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七夕の夜ごはん
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玄関の開く音がする。少しして、リビングの戸が開いて、同居人が顔を出した。
「ただいまぁ~……」
間延びした疲労がこもった声とともに帰宅した奈々はリビングのソファに倒れこんだ。
「あぁ~おうち涼しい~外やばかったぁ……」
「お帰りなさい。お疲れ様」
ご飯出来てるよと潤がキッチンから声をかけると奈々はソファに寝転んだまま、顔だけ潤のいるキッチンの方へと向ける。
「今日のご飯なにー?」
「素麺だよ」
七夕だからね。と笑う潤に奈々はゆっくりと起き上がる。
「着替えてくるー」
「いってらっしゃーい」
リビングを出ていく奈々を見送り潤は最後の仕上げに取りかかった。
スクエア型の大皿に一口ずつ丸めた素麺を流線形を描くように盛り付ける。天の川に見立てたその上には輪切りにしたオクラと星形に抜いたハムとにんじん。両岸にあたる場所には大葉を引いて茗荷と胡瓜、金糸卵と細く裂いたカニかまをそれぞれ添えて。
それから水菜、レタス、ベビーリーフと角切りにしたアボカドとトマトに特製の胡麻ドレッシングをかけたサラダと鳥もも肉の唐揚げをダイニングテーブルに並べる。唐揚げは素麺とサラダではたんぱく質が足りないかと思い、用意したものだ。
それらの準備が終わる頃、部屋着に着替えた奈々が戻ってきた。
「おぉー素麺が七夕仕様だ」
そう言って笑いながら席につく。
2人揃って、いただきます。と手を合わせ、奈々はさっそく素麺へと箸をのばした。
茗荷と胡瓜と一緒につゆにつけてからちゅるちゅると啜る。
冷たい麺の喉越しと胡瓜のしゃきしゃきとした食感、それから茗荷の爽やかな香りが口の中に広がる。
「はぁ~暑かったから冷たい素麺がおいしい……」
しみじみと呟く奈々。そして麺もだがこのつゆがおいしい。
鰹節と昆布の合わせ出汁でほんのり甘めのつゆは潤が丁寧に出汁を取り作っているものだ。
「毎日暑いしね。冷たいものが美味しい季節になったよね」
自身も素麺に箸をのばしながら潤が顔を綻ばせる。奈々が美味しそうに食べてくれるから潤としても作りがいがあるというものだ。
「でも何で七夕に素麺なの?」
「んー機織りが得意な織姫にちなんで糸に見立てたとか、天の川に見立てたとか諸説あるけど……」
奈々の疑問に潤はサラダを頬張りながら答える。しゃりしゃりと歯触りの良いレタスを咀嚼してから言葉を続けた。
「まぁ行事食にありがちな無病息災ってやつだよね」
「暑いから冷たい素麺をしっかり食べて健康に過ごせってことか」
「うん。そんなわけでデザートにスイカ冷やしてあるよ」
「やったー!」
楽しみだーと笑いながら奈々は唐揚げに齧りつく。じゅわりとオイリーな肉汁が溢れ、その熱さに口の中でハフハフと転がす。鳥の脂の旨味が口の中に広がり、自然と目尻が下がり口元が緩む。美味しい。
旺盛な食欲を見せる奈々を見ながら潤も自身の箸をすすめる。全身で美味しいと言っているかのような奈々を見ていると、それだけでご飯が美味しくなるような気がした。
デザートのスイカまでしっかり堪能し、2人で食器を片付けて食後のコーヒーを淹れる。
色違いのマグカップを片手に奈々はリビングのソファに腰をおろした。
湯気をたてるコーヒーに息を吹きかけ冷ましながら、ふと目にとめたのは窓の横に飾ってある笹だった。小さな笹は100均で売っていたからと潤が買ってきたものだ。潤お手製の小さな七夕飾りと2人で書いた短冊を吊るしたそれ。そういえば、潤は何て書いたのだろうか。
