二代目山本勘助 山本勘蔵立身出世伝

轟幻志郎

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第一章 幼少時代

第二話 原美濃と幻の初陣

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 永録四年、(1561年)、八月十三日、夏、甲斐国内が合戦支度で慌ただしい。

 父上、山本勘助も合戦に参陣するらしい……。

 どうやら御屋形様に呼び出されたからだ。

 内容は長尾とか、上杉とかいう景虎という龍だか仏の化身と名乗る合戦の病に憑かれた国主が信濃北部の領地に侵攻したらしい。

 なんとなく、父上の顔を見て不吉な思いをしたので、父上に陣借じんかり、(傭兵)を申し込もうと思った。

 とはいえ、まだ七歳の年齢で、父を死なせたく無いから、父上に戦場に連れてけと言っても止められるだろう。

 だが、二つの秘策があった。

 一つは移動手段である。

 七歳の俺は足が短い、とても従軍に着いて行けないだろう……!

 しかし、幸運か? 不幸か? 俺は馬の代わりになる乗り物がある。

 それは、火縄銃の射撃練習で以前、狩りで捕らえた野犬や狼が併せて七頭を俺が飼い慣らしている。

 俺は仮の乗馬として、この野犬や狼に乗りながら、猪、鹿、卯、熊、鳥等を獲物にし、火縄銃とそして、野犬、狼の指揮の練習をしていたのである。

 これならば、乗り物に載った移動手段と戦闘に関しては大丈夫であろう。

 そして、もう一つの秘策は、国の内外に恐れられる猛将の漢、俺の祖父上、原美濃はらみのと呼ばれる、原虎胤を説得し、父上の説得を頼む事。

 特に祖父上様を説得するのは、命を賭けなければならないと思う。

 俺は祖父上様の屋敷に、狼に乗りながら赴いた。

 祖父上様は足を負傷し、戦場から引退したのだか、なんと馬に乗馬しながら、家臣達と戦稽古しているではないか!

 戦場に帰る気満々ではないか!
 
 「祖父上様!  何をしているのですか?」

 疑問を投げ掛けると、

「応! 与七郎ではないか?  今、戦稽古いくさけいこしておる。与七郎は相変わら狼や野犬を馬の代わりにしておるのか?  その様では、武田の他の家臣にウツケ、(馬鹿)となめられるぞ!  今度、儂が馬の乗り方を教えてやる。何だ!  その眼は疑っておるのか?」

 不信な眼をしながら、

「祖父上様。もし、俺に戦稽古で負けたら、合戦は諦めてくれるか?」

 すると、祖父上様は獰猛な笑みと殺気を全身から放ち、

「ほう……。この儂の殺気に物怖じしないとは面白い孫よ……。良いだろう……。儂に勝てたら合戦に行くのは辞めてやろう。それどころか?  何か褒美をくれてやろう。儂は本気で与七郎を襲う故、覚悟致せ!」

 こうして、お互い木の槍を構え、祖父上様は愛馬であり、主君、武田晴信から拝領した名馬でもある野風にまたがり、俺は野犬、狼の中から一番大きく乗りやすほむらに乗り、お互い向かい合うと、どちらかと言うわけでもなく、戦稽古が始まった。

 祖父上様は剛力で、俺を殺すつもりで木の槍を鋭く突いてくる。

 俺は焔に乗りながら、変則的な動きで、攻撃をかわしていくが、捉えられるのは時間の問題である。

 そこで、焔に祖父上様の頭上を越えさせた。

 当然、祖父上様の木の槍は焔を殺すかに見えた。

 しかし、俺は焔から飛び下りて、神速の速さで、祖父上様の左肩に木の槍を打ち付けた。

 俺は、父、山本勘助から教わった刀術、一ノ太刀を会得をまだしてなかったが、応用して行ったのである。

 祖父上様の左肩は砕けているだろう。

「ワッハッハ……。やるわ! やりおるわ儂の孫は……。与七郎……。儂の敗けじゃ。勘助の事じゃろう?  あ奴に死相が出ておった……。だから儂が勘助を守る為に、合戦に行こうとしたのだが、孫に敗ける様では勘助の役には立てぬ。与七郎……。お主……合戦に行きたいのであろう。申さなくても分かるわ。良いだろう。勘助には伝えておく……。だから死んでくれるなよ……」

