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3巻
3-3
しおりを挟む「暇つぶしじゃん?」
仕事してないと思ったらそうだったのか。じゃあ早く帰れよ、と思いながら万里緒は頭の中で阿部をドツく。
「わかりました。引き受けます。さっさと終わらせて、必ず忘年会に行きます。ビール飲みたいし、星奈先生も来るので」
「星奈が来るからなんだよ」
「一緒にいたいじゃないですか」
「だからって急ぐことないんじゃね? 一緒にいたって、別にラブな雰囲気になるわけでもあるまいし。お前たちって、まるで政略結婚みたいだもんな」
ははは、と阿部は笑うが、それは万里緒にとって禁句のフレーズ。だって、そんなことないし、そんなことないと信じてるし。
阿部の心ないセリフに傷つきながら、万里緒は下唇を噛む。すると阿部は笑いを引っ込め、まじまじと万里緒を見た。
「……なんだよ、マリオ」
「なんだよじゃないですよ! 言っていいことと悪いことがあるんです!」
大体なんで、そんなふうに見られるんだろう。出会ってすぐに結婚したからだろうか。万里緒の実家が藤崎病院だからだろうか。なんにせよ、こればかりは頭にきたので、思っていたことをぶちまける。
「阿部先生みたいに、チャラい男を旦那にした奥さんはすごいですよ。デリカシーもなければ、アルハラ、セクハラ当たり前じゃないですか。いつも、私我慢してるんです。それに、政略結婚なんかで私は星奈先生と結婚したりしません! そこんとこ、きちんと認識の修正をお願いします」
言い捨てて医局を出る。
万里緒は無理やり気持ちを切り替えて、受け持った新患について考える。
それでも、廊下を歩きながら悔し涙が滲んでくる。
ただでさえ、千歳は自分としょうがなく会ってくれたと思っている万里緒は、周りから政略結婚と言われると悲しくなる。昨日だって愛し合ったし、好きだと言われた。千歳が万里緒のことを本当に好きになってくれたから結婚したと思っているし信じている。なのに、あんなことを言われるのは本当に心外で。
「もう、本当に馬鹿!」
今から患者を受け入れると忘年会には遅れそうだが、これも万里緒の仕事なのである。
* * *
どうにか患者を落ち着かせて、きちんと指示を出し終えた万里緒が、会場のホテルへ向かったのは午後八時を過ぎた頃だった。
アッシュピンクのアメリカンスリーブドレスに、同色系のショートエナメルブーツ。数年前、友人の結婚式用に購入したものだが、なかなか着る機会がなく今回久しぶりに出してきた。
忘年会は午後七時から始まっていたのに、ずいぶん遅れてしまった。万里緒は、ホテルのクロークに上着を預けて、忘年会の会場へ急ぐ。
さすがに高級ホテルと言われるだけのことはあって、本当に綺麗だ。やっぱり違うのは内装。今は時期的に、クリスマス仕様になっていて、細部まで手を抜いていないオシャレなデコレーションが目を引く。
綺麗なシャンデリア、綺麗なソファーと内装。もう、女のときめきを随所に詰め込んだようなホテルだ。
「私も女だなぁ。こういうの見てると、なんかトキメクよね……」
病院で先輩医師に言われた嫌なことは、目の前のこれでリセットできそうだと思えた。
しばらくの間、万里緒が煌びやかな内装に見入っていると、後ろから万里緒と呼ぶ声がした。振り向くとスーツを着たひと際目を引くカッコイイ人。
黒のスリムなスーツにドット柄のネクタイ。長身でスタイルのいい彼には、はまり過ぎるくらい似合っている。
周囲の視線を集めながらこちらに歩いてくる姿があまりに素敵で、万里緒も思わず見とれてしまった。よく知っているはずの千歳がまるで別人のように思える。
「なに呆けてるわけ?」
「へっ?」
やっぱり千歳だ、と思いながら目の前に立った千歳をじっと見る。いつもと違い、軽く髪の毛をセットしているから余計にカッコイイ。
「遅かったね」
まじまじと見ていると手を差し出されて、またその手をじっと見る。相変わらず綺麗な手だった。
「ほら、手」
「手?」
眉を少しだけ寄せると、千歳が万里緒の右手を取って歩き出す。というか、千歳と手を繫いでいる。
「そろそろ万里緒が来るかと思って、ロビーに出たんだ。ビンゴでよかった」