毎日暑くてしんどくて、日射しも強くてせめてこの日射しだけでもなんとかなればと思っているけれど。
「今日に限っては晴れて良かったかな」
「どうして?」
呟くようにポツリとこぼした奈々に潤が隣に座りながら訊ねた。手には色違いでお揃いのマグカップ。奈々がピンクで潤はグリーン。ストロベリー柄が描かれたそれは潤のお気に入りのブランドの物だ。
「雲あったら空から願い事見えないかもだし。そしたら願い事叶わないのかなって。それに雨だと会えないって言うし。私だったら1年に1回しか潤に会えなかったとしてその1回もなくなったら淋しいし……」
言っていて恥ずかしくなったのか頬をうっすら赤めながら顔をそむける奈々。潤はその横顔をただ見つめるだけだ。え?なにこの可愛い生き物。
手にしたマグカップをソファの前にあるローテーブルに置いて、奈々の手からもマグカップを取って同じくテーブルに置く。
それからギュッと奈々に抱きついた。
「大丈夫だよ奈々。私らの1年なんて星の基準なら一瞬だよ。きっと朝仕事いって帰ってきて一緒にご飯食べてるよ」
「……普段の生活だ」
「うん。それに、雨でも私らから見えないだけで空の上だから大丈夫。雨雲より上にいるんだから会えてるよ。むしろ覗かれない分いちゃつき放題じゃない?」
「なんだ。じゃあ雨でもいいんじゃん」
潤の言葉にくすくす笑いながら奈々もギュッと抱きつき返す。
「ねぇ潤はどんな願い事を書いたの?」
「『奈々が元気で幸せに笑ってますように』」
「え!?私!?」
「奈々は?」
「私は……」
ちらりと短冊へと視線を向ける。そこに書いた願い事は……。
「『ずっと潤と一緒に潤の作ったご飯が食べられますように』」
毎日帰ったら潤がご飯を作って待っててくれている。そう思うだけで頑張れる。だから……。
「ずっと作るよ。奈々のために」
柔らかく笑った潤に奈々も笑顔を返す。顔を見合わせて笑いながら、それは自然と近づいて、どちらともなく、そっと触れた。
「ただいまぁ~……」
間延びした疲労がこもった声とともに帰宅した奈々はリビングのソファに倒れこんだ。
「あぁ~おうち涼しい~外やばかったぁ……」
「お帰りなさい。お疲れ様」
ご飯出来てるよと潤がキッチンから声をかけると奈々はソファに寝転んだまま、顔だけ潤のいるキッチンの方へと向ける。
「今日のご飯なにー?」
「素麺だよ」
七夕だからね。と笑う潤に奈々はゆっくりと起き上がる。
「着替えてくるー」
「いってらっしゃーい」
リビングを出ていく奈々を見送り潤は最後の仕上げに取りかかった。
スクエア型の大皿に一口ずつ丸めた素麺を流線形を描くように盛り付ける。天の川に見立てたその上には輪切りにしたオクラと星形に抜いたハムとにんじん。両岸にあたる場所には大葉を引いて茗荷と胡瓜、金糸卵と細く裂いたカニかまをそれぞれ添えて。
それから水菜、レタス、ベビーリーフと角切りにしたアボカドとトマトに特製の胡麻ドレッシングをかけたサラダと鳥もも肉の唐揚げをダイニングテーブルに並べる。唐揚げは素麺とサラダではたんぱく質が足りないかと思い、用意したものだ。
それらの準備が終わる頃、部屋着に着替えた奈々が戻ってきた。
「おぉー素麺が七夕仕様だ」
そう言って笑いながら席につく。
2人揃って、いただきます。と手を合わせ、奈々はさっそく素麺へと箸をのばした。
茗荷と胡瓜と一緒につゆにつけてからちゅるちゅると啜る。
冷たい麺の喉越しと胡瓜のしゃきしゃきとした食感、それから茗荷の爽やかな香りが口の中に広がる。
「はぁ~暑かったから冷たい素麺がおいしい……」
しみじみと呟く奈々。そして麺もだがこのつゆがおいしい。
鰹節と昆布の合わせ出汁でほんのり甘めのつゆは潤が丁寧に出汁を取り作っているものだ。
