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1巻
1-2
しおりを挟む「突然で、信じられないかもしれないけど……俺、君に惹かれてるみたい」
「え……はっ?」
今、彼は星南に惹かれていると言った?
ごく普通の一般人で美人でも何でもない星南が、そんなことを言われるなんて信じられなかった。
彼が惹かれる要素はどこだろうと真剣に考えてしまう。自分の良いところを探そうとするけれど、ちっとも思い当たらなかった。
「そんなに驚くこと? だって、君、可愛いよ。毎日、写真の俺に向かって話しかけて頬を染める。……なんて純粋な娘なんだろうと思った」
彼は手を伸ばして、星南の髪に触れた。そのまま一房手に取り、そこへキスをする。
まるで、映画やドラマのような仕草に星南の心臓は破裂しそうなくらいドキドキした。
「ねぇ、君は一体何なの? どんな女にもこんな気持ち感じたことないのに」
音成怜思は、真面目な顔をして星南との距離を縮めてきた。そして、自然な動きで腰に手を回し、抱き寄せてくる。
「あっ、あの、ちょっと……」
芸能人の、しかもずっと憧れていた人からこんな風にされると困る。それに、もっと困るのは彼の方ではないだろうか。こんなところを写真にでも撮られたら、どうするのだろう。
「ダメ?」
「もちろんです! こんなところを写真に撮られたら、大変じゃないですか」
意表をつかれたように一瞬動きを止めた彼は、すぐにフッと微笑んだ。
「大丈夫だよ。俺がこんなに目立つ場所で、堂々としているなんて誰も思わないから」
それはそうかもしれないけれど、とすごく周りが気になる。この路地の先は行き止まりで、彼は通りに背を向けて立っているから、顔を見られることはないかもしれない。でも、もし星南といたことで、憧れの人に万が一のことがあったらと思うと、後悔してもしきれない。
気になって通りに視線を向けると、頭上から声が降ってきた。
「名前、連絡先、仕事先、全部俺に教えて」
「へっ……そんな、なんで?」
予想外なことを聞かれた星南は、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「俺が君を好きだから」
開いた口が塞がらないとは、まさにこのこと。
音成怜思が――ずっと憧れ続けてきた大好きな彼が、星南を好きだと言った?
「ここで教えてもらえないと、またストーキングすることになるけど、いい?」
「えっ、あの、ス、ストーキングって……」
あまりのことにどうしていいかわからず、しどろもどろになってしまう。
「早く教えて? この間にも、誰かに気付かれるかもしれないよ」
現実の彼は、本当に物事をはっきり言って、そして結構オレ様な感じだ。
でも、そんな彼も嫌じゃない。
星南は急いで、バッグの中からスマホを取り出した。
「ひ、日立星南です。あの、そこのビルの十階のオフィスに勤めてます」
正面に見える大きなビルを指さすと、彼はちらりと振り返った。
「わかった。それで? 連絡先は?」
彼は有無を言わさず連絡先を聞いてきた。
まずはメールアドレスを交換し、次に電話番号。
「ねぇ、星南ちゃん。俺、君のせいでおかしくなったみたいだ」
彼は自分の連絡先を入力したスマホを星南に返すと、熱い視線を向けてくる。
「正直、ストーキングされたことはあっても、誰かをストーキングしたのは初めてだ。それに、告白しておいて悪いけど、俺はこれまで恋愛にあまり重きを置いてこなかった」
「そう、ですか。……らしいかも、です」
息がかかるほど近くに綺麗な彼の顔があって、星南の心臓はドキドキしすぎて今にも壊れそうだ。
「こらこら、そこで完結しないでよ。だからさ、そんな俺がストーキングまでして君に言い寄ってる意味、ちゃんとわかってる?」
――意味?
