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村上くんと森田くん2
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森田は俺が仕事を辞めそうになると必ず止めにくる。
「大きなお世話なんだよっ! ほっといてくれよ!」
「ほっといて欲しいなら一人でウジウジしてるなよっ!」
「お前はいっつもお節介なんだよ! なんで野坂さんや久保田さんまでいるんだよ!」
今日だって本当は一人で動物園に行こうと思ってたのに、遊園地に連れて行かれた。しかも野坂さんは良いけど、久保田まで連れて来やがった。
俺があの悪魔を嫌いだって知ってるくせに!
野坂さんは俺と森田の喧嘩に困惑した顔してるし、久保田はずっとニヤニヤと笑っている。もう最悪だ! あいつだけ露骨に野坂さんとのデートを楽しんでるじゃないか! 絶対に俺に見せつけている!
「村上くん、せっかくの休日に君のために大人たちが集まったんですよ。どうです? 楽しんでますか?」
一言多いんだよ! 嫌味製造マシーンが!
「まぁまぁまぁ」
思わず上司を睨みつけていると、野坂さんが間に入って止めてくれた。なんで久保田までいるんだよ!
もう早く帰りたいのに、久保田が勝手に決めて、最後に観覧車に乗るために歩いた。
野坂さんと久保田が先に乗り、俺と森田が次のゴンドラに乗った。
窓から見える夕日はきれいだけど、怒りはおさまらなかった。あんな会社絶対に辞めてやる。あんな奴の顔なんてもう二度と見たくない。
グラグラと揺れながらゴンドラが上っていく。
夕日を睨みつけていると、突然右手に森田の手が触れた。横を見ると、森田が目を伏せて、まるで耳が垂れた猫みたいになっていた。こんな森田は珍しい。
「ごめん。野坂さん一人だけ連れ出せないから久保田さんも連れて来たんだ」
珍しく森田が落ち込んでいるみたいだ。
手を握ると、森田がじっと俺を見上げた。
「明日から会社来るよな?」
「…………」
「来るよな?」
「…………」
森田は俺が辞めそうになると必ず止めに来る。どっちから近づいたのか、吸い込まれるように森田とキスをしていた。
「今日泊まってく?」
「……帰る」
眼鏡を取られてレンズを眼鏡拭きで拭かれた。狭い部屋はベッドから手を伸ばせる位置に全てがある。でもそれこの体勢でする必要ある?
「野坂さん会社辞めるんだって」
「……あっそう」
森田は眼鏡を俺の顔にかけ直した。
「大丈夫かな?」
「知らない。聞きたくない」
森田が寝ている俺の顔の横に手をついた。怒った顔が近づいてくる。
「……どうでもいい」
……これってどういう関係?
俺に乗ったまま、森田のキスは続く。俺は動くと怒られるので、されるがままだった。
「お前は? 俺に辞めて欲しくない?」
「…………」
「俺と離れたくない?」
「…………」
素直に離れたくないと言ってくれれば辞めないのに。
森田が目をつぶって、まるで俺の存在を忘れたみたいに俺の上で腰を揺らし始めた。そんな森田の腰を掴んで止めた。
「……俺もそれしたい」
そろそろ体位変えない? って目で訴えると、森田は黒目を細めた猫のような目で俺を見下ろした。
「だめ」
「なんで?」
「まだだめ」
「まだ? いつ?」
「……お前しだい」
森田は怒った顔で言った。あの日の甘える森田はどこに行ってしまったんだ? 可愛かったのに。
終わると森田はすぐに帰ってしまい、森田が作った味が濃すぎる焼きそばを食べながら思った。
……これってどういう関係?
「やったぁっ!」
俺は人目を憚らずに飛び上がった。
たまたま用事があって本社に寄った人間に聞いたのだ。久保田の悪魔が本社に異動になることが決まったらしい。やったぁっ!
「お前の異動届取り下げなきゃな」
一緒に情報を聞いていた森田が言った。
「うん。取り下げる!」
やったぁ!
「久保田さんは出世だけど」
「うん、いいよいいよ。俺のいないところでどんどん出世していけばいいよ!」
見えないところまで行っちゃえ!
