『ディーさん、めっです!』
「固いことを言うな、他の者の分までは取らんよ。」
もー、子供が真似したらどーすんの!
「あー!おにーちゃんずるーい!」
「ダメなんだー!」
「おや、見付かってしまったか。」
「ディアドルフ殿…暇なら子供の相手でもしててくれ……。」
「つまみ食いは、代金発生させますよ?」
「ふむ…1つ1万Gでどうだ?」
「どんなぼったくりだよ!」
「あら、ミライくんの料理なら、それくらい出す人居るわよ?w」
いやいやいや…おにぎり1個1万はヤバイって。
そんなに取る気無いし!
「す、すみません……」
「おや、お客さん…?…ちょ、ちょっとアンタ大丈夫かい?!」
「どうされました?!」
な、なんか、ボロボロの旅人風なお兄さんが!
今にも、倒れそうだよこの人!
何があった!?
「おにーちゃん、どーしたの?」
「大丈夫ですか?!」
「お、俺…移動中モンスターに追われて、財布も食料も落としちまって…!3日くらい何も食ってなくて…教会で炊き出しとか無いかなって思ってたら、此処から良い匂いが…!」
行き倒れ寸前じゃねーか!!
よくここまで来れたな!
「なんと…それは災難でしたね。どうぞ、此方へお座りください。」
「ちょい待てよ、消化に良いもん作るから!詩音、コケコッコの出汁と肉と卵1個に長ネギ,生姜,塩,胡椒!」
「は、はい!」
母さんが作ってた鶏おじや、材料は覚えてっけど、手順どうだっけ?!
とりあえず出汁多目に入れて水と合わせて、沸騰させるんだったか?
「ミライさん、お手伝いします。」
「ありがと、シスター。長ネギ刻んでくれる?」
「はい。」
「こちらのパンは、お夕食にどうぞ!」
「あ、ありがとうございますっ!」
「…………」
「ヒッ…?!な、何か……?」
「ディアドルフ様?」
『おかお、こわいの…。』
「いや、何でも無い。」
ん?どしたのディアさん?
そのお兄さんがどうかした?
『…あの人、何処かで見たような気がするです。』
「マジ?何処で?」
『うーん……?解んないです!』
「ありゃ。」
まあいいや。
えーと、沸騰したところにご飯と肉入れて、煮込まねば。
「おにーちゃん、コレあげるー。」
「こ、コレは…リンゴ?」
「ボクのイチゴもあげるよー!」
「いいのかい?君達の分だろう。」
果物のコンポートなら、3日ぶりの食事に食べても大丈夫かな。
子供達、皆良い子だなぁ。
───────
※とある諜報員視点
もう無理だ。耐えられる訳がない。
俺はいつものように、ケールの孤児院を監視していた。
少しでも、金に余裕ができたような素振りがあれば、遠話用の魔導具で雇い主へ報せるのが仕事である。
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文句を言うことさえ出来ずにいた。
今は孤児院の屋根裏で寝起きし、食事をできる限り減らしてどうにか生きている。
そんな状況で、目の前で炊き出しなんてされてみろ。
滅茶苦茶良い香りのする料理を、獣人の子と教会のシスターと孤児院のおばさんが、次々量産していくんだぞ。
釣られるよな?誰だって釣られるよなコレは?!
しかも、俺が居ることバレてたんだよ!
触り心地良さそうなデカい猫と、獣人の子と仲良いらしい、あのSランク冒険者のディアドルフに!
まあ、猫はチラッと此方見てから、首かしげてすぐ獣人の子の所へ行っちまったんだが…
ディアドルフの方は……流石って言うべきなんだろうな…。
隠密使って屋根裏から覗いてたのに、ガッツリ目が合うんだぜ…?
睨まれた瞬間、意識飛びかけたし…アレ、威圧だよなたぶん。
そんなわけで、隠れても無駄と悟った俺は、旅人を装って本能赴くまま飯を恵んでもらった。
モンスター云々は嘘だが、3日食ってなかったのは本当だ。
その…孤児院の子が、こないだ熱出してな?
毎日見張ってるもんだから、情が湧いたというか…熱出した子が、妹に似てたんだよ。
そんで熱冷ましの薬、商業ギルドで買ったら、なけなしの貯金がすっからかんになって…。
薬は孤児院の薬棚に紛れさせたから、その子は良くなったんだが…まあ何と言うか、俺も大概アホだよな。
獣人の少年が俺のために作ってくれた、コカトリスやネギ,卵,生姜と共に柔らかく煮たライスは絶品で、思わず食いながら泣いてしまった。
孤児院の子供達は、俺が何者かも知らずに、果物やパンをわけてくれる。
白い女の子が渡してくれた水も、気持ちが籠ってるからか普通の水より旨い気がした。
領主の家の次男君と、冒険者ギルドのギルマスの娘さんは、仕事と宿を紹介してくれると言ってくれて…何なんだよ、良い子ばっかだな本当に。
そこまでして貰うわけにはいかないって、断ったけどな。
皆、ものっ凄く優しくしてくれた。
「…あ、あの~……ディアドルフ様、お、俺の顔に何か付いてますでしょうか……?」
「眉と目と鼻と口が付いているな。」
「ディアさん…間違ってないけど、そういうことじゃなくね?」
ずぅーーーっと俺を見詰め続ける、ディアドルフを除けばな……!
猫は俺が屋根裏の奴だとは思ってなさそうだけど、この人にはバレてる!絶対バレてるっ!!
優雅に微笑んでるように見えて、目が笑ってない!
『少しでも変な動きしやがったらぶっ殺すぞ』って目だ!
「旅人さん、落ち着かれましたか?」
「ああ、ありがとう。シオンちゃん、ビンは洗って返すよ。」
「お気遣い無く、そのままで大丈夫ですよ。」
「貴君、名は?」
「お、オルトです…」
白い女の子に癒されて現実逃避していたら、魔王のような男に名前を聞かれた。
今すぐ逃げたい。
偽名でも良かったが、それさえ看破されそうで怖くて、本当の名前を名乗る。
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「そうか。食べ終えたら、話を聞かせてくれたまえ。」
「は、はい?!な、ななな何の…お話で…?」
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「わ、わかり、ました……!」
「ディアドルフ様が対処してくださるなら、安心ですね。」
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幸い、孤児院の見張りは俺だけだ。
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「ちょ、そういうことは早く言えよ!おじやまだあるし、仲間連れて来いって!」
「いいのか…?ありがとう!」
なら、急いで教会へ向かおう。
教会に潜んでるアイツも、母親があのクズの屋敷で働かされている。
給金も同額だ。腹が減ってるに違いない。
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全力で走って行き、教会の扉を開けた。
「オルト?…何してんだお前。孤児院の見張りはどうした?」
「モルガン!ちょっと孤児院来いよ、一緒に飯貰おうぜ!」
誰も居ないからか、モルガンは呼ぶ前に出てきた。
「飯?!も、貰えるのか?孤児院も経営ギリギリだろ?」
「お人好しな獣人の子が、炊き出ししてんだよ!…まあ、一緒に魔王みたいなのが居るから、ちょっと落ち着かねぇんだけど……。」
「獣人の子…ディアドルフと一緒に来た、赤い狼か?てか、え、お前堂々と姿晒したのかよ?」
「匂いに耐えられなかった上に、魔王にバレた。」
「…それは、仕方ないな。俺もあの金髪の魔王には即効バレたぜ。睨まれた時は、生きた心地がしなかった……。」
やっぱりか。
あの人から、隠れられる気がしないもんな。
「やはり、仲間とは貴君であったか。」
「「ぎゃぁあああああっ?!」」
「喧しい。」
「むぐっ?!」
「んぐっ?!」
ツ イ テ キ テ タ …!
怖い…この人怖すぎる。全く気付けなかった。
俺達を黙らせるためか、口へ突っ込んできたのは『おにぎり』というライスの塊だ。
塩味のライス旨い。泣きたい。
モルガンは、久し振りの温かい飯と、魔王が目の前に居る恐怖で、混乱しているみたいだ。
「スゲー!今日だけで3人も忍者見た!」
「こ、こんにち…は…。」
『にゃーん』
『めぇ~』
獣人の子と白い女の子と、デカ猫にチビ羊まで来てた。
こ、子供の前では…拷問とかしないよな?
「あ、おにぎりは沢山噛んで、ゆっくり食えよ?本当は、いきなり重さあるもん食わない方がいいんだけど。」
「あの…た、足りません、よね?おじやもあるので…良かったら…こ、孤児院の方へ……」
うん、こんな天使のような子達の前で、暴力沙汰は無いはずだ。
「まあ待て、少しこの2人に用がある。」
『にゃー?』
「そのお兄さん、何かしたの?」
「い、いや、えっと…」
「さて…話を聞かせてもらおうか。」
だから……キラキラした笑顔のディアドルフが、指をゴキゴキ鳴らしていたのは……俺の気のせいだと思いたい。
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