言われていることがよくわからなくて、ぽかんとしてしまう。
彼は人気俳優で、憧れの人だ。
そんな人が星南の目の前にいて、私のことが好きでストーキングしたと言っている。
そんなこと現実にあるわけがない。
むしろ、これは夢だと考えた方がよっぽどしっくりくる状況だった。
でも直接耳に届く低くて綺麗な声と、星南の腰を支える手のひらの熱さは本物で……
それに、どこか困ったような、なんとも言えない表情をしている彼は、夢にしてはやけにリアルだ。
「まぁ、今日はいいか。ねえ、明日も仕事?」
「は、はい」
「仕事が終わる頃に連絡するから、絶対に電話に出て。わかった?」
そう言いながら腕時計を見る。その時計には星南でも知っているくらい有名なブランドのマークがついていた。
「はい」
「残念ながら、タイムリミットだ。じゃあまた。今日は、強引に迫ってごめんね、星南ちゃん。送れなくて悪いけど、気を付けて帰るんだよ? ここを右に曲がってまっすぐ行ったら、駅に着くから」
そう言って怜思は、自然な動きで星南の額にキスをした。
ゆっくりと唇が離れ、彼は笑みを向けてくる。
柔らかい感触が残る額が熱い。自然と顔が赤くなっているのがわかる。そのうち耳にもそれが伝染した。ドキドキと音を立てる心臓の音が彼に聞こえてしまいそうだ。
星南が固まっているうちに、彼はさっと背を向けて歩いて行ってしまう。しばらく呆然と立ちつくしていた星南は、我に返った瞬間、とんでもない事態に気付く。
「音成怜思が、私のことを好きだって言った……?」
信じられない出来事が我が身に起こった。驚きのあまりぽかんと開いたままの口が塞がらない。
手の中のスマホを見ると、夢ではない証拠に彼の名前がしっかりアドレスに入っている。電話番号もメールアドレスも登録されていた。
「信じられない、うそ……」
ふわふわした心地で星南は路地から出て、彼に言われたように右に曲がりまっすぐ歩く。
しばらくすると、駅に着いた。星南はいつも通り改札を通って電車に乗る。
しかし、あまりにもびっくりして、あまりにもボーッとしていたため、星南は降りる駅を乗り過ごしてしまったのだった。
2
次の日の朝は、いつもより早く目覚めてしまった。
そして、考える。
どうして私にあんなことが起きたのだろう、と。
何度も何度も、心の中でつぶやいた。
少しずつ明るくなっていく部屋の中で、白い天井を見上げながら星南は下唇を噛む。
「あんな夢みたいなこと、やっぱりあるはずない」
どうにか起き上がって、スマホを見た星南は大きく目を見開いた。
『音成怜思です。星南ちゃん、今日、仕事が終わったら連絡ください。会社まで迎えに行きます。普通の車で迎えに行くから安心して』
「夢じゃなかった……」
メッセージの受信時刻は午前三時五分。
それを見て、もしかしたら昨夜会ったあとも、彼は仕事をしたのかもしれないと思った。
『美味しいご飯食べようね』
芸能人の言う美味しいご飯って、ものすごく美味しいに違いない。
それで、値段もものすごく高いのだろう、と、一般人の星南は推測してしまうわけで。
フワフワと浮いているような気分は、目が覚めても抜けてくれない。
星南はおもむろにベッドから立ち上がり、今日の服を真剣に考えた。これが夢でも嘘でも、彼の誘いを受けたいと思ったから。
* * *
「日立さん、会議資料のコピー二十部お願いね」
「はい」
午後一の会議で使うものだろう。資料は全部で十二枚ある。コピーして会議の机にセットすることを考えると、それなりに時間がかかりそうだ。お茶の準備もしないといけない。
今頼まれている急ぎのデータの打ち込みもあるから……と、星南はこれからの仕事の段取りを考えていく。思ったより早く一日が終わりそうだった。
ひとまず星南は、データの打ち込みを後回しにし、資料を抱えてコピー機へ向かう。
資料の大きさごとにコピーの仕方を考えながら、ふと今朝のメールについて思い出した。
『今日、仕事が終わったら連絡ください。会社まで迎えに行きます』
時間が経ってくると、やっぱり夢のように感じる。
夢じゃなかったと思ってみたり、夢みたいだと思ったり。星南の気持ちは、昨日から夢と現実を行ったりきたりしているようだ。