「やったぁっ!」
同じように叫ぶ声が聞こえ、振り返ると俺よりも激しくジャンプして喜びを表現している人間がいた。
所長だ。え? なんで?
少ない髪を振り乱しながら激しくジャンプしている所長を見ていると、森田に腕を引っ張られた。
「ちょっと、あっち」
「え?」
野坂さんがいたデスクの傍。森田からコーヒーメーカーで作ったコーヒーを渡された。
「野坂さんの会社、倒産したらしいよ」
「えっ」
あの癒やしの背中がすぐに脳裏に浮かんだ。まだ転職してから半年も経っていないはずなのに。不運としか言いようがない。かわいそうだ。
でもなんで森田がそんなこと知ってるんだ?
「……それどこ情報?」
「久保田さん。今久保田さんの家で一緒に住んでるって言ってた」
「……えっ……」
「毎日傷心の野坂さんをしっかりかわいがってるって」
「……なにあいつ」
どんな顔でそんなこと言うんだよ。いや、絶対無表情だろ。いやいや、笑顔でも怖すぎるわ。
たしかにあいつは野坂さんだけには優しけど、野坂さんがあいつの家で拷問を受けていないか心配だ。
「……助けてあげなきゃ」
「馬鹿」
「なんでだよ?」
「久保田さんに捕まった時点で終わってんだよ。もう二度と助からない」
「助からないって」
そんな。不治の病みたいな。
「久保田さんに捕まった時点であの人の運命は決まってしまったんだよ」
「運命って」
あんな奴と運命なんて最悪じゃないか。
「久保田さんは野坂さんにだけは大丈夫だろ」
「…………」
もしかして、久保田って悪魔じゃなくて人間だったの? あの二人ちゃんと人間らしいお付き合いしてるの? 全然想像できない。野坂さん鍋で茹でられたりするんじゃないの?
「そんなことより」
森田が俺の手首を捻って持ち上げた。
「いてっ!」
そのまま強引に壁に背中を押し付けられる。こいつ小さいくせに、なんでこんな力強いんだよ。
「……お前はもう逃げる理由ないからな?」
「…………」
森田の猫目が、いや虎の目が、俺を捉えていた。
「大きなお世話なんだよっ! ほっといてくれよ!」
「ほっといて欲しいなら一人でウジウジしてるなよっ!」
「お前はいっつもお節介なんだよ! なんで野坂さんや久保田さんまでいるんだよ!」
今日だって本当は一人で動物園に行こうと思ってたのに、遊園地に連れて行かれた。しかも野坂さんは良いけど、久保田まで連れて来やがった。
俺があの悪魔を嫌いだって知ってるくせに!
野坂さんは俺と森田の喧嘩に困惑した顔してるし、久保田はずっとニヤニヤと笑っている。もう最悪だ! あいつだけ露骨に野坂さんとのデートを楽しんでるじゃないか! 絶対に俺に見せつけている!
「村上くん、せっかくの休日に君のために大人たちが集まったんですよ。どうです? 楽しんでますか?」
一言多いんだよ! 嫌味製造マシーンが!
「まぁまぁまぁ」
思わず上司を睨みつけていると、野坂さんが間に入って止めてくれた。なんで久保田までいるんだよ!
もう早く帰りたいのに、久保田が勝手に決めて、最後に観覧車に乗るために歩いた。
野坂さんと久保田が先に乗り、俺と森田が次のゴンドラに乗った。
窓から見える夕日はきれいだけど、怒りはおさまらなかった。あんな会社絶対に辞めてやる。あんな奴の顔なんてもう二度と見たくない。
グラグラと揺れながらゴンドラが上っていく。
夕日を睨みつけていると、突然右手に森田の手が触れた。横を見ると、森田が目を伏せて、まるで耳が垂れた猫みたいになっていた。こんな森田は珍しい。
「ごめん。野坂さん一人だけ連れ出せないから久保田さんも連れて来たんだ」
珍しく森田が落ち込んでいるみたいだ。
手を握ると、森田がじっと俺を見上げた。
「明日から会社来るよな?」
「…………」
「来るよな?」
「…………」
森田は俺が辞めそうになると必ず止めに来る。どっちから近づいたのか、吸い込まれるように森田とキスをしていた。
「今日泊まってく?」
「……帰る」
眼鏡を取られてレンズを眼鏡拭きで拭かれた。狭い部屋はベッドから手を伸ばせる位置に全てがある。でもそれこの体勢でする必要ある?
