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お正月のおもてなし
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「あけましておめでとうございます」
ダイニングテーブルを囲んで、それぞれ挨拶をする。
「今年もよろしくお願いします」
二人向かい合って頭を下げて、同時に顔をあげると目が合って、笑い合う。
「じゃあ、食べよっか」
「いただきまーす」
潤の言葉に奈々が嬉しそうに手を合わせる。
テーブルの上には御節の定番料理が数品とお雑煮。真ん中にはお重ではなく、スクエア型の大皿に伊達巻、蒲鉾、栗きんとん、昆布巻きが盛られており、取分け用の箸が添えてある。
各々の前には長皿に鰤の照り焼きにはじかみを添えて。それから豆皿が二つ。それぞれ黒豆と紅白なますがのっている。
それらの皿は優美な乳白色に藍色で野苺が描かれており、周囲を縁取るような細かな浮彫模様が料理を美しく演出してくれる。
美しい漆塗りと華やかな金の蒔絵が目を引くお椀に入ったお雑煮はシンプルで具材は角餅と三つ葉のみ。出汁とお餅を味わうものだ。
まずはお雑煮から。お餅は焼かずに煮込んであり、柔らかなお餅に香り豊かな合わせ出汁の旨味が絡まり美味しい。シンプルだからこそ、出汁やお餅の美味しさが際立ってくる。
伊達巻はふわふわとした食感と程よい甘さで食べやすく、卵の黄色が鮮やかで目でも楽しい。
黒豆はふっくらとして艶々と美しく、あっさりとした甘さだ。
昆布巻きは鶏の胸肉を巻いてあり、ホロホロと柔らかくなった鶏肉と昆布の旨味が美味しい。
栗きんとんはさつま芋の甘みがいきていてねっとりとして甘く、滑らかな舌触りだ。
紅白なますはさっぱりとして食べやすく、柚子が散らされていて香りもいい。
照り照りとした見た目も美味しそうな鰤の焼き物はふっくらとした身にしっかり目の味付けが染みていて箸がすすむ。
「どれも美味しいねぇ。しかも全部手作りでしょ。おせち料理って手作りできるんだね」
「そうだね。さすがに買ってくるものほど品数豪華にはできないけど……好きな物だけでも作ると楽しいよね」
微笑む潤に奈々は尊敬の眼差しを向けてしまう。奈々の中におせちを作るという発想はなかった。おせちは買うものだ。それを作るなんて!しかも楽しいとか!潤は本当にすごいなと感心する。そして美味しい。
「でもなんでお正月はおせち食べるの?これも縁起物?確か料理にも意味が込められてるんだよね?」
訊ねる奈々に潤が頷く。
「おせちは神様をおもてなしする意味があるのね。年神様へのお供えもので、それを一緒に食べることで御利益にあずかろうってことみたいよ。後は基本的に日持ちのするものだから忙しなくしない、台所に立たないって意味があるんだって」
お雑煮もそうだよねとの潤の言葉に奈々が驚く。
「お雑煮も?」
「うん。神様へのお供え物を色々煮て作るから雑煮って説があるよ。これもお供え物から力をいただこう、御利益を得ようってことだよね」
「……なるほど」
お正月の食べ物は全て神様のパワーをいただくことなのか。
お腹を満たすだけでなくパワーまで貰っていたのだ。でも確かに、美味しいものを食べると力が湧くというか。お腹が満たされると心も満たされるしなと奈々は納得する。
「料理の意味は?」
「色々込められてるよー」
そう言って、潤が一つずつ説明してくれる。
かまぼこは、半月の形が元旦の初日の出に似ているから。紅白の紅は魔除け、白は清浄を表しているとされている。
伊達巻は、巻物を連想させることから、知恵が増えることを願う縁起物で学業成就の願いが込められている。
栗きんとんは、その輝く黄金色から、金運上昇。
昆布巻きは、語呂合わせで喜ぶ。養老昆布とも掛けて不老長寿。
黒豆はまめに暮らせるとかまめに働くと掛けて。
紅白なますは、両方根菜であることから根を張るようにとの願いが込められている。またその色合いから祝い事で使われる水引きを象っている。
鰤は出世魚であることから、立身出世を願う。
「色々あるんだねぇ」
「そうだね。いろんな願いを込めて、そのパワーを取り込んできたんだろうね」
「美味しいは正義だね!」
それは何か違うような?と思いつつも潤はゆったりと頷いた。
「はぁお腹いっぱいー。今日はもうゆっくりするー」
お雑煮とおせちをお腹におさめ、食器を片付けてから奈々はソファにごろりと横になる。
「ん?初詣行かない?」
「行くー!!」
潤の言葉に奈々はソファから飛び起きる。
おみくじ引きたいし、屋台も冷やかしたい。
準備するねーと笑う奈々は楽しそうだ。
「今年も良い年になるといいね」
柔らかく笑う潤に奈々は一瞬キョトンとして、それからすぐに破顔する。
「なるよ!だって……」
今日もご飯が美味しいからね!
