アルディアからの景色

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
42 / 77
第6章:苺の悩み(苺視点)

6-4:珍妙な本屋

しおりを挟む
 苺は顔が熱くなるのを感じ、邪念を振り払うかのように首を横に振った。そして、目についた本を手に取り、適当なページを開き、読んだ。


「――そう言えば、新しい料理の本を探していたんだ。どこの棚にあるんだろう?」


 苺は店内を彷徨いた。しかし、お目当ての本は無さそうだった。苺は諦めて、童話の本がある棚へ向かい、面白そうなものが無いか探した。その時、カウンターでストラスが店主と楽しそうに話している声が聞こえた。


「店主。ここは希少な書物が多いな。私でも手に入れることが出来なかったものは勿論のこと、保存状態も良い。一体、何処から仕入れているんだ?」
「見たところ、あんた四天王だろ? まさか四天王から褒められるとはね。大体は遺跡から拾ってくるんだよ。まぁ、こんな珍妙な店で本を買う奴なんていないけどね」
「ほう。……しかし、その体で女一人で遺跡探索は危険ではないか?」


 ストラスが心配そうな顔をして、店主を気遣ったが、店主は椅子から立ち上がると、腰に手を当て、掠れた声で高笑いした。


「がはははっ! 四天王に心配されるとはね。こんなよぼよぼババアが探索しちゃいけないって言うのかい? 本当に面白い事を言うねぇ」
「いや、私は別に愚弄した訳ではない。誤解するな」
「老若男女問わず、人間ってのは冒険がしたくなるんだよ。常に刺激を求め、新たな発見をし、快感を覚え、更に高みを目指す。そんな貪欲な生き物なんだよ」
「人間とはそのような生物なのか。私は魔王様の宰相だったため、人間とはあまり関わった事が無いんだ。しかし、貪欲なのは人間だけではないぞ」
「おやおや、魔族も大変だったみたいだね。四天王の私利私欲にまみれた醜い争いだっけ? こんなババアでも知ってるよ。それをネタに、面白く可笑しく書いて、本を出す馬鹿げた野郎もいるからねぇ」
「ほう。どの程度の力作か読んでみたいものだな」
「読んでみたいかい? ――はぁ、どっこらしょっと。確か、適当に置いたんだ。えーっと、どこだったかね?」


 店主はぶら下げていた眼鏡をかけ、気怠そうにカウンターから出てきた。そして、店内の本棚を見上げてはブツブツと独り言を言っていた。
 店内をぐるりと一周すると、店の奥ばった場所にある本棚へ向かった。そこには、立ち読みをしている苺の姿があり、店主は今更、苺の存在を認識した。


「……なんだい。苺も来てたのか」
「アリーシャさん、こんにちは。あの、新しい料理の本は見つかりましたか? そろそろ新しい料理を――」
「また料理の本かい? アンタも飽きないね。それよりも、そこをちょいと退いとくれ。今は四天王の本を探してるんだ」


 店主は苺を手で払いのけ、苺と本棚の間に割り込んだ。そして、店主はまたブツブツと言いながら、本を探した。


「あーっ、本当にどこへ行ったんだい?」
「店主。私のために探してくれて、感謝する。しかし、無いのなら、別に構わない。単なる好奇心だ。読んだところで、有益な情報が得られるとは思えん」


 店主がため息混じりで探していると、カウンター前にいたストラスがねぎらいの言葉をかけた。
 苺は自分が手にしていた本を見直した。もしかしたら、店主が探している本は自分が今持っている本なのでは無いかと思い始め、恐る恐る口を開いた。


「……あ、あの、アリーシャさんがお探しになられている本は、もしかして……この本ですか?」
「あん? どれだい? 私に見せてみな」


 苺が本を差し出すと、店主は本を奪い取るように取り、本を真剣な表情で見始めた。そして、その本が探しているものだと分かり、満面の笑みでストラスの元へ戻った。


「あぁっ、これだよ、これ! 『血に染められし玉座』」
「ほう。だが、玉座は常に清潔に保っていたがな……」


 ストラスは店主から本を受け取ると、ペラペラとページをめくった。そして、顎に手を当て、考え込むように断片的に読んだ。
 苺は別の本を見ながら、ストラスの真剣な表情をこっそり見た。端正な顔立ちに、キリッとした目に、本を片手に佇む姿そのものが洗練されており、苺はそんなストラスに見惚れた。
 そんな見惚れる苺をよそに、店主はカウンター越しから苺に声をかけた。


「……そうだ、苺。アンタはここへ何しに来たんだい? また強欲な女将の頼まれ事かい?」
「――違います。そちらにいらっしゃるストラス様のお供です」
「へぇ、アンタがお供なんてしてんのかい? 珍しい事もあんだね。だったら、女将もさぞかし喜んでんだろうね」
「はい、お陰様で……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...