「野坂さん会社辞めるんだって」
「……あっそう」
森田は眼鏡を俺の顔にかけ直した。
「大丈夫かな?」
「知らない。聞きたくない」
森田が寝ている俺の顔の横に手をついた。怒った顔が近づいてくる。
「……どうでもいい」
……これってどういう関係?
俺に乗ったまま、森田のキスは続く。俺は動くと怒られるので、されるがままだった。
「お前は? 俺に辞めて欲しくない?」
「…………」
「俺と離れたくない?」
「…………」
素直に離れたくないと言ってくれれば辞めないのに。
森田が目をつぶって、まるで俺の存在を忘れたみたいに俺の上で腰を揺らし始めた。そんな森田の腰を掴んで止めた。
「……俺もそれしたい」
そろそろ体位変えない? って目で訴えると、森田は黒目を細めた猫のような目で俺を見下ろした。
「だめ」
「なんで?」
「まだだめ」
「まだ? いつ?」
「……お前しだい」
森田は怒った顔で言った。あの日の甘える森田はどこに行ってしまったんだ? 可愛かったのに。
終わると森田はすぐに帰ってしまい、森田が作った味が濃すぎる焼きそばを食べながら思った。
……これってどういう関係?
「やったぁっ!」
俺は人目を憚らずに飛び上がった。
たまたま用事があって本社に寄った人間に聞いたのだ。久保田の悪魔が本社に異動になることが決まったらしい。やったぁっ!
「お前の異動届取り下げなきゃな」
一緒に情報を聞いていた森田が言った。
「うん。取り下げる!」
やったぁ!
「久保田さんは出世だけど」
「うん、いいよいいよ。俺のいないところでどんどん出世していけばいいよ!」
見えないところまで行っちゃえ!
「やったぁっ!」
同じように叫ぶ声が聞こえ、振り返ると俺よりも激しくジャンプして喜びを表現している人間がいた。
所長だ。え? なんで?
少ない髪を振り乱しながら激しくジャンプしている所長を見ていると、森田に腕を引っ張られた。
「ちょっと、あっち」
「え?」
野坂さんがいたデスクの傍。森田からコーヒーメーカーで作ったコーヒーを渡された。
「野坂さんの会社、倒産したらしいよ」
「えっ」
あの癒やしの背中がすぐに脳裏に浮かんだ。まだ転職してから半年も経っていないはずなのに。不運としか言いようがない。かわいそうだ。
でもなんで森田がそんなこと知ってるんだ?
「……それどこ情報?」
「久保田さん。今久保田さんの家で一緒に住んでるって言ってた」
「……えっ……」
「毎日傷心の野坂さんをしっかりかわいがってるって」
「……なにあいつ」
どんな顔でそんなこと言うんだよ。いや、絶対無表情だろ。いやいや、笑顔でも怖すぎるわ。
たしかにあいつは野坂さんだけには優しけど、野坂さんがあいつの家で拷問を受けていないか心配だ。
「……助けてあげなきゃ」
「馬鹿」
「なんでだよ?」
「久保田さんに捕まった時点で終わってんだよ。もう二度と助からない」
「助からないって」
そんな。不治の病みたいな。
「久保田さんに捕まった時点であの人の運命は決まってしまったんだよ」
「運命って」
あんな奴と運命なんて最悪じゃないか。
「久保田さんは野坂さんにだけは大丈夫だろ」
「…………」
もしかして、久保田って悪魔じゃなくて人間だったの? あの二人ちゃんと人間らしいお付き合いしてるの? 全然想像できない。野坂さん鍋で茹でられたりするんじゃないの?
「そんなことより」
森田が俺の手首を捻って持ち上げた。
「いてっ!」
そのまま強引に壁に背中を押し付けられる。こいつ小さいくせに、なんでこんな力強いんだよ。
「……お前はもう逃げる理由ないからな?」
「…………」
森田の猫目が、いや虎の目が、俺を捉えていた。
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