Love's

美珠

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2巻

2-2

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 それに、離れがたいと言ってくれるのは嬉しいけど、それなら、夜も一緒にいてほしいと、愛の方が離れがたくなってしまう。

「今、楓、と抱き合ってしまったら、夜の約束は取り消して、って言ってしまいそうになるから……ダメ」

 首を横に振ると、身体を引き寄せられてキスをされた。

「約束は取り消せないけど……たとえ離れても、君が僕を忘れないくらい、夢中にさせるから」

 楓が首筋に顔をうずめ、耳の後ろにキスをする。身体が震えて、肌が粟立あわだち、愛は下半身がうずくのを感じた。
 こんなに甘い楓からの誘いを、愛はもう流せない。
 なぜなら、愛もまた、彼とそうしたいと思ったから。

「本当に? 恥ずかしさを感じないくらい?」
「約束するよ」

 彼の綺麗な目を見るだけで、身体がとろけてしまいそう。

「初詣に行った後、僕の家で過ごそう。いい?」

 愛は頷いて、彼の極上の笑顔を見つめる。
 口ではいろいろ言いながらも、結局のところ、愛も彼に抱かれることを心のどこかで期待していたのかもしれない。
 なぜかというと、この後、彼の家に行くことばかりを考えていたからだ。
 初詣に行き、お参りしながら、やっぱり夜も一緒にいたいと思っていた。初売りで服を買っている最中も、心はうわの空で、彼の家に行くことを考えている。
 移動の間は、夢中にさせると言った言葉を思い出し、顔を赤くしないようにと必死だった。
 楓のマンションに着き、鍵を閉めるとすぐに、彼は愛の胸元を開いた。そしてベッドルームへ連れて行かれる。
 初めて見る楓のベッドルームは、広い部屋にシンプルすぎるベッドが置かれていた。

「楓、あの……っ」
「黙って」

 そう言って、愛の着物の帯を解いていく。
 自分で着せた着物を、みずから脱がすなんて。これでは最初に巻き戻し。

「好きだ、愛」

 熱くささやいて、彼は愛の胸に顔をうずめる。
 出会った時は、こんなに濃い時間を過ごすとは思わなかった。
 こんなに熱い時間を過ごすとも思わなかった。
 愛は甘い声を出して、着物を脱がされて、楓の熱い吐息を近くで聞くのだった。



   2


 奥宮楓は、馴染なじみの老舗しにせ旅館へ、一泊二日の予約を入れた。
 もちろん、豪勢な料理と美味おいしいお酒を用意してほしいと付け加える。

『泊まるの? しかも離れに?』
「……まぁ、そうだけど」
『いったい誰と?』

 電話口で興味津々に聞かれて、誰とでもいいだろう、と言って電話を切った。
 相手は大学の同級生である藤野利佐ふじのりさ
 彼女は老舗しにせ旅館としても有名な藤野屋の実質的な四代目であるわか女将おかみだ。
 数年前から毎年、欠かさず年賀状をもらっていることもあり、一年に一回は食事に行くようにしていた。
 その時は、余計なことを詮索せんさくされる前に、適当に言葉をにごして電話を切ったのだが、当日、離れに案内されるとすぐに利佐が挨拶あいさつにやって来た。

「今まで、泊まったことなんて一度もないのに。それが二名様で予約だからねぇ。彼女?」

 テーブルの上に料理を並べ終えた後、利佐は早速とばかりに詮索せんさくしてきた。

「そのニヤニヤした笑い、やめてくれる? 彼女以外の誰と泊まるんだよ」

 横を向いて言うと、利佐は声を上げて笑う。

「どんな人? 私、挨拶あいさつしていいよね?」

 わか女将おかみである利佐が、客に挨拶あいさつするのは当然だ。
 眉を寄せて利佐を見ると、どことなく意地悪な笑みを浮かべていた。
 楓はため息をつきながら、髪の毛を掻き上げる。

わか女将おかみだから当然でしょ? ていうか、まだ僕は挨拶あいさつされていないけど?」
「えー? してほしいの? 今更?」

 明らかに面倒くさそうな顔をして、こちらを見てくる。

「するもんでしょ? 普通は。僕も客の一人だよ?」
「はいはい、いらっしゃいませ、奥宮君」
「感情がこもってないなぁ。大学時代、食事を食べさせてもらったり、いろいろ世話になったからこうして来てるのに。正規の値段だと、本当にお金かかるよね、ここ」

