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第7章:苺の特訓(苺視点)
7-10:真意の湖水のせい
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ストラスは苺の背後へ行き、後ろから腕を回し、顔を耳元に近付けた。そして、苺の柔らかな髪を優しく撫で、抱き締めた。
「本当に感謝している。私のくだらない悩みを真剣に考えてくれて、私に再び自信を与えてくれて。しかし、これ以上、苺と関わると、私はどうにかなってしまいそうで……。このもどかしい感情はどうしたら解消されるのだろうかと様々な文献を読み漁って、ずっと解決の糸口を探していた」
「そ、そうなんですか? 苺はてっきりストラス様のご気分を害してしまったのかと思っていました」
「そんな訳ないだろう。苺に対して、そう思った事は一度も無いぞ。……あれだ。私の体液で苺の顔を穢してしまった時、罪悪感と同時に、優越感を感じてしまったんだ。だから、どう対処すべきか分からず、余所余所しい態度をとってしまった。申し訳ない」
「えっ! あの、そんな……謝らないでください。い、苺はただ男娼として、ストラス様に最高のおもてなしがしたかっただけで。ストラス様の悩みが解消出来て、つい嬉しくて……。自分でも分からないですが、いつの間にか夢中になってて、ストラス様が気持ち良くなられたのを見て、満足したというか。苺こそ配慮が足りず、申し訳ありませんでした」
苺はしょんぼりした顔をし、俯いた。ストラスはため息をつき、苺の正面に座り直し、苺の両肩に手を添えた。苺は恐る恐る顔を上げ、ストラスの顔を見つめた。
「苺が謝って、どうする? 一生懸命に奉仕している苺の姿はとても充実しているような印象だった。男娼として務めを果たしただけだろう? まぁ、私としては、それはそれで残念だが」
「ストラス様が……、残念に……? それはどうしてですか?」
苺は言っている事が分からず、首を傾げ、ストラスに質問した。そうすると、ストラスは頬を赤くし、それを隠すように顔を腕で隠し、目を逸らした。
「そ、それは他の客にも同じような事をしていると思うと、こう……沸々と良からぬ感情がこみ上げてくると言うか。と、ともかく! 苺の事を考えると、余裕が無くなるというか……」
「ストラス様は苺をそのように思われていたのですね。……なんだか嬉しいです」
苺が照れ笑いすると、ストラスは顔から火を噴くように真っ赤になった。そして、そのまま苺をベッドに押し倒した。
「嬉しい? それはおかしいぞ。私は今ここで苺に刻印を押して、その後、牢に閉じ込めて、お前が、お前が泣き叫べなくなるまで骨の髄まで吸い尽くしてやろうと目論んでいる四天王だぞ。そんな極悪非道な四天王だぞ!」
ストラスはいつもの冷静さを失っていた。心臓の鼓動は高鳴り、息遣いも荒くなった。苺はいつもより早い口調で喋るストラスを見て、咄嗟に口を手で隠し、笑いを堪えた。ストラスはそれを見て、不思議そうな顔をし、首を傾げた。
「ふふっ。ストラス様が極悪非道でしたら、既に苺はこの世からいなくなっていますよ。ストラス様らしくないですよ。いつもの余裕はどこへ行ったのですか?」
「私を馬鹿にするのか?」
「そんな事ありません。今、苺は生きていて良かったなぁ。アルディアで……男娼として生きていて良かったなぁと思っただけです。こんなにも自分の事を思ってくださって、『苺』という一人の人間として真正面から見て頂けて……。嬉しいです。でも、男娼としての仕事は以前よりやりにくくなりますけど……」
「どういう、ことだ?」
「もう……、全部言わないといけないのですか? 苺からは申し上げる事が出来ません。一応、これでも『男娼』なので」
苺はウインクをし、ストラスの体を引き寄せた。そして、ストラスの頬に自分の頬をすり寄せた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 全然分からないぞ。苺らしくない。本当に苺なのか?」
「苺ですよ。貴方様がいつも抱き枕代わりに使ってらっしゃった苺ですよ? 抱き心地を忘れましたか?」
「わ、忘れる訳ないだろう!」
ストラスは少し声を荒げ、ムスッとした顔をした。苺はクスリと笑うと、ストラスの耳元で甘く囁いた。
「料理は熱々が美味しいって教えられませんでしたか? 早くしないと……冷めちゃいますよ?」