千歳が穏やかに話しかけてくるが、万里緒はそれどころではない。外で千歳と手を繫ぐなんて、今までなかったことだから緊張する。それを察したのか、どうしたの? というふうに千歳が顔を覗き込んでくる。
「な、なんか、人前で手を繫ぐなんて、なかったからですね」
「そうだっけ?」
「そうだ、ですよ」
動揺して変な言葉を発してしまった。
千歳に手を繋がれたまま、すぐに忘年会の会場についた。ドアを開けると、ちょうど人気アイドルを真似した出し物をやっていた。相変わらずのミニスカートだった。
「さすが高級ホテルって感じで、やっぱり綺麗ですね」
「そうだね。今日の万里緒も綺麗ですよ」
いきなりそんなことを言われて、万里緒は目を瞬かせた。さらに、千歳から愛しげに頬を撫でられて、万里緒は焦ったように周りを見る。すると消化器外科の医師で、確か西野と呼ばれていた医師が驚いたようにこちらを見ていた。近くには、先輩医師の阿部の姿もある。
だから万里緒は繫いでいた手を解いて、周りに笑みを向ける。すると、阿部がこちらに向かって歩いてきた。
「遅かったな、マリオ」
「先生が、新患を任せるからですよ」
プン、として言う。もちろん万里緒は阿部をまだ許していない。そういう態度を取ると、阿部が下手に出て謝ってくる。
「悪かったよ、マリオ……。昼のアレは、失言だった」
「あとで謝るくらいなら、言わないでくださいよ」
万里緒がそう言って阿部を睨むと、どうしたのかという感じで千歳が見ていたので、阿部に舌を出して言う。
「しばらく口ききませんからね!」
そうしてもう一度プン、という感じで顔を背けると、あとから来た西野がまぁまぁ、という感じで声をかけてくる。
「二人とも、決まってますね。星奈先生もかっこいいんですけど、今日の万里緒先生、すごく綺麗ですね!」
上から下まで見られて、そんなことを言われたものだから思わず赤くなる。すると、隣にいた千歳が万里緒の肩に垂らしている髪の毛を少しだけ払った。
「確かに。この髪の毛は、巻いた?」
髪の毛に触れてそう言われて、どうしたんだ? と万里緒は思う。
なんか、ここに来てから千歳のスキンシップが多いような気がする。不思議に思って見上げると、ん? というふうににこりと笑う。
「着替えてる最中に、夜勤の江原さんが巻いてくれたんです。休み時間だからって。似合います?」
「似合うよ、可愛い」
その答えを聞いて、万里緒はパチパチと目を瞬く。今まで人前で、可愛いなんて口に出したことあっただろうか。
「どうしたんですか?」
戸惑いながら千歳に問うと、不思議そうに首を傾げられる。
「なにが?」
「いや、あの、うーんと……」
「お腹空いてない?」
「空いてますけど、あの……」
「むこうの席が空いてるから座ろうか」
そう言って万里緒の背中を軽く押した。まるでラブい恋人のように、千歳からエスコートされて、本当になんだよと思う。いつもは人前でこんなこと絶対にしないくせに、今日の千歳はなんだか積極的だ。
当たり前のように千歳の隣に座り、ビールを注いでもらう。千歳を見ながらグラスを空けると、すぐに千歳が、もう一度グラスへビールを注いでくれた。
「星奈先生、カッコイイですね、今日は特に」
本当にどうしたんだ、と思って、そう言ってみる。
「万里緒も綺麗」
「そのシャツ、微妙にストライプ入ってますね。ドット柄のネクタイも、なんかいいし」
「女性も男性もドレスアップって言ったの万里緒でしょ?」
そうしてにこりと笑って、万里緒の左手の薬指に触れる。
「指輪はどうした?」
そういう千歳の左手の薬指には指輪があった。
「あ、ごめんなさい。指輪はですよ、この中に……」
慌てて襟元を探ろうとすると、それより早く千歳の指が首元に伸びてきた。万里緒は思わず、あ、と声を出してしまって、急いで唇を閉じる。
「万里緒、首のあたり弱いよね」
千歳がにこりと笑い、指輪を通したネックレスを襟元から引き出す。ネックレスを外して二つの指輪を取ると、千歳は万里緒の左手を取って、薬指に指輪を嵌めた。
外でこんなことをするなんて、本当に今日の千歳はおかしい。
万里緒はちらりと周りを見る。千歳の同僚である北野と西野が驚いたようにこちらを見ていた。おまけに美山教授と、内科の教授と医局長、それに先輩医師の阿部までが自分たちを見ている。