 楓が藤野屋に初めて来たのは、大学に入って半年くらいの頃。
 当時、経済的にピンチだった楓に、同じサークルにいた利佐がうちでご飯食べなよ、と言ってくれたのが最初だった。

「一年に一回くらいで、みみっちいわよ。それより、どんな人?」

 興味がある、という顔をしている利佐を見て楓は面倒そうに眉を寄せた。

「……若くて綺麗な子」

 声が少し小さくなってしまった。「若くて綺麗な子」と称した楓の彼女は、その言葉通りの人だ。みずから経営するレストランで初めて見た時、一目で恋に落ちてしまった。
 綺麗で、でも可愛くて、素直そうな笑顔の人。
 第一印象で、心惹かれた彼女は、その印象通りの人だった。

「若くて綺麗? いくつ?」
「二十四歳……何? その顔?」

 意外、というような表情を見て、その顔はなんだ? と思った。

「いや、別に。奥宮君、年上キラーじゃなかったのね。それにしても若い! 九歳も年下なの?」
「好きになった人が、たまたま年上が多かっただけ。年下とも普通に付き合ったことあるよ」

 ため息をついて言うと、そうなの? と言って利佐は大きなため息をついた。

「でも、そんなに下の子を好きになるとは、思わなかったわ……」
「それは……しょうがないよ……好きなんだから……」

 ほんの少しそっぽを向いて言うと、利佐は、そうね、と同意してくれた。

「好きになったものはしょうがないわね。でも……極端ね、奥宮君って」

 過去を知っている友達というのは本当に面倒だ。
 いつも思う。柘植つげにしたってそうなのだ。
 楓は気を取り直して、大好きな恋人のことを語った。

「僕の彼女は、若くて綺麗で可愛くてね。素直で明るい性格で、一目で好きになった。僕は……彼女と会う時、いつも緊張してる」
「緊張? どうして?」
「まだ出会って間もないのに、すごく好きなんだ。彼女の前では、ありのままの自分を出せる反面、絶対に失くしたくないから緊張する。こんな気持ち、初めてだ……」

 緊張すると敬語になってしまうのは自分の癖。
 だが、女性相手に、こんなに緊張したのは久しぶりだった。
 知れば知るほど、彼女のことを好きになる。だからこそ、いつも緊張していた。

「そんな人に出会えていいなぁ」
「結婚してるくせに、何言ってんの?」

 利佐は随分前に結婚していて、すでに充実した幸せを手にしている。
 楓が笑うと、利佐がやけに大きなため息をついて首を横に振った。

「私は、お見合いだもんね。お婿さんになってくれる人じゃないと、ダメだったし。ある程度は、妥協だもん」

 口ではそう言いながらも、彼女が幸せなのは、一年に一回会って話すだけでも、よくわかる。

「でも、結婚する時、幸せそうだった」
「今も幸せよ。子供も一人いるし」

 利佐は昔から周囲に人が集まる人だった。さっぱりした性格を、好ましく思っていた。
 その時、ふすまが開く音が聞こえて目線をそちらに向けると、着物の女性が立っている。
 藍色の着物は、愛にとても似合っていた。

「愛」

 自然と笑みが浮かんでしまう。
 彼女を見た瞬間、他のことが全部どうでもよくなってしまった。
 我ながらどうかしていると思うほど、早く愛と話したいし一緒に食事をしたいし、何よりセックスがしたい。
 さすがにセックスがしたいというのは、自分でもどうかと思うが、彼女の顔を見た途端に愛し合いたいと思ってしまったのだ。
 こんなことは、今まで生きてきた中でほとんどなかった。
 十代や二十代でもあるまいし、三十代の男など、とうに性欲旺盛おうせいな時は過ぎている。それどころか、ついこの前まで、楓は女性不信だったというのに。
 若くて張りのある、綺麗な身体。
 向けられる微笑みにさえ、男の部分を刺激される。
 愛の身体を思いきり愛したい。
 まるで盛りのついた動物みたいだ。こんな自分を知られたくないと思うほど、今の自分は、ただのしょうもない男になっていた。


