君が好きだから/君が愛しいから

美珠

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君が愛しいから

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   1


 三ヶみかしま美佳みかはその夜、自宅の仕事部屋でパソコンと向き合っていた。
 美佳の職業は小説家兼翻訳家。そのため、一日の大半をパソコンの前で過ごすことが多い。
 机の上の時計を見て、そろそろだな、と思いながら美佳は笑みを浮かべる。
 もうすぐ夫が帰ってくる。
 出がけに「今日は遅くなるから、先に寝てて」と言っていたけれど、美佳は仕事をしながら待っていたのだ。ただ「お帰りなさい」と言いたくて。
 夫の名前は三ヶ嶋ほうという。彼と結婚したことによって美佳は、「三ヶ嶋美佳」という語呂のいい名前になった。最初は少し抵抗があったけれど、今は自分の名前を気に入っている。
 美佳が結婚したのは、二十九歳で、周りの友人達よりも少し遅かった。職業柄、外出する機会が少なく出会いがなかったのも一因だが、それよりも生来の、のんびりした性格のせいだろう。
 しかし、三十を目前にあせった。けれど、何をどうすればいいのかわからなくて悩んでいたところ、母からお見合いをすすめられたのだ。
 紫峰とは、そのお見合いで出会った。背が高く、顔立ちも整っている彼を見た時、美佳はすごくときめいたのを、今でもよく覚えている。今までの人生で、紫峰のようなカッコイイ人に出会ったことがなかった。
 けれど、紫峰には当時、恋人がいた。あろうことかお見合いのその日、美佳は彼の首筋にキスマークを見つけてしまったのだ。
 見たと同時に美佳は「そうよね」と思った。こんな素敵な人にお相手がいないわけがない。いい男を間近で見られただけでもラッキーだと思い、怒りは湧かなかった。
 美佳は、その場で縁談を断った。それで話は終わるものだと考えていたけれど、紫峰はなぜか引かなかった。半ば強引に次のデートの約束を取り付け、その後も熱心に美佳を誘ってきた。そうして何度目かのデートをした時、彼は恋人との関係を清算したと、きっぱり宣言したのだ。
 美佳は紫峰とデートを重ねるうちに、彼のまっすぐな想いに惹かれていった。
 プロポーズの時、「どうして私と結婚したいの?」と問う美佳に、紫峰は「君が好きだからに決まっているでしょう」と答えた。その言葉は美佳の胸に響き、この人に一生ついていこうと決めたのだ。
 今の幸せがあるのは、あの時お見合いをしたから。
 美佳が物思いにふけっていると、玄関が開く音がした。
 美佳は立ち上がり、帰ってきた彼を玄関まで出迎えに行く。

「お帰りなさい、紫峰さん」

 午前二時。紫峰はここ一ヵ月ほど、いつも帰宅が遅い。電車で帰ることができない時間なので、最近は車で出勤していた。紫峰の仕事は、要人警護、いわゆるSPと呼ばれる特殊なもので、不規則な勤務形態だ。

「ただいま。美佳は仕事中だった?」

 そう言いながら玄関で靴を脱ぐ紫峰の顔には、疲労がにじんでいる。ネクタイが緩んでいるのは、帰りの車の中でそうしたからだろう。

「そう、仕事中。ご飯、食べます?」

 美佳は言いながらキッチンへと歩き出す。けれど、残念なことに返ってきたのは「いらない」という返事だった。

「とにかく寝たい。ごめん、美佳」

 寝室へ直行する紫峰を、美佳は見つめる。
 結婚して一年以上。紫峰はいつも、忙しそうだ。結婚記念日も一緒に過ごせなかったし、新婚旅行だって、流れに流れて行けていない。仕事柄、昼も夜もなく、休みも不規則だからしょうがないのだ。美佳はがっかりしながらも、仕事を再開しようと自室に向かう。
 そしてパソコンに映し出されたアルファベットを眺めてため息をつく。今やっているのは翻訳の仕事だ。最近は小説に専念するために、翻訳の仕事はほとんど断っているのだが、今回はどうしても、と言われて引き受けた。明後日までには仕上げなければならない。これが終わったら、次は雑誌のコラムを書いて、それから新作の小説の打ち合わせも控えている。

