ヤバい奴に好かれてます。

たいら

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「風邪」

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 あの鋼鉄の体を持つと思っていた久保田が風邪を引いた。昨日の夜からずっと寝込んでいる。
「お粥作ってみたけど食べる?」
「いりません」
 久保田はずっとあお向けで目をつぶって寝ている。しかし返事はするから起きてはいるみたいだ。
「水は?」
「いりません」
 大丈夫か? こいつ。病院にも行かず、薬も飲まず、どうやって治す気だ?
 さすがに心配になっておでこに手を当ててみた。
「熱っ!」
 久保田に手をはらわれた。
「あまり近寄らないでください。感染りますよ」
「俺が風邪引いたときはあんなにもウザかった奴が」
「ウザくありません。心配していただけです」
「…………」
 それじゃあ俺が心配していないみたいじゃないか。
 これでも看病してやろうと思ってるのに。とりあえず水だけは用意して、横に座って寝ている久保田を眺めていることにした。弱っている久保田は珍しい。この先いつお目にかかれるか分からない。
「野坂さん、向こうに行ってください」
 さすが久保田。目をつぶっていても気配で分かるようだ。きっとセンサー機能で俺がどこにいるか常に分かるに違いない。それか俺の体にGPSを埋め込んでいるか。
 寝ている久保田を見ていると、あることを思いついた。
 これは今までの仕返しをする絶好のチャンスではないか? 俺が今までどんな気持ちだったか、こいつは一万分の一でも知る必要があるだろ。
「…………」
 まず寝ている久保田の口にキスをしてみた。
 そして頬と顎と耳にキスをし、首筋に移動すると明らかに俺の体温が上がった。
「野坂さん」
 布団の中に潜ってみる。きちんと止められたパジャマのシャツのボタンを上からはずしていく。
「野坂さん」
 はだけた胸に耳を当てるとアンドロイドのくせにちゃんと心臓の音がした。心臓の音を聞きながら久保田の乳首を引っ張ってみる。
「野坂さん」
「ん?」
 おかしいなぁ。どうして反応が薄いんだ? 俺は乳首を諦め、他へ移動することにした。
「お」
 なんだこの固くてぼこぼことした腹は。やはり、こいつ人間じゃないな?
 腹の凹凸を撫でると体温の高い皮膚はなめらかに滑った。そこに口づけをしながら、さらに下に下りるためにパジャマのスボンを下げようとしたが、なかなか下がらない。
 どうしてだ? 尻が引っかかってるのか?
「野坂さん」
「うわっ!」
 真上から声が聞こえ、見上げるといつの間にか久保田が起き上がっていた。しかもがしりと手首を掴まれた。 
「……ちょ、ちょっと待って」 
 腕を引こうとしたが、しかし逆に引っ張られて久保田の方に引きずり込まれた。
「んわっ!」
 顔が久保田の胸にぶつかる直前、顎を掴まれてキスをされた。
「…………っ」
 さらにベッドの上に押し倒され、上に乗られ、押し潰されるようにキスをされる。
「んんっ!」
 重い重い。苦しくて肩を叩くと、起き上がった久保田に、猛獣が肉を引き千切るように服が脱がされた。ヤバい。まるでライオンの巣に入ってしまったみたいだ。
 俺はギブアップを決めた。
「わかった! 俺が悪かったからっ!」
 静かに寝ててくれっ!
「…………」
 しかし手ははねのけられ、久保田は無言で襲いかかってくる。
 熱い口内に喰われそうなほどキスをされ、体をばらばらにされそうな勢いで残っていた服をむしり取られ、俺はあまりの恐怖に良からぬことをしたと本気で後悔した。






「……ぁあっ! あぁっ! あぁっ……!」
 得体の知れない獣は起こすべきじゃない。理性を失った久保田はただの猛獣でしかなかった。
 部屋中を引っ張りまわされ、床に引き倒され、家具の上に押し倒された。
 今度は後ろから繋がったまま立ち上がらされると、壁に手をつかされる。脇の下から手を入れられ、肩を掴まれ、体を激しく揺すられた。
 なんでこいつっ、さっきまで寝込んでたくせに、こんなに激しく動けるんだっ⁉
「……あっ、あっ、あぁっ…………っ‼」
 この体勢で激しくされるのはかなりヤバい。腰から下が俺の体じゃなくなって、久保田と溶け合ってるみたいだ。
 こんなの頭がおかしくなる。
 俺は首を振って訴えた。
「……んぁっ、あっ、あっ、あっ……もう、むりっ、むりっ、むりっ……!」
 久保田の手が肩から離れて腰に移動した。腰だけ久保田に持っていかれる形になって、俺は壁に顔をこすり付けた。
「……あっ、あっ、あっ、あっ……」
 猛獣は寝かせておくべきだった。あとから気が付いても遅い。俺が檻を開けてしまったんだ。
 このまま壁に向かって喘ぎ続けるしかない思っていたら、突然体が離れ、床に引き倒され、あお向けにされた。
 また唇が合わさって開いた足の間から久保田が入ってきた。ぴったりと隙間がなくなる形で抱き合う。
「……ん……」
 何度も交わっておさまっていた体が、キスによってまた盛り上がっていく。
「……野坂さん」
 名前を呼ばれて顔を覗き込まれ、久保田の目に理性が戻ってきているのに気が付いた。
 汗で濡れている髪を撫でてやると眉間に皺が寄った。こいつが今何を言おうとしているか分かる。いいかげん俺だってこいつのこと分かってきてるんだ。何度も何度も聞いて聞き飽きていたから。
 唇を合わせたまま言ってやった。
「……俺も」
「…………」
 合わさった体がまたゆっくりと揺れ始めた。






「野坂さん、大丈夫ですか?」
 すっかり元の冷たいアンドロイドに戻った久保田が、りんごと包丁を持って現れた。さっきから水やらお粥やら体温計やらを一つずつ持って来ては俺を起こし、最高にウザい。
「静かに寝かせてくれ」
「だめですよ。僕の時は寝かせてくれなかったじゃないですか」
「お前の風邪が伝染ったんだぞ?」
 喉が痛い。熱が高い。全身の筋肉痛に倦怠感に悪寒が激しく食欲もない。
 こんな症状でこいつは昨日あんなに激しく動いたのか?
 バカか。こいつは。
「一週間ほとんど寝ずにあなたを待ってましたからね。さすがに体が弱って風邪を引いてしまったようです。次はあなたの番ですね」
 久保田が妙にすっきりした顔で言った。
 俺やっぱり嫌だよ。こんな恋人。せめて普通の風邪引いてくれよ。
 隣で久保田がスルスルとりんごの皮を剥く音がする。うるさいけど無視して眠ることにしよう。
「僕は一歩歩くごとにあなたを思い出し、一歩歩くごとにあなたが頭を占領します」
「…………」
 枕元から久保田の念仏が聞こえる。
「僕はあなたのためならなんでもします。あなただけが僕を動かすことができます。あなたのためなら僕はいくらでも手を汚すことができます」
 ……全っ然、眠れない。
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