だって、偶然見かけた女性を好きになるなんて、まるで最近見た彼のドラマみたいだ。
会社員役の怜思が、フラッと立ち寄ったカフェショップで出会った女性に惹かれていく恋愛ドラマ。互いに少しずつ惹かれていく過程が、妙にリアルでくすぐったくてドキドキした。
ストーリー自体は王道だったけど、二人の何気ないシーンにすごくほっこりしたのを覚えている。
ドラマだとわかっていても、怜思の演じる彼が相手役の女性を愛する姿が真に迫っていて、思わず女優と自分を置き換えて見ていた。
それもあって、つい星南は夢と現実が混同しそうになってしまう。
「星南ちゃん……星南ちゃん!」
「は、はい!?」
星南のすぐ後ろにエリコが立っていた。驚いて振り返ると、彼女はため息をついて肩をすくめる。
「コピー終わったら声かけてね。私も頼まれたものがあるから。……大丈夫? 赤い顔でボーッとして。まるで恋する乙女みたいよ?」
ふふ、と笑顔で指摘されて、自分がしばらく上の空だったことを自覚した。
「す、すみません……ちょっと考え事をしていて……」
星南は、慌てて頭を下げた。
「もしかして……音成怜思のことでも考えてた?」
エリコは星南が熱烈な音成怜思ファンだと知っている。だからたまに雑誌の切り抜きなどを持ってきてくれたりするのだ。
「ま、まぁ、そんなところです」
「そんなんじゃ、いつまでたっても現実の彼氏ができないわよ?」
エリコの言葉に、星南は苦笑を浮かべる。
「星南ちゃん可愛いんだから、ぜひともあなたに合った現実の彼氏をゲットしてほしいわ」
星南は一気に目が覚めていくのを感じた。
昨日会ったのは、ずっと憧れていた音成怜思だった。テレビで見ていたままの、目鼻立ちの整ったとても綺麗な男の人。
彼と会ったのは、確かに現実だったけど、今日の約束は夢かもしれない。
――芸能人のなりすまし、ってこともあるかもしれないし。
「うちの旦那が、会社の合コンで女の子探してるの。よかったら、星南ちゃん行かない? 私と旦那も参加するから」
私たちにとってはただの飲み会だけど、と言って笑うエリコに、行ってみようかなと思った。
冷静に考えれば、彼は芸能人だ。星南のようなごく普通の女に、本気になんてなるはずないじゃないか。それに、星南は恋愛のことなんてまったくわからない初心者なのだ。
こういうネガティブループを繰り返すくらいなら、初めから夢だと思ってなかったことにしてしまった方がいいように思う。
「そうですね……思い切って参加してみます」
「そうこなくちゃ! じゃあ日程は、また連絡するね。あ、コピー終わったみたい。私の番ね」
星南は笑顔でコピー機に山となっている資料を手に取り、ホチキスを持って会議室へ向かった。
「連絡したら、本当に来てくれるのかな……でも、連絡しなかったら来ないよね?」
会議室の長机に資料を並べて、一枚一枚順番に取って最後にホチキスで留める。
それを繰り返しながら大きくため息をついた。
なんで、憧れの芸能人が星南の前に現れたりしたのだろうか。
身に余る奇跡は、時に残酷だ……
そう思いながら、星南は黙々と仕事をこなしていくのだった。
* * *
すべての仕事が終わったのは、終業時間を一時間過ぎた午後六時だった。
あとからまた書類仕事を頼まれて、それをパソコンに打ち込むのに時間がかかってしまったのだ。それでも早く終わった方なので、ほっと一息つく。
会社の制服から着替えて、ロッカーの中からバッグを取った。そうしてスマホの画面を開くと、そこには音成怜思から一件のメッセージが届いていた。
『仕事が終わったら連絡して。迎えに行く。待ってるから』
今日二度目のメッセージを見て、勝手に鼓動が高鳴っていく。
異性をこんなに意識したことは、今までになかった。
本当に、どうしたらいいんだろう。
星南は恋愛初心者だ。男の人と付き合ったことがあると言っても、おままごとみたいな付き合いだけ。大人の付き合いらしいことは何もなかった。そんな自分が、本物の芸能人、それもずっと憧れていた人となんて、本当に? と思ってしまう。
心の中で、冷静な自分が浮かれた自分に言い聞かせる。