     ☆ ☆ ☆


 好きな人の着物を着付けて、藤野屋を出たのは午前十時を少し過ぎた頃。
 近場の神社へ初詣に向かいつつ、先ほどまで触れていた肌に、また触れたくなっている。それくらい、好きな人ができた。
 恋をするのは、久しぶりのことだ。しかも、今までになく夢中になっている。
 九歳も年下の愛の目に、三十三歳の自分はどう映っているのか……、たまに不安になるのは年の差のせいだと思う。
 それに彼女と会う時間がなかなか取れず、そのうち愛想を尽かされるのではないかと心配になる。
 この前などは、急遽きゅうきょ呼び出された仕事場に彼女を連れてきて、仕事が終わるまでの間、一人で食事をさせてしまった。
 楓は参拝の後、隣で手を合わせている着物姿の愛を見る。ほどなく目を開けた彼女が、こちらを見上げてきたので微笑んだ。

「じゃあ、初売りにでも行こうか?」
「……それ、本気だったんですか? でも、私、持ち合わせがそんなに……」
「買い物に付き合ってもらうんだから、僕にプレゼントさせて」

 でも、と躊躇ためらう愛の手を引く。

「楓にばっかり出してもらうのは、悪い気がする」

 まだ慣れないように、楓、と呼び捨てる彼女は、黒目がちな目をまたたかせた。

「じゃあ、僕からのお願い。愛に服をプレゼントさせてください」

 目を伏せた愛が、微かに笑った。
 その表情が可愛くて、今すぐにでも抱き合いたい気持ちになる。
 本当にどうしてこんなに色ボケしているのだろうか。そんな自分が嘘のようだ。
 だが、愛は綺麗で一つ一つの仕草が可愛くて素直で。
 一目で恋に落ちた相手だった。
 緊張しながらも、言葉を駆使して口説くどいてよかった、と心から思う。
 愛を車に乗せて、大きな商業ビルに向かった。
 本当にいいのか、と聞いてくる愛に頷いて、欲しい服を選ばせる。
 くるぶし丈のパンツに、ボタン付きのシャツにセーター。トラッドで可愛い恰好だ。
 恐縮する愛に構わず、服に合わせてヒールの低いパンプスも購入した。
 愛と出会えて良かったと心から思うと共に、愛を抱きたくて仕方がない。まるで彼女に依存しているかのようだ。
 これでは、セックスが目的だと思われてもしょうがない。
 しかし、そうではなくて、ただ幸せがここにあると、深く繋がることで確かめたかったのだ。
 買い物を済ませた後、車で楓のマンションへ向かう。
 時間は午後十二時を過ぎていた。

「お腹、いてる?」
「……大丈夫」

 昨日食べすぎたし、と言って愛が微笑む。
 その笑みに、欲望が刺激される。
 本当に色ボケしているとしか思えない自分を反省しながらも、無意識に愛の着物の合わせ目に目がいき――
 早く、と思った。


 愛が草履ぞうりを脱いで楓の家に上がった。
 楓は靴を脱いで早々に、愛の身体を壁に押し付けた。

「え? あ、楓……」

 愛の着物の合わせ目を開いて、そこへ顔を寄せてから愛の身体を子供のように抱き上げる。

「や、楓……っ」

 顔を寄せて、首筋に唇を滑らせて耳の後ろにキスをする。
 そうしながら向かった先は寝室。
 愛の身体をベッドの上に背から降ろす。

「楓、あの……っ」
「黙って」

 自分で結んだ帯を解きながら、着物のすそを割る。衣ずれの音と共に帯が緩んで、着付けた着物がはだけていく。
 着物を着る女性と付き合うのは、初めてではなかった。彼女は慣れた仕草で楓が脱がすのを手伝い、みずか腰紐こしひもを解いていたが、愛は違う。
 愛は楓が脱がすのを見ながら、困惑した顔をして、時々肌に触れる手に可愛い声を出す。
 強くひもを引きすぎて、愛の身体が少しだけ持ち上がったり動いたりする。
 昨夜は足袋たびも脱がせたけれど、今はその余裕がなかった。愛を前にすると、どうしてこんなに余裕がなくなるのかわからない。
 はだけた着物のすそから見える白い足を持ち上げて、愛の下着を下げる。たもとから手を入れて下着のホックを探る。外して、それを上へとずらして唇を寄せた。