 後日、俺は祖父上様と一緒に父、山本勘助の元に行き、長尾景虎ながおかげとら(上杉謙信うえすぎけんしん)との合戦に赴く機会を得たのであった。

 その際、祖父上様の愛馬、野風や甲冑、(鎧や兜)も譲り受けたのである。

 八月十五日、今、武田軍に従軍し、北信濃の川中島に来ていた。

 父、山本勘助はと言うと、川中島の地理を直属の兵三百人とは別に、武田間者二十人に調べさせていた。

 だが、結果は芳しく無かった。

 敵対する景虎軍が妻女山の上から、俺達の軍の動きが見えている為に迂闊に攻めれない。

 攻めれば、逆手に取られて不利になる。

 本当に忌々しい。

 九月六日、だが、父上は不利を逆手に取る戦術を考えだした。

 この時期、深い霧に川中島周辺が覆われる為、霧を利用して奇襲を駆ける啄木鳥戦法を編み出した。

 要は軍を二つに分けて、妻女山の敵軍に奇襲駆ける軍と、混乱し、下山した敵軍に待ち伏せし、殲滅する軍の事で、最終的に挟み撃ちする事である。

 父上は御屋形様である、武田晴信様に、この戦術を申し出ると、晴信様は、

「流石は武田の軍師、山本勘助である。皆の者! 今から飯を食らい、景虎めを攻める準備を致せ!」

 父上は戦術を採用され安心しているが、俺は父上の顔を見ると死相が濃くなっているので、この戦術が失敗する可能性があると分かったのである。

 俺は味方の軍が飯を食らう準備を見て理解した。

 飯の炊き出しの煙が多いのである。

 これでは、これから攻めると言わんばかりだ!

 俺はこの危険な理由を父上に話した。

 すると父上は冷静に考えて、御屋形様に、修正案を耳打ちした。

 御屋形様は主だった家臣に紙で筆談し、指示を出した。

 筆談にしたのは間者対策である。

 こうして、九月十日、山本勘助の戦術通り、妻女山に味方の別動軍が進軍した。

 暫くして、俺が連れて来た狼と野犬が唸り出した。

 予定通りに、狼と野犬に文を持たせ、別動軍に向かわせた。

 すぐに景虎軍が、御屋形様の本軍の目の前に現れたが、景虎軍は叫び声を挙げながら、軍を車輪の様に回転させながら攻めて来た。

 切り札の武器である。火薬を結んだ弓矢を景虎軍に向けて1本放った。

 ドドーン!

 前方で車輪の様に回転していた景虎軍の数人が吹き飛び、陣形が崩れ、景虎軍は混乱した。

 この好機を逃さず、武田軍は反撃を開始した。

 俺も、父上も、御屋形様の側から合戦の行方を見ていたのだが、やがて、味方の別動軍も景虎軍に、背後から奇襲を駆けて、圧勝間近の時、異変が起きた。

 数人の法師の騎馬武者が、御屋形軍の武者を薙ぎ倒し、晴信様に向かって来たのである。


 御屋形様は一人の法師騎馬武者に襲われ、父上や晴信様の弟、武田信繁様や側近も他の騎馬武者と戦っておる。

 父上を助けようとしたが、

「御屋形様を守るのだ!  与七郎!  頼むぞ!」

 御屋形様に襲い掛かっている法師騎馬武者に向かって、火薬の弓矢同様、密かに持ってきた火打石銃を撃ち放った。

 御屋形様を襲った法師騎馬武者は銃弾を左腕に当たり、負傷した。

 すると、周りの騎馬武者が、左腕を負傷した法師騎馬武者を護りながら去って行く……。

 御屋形様は俺に、

「助かったぞ……。小僧は勘助の息子か? 名は何と申す?」

「御意! 与七郎と申します」

「与七郎! 褒美に、敵、おそらく景虎の落とした名刀一振りと、儂を救った猛者として勲功を与え、元服(成人)させねばなるまい。与七郎の烏帽子親、(名前を与える)になろう。これからは、山本与七郎勘蔵と名乗るがよい。後、甲州金銭200貫分与え……」

 御屋形様が褒美の話の途中で、悲報が届いた。

「山本勘助様、討ち死に!」

「武田信繁様、討ち死に!」

「他、多数、討ち死に!」

 この知らせを聞いた御屋形様は、俺を見ると無念そうに、

「与七郎……。今回の合戦は痛み分けじゃ、手柄も初陣も無しと致す! 儂の家臣は多く失った。お主だけ、良い勲功は与えられぬ。今回は初陣に参加させてない事にする良いな……」

 こうして、最初の合戦は、幻の初陣となった。
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