無償の愛

ななおか。

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異世界なんかより、無償の愛をください

一匹狼を救う方法

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「……ねぇ、ナツメヤ。もういい。…帰る方法ならある。」

シトリンは諦めたみたいになげやりに言った。

シトリンを救う方法を俺は知らない。

どうしたらいいかも分からない。

……こういう時、リツさんなら。

アルフォンスさんならどうしたかな。

ラルゴくんなら…。

思いつかない。

自分じゃ、考えつかない。

だめだ。

俺じゃだめだ。

どうすれば…。

「俺さ、狼なんだ。獣人って知ってるか?…俺はそのなかの、生粋の狼人間。」

ほろりとシトリンはこぼす。

その目に光なんてものはない。

「だから、俺に乗れば帰れる。」

偽りの笑顔。

無理に作ったみたいな、悲しい顔。

にじむシトリンの本当の気持ち。

俺は……何もすればシトリンを助けられる?

「……なに、心配してるのか?大丈夫だ、この国は強いから、なくなってるってことはない。」

眉を下げて彼は言う。

そうじゃなくて、シトリンが心配なのに…。

方法は見つからない。

探し回っているのに、俺の頭じゃわからない。

「さあ、おいで。俺の上に乗って。しっかり掴まって。」

考えてるうちにシトリンは、黒い毛並みの美しい狼に変身していた。

俺なんかよりでかい。

すごく大きい。

「おいでって……っば!」

シトリンは動かない俺の下を強引にくぐり、無理やり俺を背中に乗せた。

優しい、ふわふわした毛。

あたたかい体温。

「じゃあ、行こっか。」

シトリンは1度だけ頭を振ると、少しだけ開いた窓を頭突きで最大限まで開け、外へ飛び出した。

急降下する。

ジェットコースターなんて比にならないような怖さだ。

…当たり前か、シートベルトなんてないんだもんな。

俺はガッチリとシトリンに掴まりながら、考え続けた。

シトリンは俺にどうして欲しいのかな。





気づいたら夕方だった。

さっきは朝だったはずなのに。

シトリンはまだ、街並みを駆けてくれている。

人通りが多いところは屋上を通る。

シトリンなりの、優しい気遣い。

どうやら、とても心地よいおかげで眠ってしまったようだ。

こういう自分の能天気さにも腹が立つ。

…腹を立てている場合ではない。

考えなきゃいけない。

どうすれば…。

「ナツメヤ、聞こえてないかもしれないけど。…俺たちの部族狼人はね、1人に眷属として仕えることが出来るんだ。だから、俺はあんたに眷属にしてほしい。」

眷属…。

俺の中に愛の言葉が回る。

いつか言ってくれた、あの言葉。

「俺たち、もう家族だな。」

眷属とは、部下であり、家族であったはず。

俺は………俺は家族を持ってもいいのだろうか?

揺られながら、そう考えていた。
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