「ね、楓、早い」

 答えず唇を開いて愛の胸の先端を含む。
 柔らかく尖ったそこを吸いながら、愛の足の間に手を伸ばした。ビクリと動く身体を上から押さえて、甘い声を聞く。
 胸から唇を離し、軽く唇にキスをした楓は、スラックスのボタンを開けた。そのままジッパーを下げると、痛いくらいに張り詰めたソコが楽になる。
 愛の足を持ち上げると、膝を閉じて抵抗した。

「ま……って」

 彼女の足の間はすでにうるおい、指を入れるとすぐに中がとろけ始める。楓を受け入れる準備はもう充分で、愛のその反応だけでたまらなくなっていた。

「待てない」

 そのまま腰を持ち上げるようにして、愛の中に楓のモノを突き入れる。

「は……」

 息を吐いて、その快感に眉を寄せた。

「んん……っ! やだ、楓……酷い」
「痛いの?」

 首を横に振る愛は、あえぐように一度息を吐いた後、うるんだ目でじっと見てくる。

「ひ、避妊、してな……っ」

 愛の身体が欲しい気持ちが先に立ってしまい、言われるまで気が付かなかった。
 手を伸ばせば、脱いだ上着の中にまだコンドームがあるのに。

「ごめん、どうりで……」

 気持ちいいと思った、という言葉は口に出さないでおく。愛は、せわしなく息を吐きながら、楓、と言った。

「そんなにしたかったの? ……わ、たしと」
「大人げないくらい、君としたかった。……ごめん、一度抜くから」

 わずかに腰を引くと、あん、と甘い声。
 どうしてそういう声を出すのか、と思うくらい甘くて、楓の身体が反応する。無意識に腰を揺すると、息を詰めてギュッと目を閉じた愛が、顔を横に向けた。

「も、いい……楓に任せる」
「いい?」
「だって……楓……っあ!」

 今度はしっかりと腰を動かして愛の身体を揺らす。
 唇を噛みしめて声を我慢する仕草が可愛い。でもこらえきれなくて細く小さく出す声や、耐えきれずに大きく出る声も可愛い。
 熱に浮かされたように、何度も腰を揺らした。
 たとえゴムなしでいいと言われても、これまで必ず避妊をしていたのに。
 情欲を抑えきれずに避妊を忘れるなんて、愛としか経験したことがなかった。
 愛の身体を抱きしめながら腰を動かして、熱く重い息を吐き出す。

「気持ちいい、愛」

 頬にキスをして、首筋に顔をうずめて、そうしてから身体を起こす。
 可愛い胸に触れて揉み上げながら、着物の前を全て開く。
 もう、限界が近いから。
 限界がくるのが早すぎるけれど、そんなことは構わなかった。彼女もまた楓と同じくらい感じ入った顔をして、甘い声で名を呼ぶ。

「楓……っ」

 強く腰を動かすとたまらないという風に、愛が首を横に振った。
 もうだめ、という言葉を昨日も聞いた気がする。
 込み上げる衝動のまま深く腰を突き入れた直後、自身を愛から引き抜いた。

「……っは……ぁ」

 うめくように息を吐いて、愛の腹の上に欲望を解放した。
 今まで交際経験がないという愛は、楓しか男を知らない。なのに、抱きたい気持ちを抑えきれず、一方的に行為を進めてしまった。
 さすがに、酷いことをしている気がする。成人した大人の女性とはいえ、愛はまだセックスの経験自体がそんなにないのに。
 彼女の腹部の上に散っている自分の放ったものを見て、愛にはこんなことをしたくなかったと反省するが。
 やってしまったものはしょうがない。愛が好きすぎて。どうしようもなく。