「紫峰さんだけじゃなく、私も意外と暇がないのね」

 カレンダーを見つめていると、ドアをノックする音が聞こえた。振り向くと、ドアが開き、紫峰が姿を現した。

「美佳は寝ないの?」
「……あ、ごめんなさい。急ぎの仕事なの。もう少ししたら寝るから、紫峰さんは先に寝てて」

 美佳が笑みを浮かべて言うと、紫峰はうなずいて、ため息をついた。それから美佳の傍にやってきて彼女が座っている椅子を回転させる。そうして自分の方へ身体を向けさせると、美佳の頬と二の腕を撫でた。
 紫峰はじっと美佳を見つめたまま、かすかに笑う。

「仕事なら邪魔できない」

 そう言って、美佳の前に腰をおろし、膝に頭をのせてきた。
 先ほどまで腕を触っていた紫峰の右手は、美佳の指の間に差し込まれている。右手は手を繋いだまま、左手は美佳の腰のラインをなぞり、太ももを撫でる。その仕草がセクシーで、美佳は動けなかった。

「疲れた」

 呟く声には艶があって、ドキッとする。紫峰の触れ方や、膝に頭を預ける様子を見て、もしかしてそういうことをしたいのかも、と考えた。
 けれど今の美佳には、片付けなければならない仕事がある。応えたい気持ちはあるけれど、今はちょっとできない。でも疲れて帰ってきた紫峰がこうして甘えてきているのだ、彼の気持ちに添いたいと思い、微笑んだ。

「お疲れさま、紫峰さん」

 美佳は繋いだ手に少し力を込めて握り返した。親指で紫峰の手の甲を撫で、それからもう片方の手で紫峰の頭も撫でる。すると彼が身を起こし、美佳の首に腕を回してきた。美佳の首筋を撫でる仕草は、明らかに誘っている。そのまま身体を引き寄せられた美佳は、自分から紫峰に顔を近付けた。キスをするのも久しぶりだ。
 短いキスをする。それで満足したのか、紫峰は微笑んで立ち上がってしまった。もう少し深くキスをしてほしい、という思いが美佳の中に湧き上がるが、紫峰は頭を切り替えたようで、すっと離れて言った。

「仕事の邪魔をして悪かった。また明日」
「……はい、また明日」

 ドアが小さく音を立てて閉まる。その音が耳に残って、美佳はしばらく仕事が手につかなかった。早く仕上げなければ、紫峰との時間だって取れないのに。
 時刻は午前二時半。ため息ばかりがこぼれる。こんなことでは仕事が進まない。
 気を取り直して何とか区切りのいいところまで進め、それからシャワーを浴びた。髪の毛を乾かしながら時計を見ると、午前三時を過ぎている。

「……紫峰さん……きっと明日も早い。七時に起きて、八時には家を出るはず」

 今、美佳が寝室に行ったら、紫峰を起こしてしまうかもしれない。
 そう思うと、寝室に入るのは躊躇ためらわれた。そこで、ひと息ついて気合いを入れ直す。

「やっぱり、仕事しよ」

 美佳は自分の部屋に戻った。
 紫峰がぐっすり寝入っているだろう明け方まで仕事して、それから少しだけ寝て、紫峰のために朝食を作ろう。そう思うと少しやる気が出てきて、今度は仕事がはかどった。この仕事が終われば、紫峰との時間が作れる。
 美佳はそう思って頑張った。


   * * *


「もう少し仕事をする」と言った美佳を残し、紫峰は先にベッドに入った。
 疲れていたが、明け方、なぜか目覚めてしまった。仕方なくヘッドボードの時計を見る。

「まだ五時……」

 もう一度寝ようと思ったが、ふと思い立ってベッドを出た。
 美佳の自室の前まで行くと、中から光が漏れている。「まさかこんな時間まで仕事を?」と思いながら扉をそっと開けると、美佳はパソコンに突っ伏して寝ていた。
 首を痛めそうな体勢だったので、紫峰は心配になった。まだ夜は冷える季節だというのに、上着も着ていない。