「毎日暑いしね。冷たいものが美味しい季節になったよね」
自身も素麺に箸をのばしながら潤が顔を綻ばせる。奈々が美味しそうに食べてくれるから潤としても作りがいがあるというものだ。
「でも何で七夕に素麺なの?」
「んー機織りが得意な織姫にちなんで糸に見立てたとか、天の川に見立てたとか諸説あるけど……」
奈々の疑問に潤はサラダを頬張りながら答える。しゃりしゃりと歯触りの良いレタスを咀嚼してから言葉を続けた。
「まぁ行事食にありがちな無病息災ってやつだよね」
「暑いから冷たい素麺をしっかり食べて健康に過ごせってことか」
「うん。そんなわけでデザートにスイカ冷やしてあるよ」
「やったー!」
楽しみだーと笑いながら奈々は唐揚げに齧りつく。じゅわりとオイリーな肉汁が溢れ、その熱さに口の中でハフハフと転がす。鳥の脂の旨味が口の中に広がり、自然と目尻が下がり口元が緩む。美味しい。
旺盛な食欲を見せる奈々を見ながら潤も自身の箸をすすめる。全身で美味しいと言っているかのような奈々を見ていると、それだけでご飯が美味しくなるような気がした。
デザートのスイカまでしっかり堪能し、2人で食器を片付けて食後のコーヒーを淹れる。
色違いのマグカップを片手に奈々はリビングのソファに腰をおろした。
湯気をたてるコーヒーに息を吹きかけ冷ましながら、ふと目にとめたのは窓の横に飾ってある笹だった。小さな笹は100均で売っていたからと潤が買ってきたものだ。潤お手製の小さな七夕飾りと2人で書いた短冊を吊るしたそれ。そういえば、潤は何て書いたのだろうか。
毎日暑くてしんどくて、日射しも強くてせめてこの日射しだけでもなんとかなればと思っているけれど。
「今日に限っては晴れて良かったかな」
「どうして?」
呟くようにポツリとこぼした奈々に潤が隣に座りながら訊ねた。手には色違いでお揃いのマグカップ。奈々がピンクで潤はグリーン。ストロベリー柄が描かれたそれは潤のお気に入りのブランドの物だ。
「雲あったら空から願い事見えないかもだし。そしたら願い事叶わないのかなって。それに雨だと会えないって言うし。私だったら1年に1回しか潤に会えなかったとしてその1回もなくなったら淋しいし……」
言っていて恥ずかしくなったのか頬をうっすら赤めながら顔をそむける奈々。潤はその横顔をただ見つめるだけだ。え?なにこの可愛い生き物。
手にしたマグカップをソファの前にあるローテーブルに置いて、奈々の手からもマグカップを取って同じくテーブルに置く。
それからギュッと奈々に抱きついた。
「大丈夫だよ奈々。私らの1年なんて星の基準なら一瞬だよ。きっと朝仕事いって帰ってきて一緒にご飯食べてるよ」
「……普段の生活だ」
「うん。それに、雨でも私らから見えないだけで空の上だから大丈夫。雨雲より上にいるんだから会えてるよ。むしろ覗かれない分いちゃつき放題じゃない?」
「なんだ。じゃあ雨でもいいんじゃん」
潤の言葉にくすくす笑いながら奈々もギュッと抱きつき返す。
「ねぇ潤はどんな願い事を書いたの?」
「『奈々が元気で幸せに笑ってますように』」
「え!?私!?」
「奈々は?」
「私は……」
ちらりと短冊へと視線を向ける。そこに書いた願い事は……。
「『ずっと潤と一緒に潤の作ったご飯が食べられますように』」
毎日帰ったら潤がご飯を作って待っててくれている。そう思うだけで頑張れる。だから……。
「ずっと作るよ。奈々のために」
柔らかく笑った潤に奈々も笑顔を返す。顔を見合わせて笑いながら、それは自然と近づいて、どちらともなく、そっと触れた。
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