彼はテレビの中の人でアイドル、つまり偶像なのだ。
つまり、現実にはいないも同然の人――
彼が相手だと、あまりにもファンすぎて、たとえ遊びでもいいと思ってしまう自分がいる。
でもそんな自分は不幸だし、何より可哀想すぎる。
だったら、彼とどうにかなるとか、付き合うとか、遊びでもいいとかいう考えを頭の中から排除して、最初から会わなければいいのだ。
このままファンでいる方がいい。
一般人の自分は、エリコの言うように合コンに参加して、現実で彼氏を見つける方が合っている。そう、言い聞かせた。
「決めた! 返事は、しない。私は、普通、前向き、舞い上がらない!」
スマホをバッグの中にしまい、ロッカールームを出た。途中、会社のエントランスに映った自分を見る。今日は、自分なりにお洒落をしてきたから、結構可愛い恰好をしていると思う。
マキシ丈のスカートに、繊細なレース袖のTシャツ。足元は三センチヒールのラウンドトゥパンプスを履いてきた。本当はパンプスはあまり好きではないのだが、彼に会うのだと思ったら、少しでも綺麗に見せたかったのだ。
帰り際、エリコにデートにでも行くみたいねと言われた。
確かに今朝はそのつもりだったけど、冷静になった今はちょっと恥ずかしい。
でも、今日くらいはこんなお洒落もいいだろう。また明日から、いつもの自分に戻ればいいのだ。
会社を出て、星南はまっすぐ駅へと足を向ける。
すると急に後ろから腕を引っ張られて、勢いよく誰かにぶつかった。
「ああ、ごめん、力が強すぎたみたいだ。君、思ってたより軽いな」
頭の上から、低くて優しい声が聞こえる。よく知っているその声に慌てて見上げると、彼がいた。
「約二十時間ぶり? 連絡してって言ったのに、どうして君はまっすぐ帰ろうとしてるのかな?」
「お、音成、さん?」
動揺して上ずった声を出す星南を見つめながら、彼は綺麗な目を細める。
「約束破る子、俺、嫌いだなぁ」
今日の彼は、これまでのような明らかな変装をしていない。
眼鏡だけをかけて、スタイリッシュな黒のスーツを着ている。どんな恰好をしていてもカッコいいけれど、今日の彼はまるで超エリート美形会社員のようだ。
「どうして連絡してこない?」
「そ、その……やっぱり夢かと思って」
「俺、嘘はつかないよ?」
軽く首を傾げた彼は、いつもの笑顔を星南に向けた。
「まぁ、会えて良かったってことにしよう。君が出てくるのを、今か今かと待ってたんだ。おいで」
自然と手を握られ引っ張られる。
「え、でも……あの……」
「素直に来てくれると助かるな。プライベートを、撮られたくない」
それは彼にとってマイナスだ。一瞬で、ファン心理が働いた星奈は素直に頷いた。彼は満足そうに口元だけで微笑み、星南の手を引いてゆっくり歩く。
しばらくして駐車場に着くと、彼は慣れた仕草で車のキーを操作する。すぐにライトが点滅した車は白い普通の国産車で、よく見かける人気車種だった。
会社から駐車場が少し離れていたことから、星南は彼を窺いながら問いかける。
「外、寒かったでしょう? ずっと、待っていてくれたんですか?」
「ああ。けど、ビルの中に入ってるカフェショップにいたから大丈夫だよ」
「そう、ですか……あの、バレませんでした?」
つい頭に浮かんだ疑問を聞いてしまう。
「だってみんなスマホ見てるでしょ? 中には目ざとい客もいたけど、今日は眼鏡にスーツだし、無視してたら普通に去っていったよ。そっくりさんだと思ったんじゃない? 意外とバレないものなんだよ」
さっきはバレたくないみたいなこと言っていたのに、矛盾してる。そう思いながら彼が開けてくれた車の助手席まで行くけれど、やっぱり思うところがあって見上げる。
「さっきはプライベートを撮られたくない、って言ってました」
「男女で言い合ってたら目立つでしょ? 普通にしてたら一般人に紛れることもできるけど、明らかに目立つようなやり取りには、興味なくても人は注目するからね。外で誰か一人に気付かれたら、完全にアウトだ」
彼は超有名芸能人で、人気イケメン俳優の音成怜思だ。
彼の言う通り、こんなところで騒ぎになって彼を困らせたくはない。そう考えた星南は、おとなしく車に乗った。
