あなたと食べるふたりご飯。

真柴理桜

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大晦日は年越し蕎麦で

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 大晦日。今日は朝から大掃除だ。
 ……とは言っても普段から掃除はしているし、換気扇やエアコンのフィルターやリビングの照明などのあまり普段はしない様な場所も春や秋の気候の良い時分に潤と奈々で手分けしてやっておく様にしている。
 その甲斐あって、年末に頑張ってやるほどのことはあまりない。
 普段より少し念入りに、丁寧に、掃除をする。それから用意した正月飾りを出していく。玄関の下駄箱の上に小さな門松を飾り、その横には干支の動物をかたどった置物を並べた。

「潤ー、お風呂掃除終わったよー」

 玄関を飾っていた潤に奈々が声をかけてくる。

「お疲れ様ー。じゃあこれで全部終わりかな。後は私の仕事だから奈々はのんびりしてて」

 笑いながらキッチンに向かう潤の後を奈々もついていく。
 料理は潤が主にやるから奈々が手を出すことはまずない。今日の夕飯の準備も明日のご飯の準備もこれから潤がする。
 奈々が手伝うのは出来上がった料理を運んだり、食後の洗い物だ。
 潤は料理を作るのが好きだし、食べてもらうのが好きだ。そして奈々は食べることが好きだが、作るのはあまり好きではない。
 でも今日は大晦日で明日の準備もあるなら少しくらいは手伝いたい。

「何かすることある?」

 訊ねる奈々に潤は少し考えてから、皮をむいた人参と大根と千切りピーラーを渡した。

「これで千切りにしてくれる?」
「うん!」

 潤となら一緒に作るのも、悪くない。





 午後の時間を準備に費やして、潤が作ったものをタッパーに詰めていく。それほど色々作ったわけでもないからと、お重に詰めるのではなく、明日それぞれお皿に盛るのだそうだ。
 そして今日の夕飯は……。

「今日は年越し蕎麦でーす」
「鴨南蛮だー」

 ダイニングテーブルに並ぶのは鴨肉とネギがのった鴨南蛮と出汁巻き卵ときんぴらごぼうだ。

「いただきまーす」

 両手を合わせてから箸を手にする。
 まずはメインの鴨南蛮を一啜ひとすすり。鴨の旨味が出汁に溶け出し、風味がそばに絡んでいる。こんがりと焼いたネギはほくほくとして香ばしく甘みがあり、鴨肉はむっちりとして弾力があり噛むほどに旨味があふれてくる。少し甘めの出汁と鴨の旨味とネギの香ばしさとの相性は抜群で、たまらない美味しさだ。
 出汁巻き卵はふわふわで噛むとじゅわぁーと口の中に出汁の旨味が広がっていく。卵と薄味の出汁のバランスが絶妙の優しい味わいだ。
 きんぴらごぼうはシャキシャキとした食感と甘辛な味付けでごま油の香りも香ばしく、箸休めに最適だ。

「美味しいー!鴨とネギって合うねぇ」

 ほぅと息をつきながら蕎麦を啜る奈々。潤はそれを楽しそうに見つめる。美味しそうに食べる奈々を見るのは本当に楽しい。それだけでお腹も心も満たされていくようだ。

「でもなんで大晦日に蕎麦を食べるんだろうね?」

 寒いから温かい蕎麦で暖まろう的な?と首を傾げる奈々に潤は笑う。それはそれで理由としてはありかもしれない。蕎麦でなくてもいいだろうけれど。

「えっと……蕎麦は他の麺類に比べて切れやすいから災厄を断ち切るためだったかな。あとは蕎麦の様に細く長く生きられるようにとか、金細工職人がそば粉の団子で飛び散った金粉を集めたことから金運の上昇とか。そばが打たれ強い植物だったことから健康への験担げんかつぎとか。色々あるみたいだよー」
「一年の厄を断ち切り新年を迎えようってことか!あとはお決まりの無病息災や長寿祈願!」
「だねー。この一杯に色々願いが込められているわけです」

 二人で笑い合いながら蕎麦を啜る。込められた思いも飲み込むようにお腹におさめる。
 
『来年も二人で楽しく過ごせますように』

 そんな願いをこめて。


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