僕の好きな人

たいら

文字の大きさ
上 下
8 / 8

8

しおりを挟む
 二十八年間で初めて恋人ができたせいなのか、それとも高比良さんがかっこ良すぎるせいなのか、一緒にいるときは常に高比良さんのどこかに触れていないと駄目になってしまった。
 このままだといずれ体目当てだと疑われるんじゃないかと心配になるくらいだった。
「お前恋人いたことあるよな?」
 仕事帰りの木島は、これからジムに行き、アプリで知り合った男と会うつもりらしい。毎回どういう体力しているんだと思う。
『お前じゃないんだからあるに決まってるだろ』
「エッチなことしなくても会える?」
『しないなら会うわけないだろ』
「そうだよな」
 良かった。木島ならそう言うと思った。しないなら会わないわけじゃないけど、会うのにしない理由を見つけることができないでいた。
『まさかそれお前と高比良さんの話じゃないよな?』
「ちがうよ」
『じゃあなんで最近高比良さんのこと聞いてこないんだよ』
 ……木島には言えない。
 こいつはまだ高比良さんの同僚だし、なぜか俺の漫画の読者だし、俺と高比良さんが俺の漫画みたいなセックスしてるなんて思われたら困る。これはまだ二人だけの秘密にしておきたいんだ。
「イラストを描いてた出版社で漫画を書籍化してくれることになったんだ。だからいっぱい修正しなきゃならなくて忙しいんだ」
『へぇ?』
 書籍化するにあたり、ほぼ俺と高比良さんが主人公みたいな漫画を高比良さんに恐る恐る見せた。高比良さんはなぜか内容よりも俺の絵の上手さに驚いていたけど、承諾は貰えた。これにより俺の妄想から始まった脈略のないエッチな漫画は、少し現実味を加えたエッチな漫画となってさらに世に広まることになった。
 BL漫画家としての第一歩だ。
『じゃあお前と高比良さんは何の関係もないんだな?』
「うん」
『じゃあいいな。お前に紹介したい男が見つかった』
「え?」
『顔が良いけど中身は別人。お前好きだろ?』
「…………」
 木島はまだ誤解している。高比良さんはそんな人じゃないのに。だって俺みたいなポンコツ眼鏡でも好きになってくれたんだから。







 仕事から帰ってきて、ソファでくつろぐ高比良さんの横に座り、手を握っていた。高比良さんはニュースを見ている間、好きに手を触らせてくれていた。
 ……好きなんだ、どの角度からも美しく見えるこの長い指が。
「高比良さんてどうして保険会社に入ったんですか?」
「自分が一番稼げる職種だと思ったからだよ」
「…………」
 高比良さんが木島みたいなことを言ったから驚いた。しかもちゃんと自分の長所を理解している。
 やっぱり俺とは根本から違う人間なんだ。理解なんてできるわけない。
「稼いでどうするんですか?」
「別に」
 高比良さんがチャンネルを変えながら言った。
「稼げると面白いから」
「…………」
 もしかしたら、この人を悩ませた俺はかなりすごいのかもしれない。だんだんそう思えてきた。
「あの、俺のどこが好きなんですか?」
 自分でもかなり効率の悪い人間だと思うし、何の利益にもならない人間なのに。
 テレビを見ていた高比良さんが俺の顔を見た。
 仕事から帰るとまずはシャワーを浴びる高比良さんは、すごくいい匂いがしていて、額に落ちた前髪の影まで美しかった。
「かわいいところ」
「…………」
 やっぱり高比良さんは変わってる。まず美意識がおかしい。モテるのにこんなポンコツが好きだなんて。
 高比良さんのいい匂いに吸い寄せられて唇を触れ合わせていた。
 高比良さんは知れば知るほどわからなくなる。それでも三年越しにこういう仲になれたのは幸せだった。
 あのとき偶然会えて良かった。あのとき会えなければ付き合えていなかったから。これから俺が高比良さんをたくさん幸せにしてあげるんだ。







