アルディアからの景色

沼田桃弥

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第7章:苺の特訓(苺視点)

7-3:何故か旧魔王城へ

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 苺が長い階段を上り切ると、開けた場所に出た。見上げるだけで首が痛くなりそうな高さの天井があり、所々崩れ落ち、そこから日の光が差し込んでいた。
 朽ち果てた赤色の絨毯を辿るように見ていくと、壁面に大きく斬撃痕があり、彫刻された紋章がえぐられ、見るも無惨な形となっていた。


「――でも、何処かで同じような形というか、雰囲気を見たことがあるような? 何処でしたっけ? ……あぁっ、思い出せません。でも、今はラッカ村へササッと行って、パパッと買って、サササッと帰らないと」


 苺は瓦礫の間を縫うように進み、ようやく建物の外へ出た。


「初めて見るけど、とても大きなお城……。でも、誰もいないし、ボロボロだったし……、廃墟? 怖いもの見たさで探検してみたいけど、今は甘果を買わなきゃ」


 苺は鉄格子が上がったまたの城門をくぐり抜けた。奥には雪を被った山脈が聳え立ち、青空が広がっていた。さんさんと降り注ぐ太陽の光で低木林は緑が映え、リスや小鳥などの野生動物が自由気ままに生活している。
 苺は目の前に伸びる砂道を進みながら、初めて見る穏やかな光景に目を奪われた。苺は深く被っていたフードを外し、村を目指した。


「苺が小さい頃は『街の外へは絶対に行くな』って言われたのに、今の下界は天空都市のように穏やかなのでしょうか? ……それより、ラッカ村は何処なんでしょうか? もしかして、迷子になったとか?」


 あまりにも長く続く砂道の先を見ながら、苺は我に返り、突然と不安に駆られた。しばらく進むと、道が開け、心地良い小川のせせらぎが聞こえた。小川にかかった年期の入った石橋が見えたため、苺は小走りで石橋へ行き、欄干から辺りを見渡した。


「どうしよう……。これは完全に苺が迷子……」


 小川の両側は馬車が通れる程度の砂道が伸びていたが、何処もかしこも低木林が広がっていた。そして、その林の向こう側にひょっこりと顔半分出すように、城らしきものが見えた。しかし、右を向いても、左を向いても、同じような城が点在しており、苺は思わず顔が引き攣った。


「ま、まさか……ねぇ……。い、一応、通行証を確認しようかな?」


 苺はバッグから通行証を取り出し、行き先を再確認した。


「やっぱり、『ラッカ村』って書いてある。何度見てもそう書いてある。だ、大丈夫!ただ道を間違っただけ。――って、えっ!」


 苺は通行証を見て、安堵した。そして、通行証を両手で天高く掲げると、行き先欄に書いてある『ラッカ村』の文字がぐにゃりとなり、『旧魔王城』へと変化した。
 苺は呆然とし、通行証を顔に近づけ、その文字を追った。苺は文字を追うだけではもの足りず、スペルを一文字一文字声を出した。


「きゅう……まおう……じょう……? なんで『ラッカ村』じゃないの? 嘘でしょ。 ――ど、どうしよう。ここが本当に旧魔王城なら早く引き返さないと! でも、手ぶらで帰っても女将に叱られるし。ここらへんに甘果の実なんてあるのかな? あぁっ、どうしよう!」
「おやおや、お嬢さん。なにかお困りで?」
「――っ!」


 苺は思案に暮れたが、最善策がなかなか思い浮かばなかった。そんな時、背後から声を掛けられ、苺は体をビクッとさせ、振り向いた。
 そこには、黒い翼を広げた黒ずくめの男が欄干に足を組んで座っていた。男は微笑むと、苺に歩み寄り、全身を舐め回すように見て、苺の顔を覗き込むように見てきた。


「な、なんですか。いっ、一体。顔が近いです」
「あははっ。男装をしたお嬢さんかと思ったら、男の子でしたか。そんなに怖がらないでください。僕は困った人を助けるのが趣味なしがない有翼族の一人です」


 苺は警戒し、後退ったが、有翼族の男は微笑み、被っていた帽子を胸に当て、深々と頭を下げた。
 男は武器や装備品を持っていない事を実際に見せ、苺の警戒心を解いた。苺は男を疑いつつも、相談に乗ってもらう事にした。
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