アルディアからの景色

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
66 / 77
第7章:苺の特訓(苺視点)

7-10:真意の湖水のせい

しおりを挟む
 ストラスは苺の背後へ行き、後ろから腕を回し、顔を耳元に近付けた。そして、苺の柔らかな髪を優しく撫で、抱き締めた。


「本当に感謝している。私のくだらない悩みを真剣に考えてくれて、私に再び自信を与えてくれて。しかし、これ以上、苺と関わると、私はどうにかなってしまいそうで……。このもどかしい感情はどうしたら解消されるのだろうかと様々な文献を読み漁って、ずっと解決の糸口を探していた」
「そ、そうなんですか? 苺はてっきりストラス様のご気分を害してしまったのかと思っていました」
「そんな訳ないだろう。苺に対して、そう思った事は一度も無いぞ。……あれだ。私の体液で苺の顔を穢してしまった時、罪悪感と同時に、優越感を感じてしまったんだ。だから、どう対処すべきか分からず、余所余所しい態度をとってしまった。申し訳ない」
「えっ! あの、そんな……謝らないでください。い、苺はただ男娼として、ストラス様に最高のおもてなしがしたかっただけで。ストラス様の悩みが解消出来て、つい嬉しくて……。自分でも分からないですが、いつの間にか夢中になってて、ストラス様が気持ち良くなられたのを見て、満足したというか。苺こそ配慮が足りず、申し訳ありませんでした」


 苺はしょんぼりした顔をし、俯いた。ストラスはため息をつき、苺の正面に座り直し、苺の両肩に手を添えた。苺は恐る恐る顔を上げ、ストラスの顔を見つめた。


「苺が謝って、どうする? 一生懸命に奉仕している苺の姿はとても充実しているような印象だった。男娼として務めを果たしただけだろう? まぁ、私としては、それはそれで残念だが」
「ストラス様が……、残念に……? それはどうしてですか?」


 苺は言っている事が分からず、首を傾げ、ストラスに質問した。そうすると、ストラスは頬を赤くし、それを隠すように顔を腕で隠し、目を逸らした。


「そ、それは他の客にも同じような事をしていると思うと、こう……沸々と良からぬ感情がこみ上げてくると言うか。と、ともかく! 苺の事を考えると、余裕が無くなるというか……」
「ストラス様は苺をそのように思われていたのですね。……なんだか嬉しいです」


 苺が照れ笑いすると、ストラスは顔から火を噴くように真っ赤になった。そして、そのまま苺をベッドに押し倒した。


「嬉しい? それはおかしいぞ。私は今ここで苺に刻印を押して、その後、牢に閉じ込めて、お前が、お前が泣き叫べなくなるまで骨の髄まで吸い尽くしてやろうと目論んでいる四天王だぞ。そんな極悪非道な四天王だぞ!」


 ストラスはいつもの冷静さを失っていた。心臓の鼓動は高鳴り、息遣いも荒くなった。苺はいつもより早い口調で喋るストラスを見て、咄嗟に口を手で隠し、笑いを堪えた。ストラスはそれを見て、不思議そうな顔をし、首を傾げた。


「ふふっ。ストラス様が極悪非道でしたら、既に苺はこの世からいなくなっていますよ。ストラス様らしくないですよ。いつもの余裕はどこへ行ったのですか?」
「私を馬鹿にするのか?」
「そんな事ありません。今、苺は生きていて良かったなぁ。アルディアで……男娼として生きていて良かったなぁと思っただけです。こんなにも自分の事を思ってくださって、『苺』という一人の人間として真正面から見て頂けて……。嬉しいです。でも、男娼としての仕事は以前よりやりにくくなりますけど……」
「どういう、ことだ?」
「もう……、全部言わないといけないのですか? 苺からは申し上げる事が出来ません。一応、これでも『男娼』なので」


 苺はウインクをし、ストラスの体を引き寄せた。そして、ストラスの頬に自分の頬をすり寄せた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 全然分からないぞ。苺らしくない。本当に苺なのか?」
「苺ですよ。貴方様がいつも抱き枕代わりに使ってらっしゃった苺ですよ? 抱き心地を忘れましたか?」
「わ、忘れる訳ないだろう!」


 ストラスは少し声を荒げ、ムスッとした顔をした。苺はクスリと笑うと、ストラスの耳元で甘く囁いた。


「料理は熱々が美味しいって教えられませんでしたか? 早くしないと……冷めちゃいますよ?」


 苺はストラスが取り乱す程、自分の事を思ってくれているのに、嬉しさと同時に、体の中心からドクドクと脈打つように熱くなり、火照りを感じた。そして、『最高のおもてなしをするためには、主導権はお客様ではなく、あくまで私達』という月下からの教えをふと思い出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...