「ほ、星奈先生、みんな見てるので、手を放していただけると……」
万里緒が焦って言うと、千歳は手を握ったままするりとその甲を親指で撫でてきた。
「万里緒」
「なんですか? あの、ちょっと、やっぱり……」
「僕は万里緒が好きで、結婚したんだからね」
あたりは騒がしい。でも、至近距離からそう言われたので、よく聞こえた。
「僕ら、夫婦らしくないって言われてるらしい。本当は外でこういうことするの、苦手だけどね。でも、星奈千歳は星奈万里緒が好きだってこと、周りにも示しておいた方がいいかと思って」
阿部から言われた。政略結婚だとか、夫婦らしくないという言葉。
それが、すごく心に突き刺さった。だって、そんなことないと思っているから。
「最初は、確かにしがらみ付きの見合いだったけど、すぐにそんなものはどうでもよくなった。君を心から好きになって、これからの一生を共にしたいから結婚した。君が藤崎病院の娘なのは事実だけど、そんなの関係ないから。もっと、遠慮せずに僕の方に来て、万里緒」
万里緒は大きく息を吸った。そうしないと、なんだか泣きそうだったから。
「……私、今日、政略結婚みたいだって、言われたんですよ」
「そう。誰に? もしかして阿部先生? それで怒ってた?」
あっさりと言い当てられて、一瞬言葉が止まる。けれど、なんとか言葉を発した。
「でも、確かにそんなふうに見えるだろうし、仕方ないのかなって……」
「でも違うでしょ? 僕は違うよ」
自分で言っておきながら落ち込んで下を向くと、千歳が万里緒の首を撫でた。
「結婚してからの方が、周りがうるさい。でも、事実、僕らは愛し合って結婚した。それは、自分たちがわかってればいいことかもしれないけど。でも、たまには態度で示さないとだめなのかも。特に、僕が冷めて見られるからね」
冷めて、というところで万里緒が笑うと、千歳も笑う。
「万里緒、ご飯食べてたくさん飲んでいいよ」
「どうしてですか?」
「お腹空いてるでしょ? 帰りはちゃんと連れて帰るからね」
そう言って、千歳がビールを注いでくれた。それから自分にも注いで、にっこりとグラスをかかげてくる。
「今日は、夫婦らしくしてましょうか」
カチンと、グラスとグラスを合わせて乾杯。
千歳が笑ったので、万里緒も笑みを浮かべた。
慣れないことをしてまで、千歳が二人は夫婦で愛し合っているのだと、周りに示そうとしてくれたことが嬉しかった。
* * *
「千歳、飲ませ過ぎ!」
万里緒が千歳の肩を軽く叩くと、おいおい、と言ったのは阿部だった。
万里緒は千歳が言った通り、たくさん飲んで食べた。だってそうしていいと千歳が言ったから。
「お前、かなり酔っぱらってね?」
阿部は万里緒にワインをお酌しに来たのだが、万里緒がすでに出来上がってきていたので、やめたようだった。
「酔っぱらってますけど、飲ませていいですよ」
千歳がにこりと笑って阿部に言ったのを聞いて、万里緒はグラスを差し出す。
「注いでください。今日、新患任せてぇ、千歳と私が政略結婚みたいって言いましたよねぇ」
そこで千歳が目を瞬かせた。万里緒が、あ、しまった、と思ったときには後の祭り。千歳はすぐに笑顔で阿部を見た。
「ああ、そんなこと言ったんですね」
すると、阿部が焦ったように言い訳する。
「いや、そんなふうに見える、ってだけで。お前たちのプライベートなんて、見たことなかったしな。星奈って、結構スキンシップ多いんだなぁ。向こうで看護師たちもラブラブ、って言って悔しがってたぜ?」
「そうですか。でも、政略結婚だなんて酷いですね」
「言葉のアヤだよ。悪かった。星奈も飲むか?」
阿部がグラスにワインを注ごうとすると、千歳はグラスに自分の手で蓋をする。
「いえ。万里緒を連れて帰らないといけないので。もうそろそろお開きみたいですよ?」
コートを着ている看護師たちが見えたので、万里緒はグラスを一気に空けた。
「千歳、阿部先生酷いでしょ?」
「そうだね。今度から阿部先生の患者、僕はフォローしないでおこうかな?」
千歳が万里緒に顔を寄せて、そう言って笑うので、もっと言ってやれ、と思った。
「それは困るだろ。星奈に助けられてるところもあるんだからさ」
「どうでしょう。政略結婚した奥さんが、傷ついているみたいなので」
ね? と、顔を覗き込んできた千歳に頬を撫でられたので、言った。