ダイニングテーブルを囲んで、それぞれ挨拶をする。
「今年もよろしくお願いします」
二人向かい合って頭を下げて、同時に顔をあげると目が合って、笑い合う。
「じゃあ、食べよっか」
「いただきまーす」
潤の言葉に奈々が嬉しそうに手を合わせる。
テーブルの上には御節の定番料理が数品とお雑煮。真ん中にはお重ではなく、スクエア型の大皿に伊達巻、蒲鉾、栗きんとん、昆布巻きが盛られており、取分け用の箸が添えてある。
各々の前には長皿に鰤の照り焼きにはじかみを添えて。それから豆皿が二つ。それぞれ黒豆と紅白なますがのっている。
それらの皿は優美な乳白色に藍色で野苺が描かれており、周囲を縁取るような細かな浮彫模様が料理を美しく演出してくれる。
美しい漆塗りと華やかな金の蒔絵が目を引くお椀に入ったお雑煮はシンプルで具材は角餅と三つ葉のみ。出汁とお餅を味わうものだ。
まずはお雑煮から。お餅は焼かずに煮込んであり、柔らかなお餅に香り豊かな合わせ出汁の旨味が絡まり美味しい。シンプルだからこそ、出汁やお餅の美味しさが際立ってくる。
伊達巻はふわふわとした食感と程よい甘さで食べやすく、卵の黄色が鮮やかで目でも楽しい。
黒豆はふっくらとして艶々と美しく、あっさりとした甘さだ。
昆布巻きは鶏の胸肉を巻いてあり、ホロホロと柔らかくなった鶏肉と昆布の旨味が美味しい。
栗きんとんはさつま芋の甘みがいきていてねっとりとして甘く、滑らかな舌触りだ。
紅白なますはさっぱりとして食べやすく、柚子が散らされていて香りもいい。
照り照りとした見た目も美味しそうな鰤の焼き物はふっくらとした身にしっかり目の味付けが染みていて箸がすすむ。
「どれも美味しいねぇ。しかも全部手作りでしょ。おせち料理って手作りできるんだね」
「そうだね。さすがに買ってくるものほど品数豪華にはできないけど……好きな物だけでも作ると楽しいよね」
微笑む潤に奈々は尊敬の眼差しを向けてしまう。奈々の中におせちを作るという発想はなかった。おせちは買うものだ。それを作るなんて!しかも楽しいとか!潤は本当にすごいなと感心する。そして美味しい。
「でもなんでお正月はおせち食べるの?これも縁起物?確か料理にも意味が込められてるんだよね?」
訊ねる奈々に潤が頷く。
「おせちは神様をおもてなしする意味があるのね。年神様へのお供えもので、それを一緒に食べることで御利益にあずかろうってことみたいよ。後は基本的に日持ちのするものだから忙しなくしない、台所に立たないって意味があるんだって」
お雑煮もそうだよねとの潤の言葉に奈々が驚く。
「お雑煮も?」
「うん。神様へのお供え物を色々煮て作るから雑煮って説があるよ。これもお供え物から力をいただこう、御利益を得ようってことだよね」
「……なるほど」
お正月の食べ物は全て神様のパワーをいただくことなのか。
お腹を満たすだけでなくパワーまで貰っていたのだ。でも確かに、美味しいものを食べると力が湧くというか。お腹が満たされると心も満たされるしなと奈々は納得する。
「料理の意味は?」
「色々込められてるよー」
そう言って、潤が一つずつ説明してくれる。
かまぼこは、半月の形が元旦の初日の出に似ているから。紅白の紅は魔除け、白は清浄を表しているとされている。
伊達巻は、巻物を連想させることから、知恵が増えることを願う縁起物で学業成就の願いが込められている。
栗きんとんは、その輝く黄金色から、金運上昇。
昆布巻きは、語呂合わせで喜ぶ。養老昆布とも掛けて不老長寿。
黒豆はまめに暮らせるとかまめに働くと掛けて。
紅白なますは、両方根菜であることから根を張るようにとの願いが込められている。またその色合いから祝い事で使われる水引きを象っている。
鰤は出世魚であることから、立身出世を願う。
「色々あるんだねぇ」
「そうだね。いろんな願いを込めて、そのパワーを取り込んできたんだろうね」
「美味しいは正義だね!」
それは何か違うような?と思いつつも潤はゆったりと頷いた。
「はぁお腹いっぱいー。今日はもうゆっくりするー」
お雑煮とおせちをお腹におさめ、食器を片付けてから奈々はソファにごろりと横になる。
「ん?初詣行かない?」
「行くー!!」
潤の言葉に奈々はソファから飛び起きる。
おみくじ引きたいし、屋台も冷やかしたい。
準備するねーと笑う奈々は楽しそうだ。
「今年も良い年になるといいね」
柔らかく笑う潤に奈々は一瞬キョトンとして、それからすぐに破顔する。
「なるよ!だって……」
今日もご飯が美味しいからね!
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