あなたと食べるふたりご飯。

真柴理桜

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縁起物のおまんじゅう

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「これ、どうしたのー?」

 はなぶさ 奈々ななが仕事から帰宅して、リビングに顔を出すと、ダイニングテーブルに積まれていたもの。白、緑、ピンクの皮で包まれた丸型のお饅頭だ。各色が2個ずつ。計6個。それを手に取りながら、同居人であるところの佐野さの じゅんに訊ねた。
 潤は料理の手を止めてキッチンから顔を出す。

「実家から送られてきたの。今日、氷室ひむろの日でしょ」
「……何それ?」

 当然と言わんばかりの潤に奈々は首を傾げる。氷室の日?なんだそれ。

「あ!そっか。うちの地元の風習だもんね。奈々は知らないか」

 あのね、と潤が説明を始める。
 潤の地元では7月1日に氷室饅頭まんじゅうと呼ばれる饅頭を食べる習慣があるらしい。元は江戸時代に藩主が氷室と呼ばれる貯蔵庫から氷を将軍に献上する際、氷が無事に届くようにと祈願し饅頭を供えていたものらしいが、今では大切な人の無病息災を願う季節の縁起菓子だ。

「普通の酒饅頭だけどね。白がこしあん、緑がつぶあん、ピンクが白みそあんだよ」

 夕飯のデザートに食べようねと笑う潤に、奈々も笑顔を返すと手にした饅頭をテーブルに戻した。

「今日の夕飯は何?」
「サーモンのムニエルとオニオンスープ。大根とセロリと生ハムのマリネ」
「着替えてくる!」

 顔を輝かせてリビングから自室に向かう奈々に潤は笑顔で手を振ると、キッチンに戻りサーモンをフライパンにのせた。サーモンは奈々の大好物だ。
 ムニエルは奈々が帰ってきたら焼こうと準備していたのだ。スープは鍋で保温してあるし、マリネは冷蔵庫で食べ頃になっているだろう。
 そういえば氷室饅頭は娘の嫁ぎ先に配る風習もある。奈々のことは潤の親には紹介済みで、一緒に暮らしていることも話してあるのだが……。
 これは、そういう意図で送ってきたのだろうか?だとしたら、なんだか少しくすぐったい。



「おいしい!」

 夕飯後、饅頭を一口かじった奈々が声をあげる。ふっくらとした皮にしっとりとしたきめ細かい餡が包まれていて、米麹こめこうじ特有の香りがふわんと鼻に抜けていく。ほのかに塩味がする皮が餡の甘さを引き立てていた。

「お饅頭以外にもちくわとかお米とかあんずとか色々送られてきたよ。地酒やほかの和菓子も」
「わ、なんか色々。申し訳ない」

 今度何かお礼しないとなーとつぶやきながら、2つ目の饅頭に手を伸ばす奈々。
 これは嫁ぎ先に配るものなのだと話したら、どんな顔するんだろうな。そんなことを考えながら、潤も饅頭を手に取った。

 これから先も2人で元気に過ごせますようにと願いを込めて……。


 
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