「傷つきました。泣きそうだった。もっと言って、千歳」
その言葉に千歳は少し声を出して笑う。万里緒はぐいっと阿部にグラスを差し出した。
「阿部先生、注いでください」
「悪かったよ。これからは言わないからさ」
ワインを注いでもらった万里緒は、それを一気に飲み干す。さすがにクラっとしたので、大きく息を吐いてやり過ごす。
「帰る? 万里緒」
「うん、帰る。酔いました」
よろけながら立ち上がる万里緒を、千歳が支えてくれた。
千歳は優しい。本当にもう、大好きな夫。
「阿部先生も、奥さん待ってるみたいですよ」
「おお。そうだな」
阿部は妻のところへ行く。そのまま千歳と万里緒と一緒に会場を出る。しかし、阿部たちがエントランスへ行くのに、千歳は反対の方向へ万里緒を引っ張った。
「お前たち、どこ行くんだ?」
阿部がそう言ったとき、ちょうど会場から出てきた外科医の西野や美山教授と鉢合わせる。
「星奈君、帰るのかい?」
美山が親しげに声をかけてきたので、万里緒は千歳を見上げる。
「二次会はどう? 万里緒君も一緒においで。二人の仲が良いところを見せられて、当てられるかもしれないが」
ははは、と笑う美山に、千歳はいいえ、と言った。
「妻もかなり酔っていますし、今日はここに泊まっていこうと思います。すみません、またの機会に誘ってください」
泊まってここから出勤する、と言ったように聞こえた。はい? と思ってもう一度千歳を見上げると、ただ笑顔を向けられるだけ。泊まるなんて聞いてないよ、と内心では動揺しきりの万里緒である。
「泊まるのかね?」
「はい。万里緒が以前ここに泊まりたいと言っていたので、予約しました。また明後日からも旅行ですけど」
そんなこと言ったっけ? と酔っ払った頭で思いながら、万里緒は千歳の顔を見つめる。
それって、いかにもラブラブな夫婦みたいだと思う。泊まるということは、つまり夫婦の営みをするというようにも聞こえるわけで。
「ああ、君はもう少しでアメリカだから仲良くしないとねぇ」
にこにこ笑いながら美山に言われて、万里緒は緩く笑った。まさかそのつもりなのだろうか、千歳は。
「そうですね」
って、答えるなよ、と思いながら、万里緒は顔が赤くなるのを感じる。
じゃあ、と背を向ける美山を見送り、横を見ると阿部がまだそこにいた。
「泊まるのか、星奈」
「はい。ここ三日ほど、家でもあまり顔を合わせてなかったし、二人で過ごしたいので」
千歳が言うと、阿部の妻がいいわねぇ、と言って微笑んだ。
「今日は悪かったな、マリオ。本当にラブラブなんだな」
「あったりまえですよ! ラブラブです」
言ってやると、阿部は笑った。
「そうかよ。じゃあ種植えつけられてこい」
そう言って去っていくのを見て、ん? と思う。横で千歳が笑ったことで、ようやく言われた言葉の意味を理解した。
「下品! バカ阿部!」
声を抑えたけれど、なんか酒のせいだけではなく顔が熱い。
「行こうか、万里緒。今日はスイートを取りました」
笑顔で背に手を回されてフロントへ促される。こんなに周りへ自分たちが夫婦だと、ラブラブだと見せつけるようなことをするのは初めてで、どうしていいかわからない。
周りを見れば、病院関係者が千歳と万里緒を見ていた。
今から泊まるとバレバレで恥ずかしい。
「あの、こんな堂々と行くのはよろしくないと思いますのですよ。それに、今日泊まるって聞いてないですけれども」
「せっかくだから泊まるのもいいかと思って。みんな大人だから、別に何か言ってきたりはしないよ」
「でもですね……いかにも、なんか、夫婦の営み? スルみたいな……」
「もちろんしますよ、万里緒さん。どうしたの? さっきまで酔っぱらってたのに、急に素に戻ってるね」
そう言って、千歳は涼しい顔で手続きをする。カードで支払いを済ませ、エレベーターまでエスコートされる。
エレベーターのドアが閉まる前に後ろを見ると、千歳の友人である三枝が笑顔で手を振っていた。その周りには看護師や千歳の元カノである三谷までいて、万里緒と千歳を見ている。
もしかしたら、明日は病院中でこのことが噂になっているのではないだろうか。
明日冷やかされる自分を想像するだけで、なんてこったい、である。
なんてこったい。
なんてこったい!