「今日は動かないでくださいね」
 そう言って服を脱がせてベッドに寝かせ、その上に乗って美しい体にキスをしていた。美しい男の美しい体を好きにできるなんて贅沢すぎる。
 高比良さんの乳首は俺のよりも色が薄くて小さい。その形を確かめるように舐めながら、高比良さんの性器を握った。
 すると高比良さんが小さく息を吐いた。
「…………」
 片方の乳首を舐めつつ、ローションで濡らした手で高比良さんの性器を勃たせ、その上に跨り、自分で準備しておいた場所にあてがった。
「…………あ…………」
 慣れてはきたけど、やっぱり挿入はまだ苦手だった。
「……ん……ん……」
 なかなか奥まで入ってくれないから、動くと抜けてしまいそうで、小さくしか動けない。
 ……漫画で描くのは簡単なのに、どうして上手くできないんだろう? 俺で気持ち良くしてあげたいのに。
 小さく揺れながら目を開けると、高比良さんが俺を見上げていた。
「そろそろいい?」
「え?」
 起き上がった高比良さんに抱きしめられると、何故か奥まで入ってしまった。
「……あっ!! ……」 
 すぐに下からの激しい突き上げが始まり、思わず体が仰け反った。
「……あっ! ……あっ……んっ……んっ……んっ……あっ……あっ……あっ……!」
 高比良さんにしがみついていると、突き上げられながら、押し倒された。
 仰向けで押し潰されながら、俺の中を知り抜いているみたいに、高比良さんの腰が激しく動く。
「……ぁぁぁああぁあぁぁぁっ……ぁあぁぁあぁぁぁっ……!」
 俺はただ強引に絶頂へ導かれるだけだった。
「……ぁぁああぁあぁぁっ……! ……」
 高比良さんに動けないほど押さえ込まれながら、ピッタリと体を重ねた間で精液が溢れ出て、しばらく小刻みに射精が止まらなかった。
「……動かないでって、言ったのに」
「ごめんね。あんまりかわいいから我慢できなかった」
 高比良さんの前髪が顔にかかるほど近くで謝られた。
「……許しません」
 そう言ったのに、高比良さんは俺の好きな笑顔で、キスをしてきた。
「…………」
 ……ズルい。絶対ズルいんだ、この人は。
 俺がこの顔に弱いことに気がついている気がする。自分の長所をちゃんと理解しているんだ。
「……んっ……んっ……んっ……んっ……!」
 ベッドの上で膝立ちになり、後ろから突かれていた。
「……あっ! あっ! あっ! あっ! ……」
 さっき射精したばかりでまだイけそうにないのに、もう限界だった。
 脇の下から手を入れられて肩を掴まれ、深く貫かれたまま奥をズンズンと突かれ続ける。
「……まっ……! ……ぁぁあっ、ぁあぁっ、あぁぁぁっ……!」 
 射精はできなくても全身で絶頂を感じていた。高比良さんに支えられ、何とか立てているけど、その間も突かれ続けていて、なかなか絶頂が終わらなかった。
「……ぁぁぁぁぁっ! ……あぁぁぁぁっ! ……あぁぁぁあっ……!」
 高比良さんの手が離れてうつ伏せに倒れると、高比良さんが俺の腰を掴んで動きを止めた。
「…………っ」
 ……高比良さんが俺の中でイってる。この瞬間が一番幸せだった。
 しばらくして性器が抜き出されたあとも、奥まで高比良さんを感じていた。
「大丈夫?」
 動けないでいる俺に高比良さんが手を握ってくれた。
「かわいい」
 そう言って頬にキスをしてくれた高比良さんはやっぱり優しかった。







 目を覚ますと、隣に高比良さんがいなかった。
 探しに行くと、高比良さんはソファに座ってタブレットで何かを見ていた。
「何見てるんですか?」
 高比良さんが振り返った。
 振り返った高比良さんは髪が乱れているしパジャマなのに、薄暗い中でも発光しているみたいにかっこ良かった。やっぱり俺とは骨格から何もかもが違う人間なんだ。
 高比良さんがタブレットの画面を見せてくれた。
 そこには三年前の入社したての泣きながら仕事をしている俺が映っていた。
「かわいいでしょ?」
 そう言って高比良さんが笑った。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

待てって言われたから…

ふみ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

処理中です...