すぐに運転席に回った彼は、さっと車に乗り込みシートベルトをつけて車を発進させる。
「引いてない?」
そう言った怜思は、ハンドルを操作して右に曲がった。
「引く?」
「そう。俺の物言いとか性格とか。君の知っている俺とは結構イメージが違うでしょ」
星南は首を傾げた。よくわからないのが本音、というか。
たまにバラエティー番組に番宣で出ている時の話し方は、今とそう変わらないように思う。
それに、彼は俳優だ。これまで数えきれないくらいたくさんの役をやってきている。それこそ、人をバンバン殺す殺し屋から爽やかな好青年まで。
だから別に、その時々で物言いや人格が違っても、不思議とは思わない。
「私は、そんなに違うとは感じませんでしたけど」
「へぇ……君、変わってるね。大抵、実際の俺はイメージと違うって言われるのに」
「……そうなんですか? でも、それが本当の音成さんなら、いいんじゃないでしょうか? 俳優さんなら、いろんな顔を持っていて当然なわけだし……」
上手く返事ができていないかもしれない。でも、イメージに囚われて相手を決めつけるよりはいいと思う。
「そうか、ありがとう」
彼の口元に笑みが浮かんだのが見えた。外が暗いので、はっきりしないけれど、どうやら彼は満足そうに微笑んでいるらしい。
「今日はね、初デートだし、ちょっとカッコつけてフレンチレストランの個室にしたよ。フレンチ、大丈夫?」
そんなお洒落な所に、と目を見開く。フォークとナイフを上手く使えなかったらどうしよう。内心ちょっと不安に思いながら、小さく頷いた。
「大丈夫、です。ありがとうございます」
「味は保証するよ。何度か行ったことのある場所なんだ。こうしてプライベートで行くのは初めてだけどね」
彼の口調はどことなくふわりと流れるように優しい気がする。だからだろうか……はっきりものを言われても、厳しく感じないのは。
「撮影のあとそのまま来たからスーツだけど、今から行くところはドレスコードのないカジュアルな店だから。緊張しなくても大丈夫だよ」
撮影と聞いて、思わずファンの血が騒いでしまう。
「あ、あの……今は何の撮影をしているんですか?」
「はは! それ聞いちゃう? 来年公開の映画だから、内緒」
しー、と言うように唇に人差し指を当てる仕草が素敵だった。彼は何をしても絵になるので、ついつい目を奪われてしまう。
「来年公開の映画……まだ予告されてませんよね?」
「そう。さすがだね。そういうところも、ちゃんとチェックしてくれてるんだ」
「もちろんです。筋金入りのファンですから」
これは素直な言葉。星南は、音成怜思オタクと言っても過言ではない。
「わかってるよ。いくら俺の熱烈なファンでも、なかなか誰が見ているかわからない中、看板にキスなんかしないからね」
星南はカーッと顔が熱くなるのを感じた。
あれを本人に見られていたと思うと、恥ずかしくて堪らない。穴があったら入りたいほどだ。
「すみません……」
「なんで? 嬉しかったよ。むしろ、グッときたなぁ。俺好みの女の子が、そんなことしてくれてたんだから、ホント堪らない」
「好みって、そんな……私はただの一般人で、普通のOLですよ?」
「好みの女の子が、一般人じゃいけないの?」
楽しそうに話す、耳に心地いい声。
彼はこんな話し方もするんだ。それを隣で独占できる自分に、ちょっと優越感を覚える。
何万、何十万、といるだろう音成怜思のファン。その中の一人でしかない星南に、こんな夢みたいなことが起きるなんて奇跡だ。でも……
だからこそ、やっぱりありえないと思ってしまう。
「こ、これまで音成さんと噂のあった女の人は、みんなすごく綺麗な方でしたし……」
「はは、そうだね」
彼はハンドルを操作しながら、住宅街のちょっと奥まったところにある、洋館風の建物の前に車を停めた。きっとここが目的のフレンチレストランなのだろう。
「まあ、そういうつまんないことはさておき、だね」
シートベルトを外した怜思は、運転席に座ったまま星南をじっと見る。
「今は、目の前の君とのデートを楽しみたいな」
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