あなたと食べるふたりご飯。

真柴理桜

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節分と言えば……?

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「お疲れ様でーす」
「あ、はなぶささん待って!」

 仕事を終えて帰ろうとした奈々は同僚に呼ばれて、足を止めた。何ですか?と首を傾げる。残業なら断固拒否したいところだ。

「これあげるー」

 営業先でもらったやつだと言って渡してきたのはカラメルコーティングされたピーナッツのお菓子だ。

「節分だからってもらったんだけど俺ピーナッツ苦手で」

 良かったら食べてと笑う同僚に、ありがとうございますと笑顔を返して奈々は職場を後にした。
 そうか。今日は節分だった。それなら今日の夕飯は恵方巻かな?潤はどんな巻き寿司を用意してくれているのだろう?
 わくわくしながら帰る奈々の足取りは軽い。帰る楽しみがあるって素敵だ。





「ただいまー」
「おかえりー。夕飯出来てるよー」

 帰宅してリビングに顔を出すと、潤に手を洗っておいでーと笑顔で言われる。
 はーいと元気に返事をして、手を洗いに行った奈々がリビングに戻るとダイニングテーブルには夕飯が並んでいた。

「あれ?」

 テーブルに並ぶ料理に奈々は首を傾げる。
 本日の夕飯はいわしの梅煮、けんちん汁、大豆の甘辛揚げ、白菜の塩昆布和えだ。
 これはこれでとても美味しそうだ。でも。

「恵方巻じゃないの?」
「ん?恵方巻が良かった?」

 質問に質問で返されて、奈々は首を振る。
 潤が用意してくれるご飯ならなんでも美味しく頂くし、実際美味しい。恵方巻が特別食べたかった訳ではない。ただ……。

「節分だから恵方巻かなって思ってた」

 行事事がある時はそれに因んだご飯が出てくる。けれども今日は違うんだな。

「これも節分のご飯だよ」
「そうなの!?」

 節分=恵方巻だと思い込んでいた奈々が驚いて聞き返すと潤がゆっくりと頷いた。
 食べようかと奈々を促し、席につく。
 いただきますと2人揃って手を合わせて箸を取った。

「まずはいわしね。鬼が鰯の匂いや焼いた時の煙りを嫌うことが由来なんだって」
「ほう」

 聴きながら鰯の梅煮を口に運ぶ。
 梅と一緒に煮られた鰯は臭みもなく、骨までホロホロと柔らかで甘酸っぱい味つけで美味しい。

「次にけんちん汁。これは節分だけじゃなく寒い時期の季節行事で体を温める目的で供されていた行事食だねぇ」

 けんちん汁のお椀に口をつけ、汁を一口すする。昆布出汁とごま油の風味が口の中に広がり、温かな汁が喉から胃の中へゆっくりと流れていき、お腹の中から温まっていくようだ。大根、にんじん、ゴボウ、里芋、こんにゃく、豆腐と具沢山で食べごたえもある。

「大豆はまぁ言わずと知れた豆まきからかなぁ。発音がまめ魔目まめで同じって語呂合わせから、鬼の目すなわち魔目に向かって豆を投げて魔を滅する効果があるとされているからだって」

 大豆の甘辛揚げはカリっとした衣とホクホクの豆に絡む甘辛のタレが後を引く箸が止まらなくなる美味しさだ。

「以上、本日の節分ご飯献立です」
「白菜は?」

 まだ白菜の塩昆布和えについての説明を聞いていない。

「白菜は今が旬で美味しいからです」
「節分は!?」
「関係ないねぇ」

 いたずらっぽく笑う潤を見ながら奈々は白菜を口にと運ぶ。シャキシャキとした食感と旬の野菜の甘みと旨味、塩昆布の塩気と旨味が合わさり美味しい。
 つまりこれは節分関係なくて一汁三菜の結果つけられた副菜か。まぁ美味しいからそれでいい。美味しいは正義だ。

「でもなんで恵方巻にしなかったの?」

 節分といえば恵方巻のイメージはやはり強い。わかりやすく行事食ではないだろうか?

「……恵方巻ってさ、恵方に向かって無言で食べるでしょ?それはちょっとなぁって……」
「ん?ダメなん?それ」
「揃って恵方に向かってたら奈々が食べてる時の嬉しそうで美味しそうな顔が見れないじゃん。美味しいって声も聴けないし」

 それはヤダなぁって……と顔をしかめる潤に奈々は思わず吹きだした。
 なんだその理由!え、つまり潤は……。

「潤、私のこと大好きじゃん!」
「そうだよ」

 あっさりと頷かれるとなんだか少し気恥ずかしい。でも、うん、確かに潤の言う通りかもしれない。

「今日のご飯も美味しいね」

 二人で食べているのだ。向かい合って美味しいねって笑い合いながら食べたい。その方がきっとずっと美味しくなる。
 笑いながら、けんちん汁の里芋を口に運ぶ。しっかりと味が染みた里芋はほくほくとして口の中で柔らかく崩れていった。
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