苺はストラスが取り乱す程、自分の事を思ってくれているのに、嬉しさと同時に、体の中心からドクドクと脈打つように熱くなり、火照りを感じた。そして、『最高のおもてなしをするためには、主導権はお客様ではなく、あくまで私達』という月下からの教えをふと思い出した。
「本当に感謝している。私のくだらない悩みを真剣に考えてくれて、私に再び自信を与えてくれて。しかし、これ以上、苺と関わると、私はどうにかなってしまいそうで……。このもどかしい感情はどうしたら解消されるのだろうかと様々な文献を読み漁って、ずっと解決の糸口を探していた」
「そ、そうなんですか? 苺はてっきりストラス様のご気分を害してしまったのかと思っていました」
「そんな訳ないだろう。苺に対して、そう思った事は一度も無いぞ。……あれだ。私の体液で苺の顔を穢してしまった時、罪悪感と同時に、優越感を感じてしまったんだ。だから、どう対処すべきか分からず、余所余所しい態度をとってしまった。申し訳ない」
「えっ! あの、そんな……謝らないでください。い、苺はただ男娼として、ストラス様に最高のおもてなしがしたかっただけで。ストラス様の悩みが解消出来て、つい嬉しくて……。自分でも分からないですが、いつの間にか夢中になってて、ストラス様が気持ち良くなられたのを見て、満足したというか。苺こそ配慮が足りず、申し訳ありませんでした」
苺はしょんぼりした顔をし、俯いた。ストラスはため息をつき、苺の正面に座り直し、苺の両肩に手を添えた。苺は恐る恐る顔を上げ、ストラスの顔を見つめた。
「苺が謝って、どうする? 一生懸命に奉仕している苺の姿はとても充実しているような印象だった。男娼として務めを果たしただけだろう? まぁ、私としては、それはそれで残念だが」
「ストラス様が……、残念に……? それはどうしてですか?」
苺は言っている事が分からず、首を傾げ、ストラスに質問した。そうすると、ストラスは頬を赤くし、それを隠すように顔を腕で隠し、目を逸らした。
「そ、それは他の客にも同じような事をしていると思うと、こう……沸々と良からぬ感情がこみ上げてくると言うか。と、ともかく! 苺の事を考えると、余裕が無くなるというか……」
「ストラス様は苺をそのように思われていたのですね。……なんだか嬉しいです」
苺が照れ笑いすると、ストラスは顔から火を噴くように真っ赤になった。そして、そのまま苺をベッドに押し倒した。
「嬉しい? それはおかしいぞ。私は今ここで苺に刻印を押して、その後、牢に閉じ込めて、お前が、お前が泣き叫べなくなるまで骨の髄まで吸い尽くしてやろうと目論んでいる四天王だぞ。そんな極悪非道な四天王だぞ!」
ストラスはいつもの冷静さを失っていた。心臓の鼓動は高鳴り、息遣いも荒くなった。苺はいつもより早い口調で喋るストラスを見て、咄嗟に口を手で隠し、笑いを堪えた。ストラスはそれを見て、不思議そうな顔をし、首を傾げた。
「ふふっ。ストラス様が極悪非道でしたら、既に苺はこの世からいなくなっていますよ。ストラス様らしくないですよ。いつもの余裕はどこへ行ったのですか?」
「私を馬鹿にするのか?」
「そんな事ありません。今、苺は生きていて良かったなぁ。アルディアで……男娼として生きていて良かったなぁと思っただけです。こんなにも自分の事を思ってくださって、『苺』という一人の人間として真正面から見て頂けて……。嬉しいです。でも、男娼としての仕事は以前よりやりにくくなりますけど……」
「どういう、ことだ?」
「もう……、全部言わないといけないのですか? 苺からは申し上げる事が出来ません。一応、これでも『男娼』なので」
苺はウインクをし、ストラスの体を引き寄せた。そして、ストラスの頬に自分の頬をすり寄せた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 全然分からないぞ。苺らしくない。本当に苺なのか?」
「苺ですよ。貴方様がいつも抱き枕代わりに使ってらっしゃった苺ですよ? 抱き心地を忘れましたか?」
「わ、忘れる訳ないだろう!」
ストラスは少し声を荒げ、ムスッとした顔をした。苺はクスリと笑うと、ストラスの耳元で甘く囁いた。
「料理は熱々が美味しいって教えられませんでしたか? 早くしないと……冷めちゃいますよ?」
苺はストラスが取り乱す程、自分の事を思ってくれているのに、嬉しさと同時に、体の中心からドクドクと脈打つように熱くなり、火照りを感じた。そして、『最高のおもてなしをするためには、主導権はお客様ではなく、あくまで私達』という月下からの教えをふと思い出した。
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