明日何言われるかわかんないぜ!
エレベーターの性能がいいため、すぐに目的の階へ着いてしまった。
部屋のドアを開けた千歳に、手を引かれる。ほんのり明るい部屋の中、雰囲気はどこまでも甘い。
「星奈先生、あの……」
さっきまで酔っぱらってた。いや、今も酔っぱらっているけれど、こういうのは慣れなくて少し素に戻ってしまう。
「千歳、でしょ?」
そう言って、千歳が万里緒の髪の毛に触れてくる。
「ゴ、ゴムしてください」
「どうしようか。せっかくお酒飲ませて理性を緩くしたのに。どうして素に戻るんでしょう、万里緒さん」
千歳が、ふっと笑いながら万里緒の背を撫でる。その手が流れるように両腕を撫でて、万里緒が着ているボレロを脱がせた。それから少し屈んで、万里緒を子どものように抱っこする。
そのままベッドまで運ばれて、万里緒のドキドキは最高潮。だって、抱っこされている間も千歳の手は背を撫でるなどして、ドキドキをさらに促してくるから。
そうして、クリスマスイブの二日前。
万里緒はベッドの上で、千歳に綺麗なドレスを脱がされるのだった。
5
ベッドに下ろされた万里緒が、ドキドキしながら千歳を見上げる。すると、万里緒を見つめていた綺麗な目がにっこりと笑みの形に変わる。
ドレスの首元へ伸ばされた手に、襟の部分のリボンを解かれた。
そのまま千歳は、万里緒の足を持ち上げて、片方ずつブーツを脱がせる。そして左膝にキスを落としていった。
「千歳、ゴム着けて?」
ゴムを着けて欲しいのは、もう少し千歳とラブな期間が欲しいから。だって、千歳は来年の一月にはアメリカに行って、二ヶ月は帰ってこない。ということは三月くらいまで帰ってこないかもしれない、ということだ。つまり、それだけ二人の時間が、少ないということ。
万里緒がそう聞くと、千歳はキスを止めてため息をつく。
「わかりました」
そう言って千歳はため息を吐いた表情のまま、足を開いた万里緒の身体を引き寄せた。スカートが捲れ上がって、足が丸見えになった恥ずかしい格好。万里緒が慌ててスカートに手を伸ばしたところで、千歳が覆いかぶさってきた。
首に顔を埋められて、耳元にキスをされる。
「千歳……っん」
ゆっくりとしたキスをされて、身体が期待に震える。酔っているからか、少しの刺激にも敏感に反応してしまう。
背中を撫でられて、ドレスの後ろボタンを外される。そのままドレスを肩から落とされ、下着のホックを外された。肩紐なしの下着だったから、すぐに胸が露になる。
「なんで、君との子どもが欲しいかわかる?」
下着を取られて、頬を撫でられる。
「それだけ、万里緒のことが好きだから、君との間に家族が欲しい」
首筋から移動した唇が万里緒の胸の先端を含む。
甘い刺激に浮かされながら、千歳の言葉が万里緒の耳に響いた。
万里緒が好きだから、万里緒との間に家族が欲しい、と言われた。
それくらい万里緒のことを大事に思っているのだと。
千歳の言葉を聞いて、本当に家族が欲しいのだと思った。千歳は実の母を早くに亡くしているから、もしかしたらその気持ちが強いのかもしれない。
もちろん、万里緒だって千歳との家族は欲しい。でも、まだ千歳と二人でいたいという思いもあって、決心がつかないのだ。それに、自分が妊娠している姿なんてまったく想像もできない。
でも、絶対に千歳との間に子どもが欲しい。それだけは今はっきりと思う。万里緒も千歳と家族になりたいと思うから。
「は……っん」
スカートの中に手が入ってきて、ストッキングを脱がされる。片方ずつ足から引き抜かれて、今度はショーツに手がかけられた。ショーツを片方の足だけ脱がされたところで、千歳の指が万里緒の足の間を撫でてくる。
甘い声が出るのはしょうがないこと。足を開かれて覆いかぶさられて、しかもキスをされながら千歳と繋がる部分を撫でられている。そんなふうにされたら、どうしたらいいのかわらない。
だって、しっかり千歳に身体を重ねられていて、逃げ場所がないのだ。万里緒は千歳から与えられる刺激に、ただ唇を開いて声を出し、ベッドのシーツを握るだけ。
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