「美佳」

 身体を揺らすが、起きる気配はなかった。紫峰は仕方なく、美佳を抱え上げる。
 それでも起きる様子はない。

「こんなところで寝るなんて。身体を痛めるぞ」

 寝室へ運び、美佳をそっとベッドにのせて布団をかける。その横に紫峰も寝転んで、柔らかい彼女の身体を抱き寄せる。
 紫峰は安心してふたたび目を閉じた。


   * * *


「あれ? あ、え?」

 起き上がると身体がきしんだ。肩と腕が、とにかく痛い。

「いった……」

 美佳は顔をしかめた。どうにか起き上がって腕を上げると、やっぱり痛かった。
 昨晩、机に突っ伏して寝てしまったようだ。でも、今美佳がいるのはベッドの上。誰がここまで連れて来てくれたのかは、明らかだ。

「痛い」
「そりゃ痛いよ、美佳。パソコンの上で眠ってた」

 痛みに耐えながら背中を丸めていると、呆れたような声が届いた。見ると、寝室のドアに身体を預けるようにして紫峰が立っている。ジャケットは着ていないが、きっちりとしたスーツ姿。その立ち姿から、疲れは感じられなかった。
 今日もカッコイイ、と思いながら、美佳は紫峰に聞いた。

「紫峰さん、ここまで運んでくれたんですね?」
「何でか五時ごろ目が覚めてね。部屋をのぞいたら、君がパソコンに突っ伏して寝てた。あんなに身体を丸めて寝ていたら、肩や首を痛めて当たり前だよ」

 美佳がふと時計を見ると、七時五十分を過ぎようとしていた。

「ご飯は? 食べた?」
「軽く。もう行くよ」

 食事を作れなかったことに、がっかりした。疲れている紫峰をいやすために、朝食を作るつもりだったのに。自分が紫峰に世話をかけては、意味がない。
 顔を上げると、紫峰が微笑みながら手招きしていた。美佳は首を傾げつつ紫峰の傍に行く。何だろう。

「うしろを向いて」
「うしろ?」
「いいから、うしろ向いて」

 美佳は何のことかわからなかったが、言われるままにうしろを向いた。すると紫峰の腕が脇の下あたりに伸びてきて、美佳を羽交い締めにする。

「おとなしくしていて。ちょっと痛いよ」

 そう言った直後、紫峰の腕が美佳の肩をうしろに引っ張った。

「いっ! 痛いっ! や、ギブ、ギブッ!」
「もう少し」

 さらに力を込めて肩を引き上げられて、美佳は痛さのあまり大声で叫ぶ。

「紫峰さんっ! 放して! 痛い!」

 紫峰は笑うばかりで放してくれない。

「頑張って」

 肩がゴキゴキいいそうな感じだった。さらに、少し力が緩められたと思ったら軽く左右に揺らされて、これも痛かった。ようやく羽交い締めが解け、最後に腕を強く引っ張られた。ゴキリ、と関節が鳴った気がした。

