二代目山本勘助 山本勘蔵立身出世伝

轟幻志郎

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序章 生い立ちと初陣

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 城の天守閣から、領内に広がる青い空、民の働いている田畑を見ながら、山本勘蔵やまもとかんぞうはこれまでの事を振り返っていた。

 通称、二代目山本勘助やまもとかんすけ

 十九歳の頃、大手柄を挙げ、主君、御屋形様、(武田信玄たけだしんげん)から恩賞として、とある所の城主を任される事になる。

 幼い頃、父、山本勘助が信濃しなの、川中島で戦死してからは、山本家は没落し、母上は出家し、姉の楓は気が触れてしまい、母の兄上であり、俺の祖父上様、原虎胤はらとらたね様が、俺の後見人となり、俺は幼い弟、菊丸、姉の息子で、俺の甥の龍丸の面倒を観ながら、武芸、軍略を祖父上様から教えて頂いている。

 また、亡き父上の所領八百貫が、三十五貫に減らされ、生活は苦しく、山菜を取りに行ったり、弓矢の練習で、獣や鳥を狩りにいった。

 それでも、亡き父は尊敬されていたのであろう……。

 御屋形様の家臣、上原うえはら城の秋山信友あきやまのぶとも様、海津かいづ城の高坂昌信こうさかまさのぶ様や真田郷の真田幸隆さなだゆきつな様とご子息達が、俺に親しくされ、米等を下さる。

 ありがたい事だ。

 そして、月日が流れ、永録九年、(1566年)九月二十九日、田畑の実り深き秋、十三歳にして初陣である。

 敵は上野こうづけ箕輪みのわ城の城主、長野業盛ながのなりもりである。

 御屋形様は、二万人の大軍で箕輪城を包囲し、圧倒的な兵力差で落城させた。

 その時に、身分の高そうな赤子を守っている武士達を祖父上様と包囲し、家臣達は殺そうとしたが、幼き頃の弟や甥の事を思いだし、 

「祖父上様、罪のない赤子を殺しては、亡き父上様に、恥ずかしくて息子と名乗れぬ! どうか見逃さぬか?」

「勘蔵よ! 敵を生かすという事は、報復される覚悟がある者だ! それでも良いなら見逃してやろう。ただし、近くの寺に行き出家はさせるがな。良いな!」

「祖父上様の気が変わらぬ内に、俺達と共に、近くの寺にいくぞ!」

 こうして、赤子は寺に入り出家した。
 
 赤子を守っていた武士達は、俺達に感謝し、

「山本様、殿のご子息の命を救って頂き感謝致す。もし、よろしければ、それがし達を家臣にしてくださらぬか?お願い致す!」

「良いだろう。名を何と申す!」

「某達は間者、(忍者、スパイ)から殿に武士にして頂きました。丁度三人いるので、猿彦、犬彦、雉彦きじひことお呼び下さい」

 こうして、山本家臣は、元からいた六人と新に加わった間者武士三人となった。

 だが、それだけでは、終わらなかった。

 間者武士三人が、上野の元長野の家臣達に呼び掛け、山本屋敷に三十八人の武士を連れて来て、しかも、全員が俺に仕官を求めてきた。

 その三十八人全員が、兵糧や武具の管理、村からの徴税等ができる内政官であり、なおかつ、上泉信綱かみいづみのぶつなの門下生で、下手な武将より戦いに優れ新陰流しんかげりゅう、一人一人が、の猛者である。

 この三十八人の武士を家臣にしたいが、所領が少ない。

 困っていると、代表らしい武士が俺に進言した。

「某、疋田文五郎ひきたぶんごろうと申す。某達の生きる術をお考えか?ご心配無用!荒れ地を耕し田畑を作るなり、敵の荷駄隊から兵糧や武具を奪うなり、馬を捕らえ、育てるなり、食うに困らず。ただ、殿のご子息を助けて頂いた恩義を果たす為、仕官いたす。よろしくお願いいたす」

 側にいた祖父上様は、しばらく絶句し、

「勘蔵! お主の家臣だ! 大切にせよ!」

「はっ……。祖父上様のご期待に答えまする。皆、俺の家臣だ!よろしく頼む!」

「「「「「御意!」」」」」

 後で、祖父上様が御屋形様に、この出来事を話すと、大いに喜び、俺を足軽大将に任命し、所領を三十五貫から十倍の三百五十貫を与えたのである。

 何故、この様な褒美を下さったか?

 祖父上様が、聞いた話では、

「人は城、人は石垣、人は掘、情けは味方、仇は敵なり」
 
 と、御屋形様は懐かしく語り、近頃の武田家は、すぐに武功を立てる為に、敵を殺したがる。

 だが、敵に情けをかけ、敵は恩義を感じて味方になった。

 御屋形様、軍略の孫子を気に入り、俺は、それを自然と実行した。

 流石、武田の軍師、山本勘助の息子よ!と、嬉しく思ったらしい。

 こうして、十三歳の初陣で武功を挙げる事はできなかったが、有能な家臣と所領を得て、山本家は復興したのである。
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