「ごめん。今、拭くから」

 手を伸ばして、ティッシュを取った。愛の腹の上に散ったものを拭いていると、ここ、と愛が指をさす。

「肩まで飛んできた……着物、無事?」

 彼女の肩にも楓の放ったものが飛んでいた。それを拭き取って愛の身体を起こしてやる。

「……ああ、無事」

 きちんと脱がせる前に始めてしまったが、奇跡的に汚さずに済んだことにホッとする。

「下着にもついてない……ごめん、元気がよすぎたかな……」

 愛の肩から着物を落とすと、綺麗な黒い瞳が楓を見る。

「楓、エッチだ。言うことも、することも全部。なんか……今の着物脱がせる感じも……ほんとに、もう、恥ずかしくて照れるし……こんなの無理」

 顔を赤くした愛は、うつむいて、口元に手を当てる。肩から落とした着物を胸元へかき寄せて、楓から少し距離を取るように後ずさった。

「ごめん……でも、こんな風に抱くのは、僕も初めてで」

 これで、セックスが無理になったら非常に困る。
 今日のセックスが原因で、今後したくないと言われたらどうしよう。

「だって、友達同士の、し、下ネタだって苦手なのに、元気よすぎたとか言うし。そういうの言われたら……恥ずかしい。なのに気持ちいいとか、困る。どう反応すればいいの?」

 そう言って、さらに後ずさろうとする身体を捕まえる。

「ごめんね。でも、本当に良かった」

 そっと抱きしめると、愛が背中にゆっくりと手を回す。

「良くなかった? 愛も、感じていたと思うけど」

 楓が言うと、胸に頬を寄せて抱きしめる力が増した。

「感想は、まだ、待って」

 胸から頬を離して楓を見上げる。赤い顔も言われた内容も可愛い。
 どうしてこんな可愛い子が、今まで誰とも付き合わずにいられたんだか。
 他の男に愛される前でよかった。彼女の初めてが自分でよかった。
 赤い顔をしている愛の唇にキスを落として、少しずつ深くしていく。
 こたえてくれる舌を追って、抱きしめる腕に力を入れて。
 我ながらいくつなんだ、と年齢を考える。そして自分にも、まだこんなに性欲があったのか、とも思った。

「好きだ、愛……好きだよ」

 愛の手が楓の髪の毛に絡まる。そして撫でて、楓の目をじっと見る。

「楓の髪、柔らかくて気持ちいい」
「そう? 唇は気持ち良くない?」

 そう言って、彼女の頬にキスをする。

「え?」
「愛に触れる僕の手は? 気持ち良くない?」

 頬が赤くなる愛を見て、自分は本当に彼女に愛されているのだと確信する。
 今日は病的なほど求めてしまった自覚がある。でも、愛はそんな楓を受け入れてくれた。
 それが、楓にとって何より嬉しかった。

「や、あの、楓の髪の毛は猫みたいで……」

 困ったようにそう言う愛に微笑み、楓は放っていた上着に手を伸ばす。
 ポケットからゴムを取り出し、パッケージを破る。
 愛は何も言わず、ただそれを見ていた。楓も何も言わない。
 早く、愛と繋がりたかった。
 太腿を撫でて、両手で彼女の膝を開く。
 愛は抵抗することなく、楓を自分の内側に受け入れた。

「あ……んぅ」

 ゆっくりと愛の中に張り詰めたモノをうずめていく。奥に進むにつれ、濡れた音が聞こえた。
 腰を揺らしながら、愛の首筋にキスをし、耳の後ろにもキスをした。
 楓の首に手を回してしがみつく愛と、ぴったりと身体を密着させる。
 好きな人と抱き合う幸福は久しぶりだった。
 それゆえに、これ以上ないくらい感情があふれて仕方なかった。


 約束の時間の午後八時まで、あと三時間半。
 時計を見た楓は、ため息をつく。
 隣で寝ている愛は、まだ夢の中のようで、目を閉じたまま。
 それを見て微笑み、彼女を起こさないようそっと起き上がる。そこで、スーツの上着からスマホの着信音が聞こえた。急いで床に放っていた上着を拾って、寝室を出る。
 ドアを閉める時にベッドの上をうかがい、眠ったままの愛にホッとした。
 下着だけ身につけた恰好で、着信相手を確認する。
 仕事用のスマホに、知らない電話番号が表示されていた。相手が誰かわからなくても、仕事用の携帯にかかってきた電話に出ないわけにはいかない。

「はい、奥宮です」
『楓……君?』

 仕事相手にも、自分を楓と呼び捨てる人はいる。だが、まったく知らない女性の声だったので、聞き返した。

「……はい……楓ですが、どなたですか?」
『藤野、利衣子りいこよ』


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