無償の愛

ななおか。

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異世界なんかより、無償の愛をください

白騎士と黒騎士

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え、何々、俺の人生終了のお知らせ?

馬鹿みたいなことを考えている間にも、俺の身体は重力に抗うことなく、まっ逆さまにどこかに落ちていく。

パニックすぎて、何も考えられない。

シュンさんもこの穴に落ちたのかな?

俺は強くシュンさんのネックレスを握った。

目を閉じる。

家族たちには申し訳ないけど、俺はもうすぐ死ぬだろう。

さよなら。

さよなら現世。

さよなら俺の思い出たち。

…さよなら、愛。







目を覚ますと、とんでもなく大きいベッドの上だった。

カーテンの間から差し込む日の光が眩しい。

体を起こすと、ベッドがふかふかしてて気持ちよくて、起きたり寝たり、手で軽く叩いたりしていた。

「起きられましたか、棗谷平生救世主様」

バッと左を振り向くと、シュンさんによく似た白い甲冑みたいなのを着た人が部屋の扉の近くで俺をみて笑っていた。

見られた恥ずかしい!

恥ずかしいのはおいといて、今聞き間違えかもしれないけど、救世主って聞こえた気がする。

「聞き間違えではありませんよ。あなたは真の救世主様でございます。」

色々混乱しはじめる。

マンホールが抜けて、落ちて、起きたらよくわからないところにいて、だって…。

しかも、どうしてこの人は、俺がを知った上で会話できているのだろう。

「あの、ここはどこですか?」

そう訊くと、彼は困ったような顔で言った。

「ここは、ア・ゾディアック・サインの世界の中の、ピスケスという国でございます。偉大なる海の王、ポセイドン様が守護してくださっている、海に恵まれた地と呼ばれております。」

そこまで聞いて、俺はふと疑問を感じた。

「あなたは誰ですか?」

俺が言うと、彼は心底楽しそうな顔をした。

「良かった。私の名前の存在など、忘れ去られてしまったものかと心配いたしました。」

笑った顔に、どうにもシュンさんが重なる。

何だか寂しいような気がして、ふかふかのベッドの布団の裾を握りしめた。

「私の名はシュナイザー・リーファー・アルフォンス。この国の白騎士でございます。」

外国の、人?

俺は気が遠くなってきた。

白騎士、ピスケス、ポセイドンに、ア・ゾディアック・サイン…?

頭がぐらぐらしてきた。

視界が傾く。

焦った顔のアルフォンスさんが、やっぱりシュンさんに見えて、笑えた。

そこでプツリと記憶が途切れた。








「目が、覚めたか。」

目を開けると、鮮烈な赤が飛び込んできた。

それがとても綺麗で、泣きそうになった。

それと同時に、なぜだか苦しい感じがする。

なんだろう、こんな感情、初めて…。

「…あの馬鹿アルフォンスが無礼なことをしたようなのでお詫びする。あいつは、理屈をごちゃごちゃと並べるのが大好きな変態野郎だから、許してやってくれ。」

この黒い甲冑のようなものを着ている人は相当アルフォンスさんに厳しく考えているらしい。

酷い言い様に、俺はついつい笑ってしまった。

そんな俺を見て、彼は目を細めた。

「突然こちらに連れてこられて驚いただろう?ゆっくり体を休めるといい。しばらくすれば、アルフォンスが来てくれるだろうしな。」

さわ、と風になびいた青い髪が美しい。

まるで海の波の流れみたいだ。

「救世主、と呼ばれるのは少し違和感があるだろう。もし良ければ、ニックネーム?を教えてもらえるだろうか。」

この人の低い声は、物静かでとても聞き取りやすいし、聞いていて落ち着ける、優しい響きがある。

「…ヒロ、って…呼んでください。」

何だか気恥ずかしい。

どんな風な反応を返してくるのか不安だ。

彼は少し首をかしげて言った。

「ヒロ、殿でいいだろうか。」

殿、なんて。

そう思って笑えてきてしまった。

どうしよう、笑っちゃいけないのに、この人可愛いし面白い。

でいいですよ?」

俺も真似して首をかしげてみた。 

ちょっと待って吐き気がする。

俺がこんなことしても全くもって可愛くない。

「…では、ヒロ。俺はナザルト・ユーザリッテ・デュシライアーだ。好きに呼んで構わない。」

好きに呼んで構わないといわれても、彼の名前はニックネームをつけるのが難しい。

ユーザリッテ…リッテ…リツ!

「リツさんって、呼びます!」

驚いたような顔をしたあと、リツさんは笑みを浮かべ、愉快そうに肩を揺らした。

「俺のことをニックネームでそんな風に呼ぶのはヒロくらいだな。新鮮な気持ちだ。」

この人は安心できる。

無条件に信頼できる。

無償の愛はくれないかもしれないけど、でも、それに近しいものはくれると思ったから。

「…じゃあ、俺はもう行く。」

寂しいと思った。

離れて欲しくなかった。

「…リツさん、明日俺にこの世界のことを教えてくれませんか?」

リツさんは目を細めて、1度頷いた。

「明日、またここに来ることを約束しよう。」

そう言って出ていったリツさんの背中は大きくて、月明かりが反射して眩しかった。

明日、楽しみだな。

この世界のことはよくわからないけど、リツさんがいれば大丈夫だという予感がした。
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