「痛っ!」

 紫峰は、軽く背を撫でてくれた。

「治った?」

 美佳はようやく、紫峰に向き直ることができた。彼はニコッと笑って美佳を見ている。

「痛かったです。やる前に言ってほしかった」
「ちょっと痛いって言ったよ?」

 確かにそう言ったけれど……

「美佳、肩が凝ってるね。たまには運動しないと。あと、机で寝ないこと」
「ごめんなさい。でも……もうしないとは言い切れない」

 美佳の言うことに少し苦笑して、紫峰は横を通り過ぎていく。寝室にあるクローゼットからジャケットを取ると羽織りながら美佳に言った。

「だったら、さっきのやつ、またやるしかないな」

 ジャケットのボタンを留めて、それから美佳の髪の毛に触れて、軽く唇を重ねる。

「たまには仕事を休んで、身体も動かして」

 肩を軽く叩き、紫峰は玄関へと向かう。
 美佳は寝間着姿のまま紫峰を追いかけ、靴を履くその背に言った。

「行ってらっしゃい、紫峰さん。気をつけて」

 紫峰は振り返り、美佳の頬を撫でる。

「今日も遅くなるかもしれない。先に寝てて」

 紫峰は笑顔を見せて玄関を出る。

「行ってきます」

 美佳は手を振って見送った。今日も遅くなる、という言葉にがっかりしながら。
 美佳の生活も時間に不規則で、仕事が立て込んでくると、変な時間に寝て、変な時間に起きてしまう。それでも紫峰と生活するようになって、少しは改善されたけれど……
 ここ数日のように、お互いの生活リズムが合わず、あまり会話もできないことが続くと、ため息が出る。

「たまには二人でゆっくりしたい……なぁ」

 その願いが叶うかどうかなんて、まったくわからない。紫峰は職業柄、夜中でも何かあれば仕事に行く。それは仕方のないことだ。
 あれこれ考えてもどうしようもない。美佳はとにかく自分の仕事を片付けようと決めた。まず目の前の原稿を仕上げなければ、ゆっくりもできないから。
 紫峰のおかげで少し軽くなった肩を回しながら、身支度を整えるために美佳は洗面台に向かう。
 そして自分の顔を見て、またため息。

「クマができてる。もう若くない証拠?」

 美佳は今年で三十歳。もう決して若くない。
 もっときちんとした生活ができるよう努力しなければ、と気持ちを新たにした。
 愛する夫の前では、いつも綺麗でいたい。



   2


「美佳先生、この度はすみませんでした」

 美佳の担当編集者である早川光里が、柔らかなウェーブヘアを揺らしながら頭を下げる。
 彼女は先ほどようやく終えた翻訳原稿を、美佳の家に取りに来たのだ。
 光里は以前はつつみ先生、と呼んでいたが美佳が結婚したのを機に、美佳先生と呼ぶようになった。

「間に合ってよかった」

 美佳が頼まれていたのは、アメリカで有名な恋愛小説の日本語訳。
 英語だったので、気負わず引き受けることができた。フランス語の案件だったら、今回の納期ではちょっと引き受けられなかったかもしれない。美佳は英語とフランス語のどちらも扱うが、英語の方が得意なのだ。
 そうは言っても、英語だって駆け出しの頃は随分苦労した。けれど真面目にコツコツ取り組んできたお陰で、今では信頼してくれる出版社も多い。

「……本当に急なお願いで申し訳ありませんでした」
「気にしないで、光里ちゃん。恋愛小説だったし、私も楽しみながらできたから。あとは、連載小説の執筆……これはもう少し時間があるのよね?」

 美佳より少し年下の光里は、なぜだか顔を曇らせる。

「すみません、連載の方はまだ大丈夫なんですが、以前お話しした美佳先生の小説の二時間ドラマ化の件が本決まりとなりまして……あの、連載の方はスケジュールを調整しますので、近々ドラマの打ち合わせに出て頂きたいんです。実は……ドラマの担当は、営業部の戸田とださんと、企画部のすがさんなんです」

 そう言って美佳を見つめる。
 光里が美佳の担当になって四年経つ。二人で力を合わせて仕事をしてきて、今では親友のような関係を築いている。そんな光里が、心配そうに美佳を見るのは、しょうがないこと。
 営業部の戸田はる。美佳よりも四つ年上の、仕事ができる人。今は、営業部の主任だっただろうか。
 この戸田という人物は、三年前まで美佳が付き合っていた相手だ。本当に、彼のことが好きだった。けれど戸田は、美佳とは結婚を考えられない、と言った。
 当時はかなりショックを受けて、言われた直後、美佳から別れを切り出した。結婚を考えられない相手と思われながら、隣で笑うことなんてできないと思ったから。
 自分の容姿が普通で、スタイルもよくないことはわかっていた。かたや戸田は容姿もそれなりにいいし、仕事のできる男だったから、きっとモテたはずだ。
 出会いは、彼が美佳の小説の営業担当になったことだった。必ず自分がヒットさせる、と熱心に語ってくれた。何度も打ち合わせを重ね、そして本が世に出て、それを美佳が手にする頃、彼から付き合ってほしいと言われたのだ。
 正直、嬉しかった。美佳は戸田の仕事に対する熱心さや、有言実行の男らしさに惹かれていたから、すぐにOKした。
 戸田と付き合い出した一年後に、光里は美佳の編集担当になった。だから、美佳が戸田と付き合っていた当時のことを、よく知っているのだ。
 二年と少し付き合って、心も身体も戸田のほうへ向いていたあの頃。別れるなんて微塵みじんも考えていなかった。このままこの人と結婚するのだ、と美佳はずっと思っていた。

「大丈夫。戸田さんも私も大人だし、もうお互いに結婚してるんだから」

 戸田は美佳と別れた一年後、子供を授かって結婚したそうだ。それを聞いた時、美佳は正直落ち込んだ。自分とは考えられないと言ったのに、他の人とはこんなにすぐに決めるのか、と。当時は戸田を許せない気持ちになった。けれど、そんな美佳のささくれだった心も、時間がいやしてくれた。ちょうどその頃、小説でヒット作を出すことができ、少しずつ自分に自信を持てるようになっていった。
 そして一年後、二十九歳の時。結婚という二文字に本気であせりを感じ始めたその頃、紫峰と出会った。

「何よりも、紫峰さんのほうが素敵でしょ?」

 美佳が茶目っ気たっぷりに言うと、光里は笑った。

「そうですねー。結婚式で初めてお目にかかった時は、かなり驚きましたよ。しかも、お色直しで、警察官の制服で登場するんですもん。SPって聞いてびっくりしましたけど、カッコイイって思いました」

 美佳の父が警察官だった縁で、紫峰とは出会った。

「で、ドラマ化の打ち合わせは、いつなの?」

 美佳が聞くと、光里はバッグからスケジュール帳を取り出して確認を始めた。
 光里がそうしている間、美佳はふと窓の外を見て、紫峰のことを考える。
 昨日も一昨日も帰りが遅かった。今日も遅くなるかもって言っていたな。
 最近、一緒に食事をしていない。紫峰は外食が続いている。疲れている紫峰にバランスのとれた食事を、と思うのだが、美佳も忙しくてここしばらく準備できていない。
 強い風が吹き、窓ガラスを揺らす。まだしばらく寒い日が続きそうだから、今度二人で食事をとる時は、鍋にしよう……と思った。



   3


 光里と自宅で打ち合わせをした翌週、美佳はドラマの打ち合わせのために出版社に出向いた。
 美佳の小説がドラマ化されるのは、これで二度目。美佳の作品は恋愛小説が多いが、今回の主題材はヒューマンドラマだった。
 キャストは今話題の役者ぞろいで、制作者も気合いが入っている。
 打ち合わせは約三時間ほどかかったが、何とかとどこおりなく終えることができた。

「いいドラマにしましょうね」

 帰り際、監督にそう言われて、美佳は笑顔で「そうですね」と答えた。
 帰ろうとエントランスに向かう途中、戸田の存在に気付いた。彼もこちらをチラリと見ると、他の社員との話を切り上げ、やって来る。

「久しぶりだ、美佳」
「戸田さんも元気そうですね」

 美佳がそう言うと、彼は苦笑して頭をかいた。

「結婚したんだっけ?」

 美佳がうなずくと、戸田は笑みを向ける。

「三ヶ嶋美佳、になりました」
「なんか舌を噛みそうだな。ところで三ヶ嶋さん、これから時間ありますか? もう少し打ち合わせしたいことがあるんですが」
「はい、どこでしますか?」

 指定された喫茶店は、以前よく美佳と戸田が一緒に行った店だった。出版社から歩いて五分くらいの場所にあるその店は、お洒落で紅茶が美味しい。
 二人で喫茶店まで歩く。店に着いて案内された席に座ると、さっそく戸田はウェイトレスを呼んだ。コーヒーと一緒に美佳の好きなミルクティーも注文して、こちらに笑顔を向ける。


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