無償の愛

ななおか。

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異世界なんかより、無償の愛をください

帰還と秘密

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「ここ、で合ってるか?」

シトリンは俺を振り返った。

きらきらしたきいろの、獣特有の瞳孔が細くなった瞳は嫌いじゃない。

現在、おそらく午後8時くらい。

日もすっかり沈み、月が水面を照らし出して、幻想的な雰囲気を醸し出している。

そのなかに俺がいるのはなんだか合っていないような気がして、なんの意味もなく二の腕を摩った。

言い訳をするつもりは無いが、この雰囲気にシトリンが合致しすぎているのだ。

一体化していると言っても過言ではない。

儚いような、そんなファンタジックなところがとてもうつくしい。

「うん、ここで間違いない。」

少ししか時間を開けていないというのに、懐かしく感じるのが不思議だ。

ふと、俺は何故かここで、前から気になっていた疑問を思い出した。

それを抱えているのには少し窮屈だったので、思い切ってシトリンにぶつけてみた。

「ねぇ、どうしてここは水に浸かっているのに息ができるの?」

シトリンは俺の問いを聞くと、笑った。

三日月の形の瞳がかわいらしい。

俺はすぐさまふさふさの毛並みを堪能したい欲望に駆られたが、必死に堪えた。

「…よく分かってないらしいんだ。上辺だけ水があるだとか、実は住人全員にがついているだとか、色々説があるんだけど…。あんたを見ている限り、2番目の説は無さそうだね。」

そうか。

俺は別の世界から来たのだから、エラがついているはずがない。

…あの世界には、水で浸った幻想的な世界ワンダーランドは存在しなかったから。

エラなどという器官はないし、空気を取り込むのは肺だ。

……肺に水が充満すれば、溺死という形で死に至るわけだし、シトリンの言う通り、2番目の説の可能性はなくなったのだ。

ああ、考えるだけで恐ろしい。

俺が恐怖のあまり身震いすると、城門から懐かしい黒色の甲冑が見えた。

瞬間的に俺の前まで来ていたリツさんに、俺は少しだけ、ほんの少しだけ恐怖を覚えた。

「…ヒロ!!」

目を細める癖は直っていないようだ。

そりゃそうか、見たところ小さい頃からの癖のようなものだと思うし。

俺をシトリンから引きずり下ろすと、肩やら腰やら、軽く叩かれた。

…どうやら、異常がないか確認されたようだ。

「誰だ。」

鋭い声。

まるで突き刺さってしまいそうなくらい、その声は刺々とげとげしい。

シトリンは首をすくめて見せた。

「俺は……シトリン。狼人間というやつだ。」

俺はシトリンが、と名乗ってくれたことをとても嬉しく感じた。

気に入ってくれたんだな、そう感じられたからだった。

「そういうことじゃありません。あなたが、どうしてそれ棗谷平生と一緒にいるのか、ということを訊いているのです。」

リツさんの後ろから、またまた見覚えのある白い甲冑。

アルフォンスさんだ。

つり上がった眉から、怒っていることが予想できる。

俺は反射的にシトリンの黒い毛に縋った。

ふわふわとしていて、何度触っても魅惑の毛並みだと言える。

あ、そうこうしているうちに、リツさんの眉間に深いシワが…。

俺はどう説明すればいいのかと、頭を抱えた